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パンツに名を刻みし英雄

「とにかくナビィ、お願いだからこれ以上俺についての噂を流さないでくれよ」


ナビィのせいで町の住民から剣聖だとか賢者やらパンツにならサイン書く英雄やら、様々な大それた呼び方をされるようになり、辟易していたユーキはナビィを人気のない裏路地に呼び込んでそんなことを話した。


「何を言っているんですか?。私はただ真実を語り継いでいるだけで…」


「だからそれが迷惑なんだって」


「いいじゃないですか。どんな真相が隠されていたとしても、ユーキが逆さメイドを倒し、世界を救ったのは事実なんですよ?。もっと胸を張って受け入れたらいいじゃないですか」


「その隠れた真相が真相なだけに胸を張るわけにはいかんだろ」


何度も言うようだが、ユーキにとってはただの茶番に過ぎないのだ。


「まぁまぁ、せっかく英雄になれたんでもっと今の状況を楽しみましょうよ。みんなからチヤホヤされるなんて羨ましいですよ。もういっそ冒険者なんかやめて国王に頼んで城で一生養ってもらったらどうですか?」


「残念ながら俺はまだまだ冒険したりない」


まだダンジョンの一つですらクリアしていないユーキはまだまだお盛んな時期なのだ。


二人がそんな話をしていると一人の美少女が声をかけてきた。


「ユーキ…」


その正体は鍛冶屋の元オヤジことアイロであった。偶然にもそこを通りかかったアイロはまたまたユーキを見かけてしまったのである。


「おう、アイロ」


そう言って気さくに声をかけるユーキだが、アイロの態度はどこかよそよそしかった。


「ユーキ、凄いね。いきなり英雄になるなんて…」


「いや、別に大したことはしてねえよ」


「いやぁ、世界を救って大したことねえよなんて言えるなんてユーキさんはまさに英雄の鑑ですね」


「うっさい、ナビィ」


ナビィの茶々にユーキは鬱陶しそうにそう言った。


「本当に凄いよ。世界を救った英雄様だもん。…でもいきなり英雄になっちゃうから…なんだかユーキを遠くに感じちゃうなぁ」


「…アイロ」


独り言のようにそうつぶやくアイロにユーキは何か声をかけようとしたその時、ユーキ達の近くで冒険者達のこんな会話が聞こえてきた。


「おい、聞いたか!?ユーキさんってパンツにならサインを書いてくれるらしいぞ!?」


「マジかよ!!。さすがユーキさん!!ユーモアにも溢れてるぅ!!」


そんな会話が耳に入ったアイロは先ほどよりも若干、ユーキとの距離を置きながらこんなことを呟いた。


「…なんだかユーキを遠くに感じちゃうなぁ」


先ほどと比べて引き気味にそうつぶやくアイロ。


「いや、これには事情があって…」


変態扱いされそうになっているユーキはどうにか誤解を解こうとする中、先ほどの冒険者達の会話が再び聞こえてきた。


「なんでもパンツ一丁のやつにしかサインを書かないとかなんとか」


「フゥー!!さすがユーキさん!!酔狂なお方だぁ!!」


気まずい雰囲気の中、トドメを刺すようにそんな会話が聞こえてきたアイロはさらにユーキから距離を取った。


「えっと…その…人にはいろんな趣味や趣向はあるし…それに口出しするのは野暮なことだし…だから私がどうこう言えないけど…。えっと…ユーキのことは嫌いじゃないけど…その…えっと…さようなら!!!!」


唐突に別れを告げたアイロは猛ダッシュでその場を去って行った。


レベルが地味に80もあるアイロの逃げ足は早く、ユーキに弁解する隙を与えてくれなかった。


完全にパンツフェチ扱いされたユーキはよほどショックだったのか、その場で固まって白目をむいていた。


「振られちゃいましたね、ユーキ」


「それよりもパンツ好き認定されたのが嫌だ」


とりあえずここにいても仕方がないのでユーキは一度城に戻ることにした。






ユーキが城の門に到着するやいなや、城の兵士が慌てた様子でユーキに話しかけてきた。


「ユーキさん、国王様がお呼びです。どうか玉座までお越しください」


「国王が?。…わかった、すぐ向かう」


兵士に案内されて玉座に到着したユーキを深刻な面持ちをした国王が迎えた。


「戻って来たか、ユーキ。…実は今しがた大変なことが判明した」


「と、言うと?」


「実はこの城の地下には魔王の魂を封じていた壺があったのだがな…先ほどその壺を確認したところ…その壺が割れていたのだ」


「壺が割れるとどうなるんだよ?」


「魔族の血を引いた者に魔王の魂が乗り移り…魔王が復活する」


「魔王が復活だと!?」


と、ユーキは驚いてみせるが、この世界はゲームであることと魔王が封印されていたと言う話はちょくちょく出て来ていたのでいずれは復活するんだろうなとユーキは前々から考えていたため、想定内の出来事であった。


「かつては人類を恐怖のどん底に追い詰めた存在…その魂が目覚めたとなると…魔王の復活は近い。そして再び人類に牙を向けるであろう」


「それは大変だ」


と、ユーキは心配しているが、内心はファンタジーっぽい展開にウキウキしていた。


「逆さメイドを倒してもらった上になんのお礼もできない私がお主にこんなことを頼むのは虫のいい話なのだが…世界を救った英雄ユーキよ、再びその力で魔王から人類を救ってはくれまいか?」


「…愚問だな、国王よ。冒険者が世界を救わないで、一体誰が世界を救うと思うんだ?」


「なんとも頼もしい英雄だ。…魔王討伐に関しては我が王国も全力で協力しよう。なにか必要なものはあるか?可能な限りなんでも与えよう」


「必要な物か…じゃあ、賢さが上がる装備とかもらえないかな?」


「賢さが上がる装備か…申し訳ない。そのような貴重な品に心当たりはないのだ」


「そっか…それならいいや。代わりに銅の剣と50ブラッドをくれないか?」


「銅の剣と50ブラッド?…そんなもので良いのか?。賢さが上がる装備はないが、もっと他にいいものがたくさん…」


「いいんだよ、王様から最初にもらえる餞別はゴミっていうのはRPGのお決まりだからな。最初っからいいものをもらってたらゲームを楽しめない」


「なんの話だ?ユーキ」


「いや、気にしないでくれ」


確かにユーキの言う通り、RPGで最初に国王からもらえる品は魔王討伐の旅の餞別にしてはちゃちなものがお決まりなのだが…すでにこの小説は40話に差しかかろうとしているので決して序盤とは言えないと思うんですが…。


ユーキとしてはせっかくのゲームなのできちんと自分の力で手に入れたもので強くなりたいのだ。


「だが…やはり銅の剣と50ブラッドで魔王を倒して来いなどと言うのは申し訳ない。せめてこの最高名誉勲章だけでも受け取ってはくれないか?。この勲章は大変貴重なダイヤモンドから作られていて…」


「断る。無事に俺たちが魔王を打ち取った暁には、その勲章を受け取りに来るよ」


「そうか…そこまで頑なに受け取らないと言うのならば、私の方で預かっておこう」


「その代わりって言っちゃなんだけど…一つ…いや、二つほどお願いがあるんだが」


「なんだ?申してみよ」


「まず一つは逆さメイドがプレイヤーから分捕ったアイテムやブラッドや装備品を返しておいてもらいたい」


「よかろう、責任を持って元の持ち主に返しておこう。…もう一つのお願いとやらは?」


「逆さメイドを俺に預けて欲しい」


「なに!?逆さメイドをだと!?」


「あんなやつでも一応は仲間だからさ…あいつなしじゃ俺は冒険にすら出かけられないんだ。今度は暴走しないようにちゃんと見てるから、俺に逆さメイドを預けてくれないか?」


「うーむ…あの危険な存在を野放しにするのは…いや、英雄の頼みとならば仕方がない。ユーキを信じて逆さメイドをお主に預けよう。…城で封印するよりもユーキのそばで見張っていた方が安全かもしれないしな」


「ありがとう、恩にきるよ」


国王から逆さメイドこと田中が入った棺桶を受け取ったユーキは早速冒険の旅に出かける準備をした。


棺桶を引きずって城の門まで歩くユーキを国王やアルフィーナや王子のランをはじめとするたくさんの人たちが見送りにやってきた。


「この国を…この世界をありがとう、ユーキ」


アルフィーナはそう言ってユーキに握手を求めた。


「こっちこそ、迷惑をかけてすまなかった」


そう言ってユーキはアルフィーナに握手を返した。


あの恐ろしい逆さメイドを打ち倒し、世界を救った英雄と握手ができたことが余程嬉しかったのか、ユーキとの握手を終えたアルフィーナは近くにいた騎士に興奮気味にその喜びを伝えた。


そんなアルフィーナを尻目に、ランがユーキに一声かけた。


「ユーキさん、僕もいずれはあなたのようになるため、剣術や魔法を磨きます」


「いや、剣術や魔法を磨いても俺みたいにはなれないけどな」


「なるほど!剣や魔法だけでは真の英雄にはなれないということですね!?」


「いや、そういうわけじゃないんだけどなぁ…」


ユーキから大切なこと(?)を教わったランは一人で勝手に興奮していた。そんなランを尻目に、最後に国王(幼女)がユーキに声をかけた。


「必要とあらばいつでも言ってくれ。国を挙げてお主の力となろう」


「ありがとう。困った時は頼りに来るよ」


「うむ。では…世界を頼んだぞ、ユーキ」


その後、ユーキは周りにいたモブ達からも色々な声援をかけられながら旅に出るために皆に背を向けた。


いざ再び冒険へ…と思ったが、その前に田中やシンを蘇らす必要があることに気がついたユーキ。あいにく手持ちには先ほど国王からもらった50ブラッドと銅の剣しかないため、蘇生の費用が足りないし、そもそもシンの入った棺桶がどこにあるかもわからないし、田中を蘇らせても奴隷の指輪の関係で乱数調整をする必要もあると考えたユーキは結局一度全滅して体勢を立て直すことにした。


メニューを開いていつものように自殺用の魔法を数回唱えたユーキは、見送りに来てくれたみんなに親指を立てながら最後にこう言い残した。


「それじゃあみんな…逝って来る」


自殺用の魔法を数回唱えたユーキはMPが尽き果て、全滅扱いとなり、一瞬でその場から姿を消して教会まで転送された。


全滅による転送などという発想のない見送りに来ていた者たちは、ユーキが魔法か何かでどこかにワープしたのだと考えた。


「超上級魔法である転送魔法まで使いこなすとは…さすがは英雄と言ったところだな」


改めてユーキのすごさを勘違いした彼らはこうして、見せかけの英雄のさらなる的外れな噂を広げていったとさ。





おまけ


Q&Aのコーナー


Q、なんで魔王を封印していた壺が割れてたんですか?


A、封印の壺は厳重に保管されているため、大きな地震や災害などが起きない限りは割れたりしないんですけどねぇ…一体誰の仕業なんでしょうかね?(棒読み)。

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