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世界の誰しもが主人公

世界に終焉をもたらすもの、逆さメイド。


着々とこの世界の終焉へのカウントダウンを進めているこのゲームの最強の仲間を倒すべく、策を講じたユーキだが、その作戦を実行するにはマサラの国のNPCに協力してもらうだけでは人手不足なのは目に見えていた。


もっと多くの人の協力が必要不可欠、NPCだけでは足りない。


もっと多くの人…つまりはプレイヤーの協力が必要なのであった。


そしてユーキは彼らの協力を仰ぐべく、ギルドの総本山である巨大樹ユグドラシルに来ていた。


その頂上に拠点を構えるこのゲームの最大規模のギルド、ユーキがギルドマスターを務める『負け犬の会』への扉をユーキは力強く開けた。


中から陰気臭い空気が流れ出し、それと同時に朽ち果てた生者の群れがユーキを出迎えた。


このゲームの世界で必死に、醜くしがみついてでも手に入れたい何かを見出せなかった人間の成れの果てを横目に、ユーキはギルドルームの真正面に構えられた壇上へと歩き出す。


1人でも多くの協力者が必要な現状…ユーキからしてみればこんなところで生きながら朽ち果てられても困るのだ。


最終クエストを完遂するためにも、いつのまにか数え切れないほどの数に膨れ上がっていた亡者達の説得は必要不可欠。


ユーキは…彼らを突き動かすためにここにやって来たのだ。


「みんな、今日は集まってくれてありがとう」


ユーキは壇上からプレイヤー達を見渡しながら労いの声をかけた。


『大事な話があるからギルドメンバー全員強制集合。それとギルドメンバーじゃなくてもいいから1人でも多くの人を集めて欲しい』とセキュリスに話をした結果、今までに見たことがないほどの数のプレイヤーがこのギルドルームに会していた。


「今日集まってもらったのは他でもない。このクソゲーについての大事な話をするためだ」


壇上のユーキへ大衆の視線がその一身に注がれる中、ユーキは重大な事実をプレイヤー達に伝えた。


「このままこのゲームが続くと、現実世界の俺たちの身体は死ぬ可能性がある」


ユーキの言葉に会場が騒ついた。


「詳しい話は割愛するが…一年このゲームに居続けたとある少女の身体は亡くなってしまったそうだ。だから必ずしもそういうわけではないけど、タイムリミットは約一年。このゲームが始まってからすでに9ヶ月が経とうとしているから…タイムリミットまで後3ヶ月だ」


突然のタイムリミット宣告に会場がさらにざわつく中、ユーキは言葉を続けた。


「だけど安心して欲しい。今逆さメイド…いや、田中がこのゲームをクリアしようと暗躍している。このゲームは誰か1人でもクリアすれば全員が強制的にログアウト出来るようになっている。そして田中はあと2ヶ月でクリアへと到達すると思われる。…だから君達は何もせずとも助かるわけだ」


そんなユーキの言葉に安堵したように皆胸を撫で下ろした。


そして現実世界に帰れることに一部のプレイヤーが歓喜している最中、ユーキは声に力を入れて語り始めた。


「…ここからはただの俺のワガママでしかないが…もっと重要な話がある」


ユーキの静かだか力の入った声にプレイヤー達は再びユーキへと注意を向けた。


「先程一年で体が死亡した少女の話をしたが…それは田中、つまりは逆さメイドのことなんだ」


ユーキの言葉に再び会場は騒ついた。


「彼女はどういうわけか知らないが、身体が死んでもゲームに残った存在。…一言で言うなら誰もが予期せぬバグで、彼女は身体のないプレイヤーだ。ゲームをクリアしてプレイヤーが全員強制的にログアウトさせられた時…帰るべき依り代のない彼女がどうなるか分からない。そのままゲームに取り残されるかもしれない、別の何かになるのかもしれない、最悪…存在そのものが消えてしまうかもしれない」


そしてユーキは一呼吸置いた後、皆にこう告げた。


「それを承知の上で…彼女は俺たちのためにゲームをクリアしようとしている」


ユーキから告げられた逆さメイドの想いに、誰もが息を飲んだ。


「そこで俺からのワガママなお願いだ。…逆さメイドを救うために、逆さメイドがゲームをクリアするのを阻止するのに力を貸して欲しい」


ユーキは大衆を前に頭を下げた。


「ゲームのクリアが遠のけばプレイヤーの身体のリスクが上がるのは重々承知している。だけど、それでも俺はプレイヤー全員が助かって欲しい!。逆さメイドごと、みんなが助かって欲しい!。例えクリアを阻止できたとしても…どうやって逆さメイドを救うかはまだ考えてないけど…それでも、田中を救うために協力して欲しい!!」


そしてユーキはさらに深く頭を下げて懇願した。


「現実世界の身体の保証は出来ない…だからワガママ言ってるのは分かる!。それでも…俺に協力してくれ!!」


誠心誠意の気持ちを込めてプレイヤー達に懇願するユーキ…しかし、静まり返ったギルドルームからは返事はなかった。


誰もが何も言えずに沈黙が続いている最中…とある1人のプレイヤーが口を開いてこう叫んだ。


「…ふざけるな!!」


そんな言葉にユーキが思わず視線を向けると、そのプレイヤーはさらに言葉を続けた。


「俺には現実世界に残された家族がいるんだ!!。赤の他人のために命をはれるか!!。俺は一刻も早く現実世界に帰る必要がある!!。邪魔しないでくれ!!」


そんなプレイヤーの言葉に続いて、ユーキのワガママを咎める声がいくつもあがり、その声はだんだん大きくなり、会場を飲み込んだ。


誰もが口を揃えて『ふざけるな』とユーキを咎め、罵倒する声が後をたたなかった。


それも当然のことだ。自分達が危険に陥るような真似を誰が賞賛できようものか。


だからこの批判は当然の批判、否定されて当たり前のことだ。


だけど、それでもこのままでは終わらないユーキは静かに口を開いてこう言った。


「…世界は物語の重ね合わせで出来ている」


予期せぬユーキの言葉に場がポカンとなる中、ユーキは語り始めた。


「世界は誰かの数多の物語が複雑に絡み合って出来ている。その中には俺が主人公の物語もあるし、君が主人公の物語も、見知らぬ誰かが主人公の物語もある。誰しもが主人公である物語が一つはあって…この世界に、本当の意味でのモブなんていない。誰もが物語の主人公なんだ」


話が見えてこないプレイヤーが唖然としている中、それでもユーキは言葉を続けた。


「そもそもお前らはどうしてこのゲームの世界に来た?。ちょっとした手違い?。無理やり巻き込まれて?。…違うだろ?。お前達は自ら選んでこのゲームにやって来た!それは何故だ!?」


ユーキは声を荒げて続けざまに叫び始めた。


「物語の主人公が旅する世界に憧れてたからだろ!?冒険を夢見てたからなんだろ!?物語に出てくるようなカッコいい主人公になりたかったからだろ!?」


そしてユーキは一呼吸置いてから静かに話を続けた。


「今、1人の女の子が俺たちのために戦ってる。その戦いの果てに消滅の恐怖が待っているのにも関わらず、俺たちのために戦い続けている。…お前らはそれを分かってて見て見ぬ振りをしようっていうのか?」


ユーキの問いに、答えを返すものはおらず、ユーキはすかさず強い口調で言葉を続けた。


「女の子が俺たちのためにその身を削って戦ってるのに、お前らは指をくわえて見ているつもりか!?。俺たちが助かる裏で消えようとしている女の子を見て見ぬ振りをするつもりなのか!?本当は助けてもらいたくて涙を流した女の子を無視するつもりか!?。多少のリスクがなんだ!?。それでも迷わずに手を伸ばすカッコいい主人公になりたいんだろ!?。それなのに、どうして何もせずに女の子を見捨てられるんだ!?」


そしてユーキはずっと吐き出したかったその言葉を迷うことなく力強く堂々と声高らかに叫んだ。




「お前らそれでも、主人公かよ!?」




ユーキの迫真の説得に誰も何も言えなずに場が静まり返っていると、ユーキが再び静かに口を開いた。


「俺から言いたいことは以上だ」


そしてそれだけ言い残して壇上を降り、ギルドルームを後にした。


ユーキに取り残され、静まり返った場で1人のプレイヤーが口を開いた。


「ユーキさんは…特別だからそんなことが言えるんだ」


そんな1人の声に同調するようにまた誰かが口を開いた。


「そうだ、ユーキさんは特別なんだ。凡人の俺たちには関係ない話なんだ」


「俺たちはユーキさんとは違う。そんなヒーローに憧れることすらおこがましいんだ」


「誇れるものなんて何もない俺たちは…生きたいように生きることすら出来ないんだ」


嘆くような声が大きくなりつつある中、会場に紛れていた1人のプレイヤーが叫んだ。


「それは違うよ!!」


唐突な叫び声に誰もが振り返ると、そこにはシンの姿があった。


「ユーキは特別なんかじゃない。レベルなんてたかが11しかないし、剣だって折ってばっかで使い物にならないし、魔法なんて自殺用しか覚えていない。女の子を助けようとして棺桶になることなんてザラだし、胸を張れるような功績すらなにもない。ユーキは特別なんかじゃないし、誇れるものなんて何もない、みんなと同じただの凡人なんだ」


シンは拳を力強く握りしめながら言葉を続けた。


「ユーキはただの凡人だ。…だけど、それでも常にヒーローであろうとした。例え無力でも誰かに手を指し伸ばそうとすることを辞めなかった。醜く這い蹲ってでも、誰かを救おうとし続けた。ヒーローであり続けようとした!!ただそれだけなんだよ!!」


シンの言葉に誰もが息を飲む中、シンは胸に秘めた思いを吐き出し続けた。


「でも…だからこそユーキの姿は胸に刺さる。僕の背中を押してくれる。ユーキはただの凡人…だからこそユーキは本当の英雄なんだ。それだけは分かっておいて欲しい」


そう言い残してシンもユーキを追いかけてギルドルームの扉を開けて外の世界へと出て行った。


「…おそらくは、ここが分岐点なんだろうな」


シンに続いてセキュリスがギルドルームの扉に手をかけた。


「この扉を開けるか開けないか…ただそれだけの選択肢だ」


そう言ってセキュリスも扉を開けて前へと進んだ。


ギルドルームの外でシンはユーキに追いつき、声をかけた。


「ユーキ!やっぱり僕も手伝うよ!」


「シン…雪のことはいいのか?」


「いいっていうわけじゃないけど…ユーキを見てたら僕もカッコつけたくなったんだよ。…たまには雪にもいいところを見せたいしね。レベルは1しかないけど…ユーキを見てたら出来ることがあるって思えてくるんだ」


「そっか…ありがとな」


2人がそんな会話をしていると、ギルドルームから続々とプレイヤー達がユーキを追いかけて来た。


「ユーキさん!!俺もカッコいい主人公になります!!」


「ここで引いたら主人公じゃねえよな」


「べ、別にあんたのためなんかじゃないんだからね!!勘違いしないでね!!」


ユーキと共に戦うことを決意したたくさんのプレイヤー達を前にユーキは一瞬頬を緩ませ、そして拳を掲げて宣言した。


「よーし!!みんなで田中を救って、カッコいい主人公になってやろうぜ!!」


そんなユーキの声に皆が声を大にして答えた。


こうして、たくさんのプレイヤー達の協力を得ることが出来たユーキ達は、来たる時を万全の状態で迎えるために暗躍し始めたとさ。


そして世界が『打倒逆さメイド』に向けて動き出し………






……2ヶ月の時が経った。







田中が最後のブラッドを真紅の次元箱に詰めると…天に暗雲がかかり、破滅へと誘う雷雨と共に世界に終末の時が訪れた。


「…ようやく、この時が来た」


「随分と長かったな、田中」


先程まで悍しいほどの魔物が蔓延っていた大峡谷の一角で、メイド服を逆さに着た奇特な少女とその影はそんな言葉を漏らした。


そして邪神が降り立つマサラへ向けて踵を返し、ニヤリと笑ってその口を開いた。


「世界よ、覚悟しろ…復讐の時は来た」


その言葉と同時に影に潜ませた魔王の力を解放させ、その目を徐々に徐々に紅く染め上げた。


そして完全に瞳が紅く染まったその時…彼女は満を持してこう述べた。


「さぁ、世界を…『CLEAR』しよう」


終末をもたらすもの、逆さメイドがとうとうクソゲーに牙を向けた。

これまでのほとんどの話はこれからの話の下準備だったりするんで復習してもらえるとありがたかったりします。


別に復習しなくても分かるように書きますけど…。

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