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勇者ゴブリーの旅路

どんよりとした重たい雲に覆われ、陽の光が遮られたその城を照らすのは雨のごとく降り注ぐ稲妻だけであった。


一瞬の雷光ではその全貌を明らかにすることは出来ないが、闇の中にそびえ立つその城は来訪者をあざ笑うかのように立ち聳え、さらには四方を大きな谷に囲まれていたため、常人では近づくことさえままならなかった。


そんな城の一室で身の丈ほど大きな黒い三角帽子と黒いローブを羽織った少女と二つのおぞましいツノを頭につけ、大きなマントを背負った少女が顔を向かい合わせていた。


「そんな名前、君には似合わないよ」


黒い三角帽子を被った少女がツノをつけた少女に優しく語りかけた。


そして顔を近づけ、その手で相手の頰に優しく撫でながらさらにこう語りかけた。


「これからは………って呼ぶね」


外で激しく轟く雷鳴に遮られ、ハッキリとは聞こえなかったが、ツノの生えた少女は不思議そうに彼女を見つめた。


そんな少女の疑問に答えるように黒い三角帽子を被った少女はウィンクをしながらこう説き伏せた。


「だって…そっちの方が可愛いでしょ?」












「魔王を完全に倒すにはね、セブンスジュエルの力を借りる必要があるんだよ」


ここは淡白な青い光を放つ発光鉱石、ブルームーンの産地であるブルクラック大空洞。道しるべのように道中を所々を青白く照らす坑道をゴブリーことゴブリンリーダー(ショタ)が率いる一団が歩いていた。


「セブンスジュエルっていうのはこの世界に一つずつしかない7つの貴重な宝石でね、それぞれに特別な効果があるんだけど、おまけとして魔王の力を弱める効果があるの」


その道中、大きな黒い三角帽子を頭にかぶったマオはゴブリーの腕にべったりと密着しながら魔王の倒し方を説明していた。


「それで、その魔王を弱める力を扱えるのは勇者様だけなの。だから魔王を倒せるのはこの世でゴブリーただ一人なの」


「そ、それは分かったけど…離してくれない?歩き難いんだけど…」


腕にべったりとくっつくマオに向かってゴブリーは恥ずかしそうにそんなことをお願いした。


「ダーメ!こんな暗い道で大切な勇者様になにかあったらどうするの?。そのために私が付きっ切りで守ってあげるの!」


頰をプクゥと膨らませながらマオはそんなことを主張した。


「ま、参ったなぁ…」


どうしても自分の腕を離そうとしないマオにゴブリーは表面上はそんなことを言っていたが、内心は満更ではなかった。


そんなゴブリー達を後ろからメタルゴブリン(美少女)が睨みつけていた。眉間にしわを寄せたその表情は心なしか怒っているようにも思える。


「ま、マオ、ゴブリーも嫌がってるし…離してあげたら?」


そう提案するメタルゴブリンの顔は笑顔ではあったが、目は笑っていなかった。


「ふっふっふぅ…もしかして、嫉妬してるのぉ?メル」


「べ、別に嫉妬なんてしてないんだからね!!…っていうか、メルって私のこと?」


メタルゴブリン(美少女)はマオに突然メルと呼ばれたことに動揺していた。


「そうだよ。メタルゴブリンとか…そんな名前、君には似合わないでしょ?」


「えっと…メル、か…」


突然すぎて反応に困っていたメルにマオはウィンクをしながらこう言ってみせた。


「だって…そっちの方が可愛いでしょ?」


「う、うん…そうだね。そっちの方が可愛いね」


マオの説得で納得したのか、メルはそう呼ばれることを許容した。


「でもそれはそれ、早くゴブリーの腕から離れて!」


メルはそう言ってマオをゴブリーから無理やり引き離そうとした。


「ダーメ、離さないもーん」


メルがマオを引き離そうとする程マオはゴブリーの腕を強く握りしめた。


「ちょっと二人とも喧嘩は良くないよ」


そう言ってゴブリーがなだめようとすると、今度はメルがゴブリーに向かって頰をプクゥっと膨らませた。


ゴブリーにはメルが何に怒っているのかがよく分からなかったが、マオを引き離すことを諦めたメルはマオがしがみつくゴブリーの反対側の腕をギューっと力強く握りしめた。


「え!?ちょ、ちょちょちょ…メル!?」


「ふんっ!!」


そんな感じでゴブリー達は仲睦まじく、イチャコラリア充キャッハウフフ死ねをしながら坑道をしばらく歩き続けた。………坑道爆発しねえかな。


だが、その時、作者の願いに呼応するかのように眼前から岩石に人の顔が埋め込まれたモンスターが迫ってきた。


そのモンスターの名は『オマエラ』、特技は自身の命と引き換えに相手を爆殺する超自爆攻撃。


普段はおとなしく攻撃しても反撃しないが、画面の前の非リアの爆発しろの叫びに呼応して爆発する習性がある。


前に進むためにはオマエラ達の合間をすり抜けて進む必要があるため、ゴブリー達は覚悟を決めて非リアの温床に侵入した。


作者の気遣いによって気持ち多めに配置されたオマエラ達はゴブリー達を見るなり、岩石に埋め込まれた人の顔の部分が苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。


両手に花を抱えるゴブリーを睨みつけながらギリギリと歯ぎしりを立てるオマエラ達。そんな負け犬どもの合間をゴブリー達は慎重にすり抜けてゆく。


「リア…ジュウ……キラ…イ…」


「ヤツラ…ガ…ニク…イ…」


「ソコヲ…カワレ…」


時折、人間のような声を上げるが、今の所はまたオマエラは無害な存在であった。


「な…なんなの?こいつら」


ボソボソと聞き取りにくい声で恨み辛みを述べるオマエラにメルは恐怖の念を抱いていた。


「こいつらはストレスを溜め込むモンスター、基本的に無害な存在だけど、ストレスが限界を迎えた時、大爆発する迷惑極まりないモンスターだよ」


そんなメルにモンスターの習性を説明するマオ。


「じゃあこのまま静かに通り抜ければ大丈夫だよね?」


ゴブリー達はこのまま両手に花を抱えたまま進軍することにした。


「…ミセツケ…ヤガッテ…」


「コウキョウノバデ…イチャイチャスルナ…」


「メザワリ…ガイアク…」


ゴブリー達は刺激しないように気をつけて歩いていたつもりだが、オマエラ達は歯ぎしりに加え、目を激しく充血させながら渋い顔でゴブリー達を睨んでいた。


「…な、なんかさっきより怒ってない?」


「い、急ごう、嫌な予感がするよ」


メルに急かされたゴブリーが歩みを早めようとしたその時、足元の石に躓いてしまい、三人まとめてこけてしまった。


「いてて…」


こけた拍子に地面に両手をつけようとしたゴブリンだったが、硬い地面につけようとしたはずの両手はなぜか柔らかい何かを揉んでいた。


「こ、これは…」


ゴブリーはバッチリ2,3回揉んでから、その正体を目で確認した。


もう今までフィクションにおいては何万と繰り返されてきたお約束的展開だが、なんとゴブリーの両手はバッチリメルとマオの胸を揉んでいたのだ。


「きゃっ、勇者様ったら大胆」


少し恥じらう程度のマオに対してメルは顔を真っ赤にしながら叫んだ。


「ご、ゴブリーの…バカァ!!」


そして吐き気がするほど散々繰り返されてきたお約束に倣い、メルはゴブリーの頰に強烈なビンタを決めた。


そんなご褒美にご褒美(?)で返すベッタベタな展開を目の前で見せつけられたオマエラ達はワナワナと震えながら悶え苦しむように声を発した。


「リアジュウ…コロ…ス…」


「オレダッテ…ソンナセイシュン…オクリタカッタ」


「モウダメ…オサエキレン」


リア充との格差を前に絶望に押しつぶされて今にも絶命しそうな彼らは血の涙を流し、そしてそのうちの1匹がはっきりとした口調でこう呟いた。


「リア充、爆破しろ」


それと同時に、暗い坑道全体を明るく照らすほどの爆炎と狭い坑道に激しい爆撃音が轟いた。


「な、なに!?」


「マズイ…急いで逃げて!!」


1匹目が爆発したことによって、周りのオマエラが誘爆し始めた。


狭い坑道での複数の爆撃はトンネル効果により、獰猛な火龍のごとく勢いでゴブリー達に襲いかかってきた。


「我らに盾を…『ウォールバリア』!!」


マオは呪文で半透明状の円球で自らとゴブリー達を包み込んだ。


「ぐっ…ダメ…魔力が足りない…」


マオが作り出した半透明状の円球の盾が爆流によって押し流される中、マオは大量の魔力を送り込んで盾の形成を維持していたが、とうとうそれが限界に達した。


「頑張って!!マオ!!」


特に出来る事のないゴブリーはせめてもの声援でマオを応援するが、それでなんとかなるほど世の中甘くはない。


形成の維持が困難ななって来た半透明状の盾が徐々にひび割れ始めたのだ。


さらに、突然顔色が悪くなったマオは片手で頭を抑え始めた。


「ダメ…まだ…出てくるな…。お前の力など…必要ない…」


「…マオ?」


なにやらブツブツと独り言を呟くマオをゴブリーは心配そうに見つめていると盾のひび割れが全体に侵食し、今にも壊れそうになっていた。


その時、メルが目を閉じて、祈るように呟き始めた。


「お願い…力を貸して…」


するとメルの体がぼんやりと輝きを帯び、マオの杖が青白く輝き始めた。


メルの力を借りた杖により、魔力が強化され、盾はあっという間に元の形へと形成された。


やがて、爆流に押し流され続けていた彼らに光が差し込む。洞窟の出口がすぐそこまで迫っていたのだ。


「みんな、出口だよ!!」


そして彼らはその勢いのまま、光の中へと解き放たれた。


洞窟の出口は真っ直ぐに空に続くように上に伸びており、地上へと解き放たれた爆炎は空高く火柱を上げた。


その火柱に押し上げら、遥か上空に放り投げられたのと同時に彼らを取り囲んでいた盾が壊れた。


太陽の光を反射してキラキラと輝く割れた盾の破片に囲まれた彼らは遥か空高くから広大でどこまでも続く世界を見下ろした。


「ひっっっっろおおおおおおおおい!!!!!!」


やがて放物線運動は頂点に達し、次第に加速的に速度を増して落ちていく中、広大に輝く世界を目にしてそんなことを叫んだ。


「これ、どうするのおおおおおおお!?!?!?」


真っ逆さまに地面に落ちていく最中、メルは着地方法が分からずそんなことを叫んだ。


「メルぅ!!勇者様に捕まってぇぇぇ!!!!!」


マオはメルにも聞こえるように叫んで、ゴブリーに捕まるように促した。


すでにゴブリーの手を握っていたマオと同様にメルもゴブリーのもう片方の手を握りしめた。


「マオぉ!!!」


メルはそう叫びながらマオにもう片方の手を差し出した。


マオは朗らかに笑いながらメルから差し出された手を握った。


「一緒に…どこまでも冒険しようね!!」


メルからそんなことを言われたマオは一瞬、悲しそうな顔を見せた後、またすぐに笑顔に戻ってこう答えた。


「…したい!!みんなとどこまでも冒険したい!!」


「じゃあ約束だ!!みんなとどこまでも冒険するんだ!!」


それぞれ手を繋いで輪になって、三角形を形成しながら空から落ちる三人はそう言って笑いながら約束を交わした。


「…でも、これ大丈夫なのぉぉ!?」


真っ逆さまに地面に急降下する様を見て、メルはそんなことを叫んだ。


「大丈夫ぅ!!!!勇者様はぁ…落下死なんてしないからぁぁぁ!!!!」


そんなマオの言葉を証明するかのように大きな木に突っ込んだ彼らは木の枝によって緩やかに減速し、そして最後に湖に落ちた。


「…ぷはぁ!!みんな大丈夫!?」


水面から顔を出したゴブリーがみんなの安否を尋ねた。


「私は平気!!」


「私も大丈夫!!」


奇跡的に全員無傷で生還したのを確かめた彼らは湖から顔だけを出しながら、お互いに顔を見合わせ、笑い始めた。


「あはは、すっごい怖かったねぇ!!」


「ほんと、もうダメかと思ったぁ!!」


「でも勇者様のおかげで助かったね!!」


そして彼らは窮地を生きて脱出出来た安堵からかその後しばらく三者三様に笑い合っていたとさ。









やがて、湖から出てきた彼らを、巨大な火山が出迎えた。


「はえー…大きな山だなぁ」


ゴブリーが火山の大きさに感嘆しているとマオが後ろから説明をしてきた。


「ここは火山の街、ボルケノ。ここにはセブンスジュエルの『必中のルビー』と『知識のサファイア』があるんだけど…」


マオはそこまで言うと突然、その場にどさっと倒れた。


「マオ!?」


「大丈夫…だだの過労だから。…でも、しばらくは眠るからあとは…よろしく…」


そう言い残してマオは安らかな寝息を立ててながら眠り始めた。


「…寝ちゃったね」


「よっぽど疲れてたんだね」


そのあと、ゴブリーがマオを背負い、ボルケノへと歩き出した。


「うん…やっぱり、道はどこまでも続いてる」


「そうだね、どこまでも…どこまでも続いてるよ」


何かを確認し合うように二人はそう呟いた。


そして彼らはやがて、火山の街ボルケノへとたどり着いたとさ。

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