ミッション!メイド服を装備せよ!
「冒険者の皆様、おめでとうございます!!今日からみなさんは晴れて奴隷の一員となります!!奴隷としての自覚と覚悟を持って、明るく楽しい奴隷ライフをお過ごしください!!」
ニコニコと笑顔でそう言い放つナビィ。その手には奴隷の証である奴隷の指輪が握られていた。
「それでは、早速奴隷の契約に移ろうと思います。この指輪をはめたら、その瞬間、あなた方は奴隷です、人の所有物です、家畜です。さて…この指輪はどの指にはめましょうか…やっぱり指輪といったら左手の薬指ですかね?」
「やめてくれ…結婚指輪じゃ無いんだから…」
ナビィの提案に嫌そうな顔をするユーキ、しかし、そんな顔を見たナビィは嬉しそうな顔をしながらこんなことを語った。
「おや?ご存知ないんですか?。結婚指輪というのは元々、奴隷の証として付けられていた指輪が発祥なんですよ?(諸説あるが…)。だから結婚指輪も、奴隷の指輪もどちらも大差はありません。まぁ、結婚も奴隷も人の所有物になるって考えれば同じようなもんですもんね!」
「ナビィのせいで結婚に対するイメージが一気に儚くなった」
「と、いうわけで…やっぱり指輪は左手の薬指ですね」
ナビィの陰謀により、フィーネの手によって左手の薬指にお揃いの奴隷の指輪をはめられた田中ちゃんとユーキ…事と次第によってはお祝いごとなのだが…。
「フィーネ様、この棺桶はいかがなさいましょうか?」
二人の新たな門出を軽く済ませたナビィは3人の飼い主であるフィーネにシンが詰められた棺桶について聞いた。
「…とりあえず、屋敷に送ってくれ。…インテリアにでも使う」
「かしこまりました。それはそうと…フィーネ様、早速この奴隷どもになにか命令を与えた方がよろしいのでは無いでしょうか?。逃げられたり、反逆されても困りますし…」
「それもそうだな。とりあえず、二人に最初の命令だ。街から出るな。…以上だ」
「おや?それだけでいいんですか?。それだと謀反を翻す可能性がありますけど…」
「その時は、私の手で切り刻むだけだ」
なんのためらいもなくそう言い切るフィーネ。…と、いうのも、彼女はレベルが80もあるためよほどの猛者でもない限り負けることはないからである。
「では、改めて諸君らの名を聞かせてもらおうか」
凛とした威厳ある声でフィーネは田中ちゃんたちに名を訪ねた。
「…田中」
「俺はユーキ。そっちの棺桶はシン」
「なるほど。ユーキにシンに田中か…しかと心得た」
「そっちはなんて呼べばいいんだ?フィーネ様と呼べばいいのか?」
不服そうにそう尋ねるユーキにフィーネは微笑浮かべながらこう答えた。
「様などいらん。フィーネと呼んでくれ」
軽く自己紹介も終え、フィーネに案内されて二人と一箱はフィーネの屋敷に訪れていた。
「ようこそ、我が屋敷へ」
彼らを待ち構えていたのは豪華な内装に彩られた広いエントランスであった。
「うはぁ…すげぇ広いな」
関心のあまり、そんな言葉を漏らすユーキ。
「個人的にはこんな広いところより、6畳一間くらいの敷地の方が落ち着くな」
かつて畳に寝転びながらポテチをボリボリと貪るだけの楽な日々を思い出したのか、田中ちゃんはしみじみとそんなことを呟いた。
「さて、君達には部屋を一つ用意した。3人で寝泊まりするとなると若干狭いかもしれないが、好きに使ってくれて構わない。そしてその部屋に着替えを用意させておいたから、まずはそれに着替えた後、私の部屋に来てくれ」
そう言って二人と一箱を部屋に案内した後、フィーネはどこかに去って行った。
「しばらくはこの部屋で寝泊まりするのか…」
決して広くはないが、3人が寝泊まりするだけならば十分な広さのある部屋を前にユーキはポツンとそんなことを呟いた。
「こうなった以上仕方あるまい。幸いなことに、私達を買ったフィーネというNPCは奴隷にも比較的優しく接するキャラだ。フィーネに許可をもらって奴隷から抜け出すイベントも存在するから、詰んだわけではない」
「そうなのか?。それなら希望は見えるな。とりあえず今は言われた通り、着替えますか」
そう言ってユーキが部屋を見渡すと数点の執事服とメイド服が用意されていた。
ちなみにだがこのゲーム、メニューを開いて装備変更すれば一瞬でその衣装に着替えることができるので、男女が同じ部屋で着替えても『ぜ、絶対にこっち見ないでよね!!』『だ、誰がお前の着替えなんて覗くか!!』などというイベントは発生しない。
問題があるとすれば…メニューを操作できない田中ちゃんは装備変更できないので、一生寝巻きのジャージから着替えることが出来ないということである。
そういうわけでメイド服を前に指をくわえて見ているだけしかできない田中ちゃんにナビィが声をかけた。
「はーい、田中ちゃーん、お着替えちましょうね。まさか着替えも一人でできないとかないでちゅよねー?」
妖精は他人を煽らなければ呼吸ができないのかどうかは知らないが、息をするように喧嘩を売るナビィ。
「実際、メニューを操作できないんだから着替えも出来ないよな?どうするんだ?」
知能が低すぎて着替えすらままならない田中ちゃんを心配したユーキがそう声をかけた。
「確かにメニューが操作できなければ装備変更は出来ない。…だが、心配は無用だ。このゲームは何も装備してない部位になにかを装備することはメニュー無しでも装備できるのだ」
ユーキの心配をよそに田中ちゃんは自信満々にそう語った。
確かに田中ちゃんの言う通り、このゲームは右手、左手、頭、体、足、装飾品にそれぞれ一つずつ装備が可能であり、なにも装備していない部位になにかを装備する際はメニューを操作する必要がない。
例えば、右手になにも装備していないのならば剣を右手に持つだけで装備した扱いになる。
このように、なにもつけていない状態ならば、メニュー操作無しでも装備が可能な仕様なのである。
「でも、今はそのジャージを装備してるんだろ?。だったらメイド服に着替えるのにも装備変更の必要が…」
田中ちゃんが来ている寝巻きのジャージを体に装備していることをユーキは指摘した。
「そう、私はいま体にはジャージを装備している。…だが、他の部位は装飾品以外はなにも装備していない状態だ」
「…ま、まさか…」
田中ちゃんの発言になにやら嫌な予感がしたユーキ…だが時すでに遅し、ユーキが止める前に田中ちゃんはあることを実行してしまった。
「そう!体にメイド服を装備できないのならば、足に装備すればいいじゃないか!!」
そう言って田中ちゃんはメイド服を『履いた』。
具体的には腕を通す部分に足を入れて器用にメイド服を履いたのだ。
おかげで股の部分には本来首を通すはずの穴がぽかんと空き、中に来ているジャージが丸見えとなり、胸元では重力に引っ張られたスカート丈がペラリと花びらのようにめくれる羽目になった。
「さすがは私!!我ながら見事な天才的発想だ!!」
「すごい…すごい…頭悪そう…」
メイド服を履くという大変前衛的な服装に思わずユーキの口からそんな言葉が溢れた。
「これで無事にメイド服に着替えることが出来たし…早速フィーネの元に行こう」
その最先端すぎる格好に慣れていないのか、少々歩きにくそうにフィーネの元に向かう田中ちゃん。そんな彼女を後ろから見ていたユーキの口からこんな言葉が溢れた。
「俺…一緒に歩いてて同類と思われたくないなぁ…」
そう言って俯くユーキに、珍しく慰めるようにナビィは肩に手を置いた。
「さすがに、今回は心中お察しします。…ちなみにですが、装備を外す際にはメニューを操作しなきゃいけないんで、どうあがいてもしばらくはあのファッションですよ」
「もう俺、この冒険やだ…」
君とどこまでも旅するRPG(強制)は、まだまだ始まったばかりである。
…そういえば、剣と魔法の世界のくせにまだ一回も魔法出て来てないね。…まぁ、いいか。