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レベル99、詰みです

者権限を取り戻すべく、冒険の旅に出た田中ちゃん。デバックルームの略奪、デスゲームの崩壊、全員女の子になってしまったNPC…もはやファンタジーとしての緊張感もクソもなくなってしまったこのゲームだが、田中ちゃんはまだ生死をかけたデスゲームに戻すことを諦めていなかった。


なぜなら、田中ちゃんは素早くこのゲームをクリアする術を知っているのだ。そう、全くテストプレイをしていなかったバグだらけのこのゲームには他にも致命的なバグがある。全身にジャージをまとい、髪を団子でしまったまま寝巻きで冒険で出た田中ちゃんが今から向かっているゴブリンの森でやろうとしているのもその一つだ。


このゲームには週に一匹だけ、メタルゴブリンというモンスターが特定の場所に出現する。このモンスターはいわゆるボーナスモンスターで弱いくせに大量のブラッド(この世界の通貨のようなもの)を持っている。ちなみにどれくらいのブラッドを持っているかというと50万ブラッド…ちなみにラスボスは1万ブラッド程なので、ラスボスの50倍である。…もはやこの時点でデバック不足による致命的なバランスブレイカーだが、それ以上に致命的なバグがこのゲームにはあった。


ゲームの元管理者の田中ちゃんは勿論、メタルゴブリンの出現場所を把握しているため、簡単に出会うことができた。


メタルゴブリンは田中ちゃんを見るや否や、某ゲームのアレの如く逃げ出したが、執拗に追い回す田中ちゃんの手によって徐々にHPが削られ、とうとう田中ちゃんの手によってやられてしまった。そしてメタルゴブリンを倒すその瞬間、同時に田中ちゃんは『テレポの翼』という一瞬で町に帰ることが出来るアイテムを使用し、町へと帰還した。


メタルゴブリンを倒したことによって得られた50万ブラッドを教会に寄付してレベルを可能な限り上げた田中ちゃんは、またもやゴブリンの森へと訪れた。


するとどうだろうか?先ほど倒したはずの週に一匹しか出現しないはずのメタルゴブリンがそこに復活していたのだ。…いや、正確に言うならば死んでなかったが正しいのだろうが。


先ほどと同様に逃げ出すメタルゴブリンを追い詰め、なぶり殺しにした田中ちゃんは先ほどと同様にメタルゴブリンを倒すと同時に『テレポの翼』で町へと帰還した。


先ほどと同様に教会に寄付してレベルを上げた田中ちゃんは再びゴブリンの森へと戻ると、またもやそこにはメタルゴブリンがいた。


そう、これこそがこのゲームの致命的なバグの一つ。実はこのゲームはモンスターを倒すとまず倒したブラッドの入手の判定が行われ、その後、モンスターが消える判定が行われるのだが、このゲームにはその二つの判定に大きなタイムラグがあり、ブラッドの入手の判定の後、モンスターが消える判定が行われる前に『テレポの翼』などのアイテムでエリアチェンジすることにより、モンスターを倒した判定を行わせないということができる。これによって倒したはずのメタルゴブリンのブラッドだけを入手して、何度でも倒すことが可能になるのだ。


そのバグを知っていた田中ちゃんはバグをフル活用し、メタルゴブリンを倒し続ける日々を送り、メタルゴブリンを数百匹倒した頃…。




「この教会に寄付した戦士田中に幸あれ…」


教会の神父は98回目のレベルアップのための寄付を納めた田中ちゃんに向かって祝福の言葉をかけた。


ちなみに協会の神父は本来はおじさんなのだが、萌え豚の陰謀により、髭の生えた幼女に成り下がってしまっている。


そんな幼女から祝福を受けた田中ちゃんはとうとう最後のレベルアップを終えた。


SP(スキルポイント)は一度割り振ったら振り直しは出来ないからな、慎重に選びなさい」


レベルアップ後のいつもの神父の言葉を聞き終えた田中ちゃんは最後のスキルポイントの振り分けを終え、教会から出て行った。






キャラ名 田中


職業 戦士


レベル 99




ゲームが始まってからまだ10日も過ぎていないにもかかわらず、田中ちゃんはレベルを最大まで上げ切ってしまったのだ。


もうこの時点でこのゲームがクソゲーなのはおわかりいただけただろうが、このゲームにはまだまだ欠点とも言える、明確な攻略法がある。それはステータスに関する攻略法なのだが…。


そう、このゲームのある仕様を知っていれば、自ずとあるステータスにSPを振り分けるのだが、その攻略法を熟知している田中ちゃんの現在のステータスを見てみよう。




プレイヤー名 田中


職業 戦士


レベル 99


ステータス


HP 999

MP 1


STR 999

DEF 1

DEX 1

INT 1

LUK 1



そう、このゲームの攻略法はずばり、『レベルを上げて物理で殴る』ことである。


このゲーム、STR以外はハッキリ言って必要無いのだ。


DEFはレベルが上がれば勝手にあがるHPで十分事足りるし、DEXは宝箱を開けるときや罠の解除などの成功確率に関わるのだが、『盗賊の鍵』というどんな宝箱でも開けられるて罠も解除できるアイテムが安価で簡単に手に入るし、INTも魔法の効果に関わるのだが、魔法は消費MPが多い割に効果が見合わないものが多く、ハッキリ言ってアイテムで全てまかなえる。


LUKに至っては何の意味も無いゴミステータスである。


そういうわけで、このゲームはレベルを上げて物理で殴るのが一番手っ取り早いのだ。


ちなみにSTRが999がどのくらいかというと、ラスボスを銅の剣で一撃で倒せるくらいの強さである。


そういうわけで、田中ちゃんにとってもはやこのゲームはクリアしたも同然なのである。


「ふぅ、今日はこの辺で寝て、明日から本格的に攻略しよう」


女の子しかいなくなってしまった町の宿屋に宿泊した田中ちゃん。


この調子でいけば、明後日あたりにはクリア出来る…などど考えていたのだが…田中ちゃんの本当の悪夢はここから始まる。






「もうそろそろお昼ですよ、生ゴミ風情がいつまで寝てるんですか?」


「あと5分…いや、あと50分」


「そんなに寝てたら粗大ゴミにランクアップさせますよ、起きてください」


ベットで寝ていた田中ちゃんだが、ナビィに起こされた。


「…一体どうしたの?ナビィ」


「マスターにゴミの様子を見てこいって言われたので…渋々様子を見に来たんです。それと、ゲームのアップデートのお知らせに来ました」


「…アップデート?」


「はい。ゴミのくせに敵をリサイクルするバグなんて使いやがったので、マスターが今後そのようなことは出来ないようにアップデートしたんです。具体的にはブラッドの入手の判定とモンスターが消える判定のタイムラグをなくしました。他にもいくつかの仕様の変更などもあるんですが…」


どうやら、田中ちゃんがバグをフル活用し過ぎたせいで例のメタルゴブリンのバグが萌え豚の目にとまり、対策をされたそうだ。


しかし、今更そんなバグの改善などしてももう遅い。すでにレベルがカンストした田中ちゃんに敵などいないのだから。


「マスターの手を煩わせるなんて…可燃ゴミならこの場で燃やせたのに…」


「ふっふっふ、ナビィよ、そんな口をきいてていいのかな?。すぐにでも私はこのゲームをクリアし、再びマスターに戻る日は近いのだぞ?」


「生ゴミの戯言にしては冗談が過ぎますよ?」


「言ったな?。私が再びマスターとなった暁には、お前をオークの巣に放り込んでエロ同人みたいな展開にしてやるよ」


ナビィにお灸をすえる算段をつけた田中ちゃんは寝巻きのままクリアを目指してすぐさま冒険に出かけた。


しばらく町の近くの草原を歩いていた田中ちゃんは最弱の敵の代表でもあるスライムと遭遇した。


「ふっふっふ、このレベル99の力を試すにはいささか非力ではあるが…いいだろう、貴様をこの刀のサビにしてやろう!!」


そう言って田中ちゃんは背負っていた大剣で力一杯切りつけた。


レベル最大、STR最大のステータスから振り下ろされるその一撃はもはや神の鉄槌の域に達する。


あまりに大きすぎるその衝撃は斬撃が肉眼で捉えられるほどの威力で、ただ大剣を振り下ろすだけというそのシンプルな一撃は空を断ち、大地を割り、海を裂いた。


かつてモーセが引き裂いた海の如く、大地にその傷跡を残した一撃はスライムには明らかに度がすぎるものであった。


哀れにも罪なきスライムはこの世に一片の肉片すら残せずその生を終えた…はずだった。


あの大地が揺らぐほどの威力の斬撃であったにもかかわらず、そこには五体満足の無傷なスライムがいた。…スライムに五体満足という表現もどうかと思うが…。


「おっと、どうやら力が大きすぎてうまく制御できなくて外してしまったようだ。…だが、今度はそうはいかんぞ?」


再び手に持っていた大剣を振るう田中ちゃん。無駄に力が有り余るその一撃から繰り出される風圧はあたりのものを一切合切吹き飛ばし、平原であったはずのその一帯を荒れ果てた荒野と変えた…が、なぜがそこには攻撃したはずのスライムだけが健在していた。


「ふっふっふ、君は運がいいな。…いや、むしろ悪いのか、この私の攻撃を3回も受ける恐怖を味わうことになるなんてな!!」


ただの通常攻撃のくせに大地に亀裂を入れたり、周囲を荒地にする迷惑極まりない必殺の一撃を再びスライムにぶつける。


だが、今度は確実に当てるため、スライムにじっくり狙いをすまして、スライムを上から剣で地面ごと串刺しにした。


レベル99、STR999から放たれるその一撃は…(以下省略)。


なんやかんやでその場に隕石でも落ちたかのようなクレーターが出来たが、スライムは元気だった。


「…なんで?」


確実にとらえたかと思えたその一撃が外れたことにさすがに困惑の色を隠せない田中ちゃん。


その後も通常攻撃を繰り返すこと数時間…かつては辺り一面に緑の絨毯に覆われた草原をクレーターだらけの月面に変貌させる劇的ビフォーアフターの結果、ようやくスライムを倒すことが出来た。


途中で何度もスライムから反撃をくらい、HPが10分の1くらいまで減ったその代償に田中ちゃんはスライムから1ブラッド手に入れた。


「なんで…攻撃が当たらないんだ…」


あまりの苦戦ぶりに何かのバグを疑った田中ちゃん。そんな彼女の元にナビィがやって来た。


「うわっ!?。ここって確か平原でしたよね?何したらこんな荒地になるんですか?核兵器でも使ったんですか?」


「それより、攻撃が全然当たらないんだけど、バグかなにかあるんじゃないの!?」


「え?攻撃が当たらない?。多分それはステータスの問題だと思いますよ」


「ステータスの問題?」


「はい、仕様の変更で攻撃の命中にDEXで判定することになったんです」


「…え?DEXで攻撃の命中判定?」


「それと、相手とのLUKの差によって、あらゆる判定にプラスかマイナスの補正がかかります」


「…具体的な攻撃の命中率ってどのくらいなの?」


「攻撃の命中判定の計算式は…(自分のDEX÷相手のDEX)×100%でそこにさらにLUKが上回っていればその数値分%にプラス、下回っていればマイナスになります。だから例えばの話ですけど

DEXが1、LUKが1とかふざけたステータスをしていると、ほぼ攻撃は当たりません。まぁ、まだゲームも始まったばかりですから、今は攻撃が当たりにくくてもこれからレベルを上げてステータスを割り振ればいいだけの話ですよ」


ナビィからの仕様変更を聞いたレベル99くせにDEXとLUKが1しかない田中ちゃんは絶望に満ちた顔でこんなことをナビィに聞いた。


「ねぇ、それって…レベルがカンストしてる人はどうすればいいの?」


「ははは、まさかレベルがカンストしてるのにDEXとLUKが1しかない人なんていな………あっ」


なにかを察してしまったナビィはさすがに居た堪れなくなり、こそこそと逃げるようにその場を後にした。


残された田中ちゃんは一人、絶望に満ちた表情でガックリと膝から崩れ落ちた。





キャラ名 田中


レベル99、詰みです。


おまけ


ナビィの解説コーナー!


ナビィ「ハイハイ!レベルカンストしたくせに詰んだ奴はザマァと笑って指差しておくとして、今日は親愛なるマスターによって素晴らしい仕様変更した後の攻撃の命中判定について解説するよ!それじゃあ早速、攻撃の命中判定の計算式を下に紹介するよ!」


((自分のDEX÷相手のDEX)×100+(自分のLUK−相手のLUK))%


ナビィ「みんな!わかったかなぁ!?。ファミコンのゲーム並にめちゃくちゃシンプルな計算式だね!。分からない人はいないと信じたいけど、分からないという人は普通に算数からやり直してね!。でもこれじゃあいまいちパッとしないと思うからここにさっき草原を破壊尽くした人類のゴミと犠牲になったスライムさんの値を入れて計算してみようね!」


人類のゴミ

DEX 1

LUK 1



スライムさん

DEX 10

LUK 9



ナビィ「はい、上がスライムさんのステータスだよ!。これでもう答えは分かったよね!?ゴミの攻撃がスライムさんに当たる確率は2%だよ!みんな大丈夫だよね!?分からなかった人はいないよね!?今回はスライムさんが相手だからギリギリ攻撃が当たったけど、もう少し敵が強かったら、具体的にはスライムさんのLUKがあと2あったら、もう攻撃は絶対に当たらないよ。詰みだね!!(満面の笑み)」


ナビィ「でも、まだまだゲームは続くから、きっとナビィの解説コーナーもあるよ!やったね!喜べ!。それじゃあ、次回までバイバイ!」

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