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そして僕らは旅に出る

戦いは終わった。


哀れにも魔王は逆さメイドに吸収される形でその生を(社会的に)終えたのだ。


なんであれ魔王という脅威を退けた人々は大いに喜んだのだが、そうしてばかりもいられない。


逆さメイド(魔王覚醒状態)の傍迷惑すぎる攻撃によってマサラの国は壊滅状態に追いやられており、その復旧に追われているからというのもあるが…最大の心配事は国王の安否であった。


自らの命を削って放った光魔法の反動で、国王は危篤状態に陥っていた。


多くの民に慕われている国王の危険によって両手放しで喜べないでいるのだ。


「いつまでも心配ばかりしていても仕方がない。それよりも、父上が起きた時に仕事を軽減できるように、私達はできることをしようじゃないか」


王子であるランのその言葉によって、ひとまず国民は国の復旧に力を注ぐこととなった。


国王の他にも重症者はいた。


国王とともに魔王に立ち向かったアルフィーナやフィーネ、アイロや騎士達。それと勇者であるゴブリーにメル…そして魔王の器であったマオ。


そのほとんどは大した怪我もなくすぐに動けるようになったが、メルとマオは未だに意識が戻らないままであった。


それでも不幸中の幸いと言えるのは、あれだけの大きな戦いであったにも関わらず死者がほとんど出なかったことだ。


国王の采配によって魔王と対峙した騎士達も命に別状はなく、逆さメイド(魔王覚醒状態)による攻撃もシステム的な必然という奇跡によって殆どの者が無傷で済んだ。


そう、この戦いによる死者は…レベル1しかなかったシン、ただ一人であったのだ。


残念ながらDEXが逆さメイド(魔王覚醒状態)より低いシンだけにはあの攻撃が有効であり、シンのスキル『神の慈悲』により一度は耐えることが出来たが、二度目で木っ端微塵に吹き飛ばされたのだ。


しかし、シンがいないことなどいつものことなので気にするものはいなかったそうな…。


それはそうとユーキと田中の話をしよう。


田中の攻撃がシステム的な必然という奇跡によって当たらないことを知らない多くの人達は逆さメイド(魔王覚醒状態)の攻撃が当たらなかったことに疑問を抱いていたが、近くにいたユーキさんがなんとかしてくれたからだろうと勝手に納得し、結局全部ユーキさんのおかげなんだという結論に至っていた。


その一方で、此度の最大の功労者であるはずの田中の評価はどうなっているかというと…その功績はどうあれ、逆さメイドという脅威で知られる田中がさらには魔王を取り込んだことによって、田中はより腫れ物扱いされていた。…まぁ、そりゃあ核弾頭を積んだ水素爆弾がその辺を歩いていて良い思いをする人はいないし、仕方のないことだ。


かくして魔王をその身に宿して結果的にマサラを救った田中はさらに嫌われ者となってしまっていた。


かつて魔王の器であったマオが目を覚ましたのは魔王との決戦から3日後のそんな時だった。


静かに目を開けたマオはぼんやりとした意識の中、ゆっくりとその身を起こして辺りを見渡した。


眼に映るものは身に覚えのない部屋に場所や景色…そんな中、初めに知っているものを見たのは魔王の影武者を務めていたユキの顔だった。


マオの目に映るユキはマオの顔を見るなり目に涙を滲ませ、そしてマオを抱きしめてこう言った。


「おかえり!おかえり!!マオ!!」


自分を抱きしめる誰かの温かさに、ようやく我に帰ったマオはユキに問いただした。


「魔王…魔王は!?魔王はどうなったの!?」


自分の中にいるはずの魔王の気配を感じられないマオは心配そうにユキにそう問い詰めた。


「もう大丈夫…大丈夫だよ、マオ。魔王は無事に封印できたんだ」


そう優しく答えるユキにマオは素っ頓狂な顔をして、小さく独り言のように呟いた。


「私を助けた上で…魔王が封印された…」


思いもよらない結末にマオはどこか心ここに在らずという顔をしていた。


「そうだよ!!マオは助かったんだよ!!もう魔王に怯えなくていいんだよ!!」


嬉しそうにそう語るユキに反してマオは喜ぶでも悲しむでもなく、淡々とこう口にした。


「…そっか…私…助かったんだ…」


「…マオ?」


「私…生き延びちゃったんだ…」


その言葉の意図をユキが読み取れないでいると、そこにゴブリーが駆けつけてきた。


「マオが起きたって本当!?」


マオが眠る病室に顔を出すや否やそう叫んだゴブリーの目にマオの姿が飛び込んできた。


「よかった…よかったよぉ〜、マオォォォォ」


ゴブリーもまた、マオの無事な姿を見て涙を流した。


ようやく再会できた仲間の無事な姿に安堵し、穏やかなひと時が流れた最中、不穏をもたらす来客がその部屋に姿を見せた。


「…邪魔するぞ」


病室に姿を現したのはスレイブタウンの領主であるフィーネであった。


魔王との激闘で怪我を負い、左足を負傷した彼女は松葉杖で歩きながらマオの元へやってきた。


そしてその目をまっすぐに見据えながら、威圧感のある声でこう尋ねた。


「私を覚えているか?」


マオはそんな彼女から目をそらして答えた。


「…えぇ、覚えているわ」


「じゃあ…お前が殺したヨームのことは?」


「…もちろん」


セブンスジュエルを宿すセブンスとして魔王に戦い、その命を散らせたヨームの話が出た瞬間、その場の空気は張り詰めた。


「ヨームは死に…ヨームを殺したお前が生き残った。…随分と理不尽とは思わないか?」


今にもその腰に携えた刀を抜き出しそうな気迫に、思わずゴブリーがフィーネの前に立ち、弁明を始めた。


「し、仕方がなかったんだ!!魔王を倒すためにセブンスジュエルがどうしても必要で…」


「そんなことはわかってる!。だが…事実は事実だ」


フィーネの言葉にゴブリーは返す言葉がなかった。


そして何も言い返せないゴブリーにマオが穏やかな表情で声をかけた。


「いいの、ゴブリー…これが当然の報いよ」


「なに言ってるんだよ!!なにもマオが死ぬことなんてないよ!!」


「いいの…どうせ、こうなる予定だったから…」


死を受けれているのか、マオの顔はとても穏やかなものであった。


「いいわけ無いよ!!だって…死んでいい命なんて無いんだよ!?」


「そうだな、死んでいい命なんてない。…ヨームだってそうさ」


ユキの叫びにそんな反論をぶつけるフィーネにユキは返す言葉がなかった。


「だから罰が必要なんだよ、私のためにも…お前のためにも…」


そう言ってフィーネは刀を鞘から抜き、大きく振り上げた。


「マオ!!」


突然のことにゴブリー達の反応が遅れ、マオの体をその鋭い刃が貫こうとしたその時、刀はマオに当たるか当たらないかのところでピタリと止まった。


直前で止められたその刀にマオが驚いていると、フィーネが口を開いた。


「死んで楽になろうって魂胆か?。残念だが、その程度で許せるほど私は甘くはない」


そしてフィーネはゆっくりと刀をしまって言葉を続けた。


「お前の死でお前の罪が清算できるなどと思うな。ヨームのためにお前がかけるべきは命ではない。ヨームにためにお前は人生をかけろ。それがお前に課せられた罰だ」


それだけ言ってフィーネは病室から立ち去ろうとした。


そんなフィーネの背中にマオは質問をぶつけた。


「私に…生きろと言うの?」


そんなマオの質問にフィーネはため息混じりに答えた。


「仕方がないだろ?。ヨームならきっとそう言う……あいつは、優しいやつだからな」


そしてフィーネはそれ以上なにも言わずに病室を後にした。


フィーネが立ち去った後、病室に残されたマオはうつむきながら一人つぶやいた。


「『生きろ』なんて言われても…どうしていいかわからないよ。だって私は今まで…ずっと死ぬために生きてきたんだよ?。それなのに…それなのに…私はなにに人生をかけたらいいの?」


『魔王とともに死ぬ』という生きる目的をフィーネによって奪われたマオは嘆くようにそんな言葉を吐き捨てた。


「じゃあ、探しに行こうよ」


そんなマオにゴブリーはそう声をかけた。


「一緒に旅して…見つけようよ、生きる目的を。人生をかけるべきものを」


「…見つかるかな?死ぬことでしか救われないはずのこんな私でも…見つけられるかな?」


「見つかるよ。だって…世界はこんなにも広いんだもん」


ゴブリーがそう言った時、病室の窓から強い風が吹き込み、カーテンが風になびき、遮られていた太陽の強い光が差し込み、マオを照らした。


目も開けられないほど眩しい光に晒されたマオは思わず目を閉じ、その太陽の温かさを全身で受け止めた。


次第に目が慣れ、マオがゆっくりと目を開けると、逆さメイド(魔王覚醒状態)の攻撃でマサラの国を囲む城壁が破壊されたことによって景色を遮るものはなくなり、窓の外には地平線の彼方まで続く広大な世界が広がっていた。


あの地平線の向こうにはどんな世界が待っているのだろう…マオはそんな眠っていたはずの好奇心が目を覚ます感覚に苛まれた。


「だから行こうよ。この世界を一緒にどこまでも旅しようよ」


「…うん、一緒に行こう」


未来を生きていくための新たな希望をゴブリーに見出したマオは瞳にうっすらと涙を浮かべながら満面の笑みで頷いた。


「…そうだ、せめてこれはあの人に渡さなきゃ」


そう言ってマオは懐からヨームの魂とも呼べるセブンスジュエルの韋駄天のトパーズを取り出した。

「そうだね、きっとそれが一番だよ」


こうして、魔王との戦いが終わり、それと同時に自らの使命が潰えた彼女達の生きる目的を探すRPGが幕を開けるのであった。








その一方でフィーネが病室から出た時に、ユーキと田中とバッチリと鉢合わせした。


ユーキはフィーネがここに入院していると聞いてお見舞いに来たのだが…どうやら話し込んでいるようなので病室の外で待機していたのだ。


「フィー姉さん…」


「ユーキか…すまん、積もる話はあるのだが、今はそういう気分になれなくてな。また今度ゆっくり話そう」


暗い顔でそう話した後、フィーネはそそくさと去って行ってしまった。


会話を立ち聞きしていたのでなんとなく事情を察していたユーキは田中にこんなことを語り始めた。


「…ゲームをやっててさ、ストーリの流れでお気に入りのキャラが殺されたりすることはよくあるけどさ…その度に理不尽に思うんだ。『どうしてそいつに蘇生魔法をうてないんだ?』って…。まぁ、そんなことできたらなんでもありだし、シナリオも台無しになるから出来ないのは分かるけどさ…それでも出来たらいいなって思っちゃうんだよな」


「あっそ」


感慨深く語るユーキの言葉を田中は興味なさそうに聞いていた。


「なぁ、田中。このゲームはNPCを蘇らせることは出来ないのか?」


「できるぞ」


「そうなのか?」


「死体、もしくはそれに準ずるものに蘇生魔法やらなんやらうてば蘇らせる」


「だったら…」


「ただし、セブンスは例外だ」


「そうなのか?」


「セブンスは死ねばセブンスジュエル…つまりはアイテム化してしまう。だが、蘇生魔法や蘇生アイテムはアイテムに対して選択ができない。蘇生魔法や蘇生アイテムを使用する対象を選択するコマンド欄にそもそもアイテムが候補にないからな。…普通の方法では蘇らせることができない」


「そっか…残念だなぁ」


ユーキは口惜しそうにそう呟いたとさ。

おまけ



逆さメイド(魔王覚醒状態)のステータス




HP 3996

MP 4


STR #ERROR

DEF 4

DEX 4

INT 4

LUC 4

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