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奴隷の街のヨーム

領主であるフィーネが統治する奴隷の街スレイブタウン、奴隷と主人という明確で絶対的な階級制度を虐げられる街ではあるが、大きな問題も起きることなく平和な暮らしを送っていた。


しかし、そんな平和な街でも些細な問題は尽きないわけで…。


「シンシアさん、聞いてください。僕らは決して悪くないんです、悪いのはヨームなんです」


フィーネの側近である奴隷のシンシアに黒縁メガネが似合う秀才系のイケメン風な見た目をした元攻略組四天王の【†堕天メガネ†】ことピーロが土下座しながらそう口にしていた。


「そうなんすよ。悪いのは全部アイツなんすよ、アイツが教えたことちゃんと伝えなかったから…」


そのピーロの隣で同じく元攻略組四天王の一人であったむきむきに鍛えられた筋肉が自慢である【†肉体の美学†】ことガイが土下座でそんな言い訳をしていた。


大の男が二人並んで土下座する姿をワナワナと怒り混じりに見下しながらシンシアは威圧感のある声で話し始めた。


「別に私は言い訳を聞きたいわけじゃないんですよ。偉大なる唯一神であるフィーネ様の愛用していた寝具もとい神具であるフィーネ様のパジャマを汚した責任をどう取ってくれるのかって尋ねているんですよ」


「そ、それは…」


「だ、だから俺らのせいじゃないんですよ。元はと言えばあのヨームが俺の伝えたことをピーロに教えなかったから…」


「黙れ!!フィーネ様の私物を汚した大罪、その首で償うがいい!!」


そう言ってシンシアが二人を手にかけようとしたその時、フィーネがやってきてシンシアを制止させた。


「まぁ、落ち着け、シンシア」


「フィ、フィーネ様…しかし、こ奴らのせいでフィーネ様のお気に入りのモフモフパジャマが…」


「今日念入りに洗って乾かせば明日には使えるだろう」


「それではフィーネ様は今夜どうやってお眠りになるというのですか!?」


「別にパジャマの一つや二つくらいなくたって問題ない」


「問題なくなんか無いですよ!?。私の夜の楽しみのフィーネ様のパジャマお姿コレクションが増えないじゃないですか!?」


「シンシア、お前そんな理由でそんな下らないに起こっていたのか…」


「フィーネ様のパジャマお姿を下らないとはなんですか!?フィーネ様のことを侮辱するのはフィーネ様でも許しませんよ!?」


「お前、言ってることもうめちゃくちゃだなぁ」


その後、フィーネがなんとかシンシアを宥めてなんとか騒ぎは収まった。


今回の騒動の原因は情報の伝達ミスによるもの。ガイがヨームを通してピーロに伝えるべきことをヨームが上手く伝えられなかったことが原因であった。


獣人の子供であるヨームがフィーネの奴隷になって1ヶ月が経とうとしており、ヨームも仕事には慣れてきてはいるものの、人と接することに関してどこか後ろ向きなところがあった。


それはヨームが人を怖がる臆病さのせいであるのだが、その臆病さの理由もいろいろ考えることが出来る。


例えば獣人は元々差別の対象であり、種族差別が撤廃された今でも水面下でその名残があり、ヨームは今まで人から酷い目に合わされてきたのだろう。


おそらくはそれが人に対する臆病の大きな原因、しかし、それ以上にヨームには何か他に大きな原因があるのではないかとフィーネは踏んでいた。


「ヨーム、なぜ君はそこまで人を恐れるのだ?」


ある日、フィーネはヨームを部屋に呼び出し、ヨームにそう尋ねた。


しかし、ヨームはフィーネの質問に黙って俯いていた。


「ここの奴らが君をいじめたり、怖がらせるようなことをしたのか?」


フィーネの質問にヨームはブンブンと首を横に振った。


「君は獣人の子供…種族差別が撤廃された今でも水面下に残った確執が君を傷つけたのは理解しているつもりだ。だけどここの者はそうではないと君も分かっているんだろう?。だったらみんなをもっと信頼してやっても…」


「違うんです、フィーネ様」


ヨームは静かにそう口を開いた。


「ここのみんな、良い人だ。みんなオイラに良くしてくれる。今までずっと嫌われて生きてきたから、どう接して良いか分からないくらいみんな良い人だ」


「だったらもっと仲良くしてやっても…」


「でも、ダメなんだよ。オイラに近づいちゃダメなんだよ。良い人だからこそ、ダメなんだよ」


「…どういう意味だ?」


「オイラが怖いのは周りの人じゃないんです。オイラが本当に怖いのは…オイラ自身なんです。だって…だってオイラは…呪われた子供だから…」


「呪われた子供?」


「フィーネ様、オイラは…セブンスなんです」


ヨームはそう言って、上着を脱いで体毛に覆われた背中に埋め込まれた黄金に輝く宝石をフィーネに見せた。


「『韋駄天のトパーズ』、別名『瞬きの灯り』。そいつがオイラの背負う運命なんです」


突然の告白に流石のフィーネも驚いて言葉が出なかった。


「オイラは感情が高ぶると力が抑えきれなくなって辺り一面に電撃を撒き散らす危険な存在なんです。ここの人達はみんないい人だ、だからオイラに近づいちゃダメなんだよ」


そしてヨームは涙混じりにこう口にした。


「だって…もう誰も、傷付けたくねえから…」


ヨームの脳裏に、自らの力に飲み込まれ灰となった生まれ故郷の燃える姿が投影された。


もう二度とあんなことを繰り返さないように…。


「オイラは本当は生きてちゃダメな呪われた子供なんです。危険な存在なんです!。オイラはオイラが怖い…だからオイラはここにいちゃダメなんです!!」


ヨームが泣きながらそう訴えたその時、フィーネがヨームを後ろからそっと抱きしめた。


そして、優しい声でヨームに囁いた。


「お前が危険な存在だって?。セブンスだろうが呪われた存在だろうが知らないが、私の目には可愛らしい子供にしか映らないぞ」


そしてヨームの手を優しく握りしめ、こう言った。


「何を怖がる?…ほら、こんなに優しい手をしてるじゃないか」


その言葉を聞いたヨームの瞳からボロボロと涙が溢れた。


「フィーネ様、良いのかな?。オイラなんかがここにいても、良いのかな?」


「当たり前だ、私が良いと言ってるのだから」


「フィーネ様…オイラ…オイラ…わあああああああああああん!!!!!!」


そしてしばらくの間、ヨームはフィーネの胸の中でワンワンと泣き続けた。


ずっとずっと…生まれてから溜め込んできたものを全て吐き出すかのようにずっと…。


呪われた運命を背負いしその者は、ただの子供のように泣いていた。










その日の夜…。


「みんな、聞いてくれ」


フィーネは食堂に奴隷を全員集め、話を始めた。


「結論から言おう、ヨームはセブンスだ」


フィーネの口から出た言葉に奴隷達はざわめいた。


そのざわめきを抑えた後、フィーネは続けて語り始めた。


「ヨーム曰く、感情が高まると力が抑えきれなくなって辺りに電撃を撒き散らすらしい」


呪われた存在であるセブンスがこんなにも身近にいたことに困惑を隠しきれない奴隷達、しかし、フィーネはそんな彼女らを尻目に話を続けた。


「これは私の考えだが、セブンスはたしかに危険な存在だ。だけど、それでもヨームはヨームだ。私の奴隷で、みんなの仲間で、私の大切な家族の一人だ。だからどうか…ヨームを受け入れてはくれないだろうか?」


そう言ってフィーネは奴隷達に向かって深々と頭を下げた。


自分の奴隷に頭を下げるなどという行動に奴隷達がさらに困惑する中、シンシアが口を開いた。


「頭をお上げください!フィーネ様!。フィーネ様が受け入れるとおっしゃってるんです!!私達も当然受け入れるに決まってるじゃないですか!!」


シンシアの声を皮切りにヨームを受け入れる声が食堂に響いた。


「同じ時期にフィーネ様の奴隷となった同期だ、仲良くやろうぜ」


「そうだそうだ、いままでそんな大事なこと黙ってただなんて水臭えぞ!」


元攻略組のピーロとガイも…。


「当然受け入れますとも。例え雷に貫かれようとも、獣人ケモミミ幼女に感電死させられるのならば本望ですとも」


同じく元攻略組のゴトウも…全員が喜んでヨームを受け入れた。


そんな光景を前にヨームの目から再び涙が溢れた。


今までずっと呪いを背負って虐げられて生きてきた。


セブンスである自分はそれが当たり前だと思って受け入れてきた。


だけど、そんなオイラでも受け入れてくれるなら…。


周りを気にせず泣きわめくヨームを取り囲むように奴隷達は今日も賑やかな夜を過ごしたとさ。


…だが、そんな場にも陰りが差そうとしていた。


みんなに取り囲まれ泣きじゃくるヨームにその陰りは後ろからそっと近寄り、そして周りには聞こえないようにヨームに耳打ちをした。


「へぇ、あなたがセブンスだったんですか…」


その声にはどこか悪意のようなものが込められており、ヨームはギョッと振り返った。


するとそこには光がなくどこまでも深い飲み込まれるような闇を宿した瞳のシンシアの姿があった。


そしてシンシアはそのまま周りには聞こえないようにヨームの耳元で悪意のある声で囁いた。






「そんなことよりヨーム、あなた……さっきフィーネ様に抱きつかれてましたよね?。私、ちゃんと見てましたよ?。なんですか、あれ?。私だってまだ抱きつかれたことないのに…なんであなたが抱きついてもらえるんですか?。しかもあなた上半身裸でしたよね?裸で抱きついてもらえるとか…死にたいんですか?極刑に値しますよ?っていうか、死んでもお釣りがくるご褒美ですし、もう死んでも悔いはないですよね?そうですよね?ヨーム」


ヨームの枯れることはないと思われていた涙は意外にもすぐに止まったそうな。

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