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英雄と攻略組

「…お前また性懲りも無く来たのか?」


「別に来たくて来た訳じゃない」


大魔獣ティエルによって全滅した田中は生き返るや否や怪訝な目で見てくる神父(幼女)からありがたい言葉を受け取っていた。


大魔獣ティエルに完膚なきまで惨殺された一行はデスベホマによってHP腹回復していたが精神は疲弊していた。


特に棺桶ガードによって大魔獣ティエルの数多の攻撃を一身に受け止めたシンは目に薄っすら涙を浮かべていた。


「お前はよくやったよ、シン」


そんなシンを気遣ってユーキが優しい言葉を投げかけた。


「信じられないよ。棺桶を盾にするなんて人道を逸脱してる。悪魔の所業だ」


「何を今更?」


シンの言葉を聞いて無視するでも反応するでもなく、田中は平然と返事を返した。


そんな田中にシンはイラっと来たのか、突然教会を飛び出し、街中で大声で叫んだ。


「みんなー!!逆さメイドがここにいるぞぉ!!」


そんなシンの言葉を聞いた街の住民は皆一斉に青ざめた顔でシンの方を振り返った。


「さ、逆さメイドが戻って来たのか!?」


「ば、バカな…早すぎる…」


「終わりだ!!もうこの国はおしまいだ!!」


「馬鹿野郎!!諦めるな!!。みんな、石を持って迎え撃つんだ!!」


シンの密告によりあっという間に教会の前には人が群がり、皆一斉に田中に向かって石を投げ始めた。


「死ねー!!逆さメイド!!」


「この国から出て行けぇ!!」


「この国は、俺たちの手で守るんだぁ!!」


一斉に何百という石が教会に投げ込まれ、激しい銃撃を受けたかのように教会内の物がどんどん壊れ始めた。


「ぐっ…モブのくせにこの私に刃向かうなど…ぐぬぬぬな」


机の下に避難して、難を逃れる田中だが、いずれは机ごと蜂の巣にされるのが目に見えていた。


「お願いだからリスキルは勘弁してくれよ」


巻き添いにあってい、田中と同様に教会内に隠れていたユーキも死の淵に立たされていた。


街にいても外に出ても休む暇のない忙しい連中だこと…。


二人がもう一回死んだほうが早いと判断したその時、教会の神父(幼女)が威厳ある幼い声で叫んだ。


「辞めんかぁ!!!!!!!」


神父の声に反応して市民はピタリと石を投げつけるのを止めた。


それと同時に神父はみんなから見えるように教会の入り口まで歩き、市民を見下ろしながら話し始めた。


「皆の者、落ち着け。確かに逆さメイドはいまこの教会内にいる。だがしかし、今の彼女は刺激をしなければ無害な存在だ」


「そんなの信じられるか!?」


「そうだそうだ、国が滅ぼされかけたんだぞ!?」


「そうだそうだ、人が入った棺桶を盾にするようなやつだぞ!?」


神父の言葉に一同は半信半疑であった。


しかし、神父は落ち着かせる試みを続けた。


「確かに逆さメイドは凶悪で害悪で最悪な存在である。しかし、今は英雄のユーキと共に行動をしているのだ」


「…え?ユーキさんが一緒なのか?」


「なんだと!?あの英雄のユーキが!?」


「パンツにしかサインを書かないことで有名なユーキさんが!?」


そんな市民達の期待に応えるかのようにユーキは教会の奥からその勇姿を群衆に見せつけた。


「ほ、本当だ!!本物のユーキさんだ!!」


「え!?あの英雄のユーキさんがこんなところに!?」


「さ、サインが欲しい。…しまったぁ!こんな日に限って色紙用のパンツを持ってねえ!」


「かくなるは上は脱ぐしか…」


そう言って何人かが服を脱いでパンイチになろうとする中、ユーキは口を開いた。


「みんな、聞いて欲しい。実は逆さメイドは悪い奴らに洗脳されて操られていただけなんだ。だからと言ってあんな大事件を全部許せっていう訳じゃないけど…いまは無害…とまでは言わずともそれなりに害のない存在になったんだ…なったよね?。だから…無闇矢鱈に危害を加えるのは止めて欲しいんだ」


そんなユーキの説得を市民達は涙を流しながら聞き惚れていた。


「さすがぁ…さすがユーキさんや」


「なんて慈愛に溢れたお方なんでしょうか」


「人を愛し、国を愛し…さらには悪魔をも愛すというのですか」


「これが英雄が英雄たる由縁なんだな」


あの英雄がそう言うのなら…集まった市民はユーキの言葉を素直に受け入れようとしていた。


「そうだ、田中…じゃなくて逆さメイド本人からも謝罪の言葉を述べたいそうだ。今連れてくるからそこで待っててくれ」


ユーキはそう言うと、教会の奥に隠れていた田中を手招いた。


安全になったのを確認した田中はトボトボとした足取りで群衆の前に姿を現し、そして彼らに向けて口を開いた。


「いま石投げた奴は全員消す!!首を洗って待っ……」


田中が中指立てながらそんなことをほざこうとしたその時、ユーキがとっさに後ろから剣で田中を斬り伏せた。


市民からのマシンガンのような弾岩でHPのほとんどを削られていた田中はHPが底をつき、息絶えてしまった。


英雄による殺人現場の一部始終を目の当たりにした群衆から疑惑の声が聞こえてきた。


「い、いま、ユーキさんがトドメ刺したよね?」


「ば、バカな。ユーキさんに限ってそんな野蛮なことしないだろ。きっと逆さメイドに天罰が降ったんだろ」


「っていうか、逆さメイドなんて言ってた?暴言言ってたような気がするけど?」


「中指もバッチリ立ててたよな?」


ユーキが逆さメイドにトドメを刺したことはともかく、逆さメイドが言おうとしたことに困惑を隠せない群衆。


そんな彼らにユーキはこんな言葉を投げかけた。


「み、みんな、聞いてくれ。実は黙ってたんだが、逆さメイドは……ツ、ツンデレなんだ」


「ツ、ツンデレかぁ…」


「ツンデレなら仕方ないね」


「ツンデレだもんね」


ツンデレで済むほど生易しい言葉を言っていたようには思えないが、ユーキさんがそう言うのならそうなのだろうと一同納得することにした。


「じゃあ、俺はこの辺で行くから」


ユーキはそう言い残してその場を去っていった。







「いやぁ、いい気味だ」


田中ほどではないが微妙に性格の悪いシンは田中の棺桶に腰をかけながらそんなことを口にしていた。…いや、シンが田中を恨むのももっともなことか。


「そんなことしてたら田中が生き返った時にまた殺されるぞ?」


「じゃあおとなしく盾になれって言うの?。僕も自分の身を守るために必死なんだよ。…ユーキも死してなお身を削られる思いをすればわかるよ」


「まぁ、大体は田中の自業自得なんだけどさ…」


しかし、これではパーティ内で殺し殺されを繰り返し、冒険どころではなくなってしまう。…なにか打開策はないのか…。


ユーキがそんなことを考えていると上空からヒラヒラと1匹の鬼畜妖精が舞い降りて来た。


「いやぁ、さすがにあそこからマサラに帰るのはちょっと時間がかかっちゃいますね。…って、田中のやつ、もうくたばったんですか!?。いくらくたばることがお家芸とは言えど…天丼は勘弁してくださいよ」


さすがなナビィも棺桶ギャグに飽きたのか、棺桶の上に立ち、呆れていた。


「それで、これからどうするんですか?」


「それなんだよなぁ…これからどうすっか…」


ナビィの質問にユーキは頭を抱えていた。田中の戦力の大幅強化のためにもさっさと火山の街、ボルケノへと行きたいが、このパーティの戦力ではおそらくたどり着くことさえ困難だ。


ここは一度地道にレベリングをするべきか…。


ユーキがそんなことを考えていたその時、ユーキの懐にある通話機能付きの剣、帯刀電話がブルブルと震えだした。


振動が気になってユーキが剣を取り出すと、剣からアイロの声が聞こえて来た。


「もしもし?ユーキ。聞こえる?」


「もしもし?どうしたんだ?アイロ」


「もうマサラ城に戻って来たんでしょ?。だったら一度剣のメンテナンスのためにも鍛冶屋に来て欲しいんだけど…」


「メンテナンスか…ありがたい申し出だが、あいにくいまは手持ちがなくて…」


「お金はいいの。こ、これはただのアフターサービスなんだから。それにユーキにまた剣を壊されて私の鍛えた剣に悪い噂が立ったら困るでしょ?」


「そうなのか?だったらありがたくメンテナンスしてもらうよ」


「うん…待ってるよ」


「…それはそうと、なんで俺が帰って来たってわかったんだ?」


「え?そ、それは…風の噂で耳にしたの!ほら、ユーキって有名人だし!」


「なるほど、そういうことか…それじゃあ、また後で」


通話を終えたユーキは剣を再び懐へとしまった。


その一部始終を見ていたシンとナビィは不愉快そうな顔をしていた。


「…なんだよ?その顔は」


「いや、別に…ただなにをメンテナンスしに行くのかなと思って…」


「そりゃあ剣のメンテナンスに決まってるだろ?」


「本当ですかぁ?ついでに愛のメンテナンスもサービスして貰うんじゃないんですか?」


「剣は剣でも股間のエクスカリバーのメンテナンスとかじゃないよね?」


「アホ抜かせ」


シンとナビィの茶化しをユーキはそう言って一蹴した。


「でも、ユーキが鍛冶屋に行くなら今日はもう自由行動ってことでいいよね?」


「構わないが…どこか行くところでもあるのか?シン」


「せっかくだから妹の情報収集でもしようかと思ってさ」


「情報収集って…妹のことほとんど覚えてないんだろ?」


「それでもやらないよりはマシでしょ。じゃあ、後で教会で待ち合わせってことで」


「おお、達者でな」


そう言って二手に分かれ自由行動を始めた二人、そんな二人の間でナビィは悩んでいた。


「うーん…ユーキとシン…どっちについていった方が面白いか…。やはりここはユーキですかね」


ナビィはそう言ってパタパタとユーキの後について行った。









ユーキが鍛冶屋の前にたどり着くと、そこには入り口の前で銀色の長髪の男が土下座をしていた。


「アイロさん、今日こそはどうか…どうかこの私の気持ちを受け取ってください!!」


その銀色の長髪の男の脇には両手で抱えなければ持てないほど大きな花束が置かれていた。


「…あいつは確か」


どこかで見た覚えがあるなと思ったユーキはその男の正体を思い出した。


「そうだ、確か攻略組のリーダーのセキュリスとかいうやつだ」


かつて街の中央のど真ん中で大衆に囲まれながらアイロに大胆告白し、見事に振られるという公開処刑をされた光景がユーキの頭によぎった。


「なにやってんだ?あいつ」


「さあ?なにやってるんですかね」


ユーキとナビィが首を傾げていると、入り口からアイロがひょっこりと顔を出した。


「何度も申してますが、それは受け取れません。どうかお引き取りください。毎日来られてはこちらも迷惑なんです」


「そういうわけにはいかないんだ!!俺は攻略組のリーダーとして、みんなの先陣を切って、女の子を攻略して、プレイヤー達の希望の光にならなきゃいけないんだ!!」


「だからと言ってそちらの都合を一方的に押し付けられてもこちらも迷惑です」


店先でそんな言い争いをしていると、アイロがユーキの存在に気が付き、ユーキに駆け足で近づき、ユーキの腕をぎゅっと抱きしめてみせた。


「…アイロ?」


突然のアイロの奇行にユーキが驚いていると、その光景を見たセキュリスはワナワナと震えながらユーキを指差した。


「あ、アイロさん…そちらの男性は?」


「私の彼氏です」


「か…彼氏ぃ!?」


セキュリスはびっくりしてユーキをジロジロと舐めまわした。


「お、お前、本当にアイロさんの彼氏なのか?」


「あぁ、そうだがなにか?」


先ほどの光景からなんとなく状況を察したユーキ。常日頃からアイロには恩があるのでそれを返す意味も込めてユーキは空気を読んで嘘をついた。


「そ、そんなバカな…。お前、名前は?」


「…ユーキだ」


「ゆ、ユーキ!?ま、まさか『世界に終焉をもたらす者』逆さメイドを打ち滅ぼし、世界を救った英雄のユーキなのか!?」


「ま、まあ…一応そういうことにはなってるな」


「そ、そんな…」


世界を救った英雄相手にはさすがに部が悪いと悟ったセキュリスはその場でがっくりと肩を落としてうなだれた。


「…アイロ、とりあえずこいつを頼むわ」


ユーキはそう言ってアイロにメンテナンスしてもらう予定の特性の剣を渡した。


「ちょっと俺はこいつに話があるからさ」


「う、うん、分かった。気をつけてね」


そしてユーキはセキュリスを連れてその場から離れた。







「おい、大丈夫か?しっかりしろ、セキュリス」


ショックから立ち直れないセキュリスにユーキは声をかけて励ました。


「ははは…どれだけ頑張っても俺は見向きもされなかったというのに…これが凡人と英雄の差か…だが、逆に考えればこれでプレイヤーにも可能性があることが証明されたわけで…」


力なく笑いながらセキュリスは延々とそんなことをボソボソと呟いていた。


「おーい、しっかりしろー」


ユーキが声をかけるが聞く耳を持たないセキュリスはなにかを決意したように頷き、ユーキにこんな提案を持ちかけた。


「ユーキさん、あなたにお願いがある」


「ん?どうした?急に」


「俺たちのギルドのギルドマスターになって欲しいんだ」


「…は?」


困惑するユーキを差し置いて、セキュリスは話を続けた。


「改めて自己紹介をさせてくれ。私はギルド『攻略組』のギルドマスター兼リーダーのセキュリスだ」


「『攻略組』って…例の女の子を攻略するチームのことだろ?。ギルド名だったのか…」


「その通り。『攻略組』は女の子を攻略することを目的とし、そのために命を賭ける者達が集って出来たギルドだ。私はそのギルドのリーダーとして、ギルドマスターとして、先陣を切って女の子の攻略を試みていた。全ては世界中のプレイヤーに、女の子の攻略が可能であることを証明するために…」


「お、おう…そうか」


無駄に志の高い女の子の攻略に返す言葉に迷ってしまったユーキ。そんなユーキを差し置いてセキュリスはさらに言葉を続けた。


「いま、世界中のプレイヤーは絶望の淵に立たされている。見渡せばこんなにもたくさんの美少女に囲まれているというのに、誰一人として女の子を攻略できないジレンマに苦しめられているんだ。女の子を攻略出来なくて未来に希望を見出せなくなって絶望し、みな血の涙を流しながら辛い日々を送っている。だが、そんな中現れたのがユーキさん、あなただ。あなたは逆さメイドを打ち滅ぼし、世界を救うに飽き足らず、攻略不可能とまで言われていた女の子の攻略をも成し遂げた。まさにあなたことが英雄であり、我々『攻略組』の救世主なんだ」


「いやぁ、さすがに大げさだろ」


そんなアホらしい理由で苦しんでいるやつなどそうそういないと判断したユーキにはセキュリスの言葉はただの冗談にしか聞こえなかった。


「…とにかく、一度我々のギルドに来てくれないか?。百聞は一見にしかず…ユーキさんも現状をその目で見れば事の重大さが分かってくれるはずだ」


「そこまで言うなら…とりあえず行ってみるわ、そのギルドに」


こうして、ユーキはギルド『攻略組』を訪れることとなったとさ。


果たしてユーキは絶望に満たされたプレイヤー達を救うことができるのか!?世界を救った英雄の新たな戦いが、いま幕を開ける!!。

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