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枯れ落ちた花

「花ぁ…花は要りませんかぁ…」


手足はやせ細り、今にもちぎれそうな声には気力はなく、身に纏う服装はツギハギだらけ。しかし、貧相な見た目とは対照的にその手にある一輪の花は美しかった。おそらくは断念込めて育てられたものなのだろう、彼女が小脇に抱えるカゴに入れられた花は鮮やかな色彩を帯びており、持ち主に反して気品があふれていた。


しかし、それでも所詮はなんの変哲も無い花。路上で必死に声をかける売り手の貧相な見た目も相まって道行く人は彼女に近付こうとすらせず、その美しい花は一向に売れる気配がなかった。


思ったようにうまくいかない商売に彼女がふぅっと溜息を吐いたそのとき、彼女のひたいに石が投げつけられた。


痛みを感じた彼女がそちらに視線を向けるとそこには三人の子供が立っていた。


「また性懲りも無く花を売っていたのか!?」


「さっさとこの街から出てか!!悪魔の手先め!!」


「綺麗な花なんかに騙されないぞ!!」


子供たちはそんなことを叫びながら彼女に石を投げつけた。


成すすべもない彼女は逃げるようにその場を去っていった。


その道中、人にぶつかり、カゴに入っていた売り物の花をぶちまけてしまった。


しかし、街行く人は道端に落ちた花など目もくれず、そのまま通り過ぎ、落ちた花は踏まれて無残な姿となっていた。


「…ごめんね…ごめんね…」


彼女は無残にも散っていった花達を愛おしそうに両手に抱えて涙を流しながら謝った。


どうしてこんなことになってしまったのだろう?。


少し前までこのマサラの街で立派な店を構えて繁盛していたはずなのに…ある日、花は全く売れなくなり、私を『悪魔の手先』呼ばわりする人物が何人も現れるようになった。


度重なる営業妨害により、店で花を売ることが困難になった私は仕方なく店をたたみ、こうして街中で花を売ることにしたのだ。


しかし、どういうわけか私を嫌っている人は多く、私が売る花は『悪魔の仕掛けた罠』などと呼ばれ、もはや売れる売れないの問題ではなくなった。


…いや、原因は分かっている。私がこんな仕打ちを受ける羽目になったのも、この手が抱える大切な花がこんな無残な姿になったのも全てあいつのせいだ。あいつさえいなければ…私はあのまま花に囲まれて幸せに暮らせたのに…。


「…許さない」


彼女は煮えたぎるような怒りがおさまらず、人目もはばからずその場で叫び声をあげた。


「お前だけは絶対に許さない!!逆さメイドぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」


業火のような怒りで我を忘れた彼女は気がつけば自ら丹念込めて育てた大切な花を握りつぶしてた。


そして握りつぶした花を地面へ叩きつけ、それでも怒りがおさまらず、彼女はこれでもかというくらい頭を掻きむしった。


「許さない、許さない許さない許さない許さない!!!!!逆さメイドぉぉぉ…お前さえいなければああああああ!!!!!」


路上で突然発狂する見窄らしい女になど誰一人近付こうとしなかったが、そんな中、一人の少女が彼女が地面へ叩きつけた花を拾い上げ、彼女に差し出しながら声をかけた。


「大切なものなんでしょ?これ」


少女はまだ年端もいかない幼い子供であったが、手入れの届いてない長い髪で顔の左側が隠れ、ボロボロの衣服を纏い、花を売っていた女と同様に見窄らしい格好をしていた。


「もういいのよ…どうせ売れないし…」


何もかもがうまくいかない女はそう言って路上で座り込みながら放心していた。


「だから花なんて売れやしないって言ったのに」


呆れながらも少女はそう言うが、女にとってこの花はとても大切なものであることを理解していたので、拾った花を無理やり彼女に渡した。


その花を見て少し落ち着いた女は我が子を抱きかかえるように無残な姿をとなった花を抱きしめ、再び謝り始めた。


「ごめんね…ごめんね…私が不甲斐ないばかりに…」


泣いたり、暴れたり、怒ったり…情緒が不安定になってしまった彼女に追い打ちをかけるかのように街にはポツポツと雨が降り始めた。


「雨だ…行こう。濡れちゃうよ、フローラ」


「…ごめんね、ありがとう。先に行ってて、リンクル」


リンクルという名前の少女に屋根のあるところに行こうと催促されたフローラだったが、もはや気分的には雨に濡れようがどうでもよくなって、しばらくその場に呆けていた。


「…風邪ひいちゃうよ、フローラ」


「いいのよ。このまま雨に溶けて…消えたい気分だから…」


フローラを一人置いていけないリンクルはフローラと一緒に雨に濡れてあげていた。


するとそこに、彼女らと同様に雨に降られてずぶ濡れになっていた一人の男が近づき、声をかけてきた。


「…もしかして…店長?」


「あなたは…シン?」


こうしてかつて『フラワーショップフローラ マサラ店』で共に働いたことのある二人が再開したのだ。







「お店たたんじゃったんだ、店長」


ひとまず雨宿りのためにシンとフローラとリンクルは教会へと避難していた。


「えぇ…逆さメイドが働いていた店っていう風評被害で全く花が売れなくなっちゃってね…。あんなやつ、雇わなければよかったわ」


フローラの様子から逆さメイドによる風潮被害がよほど酷かったのがシンにも見て取れたが、フローラが田中の悪口を言う様を見ていてシンは悲しかった。確かに田中は基本的に害悪でしかないが、それでもかつて花屋で共に働いた記憶はシンにとってはこのゲームで数少ない…本当に数少ない楽しい時間であったし、未だに色あせない美しい記憶であったのだ。それなのに目の前でフローラに否定されると、シンは心が締め付けられる思いで一杯だった。


こんなフローラの姿は見たくない。


だいたいが自業自得な田中はともかく、フローラは完全にただの被害者だ。彼女は何も悪くない、ましてや彼女は自分や田中を拾ってくれた恩人、そんな彼女を放っておくわけにはいかない。


フローラを救わなくては…例え…田中の信用が地の果てまで落ちようとも。


「店長、僕に考えがあります」


「考え?」


「はい。…そのためには他に協力者が欲しいんだけど…」


シンはそう言ってフローラの隣にいたリンクルをチラチラと見た。


「そういえば自己紹介がまだだったね。私はリンクル…スリを生業にしてる」


「え?スリ?」


当たり前のように犯罪に手を染めていることをカミングアウトするリンクルにシンは思わず困惑してしまった。


「犯罪を擁護するわけじゃないけれど…彼女がスリに走るのもしょうがないことなの。働き手のない子供が収入を得るにはそのぐらいしか方法はないし、スラム街の孤児仲間を養うためにもお金がいるのよ」


店を失い、住むところを失ったフローラは街を追いやられ、スラム街へと逃げ出し、行く当てもないところを彼女に拾われたという。そんなリンクルの事情を知っているフローラは彼女を弁護した。


「で、でも…それにしたって犯罪は犯罪だし…」


「そんなこと知らないよ、スラム街の人間はみんな生きて行くので精一杯なんだ」


「うーん…わかった、とりあえずそのことは保留にしよう。君も協力してくれるかい?リンクル」


「内容によっては協力する。短い付き合いだけど、フローラの育てる花は綺麗だからフローラのことは好きだし」


「…ありがとう、リンクル」


「別にいいよ。フローラは早く安心して綺麗な花を育てられる環境を作ってね、応援してるよ」


自分が生きるのに精一杯にも関わらず、フローラを応援してくれる彼女の優しさに触れたフローラはホロリと涙を流した。


彼女達のためにも必ず作戦を成功させねば…。


「それじゃあ、作戦を説明するよ」


普段はやられてばかりのシンだが、彼女への恩を返す使命感と逆さメイドの風評被害による不条理を許せない正義感がシンを突き動かした。


果たして、シンは無事にフローラの誤解を解くことが出来るのか!?。そして田中はさらに自らの信用を地の底の底の果てまで落とすことになるのか!?まぁ、例えそうなっても同情は出来ないがな!!。

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