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勇者と魔王と国王と…

魔王と対峙する国王ユーニグルド達は魔王が放った暗黒魔法による津波のような闇に飲み込まれてしまった。


「みな!怪我はないか!?」


しかし、国王が展開した光り輝く半透明の障壁により、一行は事なきを得ていた。


「国王!!光魔法は使い過ぎると…」


「わかっておる!。だが、出し惜しみして負けるだなどと情けない真似は出来まい!!」


騎士団長のアルフィーナが国王の身を案じるが、国王はそう言って一蹴してみせた。


「しかしどうやってこの現状を打破する?」


「このままじゃあジリ貧だよ」


国王の光魔法によって同様に事なきを得たフィーネとアイロがそう口にした。


未だ大嵐に晒される大波のようにうねり狂う魔王の闇魔法の前には国王でも防御することだけで精一杯であった。


「くっくっく…さぁ、どうする?人間の王よ」


その様子を上空から見下す魔王には余裕が感じられた。


「…万事休すか」


どうしようもない現状に思わず国王がそんなことを口にしたその時、魔王に向かって飛びかかる二つの影が視界に映った。


「ゴブリンアタアアアアアアック!!!!!」


そしてその影のうちの一つが魔王に向かって全力で棍棒を振りかざした。


不意打ちを食らった魔王は真っ逆さまに地面に叩きつけられ、同時に国王達を囲んでいた闇魔法も消滅した。


地面に叩き落とされた魔王はむくりと起き上がり、攻撃して来たその影の正体に向けて口を開いた。


「なにをしに来た?小鬼ども」


魔王にそう尋ねられたゴブリーとメルは同時に口を開き、そして宣言した。


「マオを助けに来た!!」


そしてゴブリーは持っている棍棒を魔王に向けて構え、さらに言葉を続けた。


「マオを返してもらうぞ!!魔王!!」


「くっくっく、愚かな。この身体はもはや完全に我のものだ。お前らがマオと呼んでいた器は、もういない」


「黙れ!!マオの体でこれ以上誰も殺させやしない!!。…マオ!!聞こえてるなら返事をしてくれ!!」


だが、ゴブリーの声に反応するようなそぶりは魔王には見られなかった。


「目障りな小鬼だ…そろそろ眠れ。暗黒魔法、ダークシータ!!」


魔王の魔法により、ゴブリーとメルは嵐のように吹き荒れる黒い霧に襲われた。


「はっはっは!闇の中で眠れ!女神アステナに選ばれし勇者よ!!」


魔王が高笑いを浮かべながら暗黒の渦に飲み込まれたゴブリー達を見ていると、渦の中心から不思議な青い光が輝き、魔王の暗黒魔法を打ち消した。


「勇者の力か…小癪な真似を…」


魔王の暗黒魔法を打ち消し、淡い光を帯びながら真っ直ぐにこちらを見つめているゴブリー達に魔王はそんな愚痴を吐き出した。


「権力者を前に余所見とは礼儀がなってないな」


魔王がゴブリー達へと注意がそれている隙をついて国王とフィーネが同時に背後から魔王に斬りつけた。


しかし、その攻撃を間一髪で避けながら魔王が皮肉交じりに口を開いた。


「これはこれは…少し無視したくらいでご立腹とは、器の小さな国王だこと」


国王とフィーネの攻撃を難なく避け、まだまだ油断しきっている魔王に国王はニヤリと笑みを浮かべて口を開いた。


「その慢心が命取りだ。…やれ!!アイロ!!アルフィーナ!!」


国王の合図とともにアイロが魔王の頭上から再び巨大な槌を振りかざす。


「ふっ、馬鹿の一つ覚えが…」


国王が片腕でアイロの一撃を受け止めようとしたその時、アルフィーナが空かさず呪文を唱えた。


「かの者に金剛の力を与え給え!!補助魔法ゴウリキ!!」


アルフィーナの補助魔法によりSTRが底上げされたアイロの渾身の一撃が魔王を襲う。


「奥義、打ち出の大槌!!」


激しい衝撃と大地を揺るがす地鳴りが辺りを襲った。


そして魔王に一撃お見舞いした後、ゴブリー達の元に駆け寄り、国王はゴブリー達に背中を任せるように魔王に向かって踵を返した。


「どなたか存じないが…加勢しよう」


「ありがとう。…でも、仲間を殺さないで欲しいんだ」


「仲間?…どういうことだ?」


「実は…」


ゴブリーは国王へ状況の説明を始めた。









一方その頃、魔王と国王達が激しい死闘を繰り広げる決戦の場を見下ろせる小高い丘にユーキ達は訪れ、戦いの様子を見守っていた。


「あれが魔王…なんて禍々しい力なんだ…」


「だけど大丈夫だ!!俺たちにはユーキさんがいる!!」


「そうだそうだ!!ユーキさんがいれば魔王なんてイチコロだぜ!!」


ユーキ達の後ろで町の住民やプレイヤー達がユーキに対して期待を寄せる中、戦いの様子を見ていたユーキは小さく一言呟いた。


「…いや、無理だろ」


世界を救った英雄と崇められていようが、所詮はレベルがたった11しかない底辺プレイヤーに過ぎないユーキに、眼科で繰り広げられる激戦に介入する余地はなかった。


どう考えても一瞬で棺桶に詰め込められるのがオチ、そういう展開になることがユーキは身に染みて理解していた。


「さっ!ユーキさん!!やっちゃってください!!」


「俺たちに世界を救うところを見せてくれよ!!」


「きっとユーキさんなら魔王相手でも圧勝しちゃうんだろうな」


ユーキの後ろで勝手に期待を寄せるプレイヤー達にユーキはただならぬプレッシャーを感じていた。


「ほら、どうしたんですか?ユーキ。英雄の真の力を見せつけてやりましょうよ」


いつの間にかユーキ達のそばに来ていたナビィがユーキの背中をいたずらに後押ししていた。


「いや、ナビィもわかってるだろ?。俺にあれをどうしろってんだよ?」


「いやぁ、どうしてくれるのか私は非常に楽しみですよ」


ナビィは相変わらず楽しそうにそう宣っていた。


目の前で繰り広げられる雲の上の戦いと後ろで控えるプレイヤー達に板挟みにされ、成すすべがないユーキは藁にもすがる思いでチラリと横に突っ立っている田中を一瞥して見た。


ユーキが田中を見てみると、田中は薄っすら笑みを浮かべながら何やら小さな声でブツブツと呟いていた。


「いいぞ、そこだ、やれ、潰せ、殺せ。そのままこの世界丸ごと壊しちまえ、魔王様」


田中は自分の代わりに憎き世界を破滅へと追いやってくれている魔王を陰ながら応援していた。


「壊せ壊せ壊せ…うひひ…そうだ、そのまま全部壊しちまえ…うひひ…うひひ…」


どん底の最底辺の冒険でも必中のルビーという頼みの綱があったからこそ前を向いてこれた。だが、その必中のルビーですらもう手の届かないところに行ってしまったとなると、田中にはもうこの世界に希望など残っていなかった。


それ故に田中は破壊を…世界の滅亡を渇望していた。


そんな様子を横目にユーキはどうしようもない状況にため息をついた。


「おいおい、どうしたんだよ?ユーキさん」


「早く行って国王を助けてあげてよ、ユーキさん」


「マサラを…世界を救ってよ、ユーキさん」


一向に動き出す気配のないユーキに他の人達は心配そうにそう口をした。


そんな彼らにユーキは観念したかのようにこんな言葉を口にした。


「残念だけど、ここは俺の出る幕じゃねえよ」


「ユーキさん…?」


「悪いけど、あんまり俺に頼らないで欲しいんだよね。俺に出来ることなんてたかが知れてるんだし…」


どこか弱気に思えるようなその言い草にユーキに期待を寄せる人々は困惑した。


そして戸惑いながらもそのうちの一人が口を開いてこう言った。


「ユーキさんが出る幕じゃないってことは…『魔王ごとき、俺が手を下すまでもない』ってことか!!」


「…は?」


そういう意図で言ったわけではないが、飛んだ解釈をされたことにユーキは困惑していた。


そして、それを訂正しようとする前に他の人達が声をあげた。


「なるほど!そういうことか!!。たしかに魔王ごときにユーキさんのお手を煩わせるのは失礼だった!!」


「さすがユーキさんや!!あの魔王ですら眼中にないだなんて…」


「ユーキさんの底知れぬ実力を垣間見てしまったぜ!」


「でも、さっきユーキさんが言ってた『俺に出来ることなんてたかが知れてるし』ってどういう意味なんだろ?」


「多分、いつでもこうやってピンチの度に助けに来れるとは限らないってわけだよ。ユーキさんだって暇じゃねえんだ」


「そうか!!だからそういう時に備えてなるべく自分達の手でどうにか出来るようになって欲しいっていうユーキさんの隠れたメッセージなんだな!?」


「確かに、俺たちは始めからユーキさんに頼り切って何もしようとしなかった。…それじゃあいつまでたっても進歩しないってことをユーキさんは俺たちには教えてくれたんだな!!」


「さすがはユーキさんや。ユーキさんこそ英雄の中の英雄だ!!」


「よし!みんな!ユーキさんにばかり頼らないで済むように、国王達を応援しようじゃないか!!」


ポカンとするユーキを差し置いて話が勝手に進み、人々は今もなお戦いに身を投じる国王達を応援し始めた。


そんな中、ユーキの隣にいたナビィが感心しながらこんなことを口にした。


「さすがはユーキさん…自分の実力を秘匿することで格を落とさせないとは…これこそ英雄の中の英雄ですね」


「…はぁー、なんかもう訂正するのめんどくさいからそれでいいや」










「なるほど、魔王の器が君の仲間なのだと…」


「うん、だからどうかマオの身体を傷付けずに魔王を倒したいんだ」


激闘の最中、ゴブリーは国王にあらましを説明した。


「そうか…身体を傷付けずにとなると…あれをやるしかない」


国王はそう呟いて目を閉じ、そして何かを覚悟するかのように目をカッと開いた。


「みな!どうにかして魔王の動きを止めてくれ!。余がその隙に究極魔法を魔王にぶつける!」


「なっ…何を仰いますか!。究極魔法を使えばユーニグルド様が…」


ユーニグルドの提言にアルフィーナが苦言を呈した。


「わかっておる。…だが、この国には立派な後継者がいる。自分の足で前に進める心強き民がいる。国を守る騎士団がいる。…何を恐れる必要がある?」


「しかし…」


「どちらにせよ、魔王を倒すにはもうこれしか方法はないのだ。…わかってくれ、アルフィーナ」


「ユーニグルド様、主人を守ると誓った騎士にとって、主人に先立たれることほど不名誉なことはありません。…どうかこの命、あなたのために燃やしてはくれませぬか?」


「アルフィーナよ、ならばその命、今後はランのために使うのだ。それが余からの最期の命令だ」


「くっ…あなた様の御心のままに…」


アルフィーナは涙を飲んで主人の最期の命令を聞き届けた。


「行こう、ユーニグルドの命を無為にしないためにも」


話を聞いていたフィーネはアルフィーナにそう声をかけた。


「作戦は決まったか?人間ども」


相変わらず余裕の笑みを浮かべながら魔王は国王達を見下していた。


「マオを返せえええええ!!!!」


そんな魔王にゴブリーとメルは飛び込んで行く。


「小鬼が…でしゃばるな!ダークシータ!!」


魔王は再びゴブリー達に暗黒魔法を放つが、ゴブリーから放たれる青い光が暗黒魔法を弾いた。


「やはり効かぬか…ならば、アイスリート!!」


暗黒魔法が効かないと判断した魔王は今度は空間を凍りつかせる魔法をゴブリー達に放った。


「私に任せて!」


一歩ゴブリーの前に出たメルがその魔法を受け止めると、メルの首にかけたセブンスジュエルから光が放たれ、氷魔法を弾いた。


「小癪な!!」


暗黒魔法も氷魔法も効かないと判断すると、魔王は二人を手で振り払い、二人を吹き飛ばした。


だが、そこに空かさずアルフィーナとアイロとフィーネが攻撃を仕掛ける。


「ブレイクシールド!!」


「ダイヤモンドスマッシュ!!」


「龍騎一閃!!」


しかし、そのどれもが魔王に当たることはなかったが、流石の魔王も対処に手一杯となっていた。


その間にユーニグルドが詠唱を始める。


「余は三千世界に生まれしラズナーの血を継承する者なり、古より伝わる盟約に従い、今こそその力を象限せよ…」


その一方、魔王の攻撃で吹き飛ばされたゴブリーとメルはダメージを受けていた。


「ごめん、ゴブリー。私と手を繋いだままじゃ戦いにくいよね?」


「そんなことないよ。メルのおかげで助かってる」


「でも、ごめん、これ以上は足手まといになる。だから…私の力の全てをあなたに託すよ」


「メル?」


そう言うとメルは両手を組んで祈りを捧げた。


「マオを…頼んだよ」


やがてメルは白銀の輝きを放ち、その光がゴブリーを包み込んだ後、メルはその場で気を失ってしまった。


「ありがとう、必ずマオを取り戻すよ」


ゴブリーは安全なところにメルを安静にさせた後、再び魔王に立ち向かっていった。









アルフィーナとアイロとフィーネの息のあったコンビネーション攻撃に手間取る魔王は痺れを切らしたのか、叫ぶかのように呪文を唱えた。


「暗黒魔法!!ダークオメガ!!」


すると何もない空間から突如ドス黒い巨大な腕が何本も伸び、3人を握りしめて拘束した。


暗黒魔法に捕まってしまった3人はなすすべもなく飲み込まれてしまった。


だが、そこにまたもやゴブリーが攻撃を仕掛ける。


「ゴブリンアタアアアアアアック!!!!」


メルの力によって何倍にも増幅されたゴブリーの一撃は辺りに衝撃を巻き起こし、魔王の暗黒魔法を吹き飛ばした。


暗黒魔法に飲み込まれた3人はなんとかことなきを得たが、3人とも気を失ってしまっていた。


3人が戦闘脱落し、戦力は大きく落ちたが、ゴブリーの奮闘により、まだ戦線を維持することはできていた。


メルの力と勇者の力、さらにはセブンスジュエルの力まで最大限に引き出したゴブリーの攻撃は重たく、素早かった。


だが、それでも魔王にダメージを与えるまでには至らない。


「いい加減に眠れ、小鬼」


魔王は攻撃の隙を見てゴブリーの棍棒を弾き飛ばし、そして獲物を失ったゴブリーの身体を手刀で貫こうとしたその時…。


「マオ!!しっかりしろ!!マオ!!」


プレイヤーの一人であるユキの声が魔王の耳に届いた。


すると一瞬だが、魔王の攻撃はピクリと止まり、ゴブリーにいつものマオの優しい声でゴブリーに囁いた。


「…逃げて」


しかし、すぐさま魔王は正気に戻り、ゴブリンに攻撃を繰り出した。


だが、先ほどの一瞬の猶予で態勢を立て直したゴブリーは逆にカウンター攻撃を繰り出し、魔王を吹き飛ばした。


「セブンスジュエルよ!!僕に力を貸してくれ!!」


ゴブリーがそういって手を天に伸ばすと、必中のルビーと知識のサファイア、それと魔王の懐で眠っていた韋駄天のトパーズが輝き、魔王に向けて一筋の光を放った。


光が魔王に直撃すると、魔王が苦しみだし、魔王の身体から黒いモヤのようなものが浮かび出てきた。


「勇者め…セブンスジュエルで器と魂を切り離す気か!?」


苦しみ足掻き、動きが鈍る魔王。…しかし、それでもセブンスジュエルの光は器と魂を切り離すには至らなかった。


「まだ力が足りんわ!!小鬼が!!」


魔王がそう叫び、セブンスジュエルの光を振り払った。


ゴブリーが失敗したと絶望しかけたその時、ゴブリーの後ろからユーニグルドが話しかけてきた。


「勇者よ、よくやった」


そして魔王に向けてその手をかざし、究極魔法を唱えた。


「この命を持って、邪悪なるものを打ち消せ!!究極魔法、ノブレスオブリージュ!!」


ユーニグルドから放たれた夜を照らす太陽のごとき輝きが魔王の身体を包み込んだ。

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