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この劔に込められしものは…

パーティとは名ばかりのゴミ共に足を引っ張られ、アイロとのデートが一時中断となったユーキだが、ゴミ共の追跡を振り切り、アイロの元へと戻って来た。


「あっ、ユーキ、どこ行ってたの?」


お気に入りの可愛らしい服を田中ちゃんの宣言通り返り血塗れにされたアイロは別の服に着替えて、元いた場所に帰って来てユーキを待っていた。


「ごめんごめん。ちょっとゴミをリサイクルに出してただけ」


「…ふーん」


デート中にゴミをリサイクルするのもなかなか斬新なことだが、あまり興味がなかったのか、アイロも深くは追求しなかった。


「次はどこ行こうか?」


時間も時間なのでそろそろどこかでご飯を食べてもいい頃合いなのだが、あいにく金を一銭も持っていないため、その選択肢がないユーキはとりあえずアイロに次の目的地をどうするかを聞いてみた。


「そうだね…あんまりお金がかからないところがいいかな?」


ユーキの懐事情を知っているアイロはユーキを気遣ってそんなことを提案した。


「お金がかからないって言うと…何か見に行ったりとかかな?」


「じゃあさ…お城を見に行かない?」


話し合いの結果、城下町を見下ろすマサラ城を見に行くことになった。









「改めて見ると…でかい城だな」


このゲームの世界に来てからしばらく経つが、流浪の旅を繰り返す冒険者という商業柄、ゲームのプレイヤーのくせにこれまでまったく城に縁がなかったユーキはまじまじと城を見る機会がなかったため、その大きさに改めて感嘆の言葉を口にした。


「ユーキはマサラの王族について知ってる?」


突然そんな質問を投げかけて来たアイロにユーキは首を横に振って返答する。


「マサラの王族はこの世界で唯一の光魔法が使える一族でね。その魔法と人々を率いて世界を征服していた魔王を倒し、封印させることに成功したの。それが今から300年前の出来事。その後、初代の国王となったマサラの名をから、この国にはマサラという名前が付けられたの」


「へぇ、世界で唯一光魔法が使える一族か…羨ましいなぁ。俺も自分だけのユニークスキルが欲しいなぁ」


『自殺用の魔法を使いこなせる奴なんてお前だけだろ』というツッコミはさておき、王族という特別な血筋を羨むユーキ。


こういうゲームの情報は元管理者である田中ちゃんに聞けば1発で分かるのだろうが、せっかくのゲームなのでネタバレを避けたいユーキは今までそういうことを田中ちゃんから聞いたことがなかったため、そういう情報には疎かった。


「今でも有事の際は王族が率先して戦えるように毎日訓練を重ねてるんだけど…近年は平和が続いてるから今の王子はちょっと腑抜けててね。よく稽古をサボっては城を抜け出してるんだ。…悪い子ではないんだけど…マイペースなんだよね」


「へぇ…詳しいね、アイロ。王子と会ったことあるの?」


「うん。実は私は鍛冶屋としての腕を見込まれて城によく武器や防具を献上しに行ってるの。その時に王子とは顔を合わせるの」


「へぇ、王様に作ったものを献上とか…すごいじゃん」


「へえぇ、すごいでしょ」


ユーキに褒められたのが嬉しかったのか、照れ臭そうにそう言って笑って見せた。


「まぁ、アイロの腕は俺も身を持って味わってるからな。当然と言えば当然か」


まともな冒険などしたことはないが、伊達に鍛冶屋の常連客になってはいないユーキもその実力は知っていた。


「そう言ってもらえると嬉しい。小さい頃からずっと修行して来たからこれだけは得意なんだ」


「鍛冶屋が好きなんだな、アイロは」


「うーん…好き、なのかな?。ずっとやって来たからこれが当たり前っていうか…でもやりがいはあるよ。やっぱり良いものを作ったらお客さんも喜んでくれるし、なにより…自分が強い武器や防具を作れば…それだけ戦いで犠牲になる人が少なくなる。だから…これは私にしかできない大切な仕事なの」


アイロは淡々とそう語ったが、その言葉には真に迫る物があった。


「あ、ごめん、つまんない話をして…」


「いや、そんなことないさ。俺、思わず尊敬しちゃったし」


「そ、そうだ!よかったら城の中も見て行く?。私がお願いすれば多分中に入れてもらえると思うんだけど…」


話題を逸らすかのようにアイロは慌てながらそう提案した。


「…いや、遠慮しておく。連れとしてお城に入るなんて冒険者として不名誉な気がするし」


だがせっかくのゲームの世界なのに誰かのお供として城にお呼ばりされるのが嫌だったのか、ユーキはそう言って断った。


「…一般人がお城の中にお呼ばれする機会って滅多にないと思うけど…大丈夫なの?ユーキ」


「上等だ。いつかは王様が自ら頭下げてお願いされるような冒険者になってやるよ」


「そっか…頑張って、ユーキ」


果たしてこんな尊い命を使い回すだけしかしてない冒険者が王様にお呼ばれする機会などあるのか…と、言いつつも実は思わぬ形でその機会は意外に早く訪れることになる。


まぁ、それはさておきまだ見ぬ王族達に想いを馳せていたユーキの元に魔の手が忍び寄って来た。


冒涜的なメイド服の着こなし方をしたその少女はユーキ達を見かけるや否やズガズガと近寄って来て話しかけて来た。


「ユーキ…その女は誰よ?」


いきなりそんなことを言われたユーキが振り返ると、そこには御察しの通り、田中ちゃんがいた。


「ねぇ、答えてよ!ユーキ!その女は誰よ!?」


先ほど殺されといて知らないわけがないのだが、ユーキのデートをどうにかして邪魔したい田中ちゃんは迫真の演技でユーキの胸元を掴みながらそんな言葉を吐いた。


「…ユーキ、その人、誰?」


格好は怪しいがいかにもなその女の登場に何かを察したアイロは不安そうにそう尋ねた。


「いや、こいつはそんなんじゃないから、勘違いするなよ」


田中ちゃんに言い寄られながらも冷静に応答するユーキ。だが、人が楽しそうにデートしているのが許せない器の小さい田中ちゃんがこの程度で引っ込むわけもなく、田中ちゃんの嫌がらせは続いた。


「私っていう人がいながら、こんな女とイチャイチャするってどういうことなの!?」


無駄にレベルと演技力が高い田中ちゃんの言葉は力がこもっていた。


だが、ユーキにはその裏側でうすら笑う汚い笑顔が見えていた。


「ふざけんな!お前みたいな女に言い寄られる俺の気持ちにもなれ!!」


「そんな…私たち、苦楽を共にすると誓った(強制)仲じゃない…」


無駄に演技に熱がこもっている田中ちゃんは涙を流しながらそんな言葉を吐いた。


「なにが『苦楽を共にする』だ。どう考えても『苦や苦』しか共にしてないだろ?」


ユーキの的確なツッコミを尻目に、さらに状況を悪化させるべく、そこにシンが話に加わって来た。


「女遊びもいい加減にしてよ!!パパ!!」


「さすがにパパは無理があるだろ!?」


自分のことをパパと言い張るシンに叫ばずにはいられなかったユーキ。


「…ほら、やっぱりパパは無理だって…」


自覚があったのか、シンは小さな声で田中ちゃんにそう耳打ちをした。


「じゃあ親子じゃなくて彼氏路線で行こう。BLの方がまだ真実味あるだろ」


「えぇ…嫌だよ」


「おいおい、ここで引いたらリア充を邪魔できないんだぞ?。お前は指をくわえて黙って見ているだけでいいのか?」


「…まぁ、リア充を屠るためなら仕方ないか」


一通り話し合いを終えた後、何事もなかったかのようにユーキ達の方に向き直って口を開いた。


「酷いよ!ずっと一緒にいたのに…僕を騙したんだね!?」


「私という女がいながら…裏切ったわね!!ユーキ!!」


脚本はガバガバだが無駄に演技力だけはある茶番を目の当たりにし、ただただ呆れるユーキ。


なにが彼らをそんなにも必死にさせるのか…二人はユーキに必死の眼差しを向けていた。


ユーキはそんな二人の眼差しに心当たりがあった。


それは負け犬の眼差し。身内以外の異性とろくに関わらなかった寂しい青春時代を過ごして来た者が放つ特有の眼光。恋人ができない理由を時代や社会や環境のせいにして自らを省みることなくただひたすらに仲間内でなにかを知ったかのような口ぶりで愚痴を吐くだけの哀れな存在。


奴らは自らを正当化するべく、憎きリア充をハイエナのように淘汰し、勢力の拡大を目論む。そしてお互いの傷口を舐め合いながら寒々しい世界を生きていく…その様子はまさしく負け犬。


あの二人の中に入ってはいけない。あの二人の二の舞になってはいけない。例え奴らを踏み台にしてでも、俺はこっちのステージに踏みとどまらなければいけない。


シンと田中ちゃんを見ていてそういう結論に達したユーキ。…これでもこいつら同じパーティなんだぜ?。


これ以上二人に関わることに生産性を見出せないユーキはアイロの手を掴んでその場から逃げ出した。


「え?…置いていっていいの?ユーキ」


「当たり前だ!!関わるだけ時間の無駄だ!!」


逃げている際中、アイロにそう尋ねられたユーキはそんなことを叫んだ。…散々関わってきて散々時間を無駄にしたユーキが言うのだから説得力がある。


そのまましばらく走って追いかけてくるハイエナを振り切った二人。その場に立ち止まって二人で息を整えた。追ってくるやつらの目に真に迫るものがあったせいか逃げるのに必死だった二人はもう繋ぐ必要のない手も繋いだままだった。


しばらくして、息が整って余裕が出てきたのか、いきなりアイロがクスクスと笑い始めた。


「…なんで笑うのさ?」


「だって…なんかよくわからないのに、なぜか必死に逃げて…おかしいんだもん」


「…まぁ、仲間から逃げるってのもおかしな話だ」


アイロに指摘されて自分が必死こいてなぜか仲間から逃げていることに気がついたユーキは独り言のようにそう呟いた。


気がつけば日も暮れ、城下町には西日が差していた。


『そろそろデートも終わり』…そんな雰囲気を感じ取ったユーキはここで手が繋ぎっぱなしだったことに気がつき、握っていた手を離した。


だが、すぐさまアイロが逆にユーキの手を握って来た。


「ごめんね。…もう少し…もう少しだけお願い」


弱々しい声でアイロはそうお願いした。


「…アイロ?」


「だって…この手を離したら、ユーキは行っちゃうんでしょ…」


そんなアイロの寂しい声がユーキの心に突き刺さった。


「じゃ、じゃあ…一緒に来ればいい」


アイロの言葉を耳にして一瞬だが手を離したくない衝動に駆られたユーキはそんなことを言った。


「一緒に冒険しよう。…そうすれば、この手を離す必要なんて…」


思わずそんなことを口に出したユーキ。だが、アイロは静かに首を横に振った。


「気持ちは嬉しいよ、ユーキ。だけど…それは出来ないの。この街には私を必要としてくれる人が大勢いるし、それに…私は鍛冶屋だから。この街で…この手で…誰かを守る鉄を叩かなきゃいけないの」


アイロはそう語ると、懐から一本の剣を取り出し、ユーキに渡した。


「今日はありがとう。約束の剣よ、受け取って、ユーキ」


アイロが渡したその剣は不思議なことにうっすらと青い光を放っていた。


「…これは?」


「私特製の魔法効果を付与したの。きっと役に立つと思うよ」


剣を握ったユーキは体に不思議な力が伝わってくるのを感じた。


「いいのか?アイロ」


「うん。…だけど、この魔法効果が付与された武器は私しか整備できないの。だから…どこに冒険しても…どれだけ遠くに旅しても…必ず私のところに生きて帰って来てね」


「ありがとう、アイロ。必ず帰ってくるよ」


「うん。じゃあそろそろお別れだね」


アイロはそう言って握った手を離した。


「…仲間が待ってるよ、ユーキ」


そう言ってアイロはこちらに近づいてくるユーキのロクでもない仲間たちを指差した。


「こんなところにいたのね!!私という女がありながら…」


「どうせ僕は遊びだったのね…」


しつこく演技を続ける二人を尻目に、アイロはユーキを置いて走り去ってしまった。


心残りがあったユーキはせめて何か声をかけようと思ったが、かけるべき言葉が見つからず、なにも話すことができなかった。


「お?とうとう破局かな?」


「全く…手間かけさせやがって…」


リア充への制裁が終わったシンと田中ちゃんはアイロを見送った後、いつもの態度に戻った。


「振られて残念でしたね、心中お察ししますよ、ユーキ。今晩はユーキを慰めるためにも奮発して赤飯を炊きましょうか?」


表情だけはユーキに同情しているナビィは惚けているユーキを見ながらそんなことを口にした。


「………」


しかし、ユーキに反応はなかった。


「…もしかして…マジで傷付いてたりします?」


アイロに振られたことに本気で傷ついたのか心配したナビィはユーキにそう尋ねたが、ユーキは首を横に振った。


「いや、そんなんじゃないさ。さあ、行こう。…冒険者は冒険者らしく」


こうして、アイロとのデートを無事に終えたユーキは新たな剣と待ち人を得たとさ、めでたしめでたし。

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