人身売買って買い手がつかなかったらどうするんだろね?
「さあさあさあさあ!!やって参りました!!レッツ人身売買!奴隷オークションのお時間です!!」
意気揚々と会場に声をかける司会のナビィ。そしてアリルによって捕らえられ、なす術なくただただ売られる田中ちゃんとユーキと棺桶がステージの上でスポットライトを浴びていた。
会場は萌え豚によって美少女に変えられたNPCによって埋め尽くされており、そんな美少女達に買われるという一部の特殊な性癖を持つ方々には願ったり叶ったりな展開なのだが、あいにく彼らにはそんな趣味は無いため、商品の表情は暗かった。
「本日紹介する商品はこちら!レベル99のカンストした冒険者の田中と普通の冒険者のユーキ、そして棺桶の三点セットでございまーす!!」
そんな彼らを無視して、まるでテレビショッピングで家電を売るかのようにナビィは奴隷を売っていた。
「煮てよし、焼いてよし!ボロ雑巾になるまでこき使うもよし!愛玩道具に使うもよし!使い方は様々!この商品をご購入いただくだけで、あなたの生活はぐっと変わります!!ブラッドをお支払いしていただくだけで、この商品のありとあらゆる権利から生殺与奪まで、あなたの思うがままです!!」
「まさかこうして自分が売られる日が来るとは…。まぁ、でも…あの大作RPGの主人公も奴隷をやってた時期もあるし、これもまた一興か…」
ステージの上で呑気にユーキはそうぼやいていた。
「その大作RPGの主人公、8年くらい奴隷やってたと思うが…それでいいのか?」
そんなユーキに問いかける田中ちゃん。そんな彼らを尻目に、妖精のナビィは嬉々として司会を続けていた。
「さあさあさあさあ!!そんなありとあらゆる人としての権利を剥奪するとなると…お高いとお思いでしょう?いえいえいえ、そんな心配はご無用!我々の企業努力の末、非常にリーズナブルな価格でご提供させていただきたいと思います!そのお値段、3人まとめてなんと…たったの10ブラッドなり!!」
「…いや、さすがに安すぎだろ?」
一人頭3ブラッド強というだいたいスライムさん三体分の値段で売られることにさすがにユーキも苦言を呈した。
「さあ!はったはった!3人まとめて10ブラッド!早いもん勝ちだよ!」
威勢良く売り出すナビィであったが、3人まとめて10ブラッドといういささか安すぎるお値段に会場はざわついていた。
「10ブラッドですってよ、いかがなさいますか?お嬢様」
「必要ないわ。考えてもみなさい、人としての権利が3人合わせて10ブラッドだなんて曰く付きの商品に決まってるわ。それに冒険者なんてどいつもこいつもろくなやつじゃないわ。御覧なさい、あのアホそうな面を…あれは絶対INT1の顔よ。あんな野蛮な連中、どうせクソの役にも立たないゴミに決まっておりますわ」
「しかし…あの内の一人はレベルが99でカンストしておりますよ?」
「ふん、レベルなんて奴隷として一体なんの役に立つと言うの?。いくらレベルが高かろうが所詮は10ブラッドのゴミ…どうせステータスの振り分けを間違えた見掛け倒しのゴミに決まっておりますわ」
会場にいた客は目利きが鋭いのか、レベルがカンストしているにも関わらず、田中ちゃん達を買おうとする者はいなかった。
「ちょっとちょっと!!お客さん!!10ブラッドですよ!?たったの10ブラッドですよ!?それにもかかわらず買い手がつかないとか…さすがに可哀想でしょwww」
可哀想、などと言ってはいるナビィだが、その表情はどうみても笑いを堪えている様であった。
「…俺は10ブラッドの価値もないのか。…なんか死にたくなってきた」
さすがのユーキも己の価値が10ブラッドにも満たないことに絶望したのか、そんな言葉を吐き捨てた。
「冒険者…いわゆるPCは野心が高いやつが多いからな…奴隷としては歓迎されないんだ」
そんなユーキにフォローを入れるかのように田中ちゃんは説明をした。
「お願いだべ!みんなこいつらを買ってくれだべ!!」
突然、舞台の袖から現れたアリルは涙を流しながら観客に向かって悲痛の声を上げた。
「こいつらはオラの村の大切な収穫物を護衛する約束をしてたのに、それを無視して真っ先に盗賊に収穫物を受け渡した人間のクズだべ!!おかげでオラのスミノ村はお先真っ暗なんだべ!!少しでもこいつらが高く売れないと…スミノ村のみんなは…みんなは…。だからお願いだべ!!こいつらはどうなってもいいから、少しでも高く買ってくれだべ!!」
そんなアリルの村を思う気持ちが届いたのか、会場にはアリルに同情する声がちらほら上がった。
「なるほど…そんな裏がありましたのね…。あんなゴミみたいな奴隷は必要ありませんが、私からの気持ちとして…いくらかブラッドを差し上げましょう」
「スミノ村には昔世話になったことがあるからな…恩返ししたいと思っていたんだ。少ないけど、このブラッドを使ってくれ。あのゴミはいらんけど…」
「私はスミノ村のリンゴが大好きで…あのリンゴが食べられなくなるのは困りますわね。…どうかこのブラッドをお役立てください。あ、ゴミは要りませんわ」
「私も!少ないけど寄付するわ!。もちろんゴミはいらないけどね!」
「このナビィからも少額ですが、受け取ってください。どうせ誰かさんの剣を売ったお使いの時にくすねたブラッドですから、気にしないでください。あ、ゴミは持って帰ってくださいね」
アリルが流した涙が皆の気持ちを動かし、あっという間に寄付は募り、なんとか村が1年暮らせるほどにはブラッドが集まった。
「ありがとう…みんなは…ありがとうだべ…」
「気にしないで…」
「また美味しいりんごを作ってね」
誰かを…村を助けになりたいという純粋な思い。そんな人間味に溢れた優しい世界がそこには広がっていた…。
こうして、盗賊に積み荷を盗まれ、一度は危ぶまれたスミノ村であったが、人々の温かさによってスミノ村は救われたのだった…めでたしめでたし…。
「いや!何もめでたくたいからな!?」
ハッピーエンドで終わりそうになったところにそう言って釘をさすユーキ。
「奴隷を目の前に優しい世界もクソもあるか!?」
「ちょっと…いまいい感じで終われそうなところなんで黙ってもらっていいですか?」
良い雰囲気をぶち壊そうとするユーキをナビィはなだめるが、その様子を見ていた会場の観客からはそんな田中ちゃん達を中傷する声がちらほらと上がった。
「まぁ、空気が読めないなんて…やっぱり冒険者は野蛮ね…」
「ゴミは焼却処分しなければな…」
「分類するとしたら燃えるゴミ?燃えないゴミ?粗大ゴミ?それとも人類のゴミ?」
「いままで一緒に冒険した分、ナビィには心苦しいですが、焼き払うしかありませんね…」
野蛮な冒険者扱いされ、10ブラッドにも関わらず、誰も買い手がつかずに皆が処分に困っていたその時、一人の客が手を上げ、発言をした。
「その奴隷、誰も買わないのなら、私が引き取ろう」
その女性はそう言って凛とした声を会場に響かせた。
「おぉ!捨てる神あれば拾う神ありとはまさにこのことですね!。では、この人類のゴミの三点セットはあなたに贈呈しましょう!!返品は承りませんので、ご注意を!!」
灰にして畑の肥料にするか、海に投げ捨てるか、コンクリに埋めるか迷っていたナビィはようやく引き取り手が現れたことに喜びの表情を浮かべた。
そんなナビィとは裏腹に、会場には何やら不穏な空気が流れていた。
「またあの女よ。この前も買い手がいなくて値がつかない奴隷を安く買っていたわ」
「この奴隷の街の領主にしてはケチな女よね」
しかし、引き取り手の名乗りを上げたその女性はそんな声には見向きもせずに颯爽と壇上に上がった。
「では、奴隷の契約のためにお名前を教えていただけますか?」
「私の名前はフィーネ。この奴隷の街、スレイブタウンの領主だ」
「では契約に移りますね。この『奴隷の指輪』を商品どもにはめて下さい」
奴隷を購入する際には、奴隷には奴隷の指輪という奴隷に命令を聞かせるための装備を強制的に装備させるのだが、指輪を装備させた人が主人となるシステムのため、ナビィは指輪をフィーネに渡し、そしてフィーネはそのまま田中ちゃん達に指輪をはめた。
こうして、田中ちゃんたちのクソゲーすぎる世界で君と一緒にどこまでも奴隷するRPGが幕を開けたのだった。
おまけ
ナビィの解説コーナー!!
ナビィ「はーい!!画面の前の奴隷のみんなー、久しぶりだね!!もう少しでナビィの罵倒が聞けなさ過ぎて気が狂うところだったね!!」
ナビィ「今回は奴隷について説明するよ!!奴隷になると、『奴隷の指輪』っていうアクセサリーを強制的に装備させられることになるんだけど、装備させた人が主人となって、この指輪を装備している限り、持ち主の命令違反すると何かしらの状態異常が引き起こされるよ!!このゲームの状態異常は大抵、死に直結するものが多いから、命令は絶対だね!!」
ナビィ「ちなみにこの装備は持ち主の許可がない限り外すことは出来ないよ!!これであなたも一生ナビィの奴隷になれるよ!やったね!!」
ナビィ「なお、このゲームの装備についてだけど…装備は右手、左手、頭、体、足にそれぞれ一つずつ、そしてそれにアクセサリーを一つで全部で6つ装備できるんだけど、なにも装備していない状態から何かを装備する際にはメニューを開くことなく、そのまま装備できるけど、装備の変更、もしくは装備を外す場合はメニューから装備変更するしか無いよ!…え?メニューが読めないなくて操作できない奴はどうするかって?それはレベルを上げてINTを15まで上げればいいだけだよ!!簡単だね!!」