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奴隷の街のフィーネ

シンシアが新しくフィーネの奴隷となって数日後、ユーキ達がすっかり奴隷に慣れたある日の昼下がり、屋敷内で花瓶を割ったような大きな音が響いた。


「何事だ!?」


ユーキが音の現場に駆けつけると、そこには粉々になって床に飛び散った花瓶の破片とシンシアの姿があった。


「ご、ごめんなさい…手が滑って花瓶を…私、不器用だから…」


様子から察するにシンシアが花瓶を割ってしまったのだろう。


「…なんだ、またシンシアがやらかしたのか」


同じようにその場に駆けつけた奴隷仲間の一人が状況を見て呆れながらそんなことを呟いた。


それもそのはず、奴隷として働き出したシンシアだが、連日のように物を壊したり、ミスをしたりを繰り返していたのだ。


最初の方こそは他の奴隷仲間もよくあるミスで片付けていたが、全く改善されないあまりの不器用っぷりにさすがに皆呆れているようだ。


「…これはどうしたものか」


現場に駆けつけたフィーネもシンシアのあまりの不器用っぷりに頭を抱えていた。


「ご、ごめんなさい!!私が不器用なせいで…」


最初の頃はフィーネもシンシアがミスした時は叱ったり罰を与えたりしたが、それでも改善が見られなかったせいか、最近ではただただどうすれば改善が見られるか悩んでばかりであった。


その様子は無能な部下を持った上司の悩みに酷似していた。


「おーい、見張りの時間だから行くぞ。…今日こそはあの田舎娘を見つけなければ」


シンシアのミスには身もくれずに自分達を売った田舎娘のアリルを見つけ出すことしか考えていない田中ちゃんはユーキにそう声をかけた。


「…おう、今行く」


多少、後ろ髪を引かれる思いはあったが、シンシアのミスはいつものことなのでユーキもその場を離れて見張りのために街へと出かけた。


奴隷の街という名前なだけあってか、あいも変わらず街には奴隷の姿がちらほら見えるこの街でもう何日も見張りをしているせいか、ユーキ達はすっかり街に馴染んでいた。…いや、正確にいうとユーキはともかく、メイド服を逆さに来ている田中ちゃんは浮いていた。


常に上下逆さまにメイド服を来て、見張りをしているため、その光景はもはやこの街の名物の一つとなり、田中ちゃんは『逆さメイド』の二つ名で認知されていた。


それは街に住むNPCだけではなく、町を訪れたプレイヤーからもそう認知されている。しかも、レベルが99なだけあってか、『逆さメイド』の名はプレイヤー達の間で一人歩きしているのだが…ユーキ達はそこまで名が知れ渡っていることは知らない。


そういうわけで、すっかり街の名物となった田中ちゃんは今日も街の視線を釘付けにしながら見張りをしていた。


「あー、見つかんねえなぁ、あの田舎娘…」


見張り中、田中ちゃんは暇そうにそうぼやいていた。


「なぁ、田中。もしかしてシンシアのミスって何かのイベントなのか?」


そんな田中ちゃんにユーキはシンシアのことを訪ねた。


ゲームにおいて全くもって無駄な出来事というのはそう多くはない。なにか事件が起きるということはそれは大抵何かのイベントの前触れなのだ。


そういうわけでいままで数々のゲームをやってきたユーキは経験から今回のシンシアの件も何かのイベントであると踏んだのだ。


「さあね。私はアップデータ前のイベントなら把握しているけど、管理者が変わって仕様とかいろいろ変更されたから全部知ってるわけじゃないからね」


このゲームは萌え豚の手によってすでに田中ちゃんの知っている原型をとどめていないため、田中ちゃんにはその答えは分からなかった。


「でも、どうせ大したイベントでもないからほっとけほっとけ。それよりも今はあの田舎娘を探すのが先だ」


「…そうなのかなぁ」


「まぁ、お前が一人でギャルゲーしたいのなら止めはしないがな」


「いや、別にそういうわけじゃないけどさ…」


女の子を放っておけないユーキはそれからしばらく上の空だったとさ。


その日の晩、夕食を食べるためにフィーネの屋敷の食堂にやって来たユーキは一人で黙々と食べているシンシアのことが目に入った。


他に何人も奴隷仲間が食堂で食事をしているのに、シンシアは一緒に食べる奴隷仲間がいないようだ。まぁ、シンシアのミスに巻き込まれて迷惑をかけられた奴隷も少なくないので、そういうことになることも致し方ないのかもしれないが…。


だが、シンシアが一人寂しそうなのを見かねたユーキはシンシアのそばにより、声をかけた。


「この席、座っていいか?」


「え?…はい、どうぞ」


突然声をかけられたためか、シンシアは少し驚いたようにそう返事した。


許可をもらい、シンシアの正面に座ったユーキはチラチラとシンシアの様子を探った。


やはり今朝の失態を気にしているのか、その表情は暗かった。


「最近、調子はどうだ?シンシア」


颯爽と現れて棺桶になる系男子だが、根は紳士なのか、シンシアを気遣ってそう声をかけるユーキ。


「…ダメです、全然ダメダメです。今朝だって私が不器用なせいでフィーネ様にご迷惑をかけてしまいましたし…」


「そういう時もあるって」


「連日のように私がどうしようもないミスをしていること、ユーキさんもご存知ですよね?。せっかくフィーネ様に拾っていただいたのに…このままじゃ…」


「確かにミスばっかりしてるよな。…でもそれはもしかしてシンシアには奴隷が合わないだけなのかもしれないぞ?」


「私に奴隷が合わない?」


「そう、世の中にはいろんな生き方があるんだ。誰かに使われるだけが人生じゃない。もっと自分らしい生き方だってある。そう、例えば冒険者なんてどうだ?。冒険はいいぞぉ、まだ見ぬ景色を求めてこの広い世界を自由に冒険できるんだ。誰も見たことのないようなお宝、誰も知らない光景…そんな刺激的なものを求めて毎日が心躍る日々を過ごすんだ。いいだろ?冒険者」


意気揚々とシンシアにそう語りかけるユーキ。だが、そこにひょっこり現れた鬼畜妖精が口を挟んできた。


「他にも盗賊団に土下座したり、洞窟をぶっ壊したり、仲間をぶっ殺したりなどなど、素敵な出来事が待ってますよ」


「そこの妖精、ちょっと黙れ」


「冒険者かぁ…羨ましいですね」


ユーキの話を聞いて未知なる世界を求めて旅する光景が頭に浮かんだのか、シンシアは遠くを見るようにそう呟いた。


「な?いいだろ?冒険者。なんなら俺たちと一緒に…」


「でも、私にはそんな自由に生きる権利なんてありません。私、不器用ですから…」


ユーキの声を遮って少し寂しそうにシンシアはそう呟くと、席を立ち上がった。


「今日は気を遣っていただいてありがとうございます、ユーキさん」


最後にそれだけ言い残して、シンシアはその場から立ち去っていった。


「ナンパ失敗ですね、ユーキ」


「ナンパじゃねえよ、勧誘だよ、ナビィ」








翌日…フィーネの屋敷には昨日と同じように花瓶をぶちまけたシンシアの姿があった。


「昨日の今日で…よく飽きないな、シンシアよ」


「ご、ごめんなさい、フィーネ様」


さすがにフィーネも怒っているのか、珍しく嫌みを吐いていた。


「それで、今回はどうして花瓶を割ったんだ?」


「はい。お水を替えようとして…手が滑って…。ごめんなさい!私が不器用なせいで…」


「それだ、それがいけないのだ、シンシア」


突然、フィーネはシンシアを指差してそう言い放った。


「シンシアよ、お前は自分がミスをしてもいつも『自分は不器用だから』と言い訳をしている。それは心のどこかで『不器用だからミスしても仕方がない』と考えてしまっているのだ。自分がミスをしてもそれを自分のせいではなく、不器用のせいにしている証拠なのだ。…いいか?シンシアよ。不器用という言葉はお前のために用意された逃げ道ではないのだ。不器用ならば不器用なりに工夫をすれば、例え不器用でも上手なやり方はあるはずだ。それを肝に命じておけ、シンシア。これでも改善の余地が見られなければ…私もそれ相当の処遇を考えなければならない」


「そ、そんな…フィーネ様…」


そんな二人のやりとりを野次馬に紛れてユーキは黙って見ていた。








「なぁ、フィーネについてどう思う?」


「急にどうした?」


見張りの時間中、ユーキは逆さメイド服に身を包んだ田中ちゃんにそんなことを尋ねていた。


「いや、田中的にはフィーネのことをどう思ってるのかなと思ってさ…」


「この前はシンシアのことを気にかけていたし…今度はフィーネか…お前が女が好きなのはよーく分かった。だが申し訳ないが、ギャルゲーの相談なら他所でやってくれ」


「いや、そういうわけじゃなくてさ。最初にフィーネに会った時、悪い噂をちょくちょく聞いてたけどさ、実際フィーネって良い人だよな?。奴隷に対して無碍な扱いはしないし」


「だから言っただろ、フィーネに拾われたのはラッキーだって」


「そうだな、ラッキーだな。でもその割には奴隷から抜け出したいなら1000ブラッド用意しろとか言うし、奴隷の街の領主なんてやってし…よく分かんないんだよな」


「そんなに気になるなら本人に聞けばいいだろ。私はNPCの事情なんて興味がないからそこまで知らない。それより私達が見つけるべきはあの田舎娘だ。私は東の方を探す。お前は正門の方を探して来い」


田中ちゃんに命令されて正門前にやって来たユーキ。


正門では商品を運ぶ馬車を引いている行商人が門に設置されてある検問付近でごった返していた。


その様子を見ていたユーキはその中に見覚えのある田舎娘を見つけた。


「あっ!ようやく見つけた!」


「ん?…あ、ユーキ…」


ここ数日ずっと探していたアリルをようやく見つけたユーキ。だが、アリルはそんなユーキを前に居心地悪そうな顔をしていた。


「久しぶりだな!アリル」


「そ、そうだべな…」


「まだこの街にいたんだな」


「村に必要なものを買い回っていただべ。…それより、オラ、ユーキ達に謝らねえといけねえだ」


「謝る?」


「すまねぇ!あの時は荷物を奪われて頭がパニックになってただよ!。冷静な判断ができなくておめえらを売っちまっただ!反省してる、すまねぇべ!」


「あぁ、そういうことか…俺たちもアリルの大事な荷物をあっさり盗賊団に渡しちゃったしな。お互い様だ」


「お詫びと言ってはなんだが…こいつを受け取ってくれだべ」


そう言ってアリルはユーキに1000ブラッド入った袋を渡して来た。


「村のためのお金だからあんまり多くは出せねえべが、これでなんとか主人に話をつけて欲しいべ」


「いいのか?アリル」


「これくらいなら大丈夫だべ。だども、申し訳ねえが、これ以上は力になれねえべ」


「いや、これだけあれば十分さ。ありがとう、アリル」


「そう言ってくれると気が晴れるべ。…それじゃあ、そろそろオラは行くだべ。もしスミノ村に来ることがあれば、オラのうちに寄ってくれだべ。歓迎するべ」


「あぁ、いつか会いに行くよ」


「達者でな、ユーキ」


「あぁ。アリルも帰りは気をつけろよ」


こうしてアリルを見送ったユーキは念願の1000ブラッドを手に入れた。


その日の晩、ユーキはアリルと出会って1000ブラッドを手に入れたことを報告した。


「おいおい、なんでもっとぼったくらなかったんだ?このイベントはアリルから最大で1500ブラッドまでぼったくれたんだぞ?」


報告を聞くなり、田中ちゃんはユーキにそんなことを愚痴っていた。


「いや、そう言われてもな…」


「まぁ、いい。これでようやくこの奴隷生活から抜け出せるな」


「でもさ、フィーネが提示した条件は一人1000ブラッドだろ?。それなら2人いるから2000ブラッド必要なんじゃあ…」


「それは問題ない。とりあえずお前がその1000ブラッドを持ってフィーネのところに行け。そうすれば後のことはわかる」


「…わかった。行ってくる」


とりあえずユーキは田中ちゃんに言われるがまま、1000ブラッドを持ってフィーネの部屋に向かった。


「何の用だ?ユーキ」


自分の部屋で書類に目を通していたフィーネは部屋に入って来たユーキを一瞥してそう尋ねた。


「約束通り1000ブラッド持って来た、これで奴隷から解放して欲しい」


そう言ってユーキは1000ブラッド入った袋をフィーネに渡した。


「…ふむ、確かに1000ブラッドあるな」


フィーネは中身を確認し、そう呟いた。


「いいだろう。これだけあれば十分だ。その指輪を外すことを許可しよう」


フィーネから奴隷の指輪を外す許可をもらったユーキはメニュー画面をいじって指輪を装備から外した。


主人から許可をもらったおかげで、指輪はあっさり外すことができた。


「これで、今日からお前は自由だ。…おめでとう、ユーキ」


フィーネは祝福の言葉を述べた後、先ほどユーキが渡した1000ブラッド入った袋をそのままユーキに返した。


「…え?なんで?」


「『なんで』って…私は『1000ブラッド集めて来い』とは言ったが、『1000ブラッドよこせ』とは言ってないぞ?」


「だけど…それならなんで1000ブラッドも用意させたんだよ?」


「何事にも先立つ金は必要だ。一文無しで奴隷を抜け出して、また奴隷に逆戻りなんてのはよくある話だ」


「いや、そうじゃなくて…それでフィーネになんの得があるって言うんだよ?。これじゃあ奴隷を捕まえてもフィーネに利益がないだろ?。それなにどうして…」


「そうだな…ところで、ユーキは奴隷制度には賛成派か?反対派か?」


「…え?いや、そりゃあ反対だよ。人をまるで物のように扱うなんて非道なこと、賛成できるわけがない。…フィーネは賛成なのか?」


突然のフィーネの質問に戸惑いつつもユーキはそう答え、逆にフィーネに聞き返した。


「私は…賛成であり、反対でもある。確かに君の言う通り、奴隷というのは非道な制度なのかもしれない。奴隷という立場なだけで理不尽な目に合う者も少なくないだろう。…だが、人によっては主人無しでは生きることすらままならない者もいるのだ。幼くして親を亡くした孤児、貧しさのあまり飢餓で苦しむ者…この世には自分の力で生きる術を知らない者がごまんと居る。そんな人の中には奴隷となって救われた者もいる。例え奴隷でも仕事さえ出来れば最低限の生活は約束されているのだからな。自らの力で生きる術を知らない者達…そういう彼らのために私は奴隷制度というものが必要なのだと思う」


フィーネの言葉を黙って聞いていたユーキの頭にはシンシアの顔を浮かんだ。


確かにフィーネの言う通り、シンシアのように奴隷という生き方しか知らずに、奴隷に依存している者もいることをユーキは知っていた。


だから、ユーキは奴隷制度に賛成の声を上げるフィーネに反論することはできなかった。


「だが、時に意外な人物が奴隷に紛れて売られてくる。それが君達のような野心を持ち、自由を望む者達だ。こういう者の中には奴隷でいるよりも、自由に生きた方が世の中の発展に貢献できる者が少なくない。だから私は彼らの自由を応援したい。…だが、世の中のやる気だけではどうにもならんことが多くてな、自由になった挙句にのたれ死んだり、さらに悪い境遇に陥る者も少なくない。だから私はそういう奴には奴隷である間に先立つ金を用意させるのだ」


「…それが1000ブラッドってことか?」


フィーネはユーキの言葉に黙って頷いて答え、さらに説明を加えた。


「そういうわけで、奴隷制度にはメリットもデメリットもある。だから私はこれからも奴隷と向き合い、より良い雇用形態に変えて行くつもりだよ。…奴隷の街の領主としてな」


貴族としての気高さといえば良いのか、西日に照らされたフィーネのきりりとした顔にユーキは感銘を受けた。


「悪い噂ばかり聞いてたからいままであなたを誤解してました。…いままでお世話になりました、ありがとうございます」


フィーネに対する見方が改まったのか、ユーキの言葉には雇い主に対する敬意が感じられた。


「いや、こちらこそいままでご苦労だった。また今度この街に来るときは遊びに来てくれ。歓迎するぞ…今度は友として、な」


そう言って笑いかけるフィーネの凛々しさに惚れたのか、感極まったユーキは突然こんなことを叫びだした。


「フィーネ姉さああああぁぁぁぁん!!!!!!!」


「な、なんだ!?いきなり!?」


「フィー姉さん…いえ!今度から姉御と呼ばせてください!!」


「おいおい、いきなりどうした?…気持ち悪い」


「その凜としたお姿、凛々しいお声、規律ある精神、何をとってもあなたは素晴らしいお方です!!ですから、今後はどうか姉御と呼ばせてください!!」


思えばユーキはこの世界に来てからろくな目にあっていない。


剣は折まくるし、仲間はゴミみたいな奴しかいないし、売られるし、奴隷になるし、颯爽と現れて棺桶になるし…本当に何しにこのゲームの世界にやって来たのか分からなくなるレベルの理不尽に押しつぶされ、心のどこかで絶望すらしていた。


そんな矢先、フィーネからゲームの世界に来て初めて人の優しさを与えられたこともあってか、もはやユーキにはフィーネが聖母のような存在に思えたのだ。


『姉御、姉御』と仕切りに叫び、暴走するユーキに頭を抱えて困惑気味にフィーネはこう返した。


「勘弁してくれ。それに最初から言ってるだろ?『フィーネと呼んでくれ』って…」


「姉御おおおおおおお!!!!」






ひとしきり叫んだ後、フィーネの部屋から出たユーキは田中ちゃんと合流した。


「おう、どうやらフィーネから解放されたようだね」


ユーキの装備から指輪が外れていることを見て、田中ちゃんはユーキにそう声をかけた。


「姉御を呼び捨てにするな!!せめてフィー姉さんと呼べ!!」


「お、おう…いきなりどうした?」


つい数分前とは違って完全にフィーネ信者となってしまったユーキに思わず田中ちゃんは困惑していた。


「いや、ただ姉御は素晴らしいお方だということだよ、田中」


「こいつ、一体どうしたんだ?」


「さぁ?頭打っておかしくなったんじゃないんですか?…いや、もとからおかしいか」


そんなユーキを目の前にナビィと田中ちゃんはそんなことを話し合った。


「それはそうと…俺は無事に奴隷ではなく舎弟になったはいいが…田中はまだ奴隷のままだろ?どうやって奴隷から抜け出すんだ?」


「なーに、簡単なことさ。ユーキに渡した1000ブラッドは返ってきたんだろ?」


「ああ、確かに返していただいたが…」


そう言ってユーキは敬愛なるフィーネから返してもらった1000ブラッド入った袋を取り出した。


「まさか、お前…この1000ブラッドを使いまわして…」


そのとき、ユーキは何かを察したようで、とっさに田中ちゃんの方を見た。


「ふっふっふ、その通り。今度はその1000ブラッドを持って私がフィーネのところに行けば、私も奴隷から解放されるって寸法よ。一人1000ブラッドも集める必要なんかない。全員で1000ブラッドで十分なんだよ」


「お前…それは…」


「これこそゲームの仕様の裏をついた裏技…ゲームの仕様を把握している私ならではの技なのだよ」


「馬鹿野郎!!この1000ブラッドはな!優しい姉御の俺たちに対する餞別なんだよ!!それを使いまわして無碍にするような真似、俺が許さん!!」


「はあ?このまま奴隷生活続けて地道にもう1000ブラッド集めろっていうの?あんた何しにこのゲーム来たの?。悪いけどやるなら一人でやって」


「くっ、確かにこれ以上、ここで足止めされるわけにはいかない。だからと言って姉御の恩義を無為にするわけには…」


信仰と冒険の間でユーキの心が揺れている間に、田中ちゃんは隙を狙ってユーキから1000ブラッドが入った袋を取り上げた。


「さ、とっとと奴隷からおさらばするよ」


そう言って田中ちゃんは早々とフィーネの元に行ってしまった。


「すまねえ…すまねえ、姉御。俺たちは立派な冒険者になってみせる…だから、許してくれ、姉御」


一人で罪悪感を抱えて、その場でひざまづくユーキを呆れた顔でただただナビィは見ていたとさ。

…一人当たり必要なのが1000ブラッドだから必要なのは全部で2000ブラッドじゃなくて3人いるから3000ブラッドなんだって誰か教えてあげてよ。

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