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息をするように息をひきとるRPG

平和なマサラ城に、再びあの忌まわしき世界に終焉をもたらす者、逆さメイドが牙を剥いた。


その神をも凌駕する一撃でスラム街を焼け野原に変えた化け物は、元花屋の店主、フローラによって再び棺桶へと封印された。


フローラの活躍により、町は平和を取り戻し、信用を取り戻した彼女は再び店を構えるまで再生することができた。


逆さメイドを倒した者が育てる花は大変人気が出て、特に逆さメイドにトドメを刺したローズバトラーを家庭栽培用に品種改良したミニローズバトラーは逆さメイドを退けるほどの魔除けの効果があると噂が噂を呼び、大ヒット商品となり、世界中で愛用された。


一度は逆さメイドによる風評被害で地の底へと落とされたフローラだが、今度は逆さメイドのおかげで商売繁盛、ミニローズバトラーは品切れの日々が続き、フローラは忙しさで目を回しながら嬉しい悲鳴をあげていた。


ところ変わってこちらは元スラム街、逆さメイドによって一切合切を吹き飛ばされ、ただの平地となってしまった故郷を前にスラムの人々は絶望していた。人を広場に集めるために動いていたことや、田中のDEXの低さでほぼ命中率は0%であったというシステムの必然という幸運が重なってけが人が出ることはなかったが、彼らは住む場所を失い、途方に暮れていた。


そこに救いの手を差し伸べたのがフローラであった。かつて家を失い、行き場のなかった彼女に救い手を差し伸べてくれたスラムの人々に恩を返すために、彼女が動いたのだ。


しかし、いくらお店が繁盛しているとは言えど彼らを全員養い続けることは不可能。必要なのは継続的に給金を得ることができる仕事を彼らに与えることだった。フローラがどうしたものかと頭を抱えていると、前々からスラム街の貧困を問題視していた国王ユーニグルド・マサラが助言を呈した。


『スラム街をミニローズバトラー園に改良せよ』と…。


逆さメイドの攻撃よって平地と化したスラム街はミニローズバトラー園に改良するのに都合が良かった。国からの支援によってスラム街はミニローズバトラー園となり、スラム街に住んでいた者はそこでミニローズバトラーを育てる仕事を得た。


広い土地と十分な労働力、そしてフローラの栽培方法の改良によりミニローズバトラーの大量生産が可能となり、世界中に需要があるミニローズバトラーはマサラの新たな特産品となり、マサラの経済を潤した。


こうして、様々な人のアイデアや工夫、助けのおかげで逆さメイドによって深刻な損害を受けたはずのマサラ城はより一層豊かな国となり、人々は幸せな日々を謳歌しましたとさ、めでたしめでたし。


で、それはさておき、めでたくない人たちの話に戻そう。


無事にこの世にはびこる全ての悪の根源とも言える逆さメイドを葬り去ったシンはその棺桶を引きずってユーキの待つ教会へとやって来た。


「おかえり」


「ただいま」


「いやぁ、見事にしてやりましたねぇ!。レベル1のシンがレベル99の田中に立ち向かっていく様…このナビィ、感服いたしました!!」


田中を始末できたことをささやかに祝うユーキとナビィ。しかし、笑ってばかりではいらない。今は棺桶の中で静かに眠っているが、怒髪天を衝く田中が蘇って仕舞えば、この平穏な世界に再び終焉を解き放つことになる。


だからといってこのまま眠らせておくわけにはいかない。このゲームが君とどこまでも旅する(強制)RPGなのは言うまでもないのだから。


「とりあえず、謝っておけば?シン」


「…そうだね」


このゲームは棺桶の状態であっても五感はあり、外の様子が棺桶の中でも筒抜けとなっているのだ。


そこで、シンは田中が棺桶の中で大人しくなっている内に謝っておくことにしたのだ。


「ごめんなさい。今回はどうしてもフローラを助けたかったんだ。それでも君が怒るのは最もだし、2、3回殺されるくらいは覚悟してる。でも、いつまでも殺し合ってばかりじゃ誰も得しないから、なんとか仲直り出来ないかな?」


しかし、反応はない。…ただのしかばねのようだ。


シンの言葉から彼自身の成長を感じ取ったユーキは嬉しそうにウンウンと頷いていた。


「そういうことだ、田中。君とどこまでも旅する(強制)とは言えど、俺たちは紛いなりにも仲間だ。協力し合う道を探そうぜ?」


ユーキもそう言ってシンの言葉を肯定した。


「とりあえず…いま蘇らせるから、それから話し合おう」


その後、息をするように息を引き取り、パーティは全滅した。









「おぉ、戦士田中よ、死んでしまうとは…」


もう吐き気を催すほど聞いた神父(幼女)の言葉を無視して、田中は『ムスゥ』とした顔でユーキとシンに向き合っていた。


「ごめんなさい」


客観的に見てシンがそれほど悪いことをしたようには思えないが、とりあえずシンは謝罪をした。今までとは違い、仕方なく謝っていたり、その場をごまかすための謝罪とは違い、シンが初めて自らの意思で謝罪をしたことにユーキは一人で感心していた。


「で、それで許されるとでも?」


シンが下手に出たことをいいことに、威圧的な態度をとる田中。こういう人間には弱みを見せるべきではないのだが、だからといって真っ向からぶつかってはお互いが疲弊するだけだ。ハッキリ言ってこういうタイプの人間には関わらないのが賢いやり方だ。


しかし、これは君とどこまでも旅する(強制)RPG。相手が嫌なやつでも関わらなければいけない。


「まぁまぁ、シンも反省してることだし、許してやれよ、田中」


「嫌なこった。こっちは殺されたんだぞ?。暴言を吐かれた挙句、肉を噛みちぎられ、骨をしゃぶられ無残に殺されたんだぞ?」


元はと言えば99.9%は田中が悪いのだが、0.1%でも相手に悪いところがあれば田中は図に乗ることが出来る人間だ。例えシンが999回殺されようが1回でも田中が殺されたならそれで対等…いや、むしろその1回の死を前面に押し出し、自分が有利になるように場を支配する。…友達にはなれないタイプの人間だ。


「じゃあ田中はどうすれば納得するんだ?」


これ以上話していても拉致があかないと判断したユーキは田中の要求を聞くことにした。


「私の要求は決まっている…棺桶ガードの使用を許可しろ」


田中の要求は単純明快。味方の骸を盾に、いかなる攻撃をも無力化する棺桶ガードを使わせろということだった。


確かに棺桶ガードを使う使わないでこのゲームの難易度は天と地ほど変わる。しかも棺桶ガードを使うためには重たい棺桶を自由自在に振り回せるほどのSTRと仲間の死をものともしない残虐な心を持ち合わせている必要がある。そして有り余るほどのSTRと有り余るほどの残虐性を持ち合わせた田中はこの棺桶ガードには打って付けの存在であった。


「うーん…でもなぁ…」


ユーキが渋るのにも理由があった。一番の問題点は棺桶の状態でも痛みを感じるということだ。死してなお安息の地を奪われる棺桶側は堪ったもんじゃない。そして、おそらく一番死にやすく、一番棺桶ガードとして使われるであろうシンを気遣って、ユーキは素直に首を縦に振れないでいた。


しかし、そんなユーキの心配をよそに、シンが口を開いた。


「いいよ、好きに使いなよ」


「おい、本気で言ってるのか?シン」


「もちろん本気だよ。どんな形であれ、パーティに貢献できるならそうするべきだと思う」


「まぁ、シンが良いって言うならいいんだけどさ…」


ユーキにはシンが田中のメイン盾としてありとあらゆる苦痛を受けるビジョンが目に見えていた。


「…辛くなったら言えよ」


「ありがとう、ユーキ」


こうしてシンは悪魔と契約を交わし、死してなお避けられぬ苦痛に襲われる旅路を行くこととなった。


「とりあえず今日はもう遅いし…明日からまた冒険に出かけよう」


ユーキの提案により、三人は教会でそれぞれ横になった。


「じゃあ、明日からまたよろしくな、おやすみ」


「おやすみなさい」


「おやすみ」


お金のない三人は宿屋で寝泊まりすることすら叶わないため、こうして教会で夜を明かすことがしばしばある。そうして教会で寝ることに慣れてしまったために、三人は教会での寝付きが良かった。


月が雲に隠れ、教会に点在する小さなろうそくたちだけが闇夜を照らす空間で、三人は並んでスヤスヤと眠り始めた。


今はどん底でも、いつかは這い上がって希望を掴む日が来ると信じて、戦士たちは夢を見る。


そんな彼らの奮闘する姿を十字架と共に神様を見守っている……………かと思われたその時、教会の奥から神父(幼女)が現れ、全力で田中達の元へ駆け出し、ドロップキックをかまして来た。


「てめえら良い加減にしやがれえええええ!!!!!!」


いつもの聖職服とは違い、可愛らしいパジャマに身を染めた神父(幼女)のドロップキックに叩き起こされた三人は神父によって正座で横一列に並ばされた。


「お前らふざけんじゃねぇぞ!?毎日毎日性懲りもなくここで寝泊まりしやがって…ここは宿屋じゃねえよ!!」


そんな怒り狂った神父に田中達の三人は言い訳をし始めた。


「神父さん、そんなことは重々承知してます」


「ここは宿屋なんかじゃないです」


「歴とした私達のホームだ」


「何勝手に自分家にしてんじゃ!?ゴラァ!!」


そう、他に寝泊まりする場所がない田中達にとって教会はもはやホーム、彼らの帰るべき場所となっていた。


「それだけじゃねえよ。お前らが全滅し過ぎるせいで、私の仕事が倍くらいに増えてんだよぉ!!!」


普段は優しい神父さんだが、夜中は気性が激しいのか、それとも誰かさん達のせいで仕事が増えてよっぽどストレスが溜まっているのか、激しい怒りをぶちまけていた。


「いやぁ、ほんと毎度毎度お世話になってます」


「むしろここまでお世話になってたらもうマブダチみたいなもんだろ」


「私達の仲じゃないか、細かいことは気にするな」


「もう少し反省しろぉ!!!!!」


「っていうか、ここは教会だろ?。迷える子羊をもっと積極的に受け入れるべきだろ?」


「お前らみたいな血迷った猿を何日も養えねえよ!!」


「夜の間寝泊まりするだけでもダメ?出るときに掃除くらいするし」


「この教会は夜になると時々邪神を呼び出す儀式をしてるから邪魔なんだよ!!」


「そういえばそんなイベントもあったな」


何度か言ったことあるが、このゲームのラスボスは教会が呼び出す邪神であり、神父はそのために夜になると時々教会で儀式を行うのだ。


「そういえば、この前泊まってたときに怪しい格好した集団が輪になって変なことやってたね」


「あれ、邪神を呼び出す儀式をしてたんだな」


「まぁ、別に邪魔しないからさ。私たちは寝てるから勝手にやっててくれ」


「一般人が寝てる前で堂々と儀式やれっていうのか!?」


「まぁ、どうせ条件が揃うまで邪神は呼び出せないんだし、どっちでも良いじゃん」


「お前らに言われる筋合いはねえよ!!」


そんなこんなで結局神父が根負けし、田中達は神の御許で今夜も寝むることが出来たとさ。








翌日…。


「おはようございます、神父さん」


「…おはよう」


何食わぬ顔で神父と朝の挨拶を交わす三人は我が物顔で洗面所の方へと歩き、我が物顔で顔を洗い出し、カップの中に入っているマイ歯ブラシを手に取り、歯を磨き始めた。…もう完全に寄生されてるじゃないか。


「そういえば、昨日の夜に言ってた邪神を呼び出す条件ってなんなんだ?」


「あれを見ろ」


歯磨きをしながら訪ねてきたユーキには田中は歯磨きをしながら教会の教台の後ろにある大きな砂時計を指差した。


砂時計の3分の1ほど赤い石のようなもので満たされていたが、ひっくり返すわけでもないため、砂時計として機能していなかった。


「あれは教会にブラッドが流れるたびに満たされていく砂時計なんだがな、あれが満杯になると邪神が復活して、このゲームは最終局面に入る」


「最終局面?」


「そう、最終局面に入ると教会が機能しなくなる。教会が機能しないとレベルアップも全滅による蘇生も出来なくなるから…まぁ、いろいろと仕様が変わるんだが…今は関係ないか」


「でも3分の1は満たされてるってことはこのゲームは三分の一は終わったってことか?」


「まぁ、そう考えられるんだがな…ぶっちゃけ、いま砂時計を埋めているブラッドのほとんどは私のレベリングに使われたブラッドだ」


「へぇ…」


そう、ゲームが始まってからプレイヤー達はあまりのゲームの難易度の高さにクリアを投げ出すものも多く、そのほとんどがギャルゲー路線に入っていた。そのため、他のプレイヤー達によって教会に流れてくるブラッドはわずかであったがため、いま砂時計を満たしているのはかつて田中がメタルゴブリンを数百匹狩って手に入れ、レベリングに使われたブラッドがほとんどなのだ。


「短時間でしかも一人であれだけ埋められるから、ゲームが始まった当初はすぐ終わると思ってたんだがな…うまくいかないものだ」


口の中をゆすぎながら田中は器用にそんなことを呟いていた。


その後、三人は準備を整え、再び死出の旅路へと向かった。


「それじゃあ行ってきます、神父さん」


「二度と帰ってくんじゃねえよ」


神父さんと別れを済ませた彼らがマサラの出入り口へとたどり着いたときに、あることに気がついた。


「そういえば…乱数調整してねえ」


そう、田中の指には今もなお奴隷の指輪が嵌められており、街から出るたびに状態異常になる縛りが続いていたため、街から出るにはセットアップをしなければいけなかったが、今回はそれを忘れていた。


「とりあえず一回街から出てみないか?。もしかしたら大した事のない状態異常になる可能性もあるし」


「それもそうだな」


ユーキの提案で、田中一行はとりあえず街の外に出てみた。


すると、奴隷の指輪の効果によって何かしらの状態異常にかかったはずの田中だが、特にこれといった違和感がなかった。


「これは…なんの状態異常だ?」


「今見てやるよ」


そう言ってユーキが田中のステータスを確認して見た。



キャラ名 田中

レベル99

HP 999/999

状態異常


「…なんだこれ?なんで状態異常の欄が空白になってんだ?」


ユーキが田中のステータスを確認して見たが、田中が何かしらの状態異常にかかっていることはわかったが、なんの状態異常にかかっているかが空白となっていて分からなかった。


「空欄?…もしかして」


何かに気がついた田中がメニューを開こうとしたが、田中はメニューを開くことが出来なかった。


「間違いない、これはメニュー禁止の状態異常だ」


「メニュー禁止?そんな状態異常あったか?」


「いや、本来ならばそんな状態異常はない。もともとは途中まで導入されるはずの状態異常だったんだが、いろいろバグが多くて導入が見送られた状態異常だったんだ。おそらくは開発側が奴隷の指輪の乱数表から消し忘れたんだろう」


「やっぱりデバッグって必要だな」


あまりにお粗末なクソゲーに呆れ気味のユーキだったが、田中は突然不敵に笑い始めた。


「くっくっく…まさかこんな形でこんな状態異常に巡り会えるとはなぁ…」


「どうした?田中。頭がおかしくなったか?…いや、元からか」


「いーや、そうじゃない。見つけたんだよ、このゲームの攻略法をな」


そう言って田中は再び不敵に笑って見せた。


果たして、田中が言うこのゲームの攻略法とは?。そしてそれは実行可能なのか?。とうとう田中の快進撃が幕を開けるのか!?全ての答えは次回、明らかに!!




次回『田中、結局全滅する』、お楽しみに!!。

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