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この空がある限り

「竜王バハムート…」


「久しいのう、ゴブリーよ」


「この前はまんまと逃げられてしまったが…どの道お主らに逃げ場などない。この空がある限り、な」


暗雲が立ち込める空の上からバハムートは優雅に二人を見下していた。


「その幸運が果たして今後も続くかな?」


薄ら笑いを浮かべるバハムートが羽虫を握りつぶすかのように手を握ると、ゴブリー達を取り囲むマグマがゴブリーたちに牙を向けて来た。


「今一度問おう。メタルゴブリンを我に差し出せば、お主の命は…いや、よそう。どうやら話すだけ無駄なようだな」


そこまで言いかけたバハムートだったが、ゴブリーの目を見て話すことをやめた。絶望の中にもゴブリーの決して折れない信念を瞳の中に見据えたからだ。


「燃え尽きろ」


バハムートは力強く拳を握りしめた。それと同時に地を這いずり回るマグマが二人に襲いかかり、二人はマグマの海の中に閉じ込められた。


「…しまった、やり過ぎた」


ブラッドの塊であるメタルゴブリンを捕食したいハバムートはメタルゴブリンごとマグマの海に閉じ込めたことを後悔した。


しかし、メルの力により、青白く輝くオーラを纏ったゴブリーが手に持っていた棍棒の一撃であたりのマグマを吹き飛ばした。


「…ほう、少し見ない間に強くなったじゃないか」


いくらメルの力を借りているとは言えど、チュートリアルボスに過ぎないゴブリーがあの攻撃に耐え得ることがバハムートには意外なのであった。


「だったら…次は少し強く行くぞ」


バハムートは両手を使ってマグマを自由自在に操り始めた。やがてマグマの海は渦を巻き、天へと登る竜巻となってゴブリーに襲いかかる。


しかし、マグマの竜巻はゴブリーに触れる直前で、ゴブリーが胸にかけていたペンダントの力によって弾かれ、消滅した。


「なんだと!?」


ゴブリンリーダー風情に自信の技を完封されたことにバハムートは驚きを隠せなかった。


ゴブリーを守ったのは胸にかけてあった『必中のルビー』による追加効果な賜物であった。『必中のルビー』には命中率が100%になるだけではなく、炎攻撃の強化や、炎耐性の大幅な向上などの追加効果が付与される効果があるのだ。


「その程度じゃ僕には傷一つつけられやしないよ、竜王バハムート」


ゴブリーは自慢の棍棒を空に漂うハバムートへと向けて挑発した。


「はっはっは…まさかこの私がゴブリーに挑発されるなどとは…竜の恥だ」


ゴブリン風情に挑発されようなどとは予想だにしなかったハバムートは笑った。


そして、上空から見下していたバハムートはゴブリーにも届くほどの場所まで降り立った。


「では…少々本気で行くぞ」


そして大きく息を吸い込み始めた。竜の王の吸い込みは激しく、バハムートへ向かって突風が吹き荒れるように空気が渦巻き始めた。やがて、息を吸い終えたハバムートはゴブリー達へと踵を返し、殺意を込めた声でこう叫んだ。


「『ドラゴンフレア』!!」


それと同時にハバムートの口から巨大な光線が発射された。光線はあたり一面を巻き込み、触れたものを消滅させながら高速でゴブリー達へと迫った。


竜王の一撃になすすべもないゴブリー達が死を覚悟したその時…。


「我らに盾を…『ウォールバリア』!!」


突然ゴブリーの目の前に立ちふさがる様に現れたマオが魔法で半透明の壁を作り出し、光線を受け止めた。


「お待たせ、勇者様」


少々顔色が優れないが強がって笑みを浮かべながらマオはゴブリーに向かってウィンクをした。


「マオ!大丈夫なの!?」


「大丈夫大丈夫…平気平気」


しかし、そういう彼女の額は汗でびっしょりしていた。


そんな突然現れたマオを見て、ハバムートが意外そうな顔をした。


「お前は……いや、まさかな」


一瞬、ある考えがよぎったバハムートだったが、すぐさま首を横に振って否定した。


そして改めてゴブリー達へ向き直り、背中に纏った大きな翼を広げ、宙に羽ばたいた。


天空を自由自在に飛び回るバハムートにマオは魔法で遠距離から攻撃を仕掛けた。


「『アイスリート』!!」


大気を凍らせることでハバムートごと凍らせて動きを封じようとしたが、高速で飛び回るバハムートには当たらなかった。


「竜の王をなめるな!!」


マオの攻撃が届かないほど空高く舞い上がったハバムートは上空から先ほどの『ドラゴンフレア』を繰り出すべく、大きく息を吸い込んだ。


地上でなすすべもなく這いずるゴブリー達を見下そうとしたその時、ゴブリーが地上にいないことに気が付いた。


「今よ、勇者様」


マオの空中に作り出した氷を足場にしてハバムートよりも空高く舞い上がっていたゴブリーはハバムートの死角であった上からハバムートに向かって攻撃を仕掛けた。


「必殺…『ゴブリンアタック』!!」


ゴブリーはご自慢の棍棒でハバムートを上から思いっきり叩きつけた。


不意打ちを食らったハバムートはなすすべもなく地面へと真っ逆さまに急降下し、地面へと叩きつけられ、砂煙が舞い上がった。


「やったか?」


ハバムートに続いてゴブリーが地面に華麗に着地し、ハバムートの方を振り向いた。


だが、それと同時に砂煙から突然、ハバムートの尻尾が素早く伸びてきて、ゴブリーの首に巻きつき、ゴブリーを空高く持ち上げ、地面へと叩きつけた。


「ガハッ!!」


思わぬ攻撃にゴブリーが戸惑っていると、首に巻きついた尻尾はゴブリーの息の根を止めようと、力強く締め付いてきた。


「ぐっ…あ…あ…」


ゴブリーが苦しそうに声を上げていると、いつの間にかハバムートはゴブリーの目の前に立ちふさがっていた。


「小鬼風情が…竜の王たる私に傷をつけよって…」


先ほどのゴブリーの攻撃でダメージを受けた様子はまるでないが、その表情は怒りに満ち溢れていた。


「おとなしく巣穴に引きこもっていれば…こんなに苦しまずとも済んだのにな」


「ゴブリー!!」


「勇者様を離せ!!『ブリザードスピア』!!」


マオが氷の槍を出現させてハバムートへ向かって投げつけるが、突然地面から湧き出たマグマの壁がそれを遮った。


「邪魔をするな!!小娘!!」


ハバムートの一喝によってマオは吹き飛ばされた。


「マオ!!ゴブリー!!」


ゴブリーを助けようにも立ち上るマグマで近付くことさえ叶わないメルはなすすべもなく突っ立っていることしかできなかった。


「案ずるな。すぐにお前も地獄へ送ってやる」


そう言ってハバムートはゴブリーを締め付ける力をより一層強めた。


それと同時に今度はマオがうめき声をあげた。


「うっ…うわあああああああ!!!!!!」


マオは頭を抑えてその場にしゃがみ込んだ。


「まだ…まだ出てくるな…お前の力なんて…」


苦しそうに何かに話しかけるマオ。そんなどうしようもない状況にメルはただただ動揺するしか出来なかった。


「そろそろ楽にしてやろう、ゴブリーよ」


ハバムートはそう言って右手から太陽のように輝く巨大な炎の球体を作り出した。


「くそっ…わかった…お前に…身体を貸してやる。だから…」


マオはマオでただ座り込んでぶつぶつとなにかを呟くだけ。


「死ね、小鬼」


「い、いやあああああああああ!!!!!!!」


ハバムートが太陽をゴブリーにぶつけようとしたその時…。






「だから…仲間を助けてくれ!!!」





マオが叫び声をあげると同時にバハムートの作り出した太陽が一瞬で凍りついた。


「なに!?」


突然の出来事にバハムートが困惑していると、空を覆っていたドス黒い暗雲が風に流され、闇に浮かぶ満月が姿を現した。


満月が姿を現した否や、満月は外側から徐々に鮮血のような紅に侵食されるように染められ始めた。


「な、なにこれ…」


「ま、まさか…これは…


異常な事態にメルとバハムートが困惑していると、今度はメルが不気味に力なくゆっくりと立ち上がった。


それと同時に、メルは全身を鋭い針で刺されたようなおぞましい感覚に見舞われた。


「ふふふ…ふふふふふふ」


「マ、マオ?」


薄気味悪い笑い声をあげるマオにメルはただただ恐怖を感じた。


そして夜空に漂う月が紅に侵食される度に全身を襲うおぞましい感覚は強くなった。


「ようやくだ…長かった。外の空気を吸うのも何百年ぶりだな…」


いつものマオとは違い、目の前で揺らぐそれは冷たく残酷な声色を奏でた。


「あなたは…一体…」


目の前にいるのがマオではないと本能的に察したメルは警戒を強めた。


するとその時、ハバムートから巨大な光線がマオだったものに向けて放たれた。


ゴブリー達がまともに喰らえばひとたまりもないほどの威力を秘めたその攻撃はそれが嘘であったかのようにマオだったものが軽く払った手によって弾かれた。


「誰かと思えば…トカゲの王様か」


「なぜだ!!なぜお前がそこにいる!?…魔王!!」


ハバムートに魔王と呼ばれたそれがゆらりと顔をあげた。闇夜に不気味に輝く鋭く冷酷なその瞳にもはや優しかったマオの面影はなかった。


「久しいな、ハバムート」


ハバムートの渾身の『ドラゴンフレア』をものともしない魔王にあのハバムートですら思わずたじろいだ。


「…マオ?、どうしちゃったの!?しっかりして!!マオ!!」


「小鬼の娘よ、残念ながらお前達がマオと呼んでいた我が器はもういない」


魔王は不敵に笑いながらそう答えた。


「そんな…」


「我が器の最後の願いだ。小鬼の娘よ、お前の命は見逃してやろう。だが…」


そう言うと魔王はいつの間にかハバムートの尻尾に投げ飛ばされ、地面に倒れていたゴブリーへと踵を返し、メルを無視して歩き出した。


「女神アステナに選ばれし小鬼の勇者よ、貴様はここで葬り去る」


「だ、ダメ!!」


メルは魔王に抱きついて身体を張って魔王の歩みを止めた。


「悪い冗談はやめて!!マオ!!。いつものように…笑ってよ!!マオ!!」


涙ながらにそう説得するメルに魔王は振り向き、不敵な笑みを浮かべてこう言い放った。


「邪魔をするな、小鬼の娘よ」


すると魔王は地中から真っ黒な十字架を出現させ、魔法でメルをそれに貼り付けにした。


「待って!!お願いだから…お願いだからやめて!!マオ!!」


もはやマオの面影がなに一つ見られぬ魔王であったが、メルがそう叫ぶと一瞬だけちらりとメルの方を振り向き、小さな声でこう呟いた。


「…逃げて…メル」


そして、何事もなかったかのように再びゴブリーの方へと歩き始めた。


「…マオ」


魔王の中にまだマオが生きているとメルは感じた。


しかし、魔王はゴブリーへと歩みを止めることなく近づき、ゴブリーにトドメを刺すべくその手を振り上げた。


「マオ!!」


メルがそう叫ぶのと同時に、ハバムートの『ドラゴンフレア』が再び魔王へと放たれた。


魔王はハバムートの渾身の『ドラゴンフレア』を気だるそうに弾くと、再びハバムートの方に振り返った。


「挨拶にしては物騒だぞ、マナーも守れんのか?トカゲの王よ」


「我の狙いは小鬼の娘の方だ。だからお前がその小鬼を手にかけようがかけまいがどうでもいい。…だがな、この我を前にして、我を無視することは…何人たりとも許さん!!」


そう言うとハバムートは何発も『ドラゴンフレア』を魔王に向かって放った。


一撃一撃が熟練のプレイヤーをも完膚なきまで葬る大技を魔王は手のひら一つで全て弾く。


「やれやれ、プライドの高いお子さんだこと…」


「貴様あああああああ!!!!」


魔王の挑発に激怒した竜王は背中に纏う翼を大きく広げ、魔王への急接近し、近距離攻撃を連打した。


鉄をも切り裂く爪、嵐をも巻き起こす翼、猛獣をも薙ぎ払う尾、あらゆる部位を使ってハバムートは魔王へ捨て身の攻撃を続ける。


魔王はなにも抵抗することなくおとなしく全てをその一身で受け止めた。さすがに竜王の一撃は重たく、魔王も攻撃を食らうたびに仰け反り、ダメージを食らっているようだ。しかし、一向に倒れる気配はない。


「ふははははははは!!」


魔王は攻撃を浴びながら笑い出した。


「痛い…痛い、痛いぞ!!ハバムートよ!!だがしかし…」


そして、ハバムートの渾身の右ストレートで魔王は吹き飛ばされ、その身を地に伏せた。


しかし、ふわりと宙に身体を浮かし、何事もなかったかのように体制を立て直し、不敵な笑みを浮かべながらこんなことを口にした。


「今はこの痛みすら愛おしい」


あれだけの怒涛の攻撃をものともしない魔王にさすがのハバムートも絶望を露わにした。


「お前だけは…お前だけはここで葬り去る!!」


するとハバムートは空にこだまするような大きな咆哮をあげた。


「鳴き声だけは一人前だな」


「余裕を漕いでいられるのも今のうちだ、魔王」


すると真紅が混じった月にいくつもの影が投影された。


その影は次第に大きくなり、メルがその正体に気がついた時には一つ一つが巨大な影を形成していた。


「来い、我が眷属達よ」


バハムートを取り囲むかのように何十、何百という巨大な竜がこの地に降り立った。


「この空は我らの支配下。空の下で出会ったことを後悔するがいい!!魔王!!」


バハムートの指示で巨大な竜達は一斉に魔王に向かって羽ばたき始めた。


大地を震わすような衝撃と、竜巻のような嵐がメル達に襲いかかった。


「きゃあああああ!!!!」


その場に立っていることすら困難なほどの龍の群れは巨大でおぞましいものであった。


そんなどう猛な竜達を前に魔王は一言呟いた。


「なんだ、トカゲかと思ってたら…可愛らしいミツバチじゃないか」


その瞬間、魔王へと突進していた竜達は凍りつき、粉々に砕けて、小さな氷の粒と化した。


「なん…だと…」


一瞬にして自慢の配下達を失ったバハムートは圧倒的な力の差を感じ、その場に膝から崩れ落ちた。


「なんだ?もうおしまいか?。だったら…そろそろ終わりにしようか」


魔王がバハムートへと手をかざし、なにやら呪文を唱え出したその時…


「ダメだ…自分を失っちゃダメだ…目を覚ませ!!マオ!!」


ボロボロな身体を引きずって起き上がったゴブリーが声を絞り出して叫んだ。


すると、ゴブリーとメルの首にかけられていたセブンスジュエルが光り出し、魔王へ向けて小さな光線を放った。


光線を浴びた魔王はもがき苦しみ始めた。


「ぐああああああああ!!!!」


そして頭を抱えて、その場に座り込んだ。


「器風情があああああ!!!!!私に話しかけるなああああ!!!!!」


魔王の様子からマオが目を覚まそうとしていることを察したメルは十字架に磔にされたまま叫んだ!!。


「目を覚まして!!みんなあなたを待ってるよ!!…マオォォォォ!!!!!」


その時、夜空に浮かぶ満月を侵食していた真紅が徐々に姿を消し、それと同時に魔王はその場にパタリと倒れてしまった。


するとメルを縛っていた十字架も消え去り、自由の身となったメルはマオの元へと駆け出した。


「マオ!マオ!!」


メルがマオに声をかけると、マオはいつもの優しい瞳を開けて、メルを見つめ返した。


「心配かけてごめんね…メル」


「ううん…いいの。マオが戻って来てくれたから」


メルは戻って来たマオの胸で涙を流した。


「おかえり、マオ」


ボロボロの身体を引きずってマオ達の元に訪れたゴブリーがメルへと声をかけた。


「ただいま、ゴブリー。いま、怪我を治してあげる。癒しの風よ『ヒール』!!」


マオの魔法でゴブリーのダメージが全快した。


「ありがとう、マオ」


「ううん、こっちこそありがとう、勇者様」


マオが戻って来たことに二人が安堵していると、今度はバハムートが笑い始めた。


「ふははははは…なんだかよくわからないが、どうやら今がチャンスのようだ。眷属よ!!あの魔王の器を滅ぼすのだ!!」


バハムートの指示でまだ空に残っていた数十の凶悪な竜達がバハムートへと牙を向けた。


「…あれをどうにかしないとね」


「二人とも、私に考えがある」


「なに、マオ」


「私の体には魔王の力がまだわずかだが残っている、それをメルの力で強化して、私の最大魔法をバハムートにぶつける」


「なるほどね、じゃあ僕はその間、二人を守ればいいってことか」


作戦を素早く把握したゴブリーはそう呟いた。


「かなり辛いと思うけど、頼んだよ、ゴブリー」


「任せて」


「それと…ささやかだけど、私からのプレゼント」


マオはそう言うと呪文を詠唱し始めた。


「疾風の風神よ、かの者に韋駄天の加護を与え給え!!補助魔法『カミカゼ』!!」


マオの魔法でゴブリーは羽のように身体が軽くなったのを感じた。


「それじゃあ、お願い。メルは私のそばで力を解放して」


「わかった」


メルが祈るように両手を組むと、マオの体が青白く輝き始めた。


それを確認するとマオは呪文を詠唱し始めた。


「古代より受け継がれし魂の導きよ、我は巡りし運命を重ね、現今の支配者の器なり…」


マオが呪文を詠唱している最中、ゴブリーは華麗に空を舞っていた。


「こっちだ!!トカゲども!!」


巨大なドラゴンを足場に、ドラゴンを挑発しながらぴょんぴょんと踊り狂う竜をまたにかけて小賢しく立ち回っていた。


逆鱗に触れられた竜達はターゲットをゴブリーに絞って暴れ回っていた。


惨めに戦いを続けて抗い続けるゴブリーを見下しながらバハムートは呟いた。


「自由を知ったがために自由を求めて抗い続ける醜い小鬼共…なにがそこまでお主らを駆り立てると言うのだ?」


「決まってるわ!!私達はこの広い世界を旅するために戦っているの!!」


バハムートの声が聞こえたメルは勇ましくバハムートに向き合いながらそんなことを答えた。


「この広い世界を旅するため?。ははは…暗き洞窟に追いやられた自由に縛られた哀れな小鬼が考えそうな浅ましき答えだこと…」


「そう言うあなたは冒険したことあるの?」


「ははは…我の住処はこの空、地平線の彼方まで続くこの広大な天空こそが我がテリトリーなのだぞ?。私はお前達とは違ってどこにだって行けるのだ…この空がある限り、な」


そう答えるバハムートをメルは鼻で笑った。


「…なにがおかしい?」


「どこにでも行けるですって?自惚れないで。確かにあなたはこの広大な空を自由に飛び回ることができる。…でもね、あなたは森の木漏れ日から吹き抜ける風の音色を知らない。薄暗い洞窟の中で輝く蒼穹の世界を知らない!。大切な人とどこまでも繋がる愛おしさを知らない!!。笑わせないで!!そう言うあなたこそ、空に縛られた哀れなトカゲじゃない!!」


メルは可哀想なものを見る目でバハムートを見つめた。


「小鬼風情がぁぁぁぁぁぁぁ…私をそんな目で見るなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


怒り狂ったバハムートがその大きな翼をはためかせてまっすぐメル達に突っ込んできた。


「メル、行くよ」


それと同時に呪文の詠唱が終わったマオがメルに声をかけ、メルと手を繋いだ。


二人は結んだ手を空に掲げ、その手で迫り来るバハムートを指差し、二人同時に呪文を唱えた。


「究極滅殺魔法…『メルトマオ』!!」


メルとマオの繋がれた手から放たれた純白の光が辺り一帯の竜達をかき消した。


「そんな…馬鹿なああああああああ!!!!!!」


光に巻き込まれたバハムートがそんなことを言い残した。


やがて、放たれた光が消えるのと同時に空からボロボロになったバハムートが落ちてきた。


「ははは…ははははははは…」


満身創痍なバハムートは地に伏せながら力なく笑った。


「まさかこの私が…小鬼風情に負けるとは…。だが我を倒したところで、私はすぐさま復活し、再びお前らの息の根を止めに行く。せいぜい怯えて待ってろ…はははははははは!!!」


そんな哀れな姿になったバハムートにゴブリーは声をかけた。


「バハムート…良かったら、僕達と一緒に旅をしないか?」


「なに言ってるの?ゴブリー!!」


「正気か!?ゴブリー!!」


驚く二人を差し置いて、ゴブリーはバハムートを説得した。


「僕達がここまでして旅を続けたい理由がわかるまで、一緒に来たらいい。そしてその理由がわかった時…僕達はきっと仲間になれると思うんだ」


そして、ゴブリーはバハムートに手を差し伸ばした。


そんな差し出されたゴブリーの手を見つめ、そして目を伏せながらバハムートは呟いた。


「旅、か…そんなもの、久しくしていないな」


「だったら…」


「だが、我はバハムート。偉大なる種族、竜族の王。小鬼の配下になど下れるか!!」


バハムートはそう言うと呪文を詠唱し始めた。


危険を察知したマオがすぐさまゴブリーを庇うように立ちはだかった。


「貴様らごと道連れだ!!死ね!!『エクスプロージョン』!!」


バハムートは自爆を図ったが、マオの『ウォールバリア』によってゴブリー達は事なきを得た。


「ちっ、最後の最後まで忌まわしい小娘だ」


燃え行く炎の中でバハムートは悪態ついていた。


「だがしかし、私はすぐに蘇り、お前達に立ち塞がる。誰も逃れられはしないのだ!!お前達も…この私も…」


そしてバハムートは最後に悲しそうにこう言った。


「この空がある限り、な」


そして、虚しい高笑いを残して彼女は灰となって消え失せた。


ゴブリーとメルがそんなバハムートに同情の眼差しを向けていると、マオが二人に声をかけた。


「さあ!こんなところでボヤボヤしてられないよ!。こうしてるうちにバハムートがまた攻めて来ちゃうよ!。…魔王もいつ復活するか分からないし…」


「ねぇ、マオ…あなたは一体…」


「…もう気がついていると思うけど、私は魔王の器。魔王の魂は私の体に乗り移り、私の体を媒体としていずれ蘇る」


「阻止することはできないの?」


「方法は一つだけあるよ。セブンスジュエルを集めた勇者様だけが魔王を滅ぼすことができるの…私の体ごとね。…だからね、急いでセブンスジュエルを集めよう」


そんなことを淡々と語るマオにゴブリー達は返す言葉がなかった。そんなゴブリーの頰に優しく手を差し伸ばし、マオはこう告げた。


「そして…私が私でなくなる前に…必ず私を殺してね…勇者様」


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