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逆さメイドだ!!石を投げろ!!

「おぉ、戦士田中よ、久しいのう。死んでしまうとは情けない」


新たに旅に出かけるために教会でリスポーンした3人に神父(幼女)がそう声をかけて来た。


「本当は逆さメイドを蘇らすなんて不本意なことなんじゃがな…。役目は果たした、悪しき魂を持つ者、逆さメイドよ。今すぐこの神聖なる教会から立ち去るがよい」


生き返った田中を汚らしいものを見るような目で見ながら神父(幼女)がそう呟いた。


それを聞いた田中は顔をうつむきながらトボトボと教会を後にした。


「おい、待てよ、田中」


それを見ていたユーキは田中の後を追って教会を出て行った。


そして蘇ったが状況がイマイチ理解できないシンはとりあえず二人を追いかけた。


「これからどうすんだよ?田中」


「決まってるだろ。…この街から出る」


教会の外で田中に追いついたユーキの質問に田中は淡々と答えた。


「なぜかは知らないがこの街には私に対する悪評が広まっている。見ろ、街行く人が皆私を見るなり、敵意の目を向けている」


田中に言われた通り辺りを見渡すと、確かに逆さメイドが目に入った人々は恐怖に顔を歪ませ、敵意をあらわにしていた。


「とりあえず…いつものように酒場で水を片手に今後の方針について話し合おう」


落ち着いて話し合いができるように今日も一行は酒場に向かった。


冒険者達で賑わう酒場にいつものように足を踏み入れた田中、しかしその瞬間、敵意のある視線が彼女に刺さった。


逆さメイドの姿を見るなり、冒険者達は恐怖に震え出し、中には気分が悪くなって吐き出す者や、発狂して叫び出す者までいた。


「すみません、お客様にお出しする酒も水も当店には御座いません。他のお客様の迷惑になる前にどうか早めに消えてください」


その様子を見ていた店員さんが丁寧な口調で田中の入店を断った。


「おい!こっちは客だぞ!」


「やめとけ、田中」


町中から疎まれていることにピリピリしていたのか、店員さんに当たり散らそうとする田中をユーキが止めた。


「ただでさえ街の人から嫌われてるのに、これ以上悪評を立てるような真似はやめろ。本気でこの街にいられなくなるぞ」


「…くそ!」


ユーキの説得によって我を抑えた田中は早々に店を後にした。


店を出てこれからどこに行こうか迷っていた田中、そんな彼女をシンはニヤニヤしながら見ていた。


「…なんだ?私の顔に何かついてるか?」


シンの薄ら笑いが気になった田中はシンに問いただした。


「いやいや、なんでもないよ。ただ…ちょっとザマァwwって思っただけ」


「なんだと?」


自分が人々に疎まれる様を笑いながら見ていたシンに田中は怒りをあらわにした。


「怒らないでよ。だって全部悪いのは君でしょ?。嫌われて当然のことしたわけだし…」


「おい、シン」


不穏な雰囲気を感じたユーキはシンを黙らそうとしたが、シンは気にせず話し続けた。


「逃げる人を追い回してボコボコにしたり、棺桶に詰めて何日も放置したり、人の身ぐるみは剥ぐし、建物はぶっ壊すし、挙げ句の果ては国まで滅ぼそうとして…こんなことになってるのは自業自得だよ」


「この野郎、言わせておけば…」


シンの正論に頭に来た田中はそう言ってシンに殺意を向けた。


「なに?気に食わないから殴るつもり?。これだから野蛮人は嫌なんだ。暴力でしか物事を解決できないなんて現代社会に適合できてないよ」


「おい、やめろ、二人とも」


今にも田中が殴りかかりそうになっているのを見ていたユーキは二人の間に割って入って喧嘩を止めた。


「落ち着け。これ以上ここで喧嘩をするわけにはいかないだろ?」


君とどこまでも旅する(強制)な状態とはいえど、ひとまずはこの二人と旅すると決意したユーキだったが、早速小競り合いが発生したことに一人頭を抱えた。


そんな3人の元にあの陽気な妖精がやって来て声をかけた。


「おや?喧嘩ですか?。お手伝いしますよ?」


「黙れ、ナビィ」


そうこうしていると、どこからともなく小石が田中の頭に飛んで来た。


「痛っ…なんだ!?てめえ!!」


石をぶつけられたことに声を荒げ、飛んで来た方向を振り返ると、そこには何人もの町民が田中に向かって石を投げる準備をしていた。


「この街から出て行け!逆さメイド!!」


そのうちの一人がそう叫んで田中に向かって石を投げた。それを皮切りに何人もの町民が田中に向かって石を投げ始めた。


「この悪魔!!疫病神!!邪神め!!」


「騎士団領の仇!!」


「死ねぇ!逆さメイド!!」


罵詈雑言と石が田中に向かって投げられた。


「痛い!やめろ!やめろ!!」


手で顔を隠して石を受け止める田中。


「10点!10点!5点!…おぉっと!顔面ヒット30点!!」


田中に石が当たるたびに謎のポイントを付けるナビィ。


やがて投げつけられる石に耐えきれなくなった田中は逃げるようにその場から立ち去っていった。


「さすがにこれは可哀想な気が…」


そう呟いてユーキは田中の後を追っていった。







「…今すぐ出るぞ、この街から」


人目につかない裏路地になんとか逃げ切った田中はユーキとシンにそう声をかけた。


「そうだな。これ以上街にいたってしょうがないしな」


旅に出ることに賛成するユーキ。しかし、シンはそういうわけにはいかなかった。


「えぇ…僕は反対だな。妹のこともあるし…」


「これだけ街にいたって情報はゼロだったんだろ?。だったらこの街にいたって無駄だろ、きっと他の街に行ったんだろ」


「うーん…まぁ、それもそうか」


ユーキの説得で渋々旅に出ることに納得したシン。


「で、どこに向かうんだ?」


「歩きだと少し遠いが、当初の目的通り『必中のルビー』の入手のために火山の街、ボルケノに向かおう」


セブンスジュエルと呼ばれる宝石の一つで持っているだけで攻撃が当たるようになるアイテムを手に入れるべく、田中はそう提案した。


「賛成だ。旅に出かけられるならどこでもいい」


「特に妹に関する情報はないからな…僕も反対ではないよ」


こうして一行は火山の街ボルケノに向かうべく、旅の準備を整え(主に田中の奴隷の指輪の乱数調整)冒険の旅に出かけた。


パーティ内の空気はよろしくはなかったが、冒険は順調に進んだ。


「…つまんない旅ですね」


特に危ない目に合うわけでもなく、思いの外順調に進む旅をつまらなそうに眺めるナビィはそんなことを呟いた。


「どうでしょうか?ここは刺激ある旅にすべく、私のお友達のバハムートさんでも呼んでパーティ壊滅させてあげましょうか?」


「そういう親切はいらないぞ、ナビィ」


こうして、何事もなく時間は過ぎて行き、日が傾き始めた。


「日が傾いてきたな。…今日は野宿か?」


「いや、この辺に集落がある。…今日はそこで休憩しよう」


元ゲーム管理者としてフィールドに何があるか熟知している田中はそんなことを提案した。


「へぇ、こんなところに集落があるのか…。でもそれって街に入った判定になったりしないのか?。もしそうなら田中の奴隷の指輪が…」


「大丈夫だ。集落のように規模の小さなところはあくまでフィールドの一部という判定になってる。だから行き来しても状態異常にはならない」


「それならいいんだが…」


こうして一行は集落へとたどり着いた。


「おお、本当にこんなところに人里があるとは…これで野宿せずに済むな」


「よかったぁ、野宿なんてまっぴらごめんだったから…」


そう言ってシンは安堵の息を吐き出した。



恐らくは遊牧民の集まりなのだろうか、たくさんの家畜とともに大きなテントのような見た目の住宅が十数並んでいた。


一見するとそれだけの遊牧民の集まり…だが、不思議なことに集落は陽が傾き始めているというのにもかかわらず、昼間のように明るかった。


「それにしても…ずいぶん明るいな」


「ここの人達は太陽の民と呼ばれるNPCの集落でな。まぁ詳しいことはさておき、さっさと宿屋に行くぞ」


そう言って田中はそそくさと宿屋に向かった。


「でも本当に泊めてもらえるの?。田中はあんなに嫌われてたのに…」


「大丈夫だろ。まさかここまで田中の悪名が広まってるとかないだろ」


シンの心配を他所に気楽にそう答えるユーキ。まぁ、これは俗にいうフラグってやつよ。



そんなフラグが建てられていることも知らずに宿屋にたどり着いた田中は意気揚々と中へと入っていった。


「へい、いらっしゃ……」


カウンター越しに田中を目にした亭主はその逆さに着こなしたメイド服を見た瞬間に言葉を失った。


そして、声を震わしながら叫んだ。


「さ、ささささ…逆さメイドだあああああ!!!!」


その声を聞きつけた集落の人々はすぐさま宿屋へと駆けつけた。


「あ、あれが噂に聞く逆さメイド…確かに噂通りイかれた格好してやがる」


「終わりよ…もうこの集落は終わりよ…」


「何言ってやがる!?終わりになんかさせない!!俺たちでこの村を守るんだ!!」


「そうだそうだ!!出て行け!逆さメイド!!」


村人達はそう言い出すや否や、石を拾って投げ始めた。


そんな村人達の攻撃に田中はなす術もなく、頭を抑えて縮こまって耐えていた。


さすがに見てられないと思ったユーキは村人と田中の間を割って入った。


「ちょっと待ってくれ!!俺は冒険者ユーキだ。逆さメイドのことを知ってるなら、俺のことも知ってるだろ?」


「…冒険者ユーキ?。まさか、逆さメイドを打ち滅ぼし、世界を救ったと言われている英雄か!?」


「なに!?かの英雄のユーキ様だと!?」


「なぜあのユーキ様が逆さメイドを庇うんだ!?」


ユーキの登場に村人達は困惑の声を上げた。


「こいつも…田中も十分に反省したんだ。もうみんなに危害を加えるような危険な存在じゃないんだ。だから一晩くらい泊めて欲しいんだが…」


ユーキの説得に人々がざわめく中、ある一人の女の子が前に出て来た。


「私はこの集落の長を務めておりますミントというものです。あなた様の噂はかねがね伺っております。この度はかの英雄、ユーキ様に会えたことを光栄に思います」


そう言ってミントは深々とお辞儀をした。


「俺のことを知ってるなら話は早い。どうだろう?俺の顔を立ててこの逆さメイドを一晩泊めてくれないか?」


「…申し訳ございませんが、それはできませぬ。いくらあなた様が英雄であろうと、逆さメイドという危険な存在をこの集落に置いておくわけには行かぬのです」


「大丈夫だって、俺がいればこいつも暴れたりしないから。だから一晩でいいから…」


「それは出来ないのです。いくらあなた様がいるからと言って、我々はリスクを負うわけには行かないのです」


「だけど…」


「もういい、ユーキ」


なんとかミントを説得しようとするユーキを田中が止めた。


「もういい、ユーキ。…これ以上は惨めだ」


そう言って田中はトボトボと集落から出て行った。


「田中…」


そんな田中を心配そうにユーキは見つめていた。


「どうやら逆さメイドは去ったようですな…如何でしょう?せっかくこの集落にいらしたのですから、我々にあなた様をもてなさせていただけないでしょうか?。とびっきりの酒と料理を振舞わせていただきますよ?」


「いや、俺は…」


「ごちそうになりまーす」


ユーキは断ろうとしたが、ナビィの声がユーキの声を遮った。


「おい、ナビィ」


「何言ってるんですか?。せっかくのごちそんなのでいただきましょうよ。英雄の役得ってやつを味わいましょうよ」


「そうだよ、僕も美味しいもの食べたいよ」


田中に申し訳なさそうにするユーキだが、ナビィとシンはノリノリであった。


「だけど、ここで持て囃されるのは田中に悪いし…」


「なんでユーキが田中のこと気にする必要があるのさ?」


「それは…」


シンの言葉に返す言葉がユーキには思いつかなかった。


「ほらほら、行きましょう行きましょう。今夜は宴です」


こうして、後ろめたい気持ちはあったが、ユーキたちは宴に赴いたとさ。

…そもそも金もなかったのにどうやって宿屋に泊めてもらうつもりだったのか。

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