攻略組四天王、現る
ここはプレイヤー達の始まりの街と言われているマサラ城と呼ばれる城下町、その酒場には今日もプレイヤー達で賑わっていた。
1日の終わりに酒を浴びるように飲み、明日の英気を養う。時には酒の力で見知らぬ人と肩を並べて飲み明かし、友好を深めたり、またプレイヤー達が多く集まるのでゲームに関する情報交換の場として機能していた。
そんなプレイヤー達がひしめく酒場で、他のプレイヤー達からひときわ注目を集める集団がいた。
それは【†銀弓のハンター†】ことセキュリス率いる、他のプレイヤー達から攻略組と呼ばれて、親しまれている四人組の集団であった。
「それではこれより、攻略組四天王定時報告会を始める」
長い銀髪をなびかせたセキュリスの号令の元、四人の男が席に着いた。
「ではまず、リーダーである私から近況を報告しよう。先日、鍛冶屋の店主であるアイロさんを攻略すべく、彼女に接触、及び告白を試みた」
「なに?あのアイロさんに?」
アイロという名を聞いて反応したのは黒縁メガネが似合う秀才系のイケメン風な見た目をした男。彼は【†堕天メガネ†】の二つ名を持つ攻略組四天王の一人で、名をピーロと言うものだ。…ちなみに好きな女の子のタイプはSっ気のある年上のお姉様である。
「それで、結果はいかほどに?」
「彼女を告白の戦場に連れ出すまで進んだが、あえなく失敗。これ以上の攻略は精神面的に今後の攻略に支障が出ると判断し、アイロ攻略からは手を引くことにした」
「さすがは鍛冶屋の店主だ。リーダーともあろうお方を鉄のように冷たく一蹴するなんてな…」
伊達メガネを手でクイっと追い上げながらピーロがそう呟いた。
「では次は私が報告しよう」
そう言って名乗りを上げたのは同じく四天王の一人、むきむきに鍛えられた筋肉が自慢である【†肉体の美学†】ことガイである。…ちなみに、好きな女性の箇所は耳たぶである。
「先日、この街の騎士団長であるアルフィーナ嬢に体の強さで愛を表現する肉体的告白を試みたのだが…文字通り蹴り一発で一蹴されて死亡。肉体的にも精神的にも、ついでに死んだ時のペナルティーで経済的にも深刻なダメージを負ってしまったぜ。おかげで今は一文無しだ」
「そうか…息災であったな」
リーダーのセキュリスが労いの言葉を述べた後、次の男が報告の名乗りを上げた。
「次は私、【†疾風の老メガネ†】ことゴトウが報告いたします」
胸に腕を添えて一流の執事のように丁重にお辞儀をした髭を蓄えたナイスミドルなおじ様の見た目をした男で名をゴトウと名乗った。…ちなみに、好きなAVはマッサージ物である。
「先日、身寄りがなくて路頭に迷っていた齢10にも満たぬレディーであるリンクル様に『お、お菓子あげるから、お、おじちゃんと良いことしないかい?』とお誘い申し上げたのですが…逃げられた挙句、いつの間にか財布をすられ、気がつけばお金がスッカラカンに…」
見た目がいい歳こいたおっさんはまじまじとそんなことを語った。
「ふむ、災難であったな、ゴトウよ」
セキュリスが労いの言葉を述べた後、最後にピーロが報告を始めた。
「ふっふっふ、俺はお前らと違って計画的だからな、この前も報告した通り、俺はヴィーナス様を現在も攻略中だ。慎重にことを進めているため、まだ告白するまでには至らないが、毎日惜しげも無く彼女の元を訪れ、着々と好感度を上げている。そのうち二人で街で遊ぼうって話まで出ている」
「なに!?二人で街で遊ぶだと!?」
「そ、そそそそそそそれって、ままままままままさか…デデデデデデデートなのか!?」
ピーロの報告に目を丸くするセキュリスとガイ。
「ふっふっふ、言っただろう?着々と好感度を上げているとな。…だが、ここで一つ問題が起きた」
「問題?それは一体…」
「彼女に会うために彼女が働くSMクラブに毎日通っていたために、資金が底を尽きたということだ」
「…結局のところ、まだ客としての関係を抜け出せていないのでは?」
ピーロの話を聞いて冷静にツッコミを入れるゴトウ。
「そ、そんなわけないだろ!?。ちゃんと彼女から『今度はお店に来る前に外で会おうよ』って言われてるんだぞ!?」
「…それはいわゆる、ただの同伴では?」
「ち、違うしぃ!俺とヴィーナス様はそんな関係じゃないしぃ!」
「…今回も戦果はなし、か…」
ピーロの報告を聞いたセキュリスはぼそりとそう呟いた。
「なかなか険しい道のりですな」
「あぁ、だが我々が成さねばならないことだ」
「果たして…そこまでして成すべきことですかな?」
セキュリスの言葉にゴトウは髭を触りながらそんなことを問いた。
「当然だ。どれだけ多くのプレイヤーが我々の女の子の攻略の成功を待ちわびてると思っているのだ?。未だ誰も攻略に成功したという話を聞かない中、多くの同胞たちはそれでも彼女らに挑み、そして傷付いて帰って来るのだ。未だに成功例がない以上、プレイヤー達は絶望し、攻略を諦めてしまうかもしれない。だが、我々が攻略に成功すればどうだろうか?。プレイヤー達は攻略が可能と知れば、また立ち上がる勇気が湧いて来るだろう。言うなれば我々は希望の光なのだ。全プレイヤーの期待を背負い、女の子を攻略する。…それが我々、攻略組の使命だ」
「その決意、このゴトウ、しかと見届けましたぞ」
セキュリスの強い思いを耳にしたゴトウは髭をわさわさしながらそう答えた。
「しかし…我々も色々と工夫して攻略を試みているのだが…未だに誰一人として告白はおろか、デートにすら成功していないのだ」
「リーダー、俺は金さえあればSM嬢のヴィーナス様と営業前にデート出来るんですけど…」
「黙れ!ピーロ!。そんなものは営業の延長上の接客でしかないわ!!」
同伴をデートと言い張るピーロを激しく恫喝するセキュリスはさらに言葉を続けた。
「だがしかし…せめて誰か一人でもデートにまで漕ぎ着けることができれば…現状の突破口となりうるのに…」
セキュリスが行き詰まったようにそう語ると、筋肉ダルマであるガイが何かを思い出したようでこんなことを口にした。
「そう言えば…この前、アイロ嬢が男と楽しそうに歩いているのを見たぜ」
「なに!?アイロさんが男と!?」
自分があれほど積極的に攻めても波風一つ立たなかったアイロが他の男と歩いているという話を聞いて驚きの声を上げたセキュリス。
「男っていうことは…プレイヤーってことだよな?」
「デートにまでこぎつけたプレイヤーがいる…ということですな」
「そのプレイヤーの名前は分かるか!?」
「名前…名前は確か…『ユーキ』だったはず…」
「『ユーキ』…なるほど。攻略組の情報網を使ってさっそく探し出すぞ!!。スイマセーン!お会計お願いしまーす!」
前人未到のデートにまでこぎつけたと言われている『ユーキ』を探すべく、セキュリスは店を後にするために店員さんにお会計を頼んだ。
「あ、そういえば俺、SMクラブに通いつめて金がないんだった…」
「俺も死んだ時のペナルティーで全財産失ったからな…」
「私も、財布をすられて資金がスッカラカンで…」
お金がない四天王の三人は唯一お金を持っているセキュリスの方をチラチラと見ながらそんなことを口にした。
「ふふっ、金がないとは困ったやつらめ…」
そんな彼らを笑いながら、セキュリスは財布を取り出した。
「ところで…君達は知ってたっけ?」
「なにがだ?」
お金を取り出しながら三人にそんな質問をぶつけたセキュリスは三人を突き放すようにこんな言葉を述べた。
「俺は…女の子しか奢らない主義だってことを」
「…は?」
「すみませーん!!お会計、別々でお願いしまーす!!」
セキュリスは金のない三人をよそに店員さんにお会計は個別で払う旨を伝えた。
「待て待て!!ふざけんじゃねぇ!俺たちを見殺しにするつもりか!?セキュリス!!」
「あぁ!?フザケンナはこっちのセリフじゃボケェ!!なにが悲しくて野郎どもを奢らなきゃいけないんだよ!!。いい歳したおっさんのくせに甘えてんじゃねえぞ!?ボケェ!!」
先ほどまでの紳士的な態度が一変し、汚い言葉を吐き捨てたセキュリスは自分の分のお会計だけ支払ってとっとと店を後にした。
「謀ったな!?セキュリス!!」
「お客さーん…お会計がまだですよぉ?」
セキュリスを追いかけようとする四天王であったが、出口に目が笑ってない店員さんのゼロ円スマイルが立ちはだかった。
「いやぁ、そのぉですねぇ…いま持ち合わせがなくて…」
「…は?さんざん飲み食いして金が払えないと?」
「いやぁ、その…これには海よりも深いわけがありまして…」
「その『海よりも深い』って言葉…身を以て味わって見ますか?」
やがて、酒場に彼らの断末魔がこだました。
そんな彼らを尻目に、セキュリスはゲームの世界の美少女とイチャイチャしたい全プレイヤーの願いを叶えるべく、その突破口となりうる『ユーキ』というプレイヤーを探して街に出かけるのであったとさ。