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祝!全滅一万回記念!

乱数調査のためだけに5000回近く全滅してるし、そろそろ夢の5桁に到達してると思う。

「おぉ、我らが主たるロキよ!!。我らが呼び声に答え給え!!」


月夜が輝くマサラの町にひっそりとそびえ立つ教会に設置された荘厳で歪な祭壇を囲みながら紅蓮のローブをまとった数人の美少女が怪しげな儀式を行っていた。


恐らくはこのゲームのラスボスたる邪神を呼び出す儀式を行っているのだろうが、至る所に設置されたロウソクの淡い光だけが教会を照らす中、彼女らは真剣な眼差しで祈りを捧げていた。


その最中、祭壇の真上の空間に突如として何かが出現し、祭壇めがけて大きな音を立てて墜落した。


けたたましい音と共に舞い上がった砂煙でその正体は隠され、邪神に対して祈りを捧げていた教徒達はそわそわしていた。


「し、神父さま…まさか…ロキさまが我々の声を聞き届けてくれたのですか?」


神父の一人が期待を込めて神父(幼女)に問いかけた。


「と、とうとうこの日が来たのか…。雨の日も風の日も雪の日も、暑さで溶けそうになる熱帯夜も寒さで震える日もロキ様に祈りが届くように儀式を続けて来た。今この時…長年に渡って望み続けた願いが…とうとう…」


積年の望みにようやく光が見えた神父はあまりの喜びでフルフルと震えながらその突如現れた謎の物体を覆い隠す砂煙が晴れるのを今か今かと待ちわびた。


やがて舞い上がった砂煙は拡散し、とうとうその全貌が姿を現した。


その正体は、は光射さぬ夜のように黒く、歪な装飾に飾られた不吉の象徴たる三つの………棺桶であった。


教徒らが唐突に現れた棺桶に目を丸くしていると神父が三つの棺桶の内、一つに刻まれた見覚えのある名前に目がいった。


その棺桶にはでかでかと『田中』と刻まれていた。


状況を察した神父はしばらく惚けていた。











「おお、戦士田中よ、死んでしまうとは情けない」


手足を縛られて、教会の天井から逆さ吊りされていた田中とユーキとシンに向かって神父はニッコリと微笑みながらいつもの決まり文句を述べた。


「あのぉ…神父様、これは一体…」


暗き棺桶から目を覚ますや否や、自由を奪われ逆さ吊りされている状況にユーキは疑問を隠せなかった。


「え?なにか問題でも?」


そんなユーキに向かって神父は笑顔でそう答えたが、その瞳は殺意で満ち足りていた。


「いや、その…これはどんなお戯れなのかと思いまして…」


そんな神父に気圧されたユーキは遠慮がちにそんなことを口にした。


「君達さあ、昨日1日で何回全滅した?」


怒りを笑顔で隠しつつ、神父はそんなことを訪ねた。


「え?何回だろ?。そんなのもう数えてないよね」


そんな神父の質問にシンはヘラヘラと笑いながらそう答えた。


「いや、全滅するって結構なことだと思うんだよ。それくらい覚えておくべきじゃない?」


「神父さんだって昨日何回トイレに行ったとか覚えてないでしょ?つまりはそういうことだよ」


「全滅を生理現象感覚で受け入れてんじゃねえよ!!」


田中の悪態混じりな返答に神父はとうとう声を荒げてブチ切れた。


「っていうか、なんなの!?なんでお前らそんな全滅すんの!?。なんでお前らの冒険の書に全滅しか記録されてないの!?そういう趣味なの!?」


「仕方ないだろ、全滅するときは全滅するもんさ」


「その頻度が半端じゃないって言ってるんだよ!!」


ここで神父は深呼吸をして心を落ち着かせ、そして改めて問いただした。


「で、なんでそんな全滅するの?」


そんな神父の質問に三人は頭を悩ませ、そしてユーキは淡々とこう答えた。


「半分は自殺だな。状態異常の回復を目的とした自殺だ」


「こっちの仕事が増えるから命を粗末にするんじゃないよ。…もう半分は?」


「もう半分は…自滅だな」


「10割お前らの責任問題じゃねえか!?」


神父は頭を抱えつつ、質問を続けた。


「ちなみに聞くけど、今回はなんで全滅したの?」


「うーむ…一言で語るのは難しいな」


そんな神父の質問に田中は頭を悩ませながらそう答えた。


「ほうほう、というと?」


「私達はいま、ボルケノという街に向かって行軍している最中なのだが…その道のりは険しくてな、なかなかたどり着けないんだ」


「ほうほう、それで?」


「だから数打ちゃ当たる全滅覚悟の特攻で向かっているのだが…時には街を出た序盤の序盤でかなりの傷を負うこともあるんだ」


「今回は街を出た直後にオークの群れに遭遇して、逃げている時にだいぶダメージを食らってしまったんだよ」


「それで街を出て間もないのにこんなにダメージを食らったらその先全滅するのは目に見えてるから、今回はさっさと全滅して次の私達にかけることにしたんだよ」


「そうそう、旅の後半はもっと厳しくなるのに序盤でダメージを蓄積させるわけにはいかないから、序盤でダメージを食らったら全滅してやり直すことにしてるんだ」


「そういうわけで全滅して序盤の旅の吟味をしているわけだ。…全滅が積み重なるのも当然だな」


田中とユーキはそう説明をしながらウンウンと頷いていた。


「…なんでお前らだけ高難易度のローグライクRPGみたいになってんだよ」


そんな二人に神父は呆れながらそんな言葉を吐き捨てた。


「で、それはそうと神父さん、これは何の遊びなんですかい?」


ユーキは逆さ吊りされている自分の様を指差しながら神父に尋ねた。


「え?決まってるでしょ?。そうしておけば全滅出来ないから仕事が減って助かるんだよ」


「は?神父がプレイヤーの復活を拒むとか何様のつもり?。むしろ喜んで復活させるべきだろ?」


「うっせえなぁ!!。こっちとら大事なロキ様の儀式でぬか喜びさせられて心底頭に来てんだよ!!。しばらくそこで反省してろ、ボケェ!!」


そろそろ田中達の全滅回数も1万を越えようとしており、流石に仕事が増えすぎて頭に来ていた神父は立場も憚らず怒鳴り散らした。


そんな激おこな神父様を見て、流石のユーキも反省したのか、渋々こんなことを田中達に向けて口にした。


「仕方ない。日頃の感謝の意味も込めて今日くらい神父さんをゆっくりさせてやろうぜ」


「しょうがねえなぁ。大人しく吊られておいてやるよ、ありがたく思えよ」


「流石の逆さメイドも逆さ吊りにすれば少しは反省してくれると思ってたが…やっぱ棺桶に詰めた方が早えな。…いや、でもそれだとまた仕事が…」


結局、田中達は今日一日、教会の天井で逆さ吊りのインテリアとして過ごすこととなった。








「…随分と楽しそうなことしてますね。何やってんですか?」


しばらくすると妖精のナビィがパタパタと教会にやってきて田中達に声をかけてきた。


「普段お世話になってる神父さんに感謝の意を示してるんだよ」


「はえぇ、随分と斬新なお礼ですね」


ユーキの言葉にナビィは感心しながらそんな言葉を口にした。


「でも、逆さ吊りのお陰でメイド服を着こなせてますし、そっちの方がお似合いですよ?。普段からそうしたらどうですか?逆さメイドの汚名もそのうち払拭されますよ、きっと」


「なるほど…考えておこう」


「真に受けるな、田中。そいつは悪魔の囁きだぞ?」


そうこうしていると教会にお客さんがやってきた。


「神父さん、こんにちは」


「やぁ、いらっしゃい、アイロさん」


やって来たのは鍛冶屋の元オヤジこと、アイロであった。


「今日はどうしたんですか?アイロさん」


「ちょっと国王から大量の発注が来てね、仕事が忙しくなりそうなの」


アイロは天井に吊るされているユーキ達の存在に気が付いていないのか、神父さんと世間話を始めた。


「それはそれは、商売繁盛してますね」


「うん。だけど、鍛冶屋が忙しくなるのは良いことばかりじゃないからね。みんなの安全をお祈りに来たの」


「流石はアイロさん…殊勝な心がけですね」


そしてアイロは席に座り、目を閉じて静かに祈り始めた。


「神様、どうか皆をお護りください…」


しばらく黙祷を捧げた後、教会の壇上に祀られる十字を背負った像を見上げ、それと同時に天井から逆さ吊りされているユーキとバッチリ目があった。


「…よう、アイロ、元気?」


逆さ吊りされたユーキは目があったのを確認すると何気なく声をかけた。


しかし、目がぱっちりとあったはずなのにアイロは再び目を閉じて祈りを捧げ始めた。


「ヤダ、私ったら…こんな時までユーキの幻覚を見ちゃうだなんて…。神聖なる教会でユーキが逆さ吊りなんてされてるはず…」


目を閉じて祈りを捧げつつ、アイロはそんな独り言を呟き、そしてチラッと片目を開けてユーキの方を見た。


しかし、アイロの視界には先と変わらずユーキが逆さ吊りされる姿が映っていた。


「ダメよ、アイロ。今はお祈り中なんだから集中しなくちゃ…」


まるで目の前の事実を否定するかのようにアイロは首を横に振りながらそんな言葉を口にした。


そして両手で頰をパチンと叩いて再び教会の天井を見上げた。


だが、相変わらずそこには逆さ吊りのユーキの姿がハッキリと映っていた。


「…神父さん、どうやら私、熱があるみたいなんで帰ります」


「おぉ、それはいけない。アイロさん、お大事に」


「はい、失礼します」


そう言ってアイロは一礼して去っていった。


「いいんですか、ユーキ。彼女さん帰っちゃいましたけど?」


「いや、別に彼女じゃないし、声かけたのに認知されなかったらどうしようもないだろ」


するとアイロと入れ替わるようにまた別の人物が教会へとやって来た。


「こんにちは、神父さん」


「こんにちは、今日も来たんだね、フローラさん」


教会に顔を見せたのはかつて田中とシンとともに働き、今も花屋を営むフローラであった。


「あっ、店長だ」


フローラの姿を見たシンは嬉しそうにそんなことを呟いた。


しかし、そんなシンの姿に気が付かないフローラは神父と話を続けた。


「フローラさん、リンクルさんはまだ見つかっていないのですか?」


「えぇ、ミニローズバトラー園も軌道に乗って、これからお世話になった恩を返せると思った矢先、『探さないで』の一文を残して消えて以来…」


「大丈夫ですよ、強かな彼女ならきっとどこかで元気にやっていますよ」


「えぇ、そうだといいのだけど…」


その後、フローラは席に座ってアイロと同様に祈りを捧げた。


「あぁ、神様、どうかリンクルにご加護を…」


そして、教壇に奉られている像を見上げ、それと同時に自分に向かって大きく手を振る笑顔のシンと目があった。


その光景を見たフローラは2,3回瞬きをした後、再び目を閉じて祈りを始めた。


しかし、先程とは違い時折首を傾げながら難しい顔をした後、神父に声をかけた。


「神父さん、私ちょっと疲れが溜まってるみたいなんで帰ります」


「それはそれは…どうかご自愛ください、フローラさん」


そしてフローラは目頭をマッサージするかのように押さえながら教会を後にした。


「…店長帰っちゃったよ」


「まぁ、インテリアにしては刺激的過ぎるからな、見続けるのは体に毒なんだろ」


そうこうしていると今度はマサラの国の国王であるユーニグルドが教会に姿を現した。


「ユ、ユーニグルド様!?このような教会に何用で…」


「少し古い友が憔悴し切っていてな、ここで共に祈りを捧げようと思ってな」


ユーニグルドがそう言うと、彼に続いて奴隷の街の領主であるフィーネがそこに現れた。


「フィ、フィーネ様!?」


陶酔するお方との突然の再開に驚いたユーキはそんなことを口にした。


しかし、そんなユーキに気が付かぬまま二人は並んで席について祈りを捧げた。


「…すまない。お前を守れなかった…こんな不甲斐ない主人を許してくれ、ヨーム…」


そう言って涙を流すフィーネはとても話しかけられるような雰囲気ではなかった。


「フィーネよ、相手があの魔王では仕方があるまい。こう言ってはなんだが、魔王相手に犠牲が一人で済んだのはお前の功績だ」


「何が功績だ!。自分の大切なもの一つ守れないなんて…主人失格だ!」


「それでもお前を慕う者はまだ沢山いる。守れなかった奴の分、そいつらのために生きてやれ」


「…ヨーム、すまない…」


フィーネはそう言って悔しそうに唇を噛み締めた。


「…フィーネ様…」


気丈に振る舞う彼女の姿しか知らなかったユーキはそんなフィーネの姿に心を打たれていた。


「しかし…魔王がとうとう現れたか…。封印の壺が割れた以上、当然のことではあるが…どうしたものか…」


そう言ってユーニグルドはせめてもの想いで神に祈りを捧げた。


「どうかマサラを…この世界をお護りください…」


そして、壇上に奉られている石像を見上げ、天井に吊るされたユーキと目があった。


「…ふっ、やれやれ、どうやら英雄の幻覚が見えてしまうほど、私は焦ってしまっているようだ」


ユーニグルドは涼しい顔をしながらも冷や汗を流しながらそんな言葉を口にした。


「さぁ、そろそろ城に帰って魔王の対策を考えねばなるまい。セブンスジュエルを狙っているのならば、我が城に攻められる可能性が高いからな」


そう言ってユーニグルドはフィーネを連れて教会を後にした。


「…あの二人、知り合いだったのか…」


「一応設定上はライバル同士と言った関係だが、魔王の出現で手を組むことにしたんだろ」


田中はユーキにそんな説明をして見せた。


「それにしても魔王か…。フィーネ様のお顔を曇らせた罪、償ってもらわねば…」


そう言ってユーキは一人魔王討伐に想いを馳せていた。


やがて日が沈み、結局吊るされた3人は参拝客の誰一人として認知されることなくその日を終えた。


「結局、俺たちは奇抜なインテリアの扱いのままだったな」


「でも僕は久し振りに店長の顔を見れてよかったよ」


「俺もフィーネ様のお顔を拝見できて嬉しかったなぁ…会うのは一体何ヶ月ぶりだろうか?」


シンとユーキがそんな話をしているとナビィがふとこんなのとを口にした。


「それはそうと…ユーキとシンには帰りを待ってくれる人がいましたけど…結局田中の待ち人は誰一人いませんでしたね」


「…可哀想に、誰にも帰りを待ってもらえないなんて…」


「まぁ、日頃の行いが悪いから仕方がないけどね」


3人がそう言って田中に同情していると、田中が口を開いて反論し始めた。


「何を言っている?私にも帰りを待ってくれてる人がいるぞ?」


「なん…だと…」


「田中の帰りを待ってくれる人だと?」


「そんな奇特な方がいるとは…。一体誰なんですか?」


ユーキとシンとナビィが驚いていると、田中は自信満々にこう答えた。


「私の帰りを待ってくれている人なんて決まっているじゃないか。ほら、神父さんがいるだろ?」


「誰が待ち人じゃボケェ!!」


そうは言いつつも、結局神父さんは次の日から渋々田中一行を蘇らせてくれるのでした。


神父さんと田中一行の戦いは、まだ始まったばかりだとさ。

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