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物欲センサーは存在する(確信)

「ハイハーイ!それではこれより第2回状態異常ガチャを始めたいと思いまーす!!」


始まりの街、マサラ城の入り口にナビィの元気のいい声がこだました。


「…状態異常ガチャってなに?」


最近までずっと棺桶してたため、現状をあまり把握していないシンは状態異常ガチャという聞きなれない単語に疑問を抱いた。


「状態異常ガチャっていうのは、このポンコツがこれからランダムでかかる状態異常を吟味する活動のことですよ」


「誰がポンコツだ」


「…俺もポンコツだと思うなぁ」


ナビィのさりげないポンコツ発言に突っ込む田中ちゃんであったが、その隣でユーキが小さな声でぼそりとポンコツを肯定した。


そんな折、ナビィは久しぶりに蘇ったシンに向かって口を開いた。


「ところで…あなたはどなたですかぁ?」


「いや、いくら久しぶりだからって忘れてやるなよ」


シンのことをすっかり忘れてしまったナビィの発言にアシストを入れるユーキ。…個人的には彼はこのパーティの唯一の良心だと思う。


「とりあえず時間が惜しいからちゃっちゃと始めるよ」


「そうですね。ちゃっちゃとやってちゃっちゃと死にましょう」


街の外を出た田中ちゃん。すると突然、その視界は真っ暗闇に包まれなにも見えなくなった。


「どうやらこれは…暗闇の状態異常のようだな」


暗闇は視界が完全になにも見えなくなる状態異常である。


「さすがになにも見えないんじゃまともに冒険できないな。…よし、全滅しよう」


まるでコンビニに行く感覚で全滅を提案する田中ちゃん。


「でもどうやって全滅するよ?。またナビィに消し飛ばしてもらうか?」


「あ、私の全滅サービスは初回は無料ですけど、2回目からは一回1000ブラッドもらいますよ?」


ナビィは親指と人差し指で円を作り、ゼニを要求してきた。


「なんだよ、最初はノリノリで殺ってくれたのにさ」


「殺して欲しいって言ってる奴を殺しても、私のサディストは燻られないって、私気がついたんですよ」


「さすがは鬼畜妖精」


ナビィの協力を得られない以上、自分たちの力で全滅をしなければいけなくなった。


…大量に醤油でもあればそれで心中できたかもしれないが、残念ながらいまはそんな便利なものは持ってない。


まさか醤油が必要になる場面など来るとは思わず、以前醤油を売ってしまったことを後悔した田中ちゃんだが、無いものは仕方がないので、ユーキとシンのうち、攻撃力の高いユーキに田中ちゃんはお願いした。


「仕方がない。ユーキ、一思いに殺ってくれ」


「…マジかよ」


介錯を頼まれたユーキだが、さすがにためらいがある。しかし現状、おそらく田中ちゃんとシンの攻撃はユーキにはほとんど当たらないので、パーティの自滅に適しているのは自分であることを悟ってしまった。


「…仕方ない」


ユーキは以前折ってしまった剣を装備し、田中ちゃんをタコ殴りにした。


無駄にHPが高い田中ちゃんを削りきるのにはなかなか時間がかかり、ようやく田中ちゃんを亡き者にした頃には、ユーキにも疲れが見えていた。


「はぁ…はぁ…無駄に疲れた」


そんなパーティ内で殺しあう様子を間近で見ていたシンはトラウマが蘇ったのか、岩陰に隠れてガタガタ震えていた。


そんなシンにユーキは話しかける。


「えっと…悪いんだけど、一度全滅する必要があるから…殺されてくれ」


ユーキにさらりと残酷な言葉を告げられたシンはずっと棺桶のまま放置されていたトラウマが蘇り、恐怖で顔が歪んでいた。


「大丈夫大丈夫、今度はすぐに蘇るからさ」


優しくユーキがそう声をかけるが、シンは涙を流しながら首を横に振った。


「大丈夫大丈夫、今度は一人じゃないし、すぐ俺もそっちに行くからさ」


「…なんかヤンデレみたいな発言ですね」


ユーキの説得にナビィが横から口を挟んだ。


それでもシンは頑なに首を横に振り続けていたため、拉致があかないと判断したユーキはめんどくさいのでいきなり剣で切りつけ、とどめを刺した。


「読者の皆様、ご覧ください。これが剣と魔法の世界の冒険ですよ」


誰に向かって話しているかは知らないが、まるでレポーターのように棺桶が二つも転がる殺伐とした現場を伝えるナビィ。


「…俺だってやりたくてやったわけじゃないさ」


二人もの人間をその手にかけたユーキであったが、その行動とは裏腹に声には哀が見られた。


どんな悪人にも事情があり、この世には絶対悪などない…まるでそんなことを物語っているかのように…。


それはさておき、二人をぶっ殺したユーキだったが、自分でどうやって死のうか悩んでいた。


このゲーム、自分自身に攻撃はできないので、何か方法を考える必要があった。


そんな悩みを抱えるユーキにナビィが解決策を教えてくれた。


「あそこに大きな岩があるじゃないですか?。あれに顔面を思いっきりぶつければ自傷が可能ですよ」


そう言ってナビィは近くにある岩を勧めてきた。


とりあえず他にいい手段が思いつかないユーキは岩のところまで歩き、顔面を思いっきり強打して見た。


結果、1ダメージ受けた。


確かにナビィの言う通り、自傷は可能だが、レベルが11でHPが110もあるユーキはあと109回も顔面を強打する必要があった。


だが、他に有効な手段も思いつかないユーキはひたすらに顔面を岩に打ち鳴らし始めた。


1ダメージを蓄積し続けた挙句、110回目でようやくユーキは事切れることができた。


「うーん、惜しいですね。あと2回少なければ煩悩の数と同じになるのに…」


ユーキがひたすらに岩に顔面を強打する様を除夜の鐘に見立てたナビィがそんなことをぼやいた。








「おお、戦士田中よ、死んでしまうとは情けない」


教会で神父(幼女)に蘇らせてもらった田中ちゃん達。いくら意図的とは言えど、自滅して全滅するのは気分が良くないのか、皆げんなりとしていた。


「さあ、デスマラソンは始まったばかりですよぉ!!いいガチャが引けるまで、張り切って死にましょう!!」


そんな彼女らを鼓舞(?)するナビィは3人の哀れな冒険者の様子を見ながらいい顔をしていた。


「俺はあと何度顔面を強打することになるのか…」


ナビィの言葉に絶望したユーキは一人でそんなことをぼやいた。


そんな中、ある一人の男がこっそりと教会から出ようとしていた。…もちろん、正体はシンである。


棺桶になることに対するトラウマがさらに強まった彼は今度こそ逃亡すべく見つからないように教会を後にしようとしていたのだ。


田中ちゃんたちに気がつかれないように慎重に足を運んだつもりだったが、出口付近でチラリと様子を見るために振り返った時、思わず田中ちゃんと目があってしまった。


「待てや!!ゴラァ!!」


こうして、再び彼らの剣と魔法の世界の旅が幕を開けたのである。





数分後、今度は田中ちゃんの手によって問答無用で棺桶にされたシンと田中ちゃんとユーキ、そして鬼畜妖精ナビィの姿が街の出口付近にあった。


「さあ!さあ!次は何が出るかなぁ!?」


まるで中身の知らない宝箱を開けるかのように目を輝かせるナビィに反して、二人の表情は暗かった。


だが、前に進まなければ始まらないので田中ちゃんは再びガチャを回すべく、街の外へと足を踏み出した。


4回目の状態異常ガチャの結果、田中ちゃんは混乱の状態異常にかかった。


混乱の状態異常にかかると本人の意思とは別に勝手に近くにいるキャラクターを攻撃するようになる状態異常なのだが…。


混乱にかかった田中ちゃんはいきなりユーキに攻撃をし始めた。


無駄にSTRが999あるので、その攻撃の一撃一撃が神の鉄槌に等しいものなのだが…どれもこれもユーキには当たらず、ただいたずらに辺りの地形を変貌させるだけだった。


とりあえず冒険もままならないので、これ以上被害が広がる前にユーキが田中ちゃんのとどめを刺した。


その後、何も喋ることなく、ユーキは近くの岩盤に顔面を強打し始めた。


110個の煩悩を消し終えたユーキは無事に棺桶になることができた。


「人間は110個の煩悩を消したら死んでしまう…うーむ、これは新たな発見ですね」


残ったナビィがそんなことを呟いた。





「おぉ、戦士田中よ。死んでしまうとは…(以下省略)」


教会で神父(幼女)に…以下省略。


とりあえず蘇った田中ちゃんはなにも話すことなく、逃げられる前に蘇ったばかりのシンに有り余る攻撃力でとどめを刺した。…これが俗に言う、リスポーンキルである。


その光景にユーキもなにを話すでもなく、二人は黙って教会を後にし、再びガチャを回し始めた。


そんな調子で、とりあえず10連ガチャに挑戦したのだが…。



「おぉ、戦士田中よ。死んでしまうとは情けない。…っていうかちょっと死にすぎじゃない?」


教会で神父(幼女)に心配されてそんな言葉をかけられた田中ちゃん達。


「あ、お気遣いなく。彼らが好きでやってることですから…」


そんな神父(幼女)にナビィがそんな返事を返した。


「へぇ、好きでねぇ〜。奇特な方もいるものですな」


神父(幼女)は感心してそんな言葉を述べた。


そんな神父(幼女)が改めてその奇特な方々を見ると、蘇ったばかりなはずなのに一人はすでに棺桶になっていた。


「本当に奇特な方々だ…」


田中ちゃん達の異様な光景を前に、神父(幼女)はただただ感心をしていた。






10連ガチャの結果、ろくな状態異常に巡り会うことができず、二人は途方に暮れていた。特にユーキに限っては1000回くらい岩盤に顔面を強打していたので、精神が狂いそうになっていた。


「俺は…あといくつの煩悩を消せば救われるのですか?教えてください…フィーネ様…」


奴隷として健やかに、崇拝するフィーネ様の御許で働いていた頃が妙に輝いて見えるユーキは、思わずフィーネ様に助けを求めてそんなことを呟いた。


「ふっふっふ…あははははははは!!!!!」


隣にいた田中ちゃんも気が狂ったのか(元からか?)突然一人で高笑いをし始めた。


「あーあ、とうとうナビィのオモチャが壊れましたねぇ…」


攻撃が当たらない、装備が変更できない、街を出るたびに状態異常…etc。さすがに苦行の多さにとうとう参った田中ちゃんを見ながらナビィがそんなことを呟いた。


「案ずるな、ナビィよ。…まだ私の冒険は終わっていない。まだ奥の手が残っている」


だが、そんなナビィの思いに反して、田中ちゃんの目は死んではいなかった。


「なにか策があるというのか?田中」


藁にもすがる思いで田中ちゃんに問いただすユーキ。


「私も、こればかりは使うまいと思っていたのだがな…どうやらこのゲームは私を本気にさせたようだ」


「一体…どんな作戦が?」


「ふっふっふ、状態異常がランダムで発生するのならば、そのランダムの乱数を操作して望みの状態異常を引き当てればいいのだ」


「ま、まさか…田中…」


「これより…乱数調整による状況再現を行う」


次回、田中ちゃん達の真の苦行が幕を開ける。

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