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影に咲く花

「私達は太陽神ラーを崇める太陽の民なんれすぅ〜。その太陽神の使いであるサラマンダー様と共に暮らすことで夜でも昼間のように明るく温かく暮らしていけるんれすぅ〜。だから私達はサラマンダー様が動き出すのと同時に住処を移動し、サラマンダー様が休まるところで共に暮らすのれすぅ〜。そうすることで闇に接することなくいつまでも太陽神ラーの身許で生きていけるのれすぅ〜。最近ではサラマンダー様の後光もますます磨きがかかって来て、明るいのなんの…ほんとラー様万歳、サラマンダー様万歳」


「…その話、何回するんだよ…」


太陽の民と呼ばれる遊牧民の集落で宴に参加していたユーキはうんざりしていた。


集落の長であるミントは酒が入るや否や太陽神ラーがどうやらサラマンダー様がどうやらと同じ話を延々と繰り返していたのだ。


相手が興味がなくても自分の話したいことを構わず何回も繰り返す…うざい酔っ払いの典型的な例である。


そういうわけでユーキはなんとか宴会から抜け出せないかと画策していた。


「うめぇ…うめぇ…おらこんなうめぇ飯は久しぶりだぁ…」


「美味しいでしょう?。太陽神ラー様の使いであるサラマンダー様の光を浴び続けて育ったお肉ですもの。美味しいに決まってますわ」


ユーキのすぐ近くで涙を流しながら腹一杯にお肉を頬張るシン。


まぁ、泣くのも無理はない。


金のない彼らの主食はいつもスライムさんなのだから…。


そんなシンにこっそり近づいたユーキはそっと肩に手を叩き、こっそり耳打ちした。


「ちょっと一緒に来い」


「…なに?」


「いいから」


そしてユーキは『トイレに行く』とかなにかを言い残してシンを連れて宴会の席を立ったのであった。


日はすっかり沈んだというのに例のサラマンダーとやらのおかげで外は昼間のように明るかった。


「急に外に連れ出してなにさ?」


「田中が心配だから様子を見に行こうぜ」


「嫌だよ、なんで僕まで行かなきゃダメなのさ?」


「いいから行こうぜ」


ユーキはそう言ってシンの手を無理やり引っ張った。


「嫌だぁ!!僕お肉食べるぅ!!冒険嫌だぁ!!もうここで暮らすぅ!!ラー様崇めるぅ!!」


シンの愚痴を無視してユーキはシンを引きずり回しながら集落を歩いた。


やがてユーキは集落の中心で全身がまばゆい光を放つ火に包まれた鹿のような生き物に出会った。


「…なにあれ?眩しい」


「多分、アレが例のサラマンダーってやつなんだろ。なるほど、アレのおかげで夜でもこんなに明るいわけだ」


直視出来ないほどにまばゆい光を放つサラマンダーを前にユーキはそんなことを考察した。


するとそんな二人の元に一人の小さな少女がやって来た。


「あの…ユーキ様。少しお話よろしいでしょうか?」


「えっと…なに?」


恐らくは太陽の民の一人なのだろう。


彼女は名をミーナと名乗った。


「私のおばあさまは名のある占い師でした。おばあさまの占いは外れたことはなく、他の民にも信用されていました」


「『いました』ってことは…過去形なのか?」


「はい。おばあさまがあることを予言してから、民達に疎まれるようになり、占い師としての信用は落ち、誰もおばあさまの占いを信じなくなったのです」


「その予言っていうのは?」


「『紅の月が空に篝しとき、闇夜を照らす聖火は全てを奪う業火となる』と…」


「それは…つまりいずれサラマンダーが集落を焼き払うってこと?」


「はい、恐らくはそういうことだと思います。当然、信仰するサラマンダー様がそんなことをするだなんて誰も信じてはくれませんでした。それでもおばあさまは必死で皆を説得し続けました。『このままではいずれみんなサラマンダーに焼き殺される』と…」


「なるほど、それで占い師としての信用が地に落ちたってわけか…」


「はい。ですが…おばあさまの占いは外れたことがないんです、百発百中なんです。だから…」


「『いずれこの集落の人たちはサラマンダーに焼き殺される』と?」


「はい、おばあさまの話では集落のほとんどの人は焼かれ、生き残った者も家族や友人を失い絶望に暮れることになるとのことです。ですから…どうか皆を説得してくれませんか?世界を救ったユーキ様のお言葉なら皆も信じると思うのです」


「…そう言われてもなぁ、まだその情報が正しいかどうかもわからないし…。その占い師のおばあさまとやらには会えないの?」


「…実は…おばあさまはいま体調が優れず、人に会える状態じゃないんです…」


「それは…お気の毒に…」


ミーナのことを疑うわけではないが、確証たるものがないユーキは半信半疑であった。


「とりあえず、俺たちで調査してみるよ」


「あ、ありがとうございます!!」


その後、ユーキはミーナと別れてシンと共に田中を探し始めた。


「聖火と共に生きる民、か…」


最後にユーキは神々しい光を放つサラマンダーを見つめてそんなことをぼやいた。


これがユーキ達が集落のはずれで野宿する夜の出来事。ユーキとシンが田中と再会する前に起きたことである。






そして翌日…。


野宿で一晩明かした一行を本物の太陽が出迎えた。


「みなさーん!!おはようございまーす!!野宿の寝心地はいかがだったでしょうか!?目前の巨大なスクリーンに広がるそれなりの星空を見上げながら、固い地面に身を任せ、夜風に体温を奪われ、そして不気味に生い茂る草木やうねうねと這い寄る虫と共に明かす刺激的な夜は格別だったでしょう!?」


朝から元気なナビィさんの声がこだました。


そんなナビィの皮肉に怯むことなく、少しだけパーティが仲良くなった気がユーキは少し嬉しそうに返事をした。


「いや、野宿もなかなか風情があってよかったぜ。なぁ?二人とも」


しかし、ユーキの考えとは裏腹に田中とシンの顔は浮かないものであった。


「…野宿とか、二度とごめんだ」


「正直…棺桶で寝てた方がまだマシだった」


慣れない野宿であまり眠れなかったのか、田中とシンは朝からどんよりとした声でそんなことを愚痴っていた。


「みなさんそうおっしゃってますけど、その辺はどうだったんですか?ユーキ」


「…まぁ、正直寝心地は最悪だったよ」


口ではそう言いつつも、果たして人々から石を投げつけられるほど畏怖されている田中が屋根の下で眠れる日は来るのか…。


「じゃあ、こんな集落はさっさと離れよう」


田中がそう言って出発しようとしたその時、ユーキは田中に問いただした。


「その前に…サラマンダーってなんなの?」


「サラマンダーは火の精霊獣。太陽神ラーから授かりし聖火を体に纏い生きるモンスターだ。その炎は神の力でないと消えないと言われている。昨日の夜、実際に見たと思うが集落はその聖火が放つ光によって昼間のように明るかっただろう?その光にあやかり、サラマンダーと共に生きるのが太陽の民だ。サラマンダーは普段、眠りについて大気中にある魔力を吸収して生きているんだ。そして数ヶ月に一度、周りの大気にある魔力が薄くなったのを見計らって目を覚まし、魔力の濃い土地への移動を開始する。闇の中で生きる術を知らず、聖火の光にすがる太陽の民はそのサラマンダーの移動に合わせて引っ越しをする。だから彼らは光を求めて歩み続ける遊牧民。闇を知らない光の世界の住民、それが太陽の民」


「へぇ…このゲームに来てから一番ファンタジーしてる気がする」


「で、そのサラマンダーがどうかしたのか?」


ユーキは少し悩んだ後、占い師の孫のミーナに言われた不吉な予言の話をすることにした。


「この集落の占い師の孫に変なことを聞いたんだが…」


「占い師の孫?ミーナのことか?」


「ミーナって女の子が『サラマンダーがいずれこの集落を焼き滅ぼす』って…」


「ああ、そういえばそんなイベントもあったな」


「やっぱりこれもイベントの一つなんだ」


元ゲームの管理者としてゲームの内容を熟知している田中はユーキの話を聞いて思い当たる節があったようだ。


「魔王の復活に伴ってモンスターが凶暴化するんだ。その影響でサラマンダーも凶暴化して、集落を燃やすんだよ」


「『紅の月が空に篝しとき』とか言ってたけど、それも魔王復活の影響なのか?」


「そういうことだ。月が赤く染まったのが魔王復活の合図だ」


「なるほど…それまでにあのサラマンダーをどうにかしないと悲惨なことになるというわけか…」


「だが私達には関係ない話だ。先を急ぐぞ」


「お、おい、せっかくのイベントを無視するつもりか!?」


「当たり前だ。あらかじめ言っておくが、このイベントをいま解決してもろくな報酬はもらえないぞ?」


「そうなのか?」


「特に問題が起きてない現状ではサラマンダーの聖火を消すことは集落の人たちが信仰する大事なものを消すことでしかない。そんなことをしてまともな報酬がもらえると思うか?」


「確かにそうだけど…。じゃあもしかして、このイベントってサラマンダーが凶暴化してから解決した方が報酬が良くなったりするの?」


「察しがいいな、その通りだ。このイベントは事態が悲惨になればなるほど解決した時の報酬が良くなる。事件が起きなければ英雄も成果も生まれないってことだ」


「言ってることは分からなくもないけど…」


「ましてや私に石を投げつけるような連中をタダ同然で救う義理もないだろ。さぁ、旅を続けるぞ」


逆さメイドを指を刺され、石を投げつけられたことをよほど根に持ってるのか、田中は民を救う気などさらさらなかった。


「待てよ、見捨てるっていうのか?」


そんな田中を引き止めるようにユーキは声をかけた。


「当たり前だ。第一、サラマンダーを倒す、もしくはその聖火を消せば問題は解決できるが、サラマンダーは上級モンスターである精霊獣の一種だ。そもそも問題の解決事態が一苦労なんだぞ?」


「それでも手を差し伸べるのが主人公ってやつだろ」


「それはそんな重要なことか?」


「当然だ、俺は主人公になりたくてこのゲームの世界に来たようなもんだぞ?」


「知らないよ、ユーキの都合なんて」


「そういうわけで、俺はこのイベントを解決しに行くぞ」


ユーキはそう言って田中達に背を向けて集落に戻ろうとした。


「おい、勝手なことをするな、ユーキ。私達が今やるべきことは一刻も早く必中のルビーを探すことだろ?」


「いいじゃないか、多少の寄り道くらい」


「寄り道するにしてももっと有益なイベントを選ぶべきだ。今このイベントを解決しても報酬はほとんど貰えないんだぞ?」


「それでも誰かが犠牲になるよりはマシだろ?」


「馬鹿を言うな!お前が救おうとしてるのはただのNPCだぞ!?そんなものを助けて何になるって言うんだ!?」


「やめようぜ、NPCがどうだなんて話は。そうじゃなきゃ、このゲームは楽しめないぜ?」


「私は絶対に反対だ。ましてや私に石を投げつけるような連中を…」


「甘えるなよ、田中。自分から手を差しのばさないと誰も手を握ってやくれないぜ?」


二人の間に不穏な空気が流れる中、パーティの中でまるで権力を持たないシンは諦めて二人をただただ傍観していた。


「二人を止めないんですか?シン」


そんなシンにナビィが話しかけた。


「僕が何話しても無駄でしょ?発言権無いし」


そんな呑気なシンを差し置いて、田中はこんなことを言い出した。


「分かった。もういいよ、ユーキを倒して棺桶に詰めて引きずってでも先に行く」


「おいおい?田中に俺が倒せるとでも?」


まさに一触即発の状態。


戦う気満々の二人を見かねて、ナビィは二人の間に立ちはだかった。


「やれやれ、内輪揉めですか?…面白いから存分にやりなさい」


「止めるんじゃないの?」


「私が止めるとでも思いましたか?シン。…それでは両者見合って見合って………ファイ!!!」


ナビィによって戦いの火蓋は切られ、とうとう世界に終焉をもたらす者、逆さメイドの田中と世界を救った英雄、冒険者ユーキは対峙した。


まず仕掛けたのは田中、その圧倒的な攻撃力で地形を破壊しながらユーキに攻撃を浴びせる。


しかしステータスの関係上、その攻撃はユーキに当たることなく、宙を切って大地を割った。


そんな攻撃力だけ神々の戦いを見ながら、シンはこんなことを話し始めた。


「英雄対終焉の因縁の戦いがとうとう幕を開けました。実況は私、レベル1のシンがお届けします。…さて、この戦いを解説のナビィさんはどう見ますか?。一見するとレベルが99の田中の方が有利に見えますが?」


「そうですね、確かにレベルが11しかないユーキには荷が重い戦いでしょう。ですが、DEXで圧倒的に有利に立つユーキに果たしてその攻撃が当たるのでしょうか?」


「そう考えると田中には勝ち目がないのでしょうか?」


「そう言うわけではありません。いくらユーキの方がDEXが高いと言っても100%攻撃が当たらないと言うほどではありません。確率は数パーセントもありませんが、0ではありません。ですので運が良ければ攻撃が当たるかもしれません。もちろん攻撃が当たればユーキになすすべはありません」


「つまり、運ゲーってことですか?」


「そういうことですね。果たして、田中の膨大なHPが切れる前に攻撃を当てられるかどうか…それが勝敗を分ける重要な鍵ですね」


そんな二人を尻目に、二人の攻防は熾烈を極めていた。


田中の攻撃によって爆風のような激しい突風によって周りの木々や集落のテントが吹き飛ばされて行く。


「これは…戦いに巻き込まれてサラマンダーが燃やすまでもなく集落が崩壊するのでは?」


「そうですね。すでに集落は田中の攻撃による爆風で半壊してますしね」


さすがはかつて世界を終焉に陥れようとした存在なだけあってか、哀れにも罪なき集落は戦いに巻き込まれて壊滅の危機に瀕していた。


そんな中、大地を引き裂く爆音に混じって集落からいくつもの悲痛な叫びが聞こえてきた。


「…なんの声だ?」


叫び声が耳に届いたユーキは攻撃の手を止めて集落の方を振り返った。


先ほどまでは質素ながらに人々の笑顔が絶えない平和な集落であったにも関わらず、気がつけば田中の攻撃に巻き込まれてハリケーンでも通過したような壊滅的危機に陥っていた。


「マズイ、集落に甚大な被害が…」


ここでようやく集落が巻き込まれていることを知ったユーキはすぐさま集落に被害が出てないかを確認しに駆け出した。


集落の中心では人々が絶望の面持ちをしていた。


「大丈夫か!?怪我はないか!?」


慌てて駆けつけたユーキに集落の長であるミントが声を震わせ、こんなことを呟いていた。


「ユーキ様…火が…火が…サラマンダー様を覆う聖火が…消えてしまいました…」


そう言うミントの目先には聖火を纏い神々しい光を放ち、威厳ある姿をしていたサラマンダーがただのシカになって意気消沈としていた。


「こ、これは…」


「おそらく、先ほど集落を襲った竜巻のような陣風のせいです。あの悪魔のような突風が集落の建物ばかりか、太陽神ラー様の篝火を消してしまったのでしょう」


「そ、そんなバカな…」


「ああ!!なんたる悲劇!!一体あの悪魔のような突風はなんだったのでしょうか!?まるでレベル99STR999の者による攻撃の余波のようなあの風の正体は一体…」


集落の人々が突然吹いてきた不自然な突風に嘆いていると、その原因である田中が様子を見にその場にのこのことやって来た。


「どうした?何かあったのか?」


その忌々しい逆さメイドの姿を見た民の一人がこんなことを叫んだ。


「逆さメイド…そうか!逆さメイド、お前の仕業か!?」


かつて世界に終焉をもたらそうとした存在の登場によって突然の突風に合点がいった民はそう結論付けた。


「なんだ?一体なんのことだ?」


状況が分からず、田中が困惑しているとどこからともなく田中に向かって石が投げられた。


「イタッ…どこのどいつだ!?この私に石を投げつけたのはぁ!!」


田中がそう叫ぶと同時に、四方八方から田中に向かって石が飛んで来た。


「出て行け!!この悪魔め!!」


「我々から希望の光を奪い取った悪魔!!」


「これ以上私たちから何を奪おうって言うの!?この悪魔が!!」


四方八方からの罵倒と石に耐えきれなくなった田中はその場から逃げ去って行った。


そんな中、自分との戦いに巻き込まれて、集落の希望の光である聖火を消してしまったユーキは罪悪感に包まれていた。


「すまない!みんな!。俺があいつと戦ったせいでこんな…」


「ユーキ様…それは一体どう言うことなのでしょうか?」


ユーキの謝罪の訳をミントは問いただした。


「俺が集落の近くであいつと戦ったせいで…集落を巻き込んでしまったんだ。だから全部俺のせいなんだ、責めるなら俺を責めてくれ!!」


「ユーキ様…あの世界に終焉をもたらそうとした逆さメイドと勇敢にも戦ったあなたを誰が責めることが出来ましょうか?。悪いのは全部逆さメイドです。自分を責めないでください、ユーキ様」


「いや、でも…」


確かに直接の原因は田中だが、間接的な原因となってしまったユーキは罪悪感でいっぱいだった。


そんな中、集落の長であるミントに村人が話しかけて来た。


「ミント様…我々はこれから一体どうすれば…どうやって夜の闇から逃れればよいのでしょうか?」


「それは…聖火が無くなった以上、夜の闇から逃れることは…」


「そんな!!では我々はこれからどうやって生きろと言うのですか!?」


村人達が夜の闇を恐れて喚く中、ユーキはこんなことを口にした。


「…そんなに、夜が怖いの?」


「はい。ユーキ様には分からないかもしれませんが、我々は生まれた時からサラマンダー様と共に歩み続けて来た太陽の民。夜の闇を知らない世界で生きて来ました。そんな我々が突然逆さメイドによって聖火を奪われたのです。これからはどうやって闇を退ければよいのか…」


「夜を覆うのはなにも闇だけじゃない」


「どういうことですか?」


「確かに夜は暗い。闇に視界を奪われるのは怖い。だけど夜を覆うのはなにも闇だけじゃない。それを見上げれば輝く月がある、瞬く星がある。闇の中でしか輝けない特別な光がある。だから夜を恐れないでほしい。闇を怖がらないでほしい。きっと、闇の中にしかない光の世界がそこにはあるから…」


「…ユーキ様」


英雄であるユーキの言葉に勇気をもらったのか、ただただ絶望していたミントは立ち上がり、村人達に声をかけた。


「ユーキ様のおっしゃる通りです!私達はいままで光の中を生きて来ました。だから私達は影を知りません。だけど光があるところには影がある。光しか知らない我々はこの世界のことを半分も知らないまま生きて来たんです。ですがこれからは違います、我々も平等に影がさします。そしてその時、我々は新しい世界の景色と出会えるのです。今は不安でいっぱいでしょう、怖くて怖くてたまらないでしょう…だけどそれと同時に我々は前に進めるのです!!。大丈夫です、皆さん。どんなに夜が暗くたって、どんなに闇が深くたって…明けない夜はないのですから」


そんなミントの言葉に希望を見出した村人達は立ち上がり始めた。


「ありがとうございます、ユーキ様。おかげで我々も前に進めそうです」


「…いや、お礼を言われるほどのことは…」


こうして、光を失った太陽の民は新たな希望の光を見出したとさ。







「…こんなところにいたのか、田中」


集落を後にしたユーキは集落の外れて泣き崩れる田中を見つけて声をかけた。


「…なにが『自分から手を差しのばさないと誰も手を握ってやくれない』だ?。せっかく救ってやったのにそのせいで罵倒されて石を投げられたんだぞ?私は」


ユーキと戦う前にユーキから言われたことを嫌味のように口にする田中。


確かに結果として田中は集落を救ったことになっただろう。


サラマンダーが暴走する前にその火を消したことによって、魔王が復活しても集落が焼かれることはないだろう。


田中の攻撃によって建物は吹き飛んだが、怪我人はいない。


きっとあのまま放っておいたらもっと酷いことになっていた。


だけど…その結果、田中は村人達が進行する聖火を消した悪魔の烙印を押されたのだ。


今さらサラマンダーがいずれ暴走するなど言っても誰も信じない。結果として田中は村人達救った挙句罵倒されて、石を投げつけられる羽目になっただけだ。


そんな田中にさすがに同情したのか、ユーキはなんと声をかければいいか分からなかった。


「…きっと…田中の活躍を分かってくれる人はいるよ」


「だからなんだ!?私の活躍を分かってくれたからなんだ!?。それでも私は罵倒され、石を投げつけられるんだぞ!?納得できるわけないだろ!!!…やっぱりNPCなんて救うもんじゃないんだ…」


その時、集落の方から一人の人間が姿を見せた。


「あ…ここにいらしたんですね」


その人物とは、占い師の孫のミーナであった。


「いまおばあさまに占ってもらった結果、集落の脅威は去ったとのことです。あなたのおかげです…ありがとう」


そう言ってミーナは田中の手を握った。


「…え?」


「あなたがサラマンダー様の火を消してくれたおかげです、ありがとうございます…えっと…逆さメイドさん」


急にお礼を言われて田中が困惑していると、ミーナは田中の手に一輪の花をそっと握らせた。


「これは集落を救ってくれたお礼です。こんなものしか用意できなくて申し訳ありません」


田中はメビウスの花を手に入れた。


「ありがとう…この恩は一生忘れません。では、良い旅を…」


それだけ言い残してミーナは去っていった。


「…よかったな、分かってくれる人がいて」


「分かってくれたって…こんなちっぽけなお礼じゃ…割りに合わないよ」


そうは言いつつも、田中の顔はどこか嬉しそうであったとさ。









おまけ


アイテム紹介【メビウスの花】


螺旋を描くような渦巻き状の花びらが特徴的な花。珍しい花ではあるが、売っても雀の涙にしかならないくらいの価値しかない。五つ葉のクローバーくらいの珍しさ。これといった特殊な効果はないが、食べるものに困ったらこれを食べると良い。空腹をごまかせる程度には腹を満たすことができる。





花言葉 私の英雄

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