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己の未熟さを噛みしめるRPG

「おぉ、戦士ユーキよ、死んでしまうとは情けない」


奴隷の街の教会で神父(幼女)が棺桶となったユーキに祈りを捧げていた。


神父(幼女)の祈りによって光に包まれた棺桶はその姿を変え、やがて光の中にユーキのシルエットが浮かび上がり、ユーキが蘇生された。


「気をつけるのだぞ、戦士ユーキよ」


神父(幼女)は最後にユーキにそう告げ、蘇生を終えた。


「おぉ、戦士ユーキよ。女の子を守ろうとして瞬殺されるとは情けない…プー、クスクス」


生き返ったユーキにそう話しかけて来たのは妖精のナビィであった。


「うん、ほんとマジで情けなかったわ」


珍しくナビィに同意する田中ちゃん。…まぁ、ほんとに情けなかったからね、しょうがないね。


あまりの失態に本人も傷ついているのか、ユーキはその場に座り込んで一人でブツブツなにかを呟き始めた。


「ほんと…情けないよな。…剣は8回も折るし、盗賊には土下座して女の子の大切な荷物をあっさり渡しちゃうし、カッコよく助けに入ろうとしても鞭一発耐えることもできないし…」


さすがに今回のことショックだったのか、なかなか立ち直れそうにないユーキの愚痴は続いた。


「…っていうか、ほんとにこれじゃあなんのためにゲームの世界に来たんだよ。ゲームなんだから女の子の一人や二人くらい助けさせてくれよ。ゲームの中ですら誰も助けられない俺なんて人間としてなんの価値があるんだよ。所詮俺なんて誰の助けにもなれないゴミクズなんだよ…」


「そんなことありません」


そう言ってユーキを否定したのはあの鬼畜妖精ナビィであった。


「あなたが誰の助けにもなれないとか、そんなことはありませんよ、ユーキ。確かにあなたは非力で力のない人間です。ですから漫画の主人公とは違ってできることは限られています。ですが、それでも誰かの役には立てると思います。魔王を倒して率先して世界を救う冒険者は無理でも、誰かの元で微力ながら労力となることはできるはずなんです。そう、例えば…奴隷として、とか」


「ううっ、ナビィ先生ぃ〜!!」


良いことを言っているようでナビィの言葉は要約すると『お前には奴隷がお似合い』という意味なのだが、耳障りだけは良いせいか、例え奴隷としてでも誰かの力になれるというナビィの甘言にユーキは思わず涙を流して感動してしまった。


「やめとけ、ユーキ。この鬼畜妖精の言葉に惑わされるな。大丈夫だ、例え使えない奴でも私といれば役には立つから…肉壁として」


「それはどっちもどっちだと思いますよ」


田中ちゃんの肉壁雇用発言に珍しくツッコミを入れるナビィ。


「そういえば…全くブラッドを持ってなかったはずなのに、どうやって俺を蘇生したんだよ?。蘇生には金がかかるだろ?」


ユーキの言う通り、田中ちゃん一行は1ブラッドたりとも手持ちにはなかった。それにもかかわらずどこからお金を工面したのかが、ユーキは気になった。


「お前を生き返らせる金は醤油を売ったらギリギリ足りた」


「…俺の命の価値は醤油以下かよ」


醤油入り業務用ペットボトル>ユーキの命。…まぁ、冒険者なんてそんなもんだよね。


「おやおや、醤油を侮ってはいけませんよ?」


醤油にも満たない自分の命に再びユーキが落ち込んでいるとナビィが口を挟んで来た。


「中世の時代において調味料というのはお金持ちしか手が出せない高級品でしたからね。しかもこんな完成された醤油となれば下手すれば中世のヨーロッパに存在していたかもあやふやな幻の一品ですからね」


「…まぁ、そう言われればそうか」


「このナビィが丹精込めて送ったそんな醤油をこんなゴミクズを蘇らすためのお金に変えてしまうなんて…ナビィは悲しいです。私は田中に飲んで欲しかったから買って来たのに…」


「それ、暗に死ねって言ってるようなもんだよね?」


そういうわけで、高級品である醤油を売って田中ちゃんはなんとかユーキの蘇生代を工面したようだ。…え?『蘇生代が工面できたなら他に蘇らせる奴がいただろ』って?。バカヤロウ!!ゴミを生き返らせて食い扶持を減らすわけにはいかないだろ!!。


…あと、ナビィが中世において醤油を幻の一品とか言ってたけど、本当に中世において幻の一品なのはそれを入れている業務用ペットボトルの方なのだが…まぁ、世界観とか時代背景とかどうでもいいよね。これゲームだし、だいたいのことはファンタジーだからで片付けられるし。


で、ユーキの蘇生を終え、フィーネの屋敷に戻って来た奴隷一行の前にメイド服に着飾った一人の少女が現れた。


「あ…は、初めまして、今日からここで働くことになったシンシアです!よろしくお願いします!」


そう言って精一杯頭を下げるシンシアからは不器用なりに一生懸命という印象がうかがえた。


「誰かと思えば…誰かさんが一発で昇天した鞭攻撃を何度も耐えきった奴隷の女の子じゃありませんか」


そう言ってナビィはチラチラとユーキを横目に見た。


「やめてくれ、ナビィ…本気で引きずってるんだから…」


声から察するにユーキは本当にトラウマになっているようだった。


だが、そんなユーキの心情を知らないシンシアはユーキを見るなり驚いたように声をかけて来た。


「あっ!あなたは…えっと…先ほどは助けて(?)いただいてありがとうございます!!あなたのおかげ(?)で大事には至らず…」


「やめろ!やめてくれ!!あの時の話を掘り返さないでくれ!!」


「で、ですが…助けていただいたのは本当のことですし…。元はと言えば私が不器用なせいで巻き込まれたわけですし…」


「やめろぉ!!颯爽と現れて棺桶になった話はやめろぉ!!」


助けようとした女の子を前に顔を真っ赤にしてユーキは喚いた。


「もうやめてあげてください、シンシアさん」


そう言ってユーキをかばうように立ちふさがるナビィ。…もう嫌な予感しかしない。


「人には触れて欲しくないことの一つや二つあるんですよ。ましてやか弱い乙女を身体を張ってカッコよく助けようとした挙句、助けようとした本人が誰よりもか弱かっただなんてそりゃあ思い出したくもありませんよ。こんなの漫画の主人公の必殺技を真似しようとして腕を骨折するくらい情けないことなんですよ?。身の程をわきまえることすらできない、自分の器すら測れない愚かな行為なんですよ?。いくら善意からの行為であっても、そんなクッッッッッッッソダサい思い出なんか忘れたいに決まってるじゃないですか?。分かりますか?女の子を目の前になんの力にもなれずただただ犬死する男の気持ちが分かりますか?それはもう穴があったら入りたいどころじゃありませんよ、穴があったら墓にしたいレベルの羞恥ですよ?しかもその守ろうとした女の子が目の前に現れた日には…プー、クスクス…もう笑うしかないですよ。だからもう話を掘り返さないでダサい…あっ、間違えた、掘り返さないでくダサい」


そう言ってユーキを弁護するナビィ。…弁護ってなんだっけ?。


そんなナビィの鬼畜弁護でメンタルが事切れたのか、ユーキはその場に座り込んで膝を抱えて体を震わせ泣いていた。


もはや掛ける言葉が見つからない空気の中で、それでもシンシアはユーキに声をかけた。


「で、でも…助けようとしてくれたことは…嬉しかったんです。本当に…」


そう言うシンシアの顔はほんのりと赤く染まっていた。


そんなシンシアの優しい言葉に心を癒されたのか、少し気分が落ち着いたユーキはシンシアに声をかけた。


「…怪我、しなかったか?」


颯爽と現れて棺桶になる系男子だが、それでもまだ主人公がしたいユーキはシンシアに怪我がないかを心配したのだ。


「はい、たいした怪我にはなりませんでした」


「『死んだお前ほどではない』ですって、よかったですね、ユーキ」


ナビィの最後の一言でついにメンタルが底を尽きたユーキは突然黙ってメニューをいじり始めた。


「…なにやってんの?」


「いや、このゲームって自殺コマンドないかなぁって…」


「ねえよ」


彼らの奴隷生活はまだまだ続くとさ。

田中ちゃん達、10話からずっと奴隷やってるから今回で物語全体の4分の1くらいは奴隷やってることになるね。

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