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選ばれし勇者ゴブリー

あの例のゴブリンリーダーの話の続きどす。


そんな話覚えてるかボケェって方は7,9,16話を見直すと良いかと。

「私の声が聞こえるか?小さき鬼の子…ゴブリンリーダーよ」


威厳ある声によって目が覚めた僕の前には神々しい光を放つ女神が微笑んでいた。


「…ここは…どこだ?」


確か僕は竜王バハムートとの死闘の末、草原の地底に落ちてしまったはず…。


「ここは影月の夢の世界」


「影月の夢?…あなたは一体?」


「私の名は女神アステナ」


彼女は女神を名乗るだけあって神々しさと威厳を兼ね備えていた。


「私は見てましたよ、あなたが竜王と戦う姿を…」


「バハムートとの戦いを?」


僕はアステナに言われて改めてバハムートとの振り返った。


どういうわけかは知らないが、急に体の奥底から湧いてきた不思議な力によってなんとかことなきを得たが、それでもバハムートには到底叶わなかった。


想定外の出来事によって本来あるべき住処を抜け出し、存在がバグとなった以上、今後も旅を続けるのならばバハムートとはいずれまた戦うことになるだろう。


その時に非力な僕は再び死線を潜り抜けることが出来るのだろうか?彼女を…メタルゴブリンを守ることが出来るのだろうか?。


そんな考えが頭の中で渦巻いていると、それを見透かしているかのようにアステナがこんなことを語りかけてきた。


「力が欲しいか?」


「…力?」


「私の願いを叶えてくれるというのならば…そなたに力を授けよう」


「力…その力なら、竜王にも勝てるの?」


「力を使いこなせるならば可能だ。なぜならばその力は化け物も魔族も…竜をも穿つ」


「それは…一体どんな力なの?」


「決まっておるだろう…勇者の力だ」


「勇者の…力?」


「世界でただ一つの特別で強大な力だ。だが、この力には代償がある…勇者として魔王を討ち亡ぼす使命も課せられる」


「魔王を討ち亡ぼす使命?」


「そうだ、封印が解けた今、魔王復活の時は近い。そなたが魔王討伐を諦めたその時…貴様は勇者の力に飲み込まれることになるだろう」


「………」


僕は迷っていた。


いくら勇者の力を得たところで、所詮はゴブリンの端くれでしかない僕に魔王が討てるのだろうか?

「まぁ、どちらにせよ、今ここでそなたが勇者の力を断ると死ぬことになるがな」


「なんで!?」


「竜王との戦いの末、そなたは地中奥深くまで落ちて死ぬことになるのだ。だが、勇者の力があればそなたも…彼女も助かるのだ」


「そんな…だけど魔王討伐なんて…」


そんな自信なんてない…だけど…。


今決断しなければ僕も、彼女も危うい。


どちらにせよ、僕には力が必要なんだ。


竜を退け、自由を手にする力を…。


そして…


誰かを…彼女を守れるだけの力が!!


「わかった。…僕は勇者になる」


「では、契約成立だな」


僕の言葉を聞き届けたアステナは何やら不思議な言葉を呟き始めた。


それと同時に僕の額が輝きだした紋章を描き始めた。


「…力は授けた。では、世界を頼んだぞ、小鬼よ。…いや、勇者ゴブリンリーダーよ」


その言葉を最後に…僕の意識は遠くなっていった。









…ここは…どこだ?


竜王バハムートとの死闘の末、草原の地底に落ちてしまったゴブリンリーダーは辺りを見渡して現在の場所を確認した。


太陽の光がなく、辺りは暗闇ではあったがもともと洞窟育ちのゴブリンリーダーは夜目が効くため状況を視認する分には差し障りはなかった。


どうやらここはどこかの洞窟の中なのだろう、どこまでも続く細長い道がさらなる闇へと続いていた。


「さっきのは…夢だったのか?」


夢も現も区別がつかないゴブリンリーダーは額に手を当ててみると、そこには先ほど女神アステナによって刻まれた勇者の証が宿っていた。


「夢じゃなかったのか…そうだ!!メタルゴブリンは…」


ハッと我に返って辺りを見渡すと、少し離れた位置にメタルゴブリンが横たわっていた。


「…大きな怪我はなさそうだ」


どれほど深くまで落ちたかは知らないが、幸いなことに巨大なキノコのような物の上に落ちたらしく、そのキノコが衝撃を吸収してくれたおかげで無傷で済んだようだ。


「とりあえず…彼女を安全な場所まで運ばないと…」


ゴブリンリーダーはメタルゴブリンを背負い、闇の中を歩き始めた。


しばらく歩いていると、メタルゴブリンが目を覚ました。


「…ここは?どこ?」


「おはよう、怪我はない?」


「…大丈夫。降ろして、一人で歩ける」


彼女に言われた通り、ゴブリンリーダーは彼女を背中から降ろしたが、地面に足がつくと同時に彼女が左足首をかばうように座り込んだ。


「どうやら落ちた時に足首をくじいたようだね。やっぱり僕が背負うよ」


「…ありがとう、お言葉に甘えるわ」


多少はゴブリンリーダーのことを信用し始めたのか、彼女は素直に背負われた。


「ここ、一体どこなんだろうね?」


「さあ?見当もつかないや」


「暗くて…冷たい場所…」


「だけど道は続いてる。闇の先にはきっとまだ見ぬ世界が広がってるよ」


「…そうだね。…そうだといいな」


二人がそんな話をしているとやがて細い道のりを抜け、ホールのように広い空間に出た。


それと同時に、広場の中心から青い光の線が同心円状に広がり、空間を歪に照らした。


「こ…これは一体…」


やがて、空間中に張り巡らされた青い線状の光によって空間が十分に照らされた頃、空間の中心から液体が湧き出し、徐々に人の形を作り出していった。


「ユウシャニ…シレンヲ…」


巨大な人形になったそれは錆びた機械のようにぎこちなく動き始め、徐々にスムーズに動くようになり、そしてゴブリンリーダー達に近づいていった。


「なんか…やばそうだね」


「避けて!!攻撃してくるよ!!」


背中に背負ったメタルゴブリンがそう叫ぶや否や、巨大な人形は腕を振り上げ、ゴブリンリーダーに向かって一気に振り下ろした。


歪な形をした人形の拳が激しい音とともに地面をえぐった。


「あ…危なかった…」


間一髪で攻撃を避けたゴブリンリーダーは反撃に出るため、懐から棍棒を取り出した。


「そっちがその気なら…こっちも反撃するまでだ。喰らえ!ゴブリン流奥義!!スーパーゴブリンアタッッッック!!!!」


しかし、その攻撃は液体をするりと抜け、まるで手応えがなかった。


「そんな…一体どうすれば…」


「危ない!!」


ゴブリンリーダーが対応に困っていたその時、メタルゴブリンの叫び声と同時に人形からの拳が飛んできた。


なんとか直撃は避けたが、かすった右足が激しい水圧に押しつぶされ、怪我を負った。


「…しまった…足が…」


足を負傷し、動けなくなったゴブリンリーダー達に再び人形の拳が飛んでくる。


絶体絶命のピンチに死を覚悟したその時、ゴブリンリーダー達を守るかのように目の前に炎の壁が出現した。


「こ、これは一体…」


ゴブリンリーダーが何が何やら理解出来ないでいると、二人の後ろからとある少女の声が聞こえてきた。


「やっと会えたね、勇者様」


黒いローブと大きな三角帽子をかぶったその風貌は小さな魔女を彷彿とさせた。


「き、君は…」


「自己紹介は後。今はアレをなんとかするよ」


そう言うと少女は間髪入れずになにやら呪文を唱え始めた。


「暗き波動の力よ、我が呼び声に従い、その冷酷さをかの身に刻め。魔の教典15の術、レイリーマミー!!」


少女の魔法によってどこからともなく吹き荒れる吹雪が人形を包み込んだ。


やがて吹雪が止むと、そこには凍り付けになった人形のオブジェが出来上がっていた。


「今よ!勇者様!!」


「うん!喰らえ!必殺…ゴブリンアタッッッック!!!!」


ゴブリンリーダーによる渾身の一撃により、凍り付けになった人形は粉々に砕け散った。


空間を覆うように四散した氷が空間を包む青い光を乱反射し、暗き空間に輝く星の雨を降らせた。


「きれい…」


思わずその光景に見とれて、メタルゴブリンは感嘆の声をあげた。


「ありがとう、君のおかげだ…えっと…」


「マオ。私のことはマオって呼んで、勇者様」


「うん、ありがとう、マオ。僕はゴブリンリーダー」


「ゴブリンリーダー…うーん…そんな名前、君には似合わないよ」


「そんなこと言われても…」


「これからはゴブリーって呼ぶね。だって…そっちの方が可愛いでしょ?」


片目をつぶってウィンクを向けながら、マオは勇者にそんな名前をつけたとさ。

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