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魔王があらわれた

「今夜は…月が綺麗ですね」


マサラの上空にプカプカと浮かびながら、マオはいたずらにそんな言葉を口にした。


そんな彼女をマサラの国王であるユーニグルドやマサラの騎士団長であるアルフィーナ、王子のラン、さらには鍛冶屋のアイロにスレイブタウンの領主であるフィーネを含めた多くの強者達が静かに見上げていた。


「私が終わるとするなら、きっとこんな夜ならまだマシだと思うの」


月夜に酔いしれるようにそう述べる彼女の言葉にはどこか哀しみが含まれていた。


「ねぇ、紅い月は好き?」


彼女は淡々とそんな質問をした。


それと同時に、夜空を照らす大きな満月が外側から徐々に紅く染まり始めた。


「私は…大嫌い」


そして彼女は最後の抵抗と言わんばかりに一筋の涙を流した。


だが、彼女の抵抗も虚しく、満月は完全に紅く染まり、突如吹き荒れた夜風が彼女の黒い三角帽子を頰に流れる雫ごと吹き飛ばした。


それと同時にマサラ全体を背筋が凍りつくほどの寒気が襲った。


近隣の森のモンスターが狂ったように暴れ出し、破壊の衝動が産声を上げた。


そして世界は破滅へと進み出した。


「…時は満ちた」


禍々しい紅い月を背景に、空に漂う少女の形をしたそれは静かに口ずさんだ。


「我は完全なる復活を遂げた…紅き月に怯える世界が幕を開けた」


その紅く鋭い瞳は目にしたものを震え上がらせ、邪悪な声色は正気を狂わせた。


次第に紅き月は世界中のモンスターを狂わせ、草木を踏みにじり、森林を破壊し、村々を焼き払い、世界を破滅へと導いた。


そしてその全ての元凶たるそれは眼下に群がる虫けらを見下しながら言葉を吐いた。


「さぁ、人間よ。…せいぜい争うがよい」



魔王があらわれた。








「う、うわあああああ!!!!」


禍々しい紅き月が浮かぶマサラの近くの森で、メルが頭を押さえがなら叫び声をあげた。


「メル!?」


「嫌だ!!嫌だイヤダイヤダ!!!!」


頭を押さえて叫びながら地面に座り込むメルにゴブリーは駆け寄り声をかけた。


「多分、魔王が覚醒した影響だよ。あの紅い月がモンスターであるメルを狂わせてるの」


メルとゴブリーと共にマオを救うべくマサラに向かっていたユキはゴブリーにそう説明をした。


「どうしてメルだけ?僕は平気なのに…」


「おそらく、勇者の力が君を守ってるんだよ」


「いや…いやああああああぁ!!!!」


「メル!しっかりして!!」


ゴブリーが叫ぶメルの手を取ると、メルの表情は少し穏やかになった。


「はぁはぁ…ゴブリーに手を握られてると、なんだか落ち着く」


正気を取り戻したメルはゴブリーの手を握り締めながら穏やかにそんなことを口にした。


「じゃあ、このまま行こう。この手を離さないようにしよう」


「…うん、ありがとう、ゴブリー」


二人は胸にかけたペンダントにその言葉を誓い、マサラへと駆け出した。










「ふむ…大国であるマサラの騎士団もこの程度か…」


いずれ来る魔王のために編成された騎士団はすでに壊滅していた。


その圧倒的な力の前に誰一人として魔王にダメージを与えることもなく、倒れてしまったのだ。


「怪我人を連れて一般兵はここを離れろ!!。ここからは少数精鋭だ」


国王であるユーニグルドはそう言うと腰に携えていた双剣に手をかけた。


「まさか…国王自らをお出になるのですか!?。いけません!!あなたに万が一のことがあれば…」


自ら戦おうとするユーニグルドにアルフィーナは苦言を述べた。


「わかってる。だからお主が盾となって余を守れ…その命を賭してでも必ず余を守れ」


「…はい、我が主人の御心のままに…」


アルフィーナが国王にそう誓うと王子であるランがユーニグルドに声をかけた。


「父上!私も参ります!」


「ダメだ。お前はまだ未熟だ、足手まといになる」


「しかし父上…」


「それに…お前にまで何かあっては、マサラを導く者がいなくなる」


「…父上?」


「…この国を頼んだぞ、ラン」


「父上!!」


死闘へと旅立つ父親を止めようとランが手を伸ばすが、周りの兵士たちが抑えて暴れるランを連れ出した。


「アルフィーナ!!」


「はい!!」


「アイロ!!」


「はい!!」


「フィーネ!!」


「ああ」


ユーニグルドは残った精鋭達に呼びかけ、叫んだ。


「余に続け!!」


ユーニグルドの声と共に彼女らは一斉に魔王へと駆け出した。


最初に魔王に仕掛けたのはアイロであった。


アイロが持っていた槌に魔力を込めると、槌はみるみるうちに大きくなり、巨大な槌となって魔王を襲った。


「奥義!打ち出の大槌!!」


しかし、アイロが全力で振りかざしたその一撃は魔王に片手で止められてしまった。


「それでは熱い鉄には届いても、凍てついた氷は砕けんぞ?」


そして一瞬のうちにアイロの大槌は凍りつき、使い物にならなくなってしまった。


「どれ、見本を見せてやろう」


魔王がそう口にするとアイロの頭上にアイロの槌よりも何倍も大きな氷の槌が形成され、アイロめがけて振り下ろされた。


「ビッグシールド!!」


しかし、アイロの前に人間大ほどの大きな盾を構えたアルフィーナが立ちふさがり、その一撃を受け止めて見せた。


「ほぅ、なかなかやるな」


「余所見をしてていいのか?」


隙を見せる魔王に空かさずフィーネが背後から迫り、渾身の一撃を繰り出した。


「奥義、龍虎閃斬」


しかし、超高速で繰り出されたその居合斬りは空を切った。


「その技はもう見飽きた」


「ならば余が楽しませてやろう」


フィーネの攻撃を避けた魔王に空かさずユーニグルドが上空から魔王に襲いかかる。


「ノブレスションテ!!」


ユーニグルドは両手に構えた双剣で魔王を目にも留まらぬ速さで切り刻み、吹き飛ばした。


吹き飛ばされた魔王がむくりと起き上がると、その頰から赤い血が滴り落ちた。


「…なかなかやるではないか、人間の王よ」


「早々にマサラから立ち去ることだな、この刃が心の臓を貫く前に」


「何を言う?。せっかくこれからが面白くなると言うのに…」


すると魔王は呪文のようななにかを唱え始めた。


そして魔王の呪文に呼応するかのように魔王の周りにドス黒い霧のようなものが漂い始めた。


「全てを飲み込め!!暗黒魔法、ダークシグマ!!」


それと同時にどす黒い霧のような何かが津波のようにユーニグルド達に襲いかかった。


「皆!余の後ろに隠れろ!!」


そして巨大なドス黒い津波は国王達を瞬く間に飲み込んでしまった。










国王達が魔王と死闘を繰り広げる最中、マサラの国民やプレイヤー達は教会で祈りを捧げていた。


「嗚呼、我らが邪神ロキよ、どうかマサラをお救いください…」


神父さんも皆の先頭で祈りを捧げていた。


「あぁ、この世界はどうなってしまうの!?」


「おしまいだ…もう何もかもおしまいだ…」


「いずれ魔王の手によって世界は破滅するのだ…」


誰もが邪悪なる魔王の侵略に嘆き、諦める中、母親に抱きかかえられていた一人の幼い無垢な少女がこんな言葉を口にした。


「ねぇ、ユーキ様はいつ来るの?」


そんな幼い娘子の問いに母親がなにも言えないでいると、さらに少女は言葉を続けた。


「大丈夫だよ、ユーキ様ならなんとかしてくれるよ」


そんな少女の言葉に希望を見出したのか、人々がこんなことを口にし始めた。


「そうだ…私達にはまだユーキさんがいる」


「かの世界に終焉をもたらす逆さメイドを退けたユーキさんなら魔王くらい倒してくれる…」


「ユーキさんならきっと…なんとかしてくれる」


やがて希望は人々に伝染し、皆がユーキの到着を待ち望んだ。


「ユーキさん!どうか私達を…世界を再び救ってください!!」


「ユーキさんなら魔王にだって負けやしない!!」


「ユーキさん!!早く来てくれええええ!!!!」


皆が口を揃えてユーキへ祈りを捧げると、その祈りに呼応するかのように教会の上空から三つの何かが降り注ぎ、地面へと衝突して土煙を舞い上げた。


あまりにも一瞬の出来事のため、殆どの者がその正体に気が付けない中、先頭にいた神父さんだけがため息混じりに土煙に紛れた黒い三つの棺桶を見下ろした。


そして神父さんは土煙に紛れて誰にも見えないように密やかに仕事を遂行し、やがて土煙が晴れた頃、教会に降り注いだ者がその全貌を露わにした。


「ケホッケホッ…なんだ?埃が凄いな…」


そんなことを呑気に口にしながら土煙を振り払うユーキの目の前に、自分へ拝むような眼差しを向ける大衆の姿が目に入った。


「…え?なにこれ?」


状況についていけずにユーキが困惑していると大衆が歓喜の叫び声をあげた。


「ユーキさんだ!!ユーキさんが来てくれたぞおおおおお!!!!」


「私達を助けに来てくれたのね!?」


「ユーキさんがいれば魔王なんかもう怖くねえぞおおお!!!!」


ぽかんと口を開けるユーキ達を尻目に大衆は勝利を確信したかのように喜んでいた。


「さあ!ユーキさん!こっちだ!!」


「みんな!ユーキさんの道を開けてくれ!!」


「早く国王達に加勢してあげて!!」


「ユーキ!ユーキ!ユーキ!」


そしてあれよこれよとユーキ達は戦場へと引っ張りだされてしまったのだとさ。


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