クソゲーすぎる世界に君とどこまでも復讐するRPG
偶然が生み出した予期せぬ産物…ただのバグ…。
もう肉体は死に絶え、帰るべき場所などどこにもない。
この世界に取り残されたこの世界にあるはずなき存在。
そんな残酷な真実を突きつけられた田中は、まるで何かを求めるかのように空を見上げ、そしてこんな言葉を口にした。
「…っていうか、どうせ元の身体は使い物にならなかったんだし、そんなのが今更なくたってどっちでもよくね?」
生意気にそう語る彼女の態度はいつも通りふてぶてしいものであった。
「…え?自分でそれ言っちゃうのか?」
先程まで泣き叫ぶくらい落ち込んでいた田中が軽々しくそんなことを口にしたのを聞いていたユーキは驚きながらそう聞き返した。
「まぁ、入れ物はなくてもこうして生きしてるし…特に支障はないな」
ユーキの言葉が効いたのか、それとも元々ガサツな性格をしていたからなのか…彼女はすでに開き直っていた。
その立ち直りの早さにはユーキもおもわず感心して拍手を送っていた。
「それで…これからどうするの?」
彼らの愛すべきホームである教会で屯していた彼らのうち、シンがそんなことを尋ねた。
「やっぱり、必中のルビーを探しに行くの?」
「それなんだが…実は私にも思う所があってだな…」
シンの質問に田中こんなことを口にした。
「そもそもこのゲームのクリアなんて目指さなくていいと思う」
「…どういうことだ?」
突然の田中のゲームクリアの放棄にユーキはそう尋ねた。
「ゲームをプレイヤーにクリアさせることはこのゲームを使った奴らの一つの意図だと思う。ゲームっていうのはクリアさせるために作られたもんだしな。だからゲームのクリアを目指すっていうのはそいつらの掌に踊らされてるに過ぎない。はっきり言って、そんなのは癪だ」
「…癪?」
「私がこんなのになってしまったのはこのゲームを作ったやつらに責任がある。だから私はそいつらが正直憎い。私に重大な事実を伏せて私を飼いならしてきた奴らが憎い!。こんなクソゲーを強いる奴らが憎い!!。私達が苦しんでるのを見て楽しんでそうな奴らが憎い!!!そんな奴らの狙いに沿う必要がどこにある!?!?!?」
怒りに燃えながら話し出す田中の話を二人は黙って聞いていた。
「どうせ私は現実世界には帰れないんだ。クリアを目指して奴らの掌の上で踊る理由はない。このゲームをクリアする理由はない。だったらいっそのこと…奴らに一矢報いたい」
「一矢報いるって…どうやって?」
「私も製作陣側の意図は知らないんだ。このゲームの世界に閉じ込めて何やらせようとしてるのか分からない。だけど、奴らがこのゲームを手塩にかけて作り上げたのは分かる。だったら奴らが一番嫌がることは…このゲームの世界を滅茶苦茶にされることだ」
「滅茶苦茶って…逆さメイドとしてまたその持て余している馬鹿力で世界を破壊し回るのか?」
「いや、そんなんじゃあ満足出来ない。そんなのはただの可愛い抵抗だ。私はもっともっと、奴らの嫌がることをしたいんだ。もっと根本から、徹底的に、どん底まで陥れて、世界に絶望するくらい、私が苦しんだ何倍も苦しめて…そして…」
そして田中はいつものゲスな笑顔を浮かべ、堂々とこう宣言した。
「この世界に…復讐をする!!!」
そんな田中に二人はきょとんとした後、ユーキがクスクスと笑い始めた。
「くくく…お前は相変わらずだな、田中。今回の件で少しは丸くなると思ったが、全くそんなことはなかった」
いままで散々バカにしてきたNPCと自分に大差がないことに気が付き、自分の愚かさを反省に苦難を乗り越えて人に優しくなる…そんな展開をどこかで夢見ていたユーキも流石にこれには呆れずにはいられなかった。
だがしかし、これはこれで一歩前進したのかもしれない…。
「だが…その心意気は気に入った。お前の言う『嫌がらせ』がどんなものかは分からないが、場合によっては手伝ってやる」
「…え?本気なの?ユーキ」
田中の案に乗っかるユーキにシンはそんなことを尋ねた。
「俺も田中ほどでは無いが、田中と共にこのクソゲーに苦しめられてきたからな…ただクリアするだけじゃあ物足りない。せめてこのゲームの意図くらいは掴みたいしな」
ユーキがそう言うと、田中がいやらしい笑顔を浮かべながらシンにこう問いただした。
「お前はどうする?シン」
自分を見つめる二人を前に、シンはため息混じりにこう答えた。
「はー…分かった。僕も一緒に行くよ。少なからずこのゲームには恨みもあるし…っていうか、どうせ拒否権ないし」
「よく分かってるじゃないか」
「でも、合間合間でいいから妹探しもさせてよ」
「…そういえばシンってそんな目的でこの世界に来てたな」
ユーキは遠くを見つめながらそんなことを口にした。
そして田中は二人が同意したのを見計らうと、その場に立ち上がり、不敵に笑ってみせた。
「ふっふっふ…私を弄んだ奴らめ…見てろよ?。今にギャフンと言わせてやる」
そんな田中を見て、ユーキがこんなことを口にした。
「よし、二人とも俺の手に手を重ねろ」
ユーキはそう言って自分の目の前に手を伸ばした。
「…なにするの?」
「こんな形とはいえど、ようやく一致団結したんだ。円陣でも組もうじゃないか」
「嫌な固まり方だね」
そうは言いつつもシンはユーキの手の上に手を置いた。
そんな二人を見ながら、ギラギラとした野望をたぎらせながら田中もその上に手を置き、そして怒りのままに叫んだ。
「こんなクソゲー、ぶっ壊すぞおおおおおお!!!!!!!」
「おおおおおおおお!!!!!!!」
こうして、クソゲーに苦しめられ、不満を募らせていった3人は、この世界に復讐をすることを誓ったのだ。
「で、具体的にはどうするんだ?」
ユーキは田中に早速そんな質問をぶつけた。
「やっぱり運営が嫌がることと言えばサーバーへと直接攻撃だろ。前みたいに私が暴れ回ってサーバーに負荷をかけ続ければ奴らも嫌がるだろ」
「そりゃあサイバーテロを歓迎する運営はいないわな」
「そういうわけで…魔王よ、私に力を貸せ」
「嫌だよ」
田中の命令に魔王は首を横に振った。
「あ?なんでだよ?前みたいに喜んで私の力になれよ」
「この前はお前らがあまりにも不憫で不憫で堪らなくて同情して力を貸してやったんだ。今はお前に力を貸す理由はない」
「あ?私みたいな美少女の中に入れるんだから普通だったら泣いて喜ぶご褒美だろ!?」
田中はそう言うが、魔王は頑固としてそのご褒美を受け入れなかった。
「けっ、魔王のくせに器が小さいやつだ」
「なんとでも言え」
「魔王の力無しじゃあサーバーに負担かけるほどの攻撃は出来ないよなぁ」
魔王が消極的なのを目にしてユーキがそんなことを口にした。
「サイバーテロ以外に運営側が嫌がることと言えば…例えばシナリオを滅茶苦茶にされるとか、そういう感じのかな?。シナリオとかイベントとかシステムとか…とにかくゲーム性が崩壊するようなバグは歓迎しないだろうなぁ」
「ゲーム性を崩壊させるバグか…」
ユーキの言葉を聞いて考え込む田中の脳裏にとある考えがよぎった。
元はと言えば始まりの洞窟のチュートリアルボスにすぎなかったゴブリンリーダー、ゴブリンの森にしかいないはずのメタルゴブリン、魔王の城にいるはずの魔王の器であるマオ…彼女らは自らの檻であるはずのエリアを抜け、与えられた役割を無視して自由に旅をしている。
つまり現状、このゲームは最初のダンジョンである始まりの洞窟の最奥には待ち構えているはずのボスもおらず、魔王の城もその主人が不在…NPC達が本来の役割を無視して勝手気ままに生きることは許されない。なぜならば、彼女らがロールしなければゲームにならないからだ。
ダンジョンの主人であるはずのボスの不在、特に重要な役割である魔王の不在など著しくゲーム性を損なうもの。
ならばいっそのこと…全てのNPCがその役割を放棄したら?。
「…くっくっく」
「田中のその顔は…なにかよからぬ事を思いついた時の顔だな」
ユーキは邪に笑う田中を一瞥し、嫌な予感がした。
「やるべきことは決まった。私達はこれから…NPCのロールを放棄させる事だ」
「…どういう事だよ?」
「お前もかつてチュートリアルボスでしかなかったゴブリンリーダーが冒険者となってるのを見ただろ?。それと同じように全てのNPCがその役割を放棄すれば…もはやゲームもクソもなくなる」
「おいおい、田中…まさかお前…」
嫌な予感がするユーキに田中はいつものようにゲスマイルを浮かべ、こう宣言した。
「そうさ。私の復讐は…全てのNPCを冒険者にする事だ」
いま、壮絶な復讐劇が幕を開けようとしていた。
ふっ、自分の肉体が滅びた程度で田中が改心してここから田中が罪滅ぼしを始める良い話になるとでも思ったか!?。
残念だったな…私はそのつもりだった!!。
…やべえよ、ここで田中が改心してくれないとプロットから外れるよぉ、やべえよ。どうすればいいんだよ、このクズは。