やっぱりソーシャルゲームといったらガチャでしょ
「で、これからどうすんだよ?」
装備した装備が全ての呪われる呪いにかかった田中ちゃんが奴隷の指輪を外せないことにより相変わらず奴隷の街で足止めを食らっていたユーキが田中ちゃんにそう声をかけた。
奴隷の指輪をつけていた際に命令されたことはその命令した本人ですら取り消すことができないのだ。
故に元主人であるフィーネに頼んで解決するような簡単な問題でもなかった。
田中ちゃん自身も指輪をなんとかして外す策も思い浮かばないため、事態は硬直していたが、このまま街に止まるわけにもいかず、田中ちゃんは苦肉の策に出た。
「こうなれば…問題ない状態異常が出るまで街を出ることを試みるしかないだろう」
田中ちゃんが言うにはこの奴隷の指輪で発動する状態異常はランダムなため、何度も街を出ることを試みればそのうちかかっても問題ないような状態異常になるとのことだった。
例えばこのゲームには『痴呆』という状態異常があり、これにかかるとINTが強制的に1になってしまう恐ろしい状態異常なのだが、セルフ痴呆である田中ちゃんにはなんの問題もない状態異常なのである。
このように田中ちゃんがかかっても問題ない状態異常はいくつかあるため、街を出た際にこれらがかかるまで何度でもやり直せば、例え状態異常にかかっても問題なく旅が出来るのだ。
「でもさ、状態異常は一度かかったら治すのは大変なんだろ?。一度状態異常にかかったら街に戻ったって治らないし…どうやって状態異常を治すんだよ?」
ユーキの疑問に田中ちゃんは自信満々に答えた。
「ふっふっふ、このゲームで状態異常を治す時は3つの方法がある。まず一つがアイテムを使う方法、二つ目が魔法を使う方法。そして三つ目が…死んで治す方法だ」
「死んで治す?」
「そう、このゲームの状態異常は全て死ぬと治る仕様になっているのだ。だから街を出て気にくわない状態異常にかかったなら一度死んで、教会で蘇生してからもう一度再挑戦すればそのうちいい状態異常になるってことだ」
「…話はわかったけど、どうやって何回も蘇生するんだよ?。田中はレベルが99だから一度の蘇生に990ブラッドも必要になるんだぞ?。そんな金があるわけないだろ」
「確かに私一人を蘇生させるなら990ブラッド必要になる。だがしかし、全滅して蘇生した時は別だ。全滅した際、持っている全てのブラッドでパーティが全員蘇生される仕様なのは知っているだろ?そしてそれは例えパーティが1ブラッドも持っていないとしても同様のことが起きる」
「…つまり、田中がマシな状態異常になるまで何度も全滅しろってことか?」
「そういうことだ」
そう、これこそがパーティが全滅した際は有り金全部で強制的にパーティが全員蘇生される仕様を利用し、何度も状態異常ガチャを引き直し、吟味するという作戦。ソシャゲでよく見られるいいガチャが出るまでリセットを繰り返すリセマラならぬ、死を繰り返してガチャを引き続けるデスマラである。
確かにこの作戦なら状態異常の吟味が可能…だがしかし…巻き添いで自殺を強いられるユーキの心境は複雑であった。
だが、現状ではこのくらいしか打開策がないため、ユーキは渋々作戦を了諾した。
というわけで、さっそくデスマラ開始
「さぁ!まず最初の状態異常はなんじゃろな!」
まともな冒険に出るためだけに死を繰り返すという不毛なマラソンを強いられる二人をすぐそばでニコニコした顔で見守るナビィはそんなことを口にした。
それと同時に街から一歩足を踏み出し、田中ちゃんは最初の状態異常ガチャを引いた。
だがその瞬間、田中ちゃんの身体は固まって全く動かなくなった。
「…どうやら、麻痺の状態異常にかかったらしい」
経験から自分がかかった状態異常を判断した田中ちゃんはそんなことを口にした。
麻痺にかかるとメニューを操作する以外の行動は一切できなくなる。もちろん、田中ちゃん達にそれを治療する術はなく、麻痺した田中ちゃんを連れて冒険をすることも難しいため、一度死んで回復する必要があった。
「と、いうわけで殺してくれないか?」
麻痺して体が動かなくなったため、自害すらできなくなった田中ちゃんはユーキにそんなお願いをした。
「…嫌な役回りだなぁ」
田中ちゃんとは違い、いくら必要なことでも仲間を自らの手で殺めるのにためらいがあったユーキはそんなことを口にした。
「嫌なら私が代わりにやってあげましょう!!」
そんなユーキを見て、ナビィはここぞとばかりに名乗りをあげ、なにやら呪文を詠唱し始めた。
「森のさざめきよ、風のささやきよ、海のさざ波よ、妖精の主の命により、今その力を解き放ち悪しき者の魂を打ち砕きたまえ…」
ナビィが詠唱をすると同時にユーキは辺りの空気が重たくなるのを感じた。
それ共にナビィの周りに小さな光の粒が漂い、まるでナビィを守るかのように優しくナビィを包みこんだ。
「究極滅殺古代魔法…ラグナロク!!!」
その瞬間、田中ちゃん達を中心に半径15メートルはあろう円柱形の光の柱が地面から湧き上がり、一瞬で二人を溶かし、そのまま空の彼方まで消えていった。
明らかにオーバーキルである。…ちなみにだが、この魔法がこの作品で初めて登場した魔法である。やったぜ。
「あぁ、やっぱりゴミ掃除をした後の気分は清々しいですねぇ」
青空の下、ナビィの笑顔だけがそこには残されていた。
こうして、田中ちゃんたちの1回目のデスマラは失敗に終わった。
「おぉ、戦士田中達よ、死んでしまうとは情けない」
ナビィのラグナロクによって消滅した田中ちゃん一行はスタート地点の城下町であるマサラ城の教会で蘇生された。(このゲーム、全滅するとマサラ城の教会で蘇生される仕様となっている)
一度死んだことで完全回復した田中ちゃん達。…これが俗に言うデスベホマという技である。同様な技としてわざと死ぬことで教会までワープするデスルーラというタイムアタックでよく見られる技も存在する。
「さすがに1回目から上手くはいかないか…」
ほぼ一文無しの全財産をはたいて無事に蘇った田中ちゃんはそんな言葉を口にした。
「っていうか、全滅したら始まりの街に戻されちゃうんだな」
思わぬ形で最初の街に戻ってきたユーキ。彼は敬愛なるフィーネ様が住む街を惜しむことなく後にしてしまったことに少しショックを受けていた。
「まぁ、気にせず再トライと行きますか…」
そう言って田中ちゃんが教会の出口の方を見ると、そこにはこっそりと田中ちゃん達から逃げるように教会から出ようとしていたシンの姿があった。
パーティが全滅したことにより、パーティ全体が蘇生されたため、ようやく彼も棺桶から出ることが出来たのだ。
そんな彼がどうして田中ちゃん達から逃げるようにこっそり教会から出ようとしていたのかというと…まぁ、普通に考えて自分を殺して棺桶のまま放置するようなやつらと一緒に居たくないよね?。
そういうわけで彼は二人が気がつく前に姿を消そうとしていたのだが…教会の出口でちらりと田中ちゃん達の方を振り返ったシンは出口の方を見ていた田中ちゃんとバッチリ目があってしまった。
一瞬、シンの顔が恐怖に歪んだ後、命の危機を感じたシンは一目散にそこから逃げ出した。
そんなシンを見ていた田中ちゃんは逃げるものを追うという動物的本能に苛まれたせいか、身体が勝手にシンを追いかけていた。
その後、頭が状況に追いつき、なんとなくシンが逃げた理由を察した田中ちゃんは『奴を棺桶にしなければめんどくさいことになる』という危機感を感じ、拳を握り締めながら追いかけた。
「待てや!ゴラァ!」
チンピラのような怒号を飛ばしながら仲間を亡き者にすべく鬼の形相で追いかける田中ちゃん。…とてもじゃないが剣と魔法のファンタジー世界で見られるような光景ではない。
そんな様子を後ろから黙って見ていたユーキ。…これが冒険か、とそんなことをしみじみと感じ、それと同時になぜだかよく分からないがとてつもなく悲しい気分になったので苦い涙をホロリと流したとさ。