表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/121

すでに何千と殺人を積み重ねてるけどゲームの中なら無罪

「で、どうするよ?」


攻略組と呼ばれる『銀弓のハンター』こと、セキュリスの攻略を見に行ってただただ時間を無駄に浪費したことに後悔をしていた田中ちゃん達一行は今後の方針を話し合うべく、酒場に戻ってきていた。…最近こいつら今後の方針について話し合ってばっかだな。


「もう諦めて素直にアルバイトしません?。もう冒険とかどうでもよく無いですか?」


冒険で未だにろくな目にあってないくせにそれでも冒険にすがりつく田中ちゃん達にナビィは呆れ気味にそんなことを言った。


「本当はもっと本格的な冒険に行きたいのだが…あいにくだが私達にはそもそも敵を倒すすべしかない」


攻撃は当たらない田中ちゃんはもちろんのこと、レベル1のシンは論外、レベルもそこそこあるユーキも折れた剣と自殺用の魔法しかない。そういうわけでそもそもモンスターにダメージを与えるすべすらほとんどないため、モンスターに出会っても一方的に蹂躙されるしかないのだ。


まずは継続的にモンスターにダメージを与えるすべが必要、そう考えた田中ちゃんはこんなことを提案した。


「ユーキ、ひとまずお前の武器を直そう」


「俺の武器を?」


「現段階でまともに攻撃が出来るのはユーキだけだからな、まずはお前の武器だけでも直す必要があるだろ」


「それはそうだが…金はどうすんだよ?俺たちは自慢じゃないがここ最近はずっと一文無しなんだぞ?」


「酒場に来て水しか飲まないくらいですもんね」


そもそもなぜ酒場に来る必要があるのか…。まぁ、他にゆっくりと話し合いができる場所とかないからね。


おかげで店員からの視線が痛い田中ちゃん達。だが、所詮はNPCに過ぎない奴からの視線など物ともしない田中ちゃんは話を続けた。


「金が無いなら、値切ってもらえ」


「値切れって言われてもなぁ…」


「それが出来ないなら…剣だけ直してもらって金を払わず逃げてこい」


「おい、犯罪を助長するな」


「大丈夫大丈夫。このゲームの世界は一回殺されればどんな罪も帳消しになるからコンビニ感覚で行けるって」


「やめろ、倫理観狂うわ」


「まぁ、とにかくそんなに気負う必要はないさ。さらっと行ってさらっと殺されて許されてこい」


「ふざけんな、なにが悲しくてゲームの世界でコソ泥みたいなことせにゃならんのだ?」


「冒険に出たいんだろ?それなのにまともな武器もなしに冒険するのか?そんなんで満足のいく冒険に出来るのか?」


「ぐっ…」


「お前の冒険に対する思いは、その程度のことで潰えていいのか?」


「ぐ、ぐぬぬぬぬ…わ、わかった…」


罪悪感に苛まれながらも冒険への想いを捨てられないユーキは重い足取りで鍛冶屋へと向かった。





「…はぁ」


鍛冶屋を目の前に憂鬱そうにため息を吐くユーキ。


まぁ、これから犯罪に手を染めるとなれば気が重くなるのも無理はない。


そういうわけで鍛冶屋に入るのをユーキがためらっていると、後ろから一人の美少女が声をかけて来た。


「いらっしゃい、うちの鍛冶屋に何かご用で…って、ユーキ!?」


「よ、よう…」


ユーキに話しかけて来たのは運営の魔の手によって美少女の姿に変えられた鍛冶屋の元オヤジであった。


「久しぶりだね!!。いつマサラ城に帰って来たの!?」


心なしか嬉しそうにユーキを見つめる鍛冶屋の元オヤジ。それはユーキが常連客だからか、あるいは…。


「結構前に戻って来てたんだが…いろいろ忙しくてな」


「帰ってたなら会いに来てくれてもいいのに…って、あぁ!!私が直した剣、また折ってるじゃない!?」


ユーキが手に持っていた折れた剣が目に入った鍛冶屋の元オヤジは目を丸くしてそう叫んだ。


「もぅ…すぐ直してあげるから、貸して」


そう言って鍛冶屋の元オヤジはユーキから折れた剣を奪い取って鍛冶屋の中へと入っていった。


一文無しのユーキは後ろめたい気持ちを抑えながらその後を追って行った。


「まったく…本当にユーキはすぐ折っちゃうんだから…」


口ではそう言うもののどこか嬉しそうな顔をしている鍛冶屋の元オヤジ。


それは手間がかかる子ほどなんとやら…ということなのか、それとも剣をすぐ折るただのカモと思っているのか…。


その後、すぐに剣を直す準備を始めた。


払う金が無いユーキは後ろめたい気持ちでその様子を見守った。


やがて、剣を金槌で叩き始めた鍛冶屋の元オヤジ。その口からは時より喘ぎ声のような音が漏れる。


NPCが美少女になる前はここで鉄と鉄がぶつかり合う音をBGMに町の外の様子を眺めるのがユーキの趣味であったが、今や喘ぎ声のせいでそれすら叶わない。


しかしながら、剣と魔法から縁のない生活を送って来て、次第にこの世界に見切りをつけてきたからか、以前よりはそのことに関してはなにも思わなくなったユーキだが、その少女を騙す罪悪感のせいで暗い顔をしていた。


ゲームの世界とは言えど、盗みや騙しはよろしくはない。というか、そんなものに手を染めるためにこの世界に来たわけじゃない。むしろ、この世界なら誰かの助け、救世主と呼ばれる勇者になれる…そんなことを期待して来たのだ。それなのに…どうして…どうしてこんなことになってしまったのか…。


ユーキは己の不遇さを改めて実感し、己の不甲斐なさに涙を流した。


「どうして泣いてるの?ユーキ」


いつの間にか修理が終わったのか、新品同然に輝きを放つ剣を手に鍛冶屋の元オヤジは心配そうにそう声をかけて来た。


「前もここで泣いてたよね?ユーキ。…どうかしたの?」


そんな少女の質問に、ユーキはなにも答えることができなかった。


「私はさ…ユーキがここから町の外を澄ました顔で見てるのが好きだよ。一人でずっと刀をうってるとさ、時々刀に飲み込まれそうになって怖くなるんだ。でも、ユーキがいると頼もしいし、寂しくないから、ユーキがいてくれると嬉しい。だから、そんなユーキを涙が邪魔して曇らせているのなら、私はあなたの涙を取り除く力になりたい。だから教えて、ユーキ。あなたはどうして泣いてるの?」


まっすぐに自分を見つめ、気遣ってくれる少女。そんな健気で優しい彼女を裏切り、騙すような真似が田中ちゃんみたいに素でゴミクズみたいな性格をしているわけではないユーキにはできるわけがなかった。


だからユーキはその場に膝とひたいを付けて土下座した。


「ごめん!せっかく直してもらったのに、俺、いま金がなくて…」


必死で謝り、誠意を見せるユーキ。


そんなユーキを責めるわけにもいかないのか、少し考えるそぶりをした後、鍛冶屋の元オヤジはこんな提案をした。


「お金が無いんだ。…だったら、明日ちょっと遊びに付き合ってくれない?。私を楽しませてくれたらチャラにしてもいいよ?」


「いいのか?」


「うん、ちょっと明日は休みなんだけど、予定もなくて暇だったから…ちょうどいいかなって」


「わかった。ぜひこき使ってくれ、なんでもやるからさ」


「うん、楽しみにしてるよ」


こうして、ユーキは鍛冶屋の元オヤジことアイロと1日デートすることとなったとさ。







「いや、なんでお前そうなるんだよ?」


相変わらず酒場で水を片手に田中ちゃんがユーキに問いただした。


金を払わず逃げてこいと言ったのに、なぜかデートする羽目になったユーキに疑問が隠せない田中ちゃん。


「ギャルゲーか?やっぱりお前はギャルゲーをしたいのか?」


「別にそういうわけじゃねえよ」


「でも良かったですね。金を払うどころか、女の子とデートしてチャラとか完全に役得ですね」


「だよね。僕も羨ましいと思うよ」


怪訝な顔をする田中ちゃんと比べて、ナビィとシンはユーキの後押しをするようにそんなことを言った。


「まぁ、こうなった以上は仕方がない。あのアイロとかいうNPCを満足させるまで剣はお預けなんだろ?。だったらあの女を満足させてやれよ」


田中ちゃんもパーティの火力のために渋々そんなことを言った。


「でも、デートねぇ…どうしたものか…」


「そんな悩めるユーキにこのナビィがデートのアドバイスをして差し上げましょう」


不安そうなユーキにナビィが自信満々にそんなことを口にした。


「ナビィのアドバイス?…不安だな」


そんなナビィを見かねて田中ちゃんも自信満々に口を開いてこう言った。


「だったら私も一乙女としてアドバイスをしてやろう」


「…え?乙女?」


「なんか言ったか?シン」


「いえ、なにも言ってないです」


自分の失言を取り消すシン。


そんな最中、ナビィ先生のアドバイスが始まった。


「デートなんて別に難しく考える必要はありません。ただ女性の考えていることを察して、相手が口にする前に行動してあげてください。例えば相手がお腹が空いてそうだったら、お腹が空いてないか聞いてあげてください。間違えても相手に『お腹が空いた』などと言わせて恥をかかせるような真似はしないでください。それと別に無理に良い男を演じようとしないでください。女性が真に求めているのはただの良い男ではなく、都合の良い男です。寂しいときにはそばにいて、それでいて邪魔にはならず、会いたいときに気軽に会えるような安い男です。ご主人様に呼ばれれば犬のように駆けつけ、それでいて非常に便利な存在です。言うなれば奴隷です。奴隷になってください。ユーキなら大丈夫ですよね?奴隷なら慣れっこですし」


ナビィが一通りアドバイスを言い終えた後、すかさず田中ちゃんが追撃を加えた。


「それと後、退屈なのはNGな。ちゃんと女性を楽しませろよ?。あ、楽しませるって言っても夜景の綺麗なところに連れて行けばいいとか考えなくていいぞ?綺麗っちゃ綺麗だけど感動なんて一瞬で過ぎ去るからな。長時間一緒に楽しむなら会話で楽しませるのが一番だろ。会話で楽しませるって言っても話し上手になれって言ってんじゃねえぞ?。むしろお前の話とか興味無いからしなくてもいいからな。重要なのは話すことよりも聞くことだからな?。クッソつまらねえどうでもいい愚痴で聞いてるだけで不快だとしても必死こいてウンウン頷いて共感してやれよ?。あっ、言っておくけど、共感するだけでいいからな?別にお前の貧相な意見とか求めてないからな?。つまらなさ過ぎて苦痛だとしても、心を無にしてただひたすらに話を聞くだけのマシーンになれ


二人のアドバイスを聞いたユーキ。二人に現実を突きつけられたことで気分が沈んだのか、最後にこんなことを口にした。


「…なんか、急に行きたくなくなったんですが、それは…」


こうして、ユーキとアイロのデートは幕を開けたとさ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ