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おいでませ、剣と魔法と…幼女の世界

田中…Mr.X…デスゲーム…うっ、頭が…。

こんな世界を望んでいた。


町を覗けばファンタジーなら王道の石造りの家々に、見上げるほど壮大な城塞。多種多様な様々な種族によって築かれた城下町。現実と比べると多少原始的ではあるが、活気のあふれた町並みが出迎えしてくれる。


だが、一歩外に出れば危険と未知があふれた冒険が待っている。


眼下に広がる壮大な草原には現実世界では見ることも叶わないような奇形な魑魅魍魎と空には遥か彼方からでも目視できるほどの巨大な竜のシルエットが浮かぶ。


今は手が届かぬような遠い存在でも、いつしか相見える時が来る。そう考えただけで全身を震わすようなスリルと抑えきれぬ興奮に襲われる。


ここは剣と魔法のゲームの世界…その名も、Death Game with wild world。


そして、このゲームの世界にやって来た俺の…いや、俺たちの元に、空から非情な宣告を突きつける者がいた。




「ようこそ、プレイヤー諸君。私はこのゲームの管理人…Mr.Xとでも呼んでくれ給え」




Mr.Xと名乗る黒いローブと奇妙なデザインの仮面を身に纏ったその人物はまるでヘリウムガスをを吸ったような甲高い声で説明を続けた。




「このゲームはただのゲームなどでは無い。この世界での死は現実世界での死と同じ。そしてこのゲームから脱出する方法はただ一つ…ゲームをクリアすることだ。くっくっく…せいぜい楽しんでくれ給え」




説明を終えたMr.Xは不気味な高笑いだけを残してその場からスウッと姿を消しさった。


残されたプレイヤー達がまるで悪夢を見たかのように狼狽する中、俺は密かにニヤリと笑って見せた。


このゲームの死は現実の死?。別にかまわないさ…いや、むしろありがたい。この手が汗でにじむようなプレッシャーが、余計にこのゲームを楽しませてくれる。


「さぁ、ゲームを始めようか…」


俺は一人でそう呟いて、この世界を駆け出した。


だが、彼はまだこのゲームの本当の恐ろしさに気がついていなかった…。











Death Game with wild world。


仮想世界に意識をフルダイブさせることに成功した世界で初めてのゲームだ。そんな世界が待ち焦がれていたゲーム、お値段なんと10万ポッキリで購入できてしまうのだが、まさか現実の死をかけた本物のデスゲームだとはつゆ知らず、購入した者は多い。


そういう経緯もあって、このデスゲームは多くの人を巻き込んだものになったのだが…実はこのゲーム、テストプレイを一度もしていない。


もう一度言おう、このゲーム、テストプレイを一度もしていない。


大変重要なことなのでもう一度言おう、このゲーム、テストプレイを一度もしていない。


そんなゲームで繰り広げられるデスゲーム…果たして何人生き残ることができるのか…。それとも、誰一人クリアすることも叶わず終わるのか…それとも、また別の道をたどるのか…。








…さて、前置きもここまでとして、この物語の本筋に入ろう。


六畳一間、畳が敷き詰められた和室にはゴミが散乱していた。


ポテチの袋、食べ終わったカップ麺の器、微妙に中身の残っているペットボトル…なんとも生活感と鼻に付く匂いが漂うこの部屋にはジャージを身にまとい、髪を団子に縛り、布団に寝転びながら漫画を読んでいる一人の少女がいた。


見た目的におそらく15,6歳だと思われるその少女こそ、このゲームの管理人のMr.X。…本名は田中ちゃん。


管理人の彼女はこのゲームのシステムやデータを設定できるゲームの中のデバックルームを実際にゲームの中に入りながらそれを管理することが主な仕事としているのだが…。


このゲームの中核といっていいほど重要なデバックルームの管理…と言っても、ゲームはすでに完成しているし、別に何かを操作しなくてもプレイヤーは勝手に死んでいくし、わざわざその重い腰を上げてまでやるべきことは彼女には無いのだ。


そういうわけで彼女はデバックルームの隣にあるゲームの中の自分の部屋で管理人権限をフル活用して食っちゃ寝食っちゃ寝のダラダラとした生活を過ごしていた。


「もう、そんな生活を続けていたら太りますよ、マスター」


そんな干からびた生活を続けている田中ちゃんに話しかけるのは手のひらサイズの可愛らしい妖精のナビィ。管理人のサポート役をしているNPCだ。


「大丈夫大丈夫。ゲームの中だからどれだけダラダラしても太ることも無いし…」


「それはそうですけど、管理人の仕事は大丈夫なんですか?」


「大丈夫大丈夫。ほっといてもプレイヤーは勝手に死んでいくし…ましてや、このデバックルームに入って来るような奴なんていないでしょ。あ、新しいポテチ出してくれない?」


漫画を読みながらケタケタと笑うMr.X。…無論、今のセリフはフラグである。


そんなMr.Xを見て、ため息をつきながらもどこからともなくポテチを取り出すナビィ。


「ほんと…マスターにしかこんなことしてあげないんですからね」


ツンツンしながらもちゃんとマスターの世話をしてあげるナビィ。ちなみにナビィは管理人であるマスターにはデレデレだが、それ以外の奴にはそこいらに転がるゴミと同様の扱いしかできないように設定されている。


「やっぱり管理人ってサイコー!!」


ポテチをバリバリさせながらそんなことを言っている田中ちゃんは、この後、ナビィの豹変ぶりを身を以て知ることになる。


そんな日々が数日続いた頃…。


生死をかけたデスゲーム、早速何人かは犠牲になっていた…かと思いきや、未だに犠牲者はいなかった。


と言うのも、スタート地点である城下町、名をマサラ城というのだが…ゲームが始まり、冒険の準備を整えたプレイヤー達はこぞって町を出ようと外へとつながる城門から町を出ようとしたのだが…見えない壁が立ちふさがっており、外に出ることすら叶わず、冒険を始められないのである。


NPC達は好き勝手に町を出入りしているにも関わらず、プレイヤー達は謎の壁判定を前に立ち往生していたのだ。


ちなみにこの透明の壁、原因はデバック不足によるバグの一種だ。


そういうわけで、彼らは町の中で平穏な日々を強いられていた。


もちろん、プレイヤーにはその謎の透明な壁がバグであることなど知る由もないため、町を脱出するためにざまざまな試行錯誤を繰り返していた。


町でイベントを起こすことにより町を出られると考える者、時間経過によっていずれ町を出られる仕様なのだと考え、町の中で仕事を探して資金を蓄える者、諦めて普通に暮らす者。


そんな中、一人だけ奇妙な行動を取る者がいた。


壁にぶつかっては場所を変え、また別の壁にぶつかっては場所を変えるを繰り返すこの男。見た目はメガネをかけたデブでいかにもな萌え豚といったところなのだが…。(ちなみに、このゲームのプレイヤーは自身が操作するアバターの見た目を比較的自由に決められるため、わざわざそんな姿にする理由は普通ならない)


他のプレイヤー達は相撲の稽古でもしているのかと考えていたが…彼の狙いは違った。


ある日、いつもとは違って、自転車にまたがりながら壁にぶつかり稽古していた彼。もちろん、壁はひたすらに彼が加えてきた力と同等の力の反作用で押し返すだけである。


*ちなみにこの世界、なぜかチャリはあります。


だが、彼が壁に接するか接しないかのギリギリの位置に自転車をつけ、何かゴソゴソとしていると…不思議なことに、彼は壁の向こう側へと消えてしまったのである。


これは自転車を降りる動作によって無理やり壁の判定を超えるバグ技なのだが…詳しいことはさておき、やっとの思いで壁を超えた彼は壁の中でニヤリと笑ってどこかに消えてしまった。







一方、六畳一間の汚部屋でダラ〜としていたMr.Xこと田中ちゃんは…。


「なんか…飽きてきた…」


さすがにこの六畳一間でダラダラすることにも飽きて来たのか、田中ちゃんはそんなことを呟いていた。


そんな中、妖精のナビィが部屋に入って来るのを見た田中ちゃんはナビィに話しかけた。


「暇だよぉ〜、ナビィ。かまってぇ〜」


「………」


しかし、ナビィはまるで田中ちゃんの声が聞こえていないかのように彼女を無視した。


「ほら、ご主人様が構ってって言ってるんだから、ちゃんと相手しなよ」


そう言って田中ちゃんがナビィに触れようとしたその瞬間、破裂音とともに田中ちゃんの手になにか強力な斥力が働き、指が弾かれた。まるで何か強力な結界にでも触れたかのような力に田中ちゃんが驚いていると、まるで赤の他人と接するかのように話しかけて来た。


「あの…すいません。ゴミが気安く話しかけないでもらえますか?…同類だと思われたくないので…」


「…え?」


普段のナビィならば決して口にすることがないような言葉に困惑しつつも、『新手のプレイか…お茶目な奴め』などと田中ちゃんは考えた。


『そういうお前は呑気な奴め』とツッコミたいところだが、とりあえず暇な田中ちゃんは隣にあるデバックルームに入っていったナビィを追いかけることにした…それが悲劇の始まりとも知らずに。


久しぶりにデバックルームに入った田中ちゃんの耳に聞こえてきたのはナビィのデレデレした声だった。


「マスター、さっきは酷いこと言ってごめんなさい。ナビィはほんとはほんとはマスターのことが大好きなのに…素直になれなくて…」


ナビィの謝る声が聞こえた田中ちゃんは『ふっ、仕方ないな、このツンデレ妖精め』などと思って、ナビィを許してやろうとしたのだが…。


「フヒヒw別に構わないのですぞ、ナビィたん。むしろツンデレは某の好物ですぞ」


「こんな私を許してくださるなんて、やっぱりマスターは心の広いお方ですね」


「フヒヒwやべw妖精萌えw」


ナビィがマスターと呼んで謝っていたのは田中ちゃんではなかった。


一体どういうことだと、急いでナビィの方に駆け寄ると、田中ちゃんの目に映ったのは、このゲームの全システムを管理しているコンピューターの前に座り、勝手にキーボードをカタカタと叩いていたデブだった…ちなみに彼の名前は『萌え豚』である。


「フヒヒwお待ちしておりましたぞ、田中氏!」


「なっ…何者だ!?なぜ他のプレイヤーがここにいる!?」


「それより田中氏!このゲームのデバックはどうなっておりますのだ!?あまりにデバックがガバガバでしたので、壁の判定を超えてデバックルームに侵入させていただきましたぞ」


田中ちゃんの質問を無視して萌え豚は色々と話し出した。


「このゲームはテストプレイをしたのでござるか!?バグだらけでゲームどころではないでごさるよ。あまりにバグが酷かったので、某が少し改善しておいたでござるよ。これでもう壁を抜けて他の誰かがデバックルームに入ってくることはないでごさるよ。あとついでに、このゲームの管理者権限もいただいておきましたぞ。本当は自由にログアウトできるようにしたかったでござるが、それはプロテクトが硬くて難しいでござる」


「…え?最後なんて言った?」


「ログアウトはプロテクトが堅くてできないでござる」


「いや、その前の部分」


「このゲームの管理者権限もいただいておきましたぞってところでござるか?」


「ファ!?…ファァァァアアアアアアアアアア!?!?!?!?!?」


いつの間にかゲームのシステムを管理する管理者権限を奪われていたことを知った田中ちゃんは驚きのあまり、変な声を出してしまった。


「それと、死んだら現実でも死んでしまう仕様は如何なものかと思いまして、死んでも教会で復活する仕様に変えさせていただきましたぞ。肉体に実害があるなんて仮にも商品としてどうかと思いますぞ。PL法に引っかかりますぞ」


「お前ちょっと待てええええええええ!!!!!!」


設定を勝手にいじられてさすがに我慢ならない田中ちゃんは萌え豚に突っかかろうとしたが、またもや謎の結界のようなものに弾かれた。


「生ゴミがマスターの半径5万キロ以内に近づかないでもらえますか?」


管理者権限が萌え豚に移ったことにより、ナビィのマスターは萌え豚になったため、もはやナビィにとって田中ちゃんは生ゴミ同然の存在となったようだ。


ちなみにナビィの言う5万キロがピンと来ない人のための参考として述べておくと、地球の半径は6300キロほどである。


「目を覚ませ!ナビィ!。お前のマスターはそんな豚みたいなやつでいいのか!?」


「もちろん、構いません。例え他の人にマスターがどう見えようが…私の目にはマスターはこの世界で一番かっこいい豚に見えますから…」


「フヒヒw豚であることは否定しないのでござるねw」


「くそ!ゲームの管理者権限を返せ!」


「フヒヒwそれは嫌でござるよ。こんなにも素晴らしいゲームをバグで遊べないなんてもったいないでござる。ですから、某の手でもっと人気が出るようなゲームに作りあえてやるでござるよ」


「大きなお世話だ!!このゲームの管理を任されている以上、お前に好き勝手させるわけにはいかない!!だからとっとと管理者権限を返せ!!」


「フヒヒwそこまで言うなら仕方ないでござるね。でしたら、田中氏が実際にこのゲームをテストプレイして、クリア出来たのなら管理者権限を返しても良いでござるよ」


「…わかった、クリアしてやろう」


萌え豚の提案に素直に応じる田中ちゃん。…と言うのも、田中ちゃんは一応、ゲームの管理者なのでゲームの仕様や攻略法は熟知しておるため、クリアする自信があったのだ。それも、なるべく時間をかけずに効率よく素早く攻略する算段も付いていた。


「その代わり、約束は守れよ」


「フヒヒwこう見えても紳士なので約束は守りますぞ。ちゃんと返しますぞ…クリアが出来たのなら…」


こうして、ゲームの管理者権限を取り戻すための田中ちゃんの旅は始まった。


果たして、田中ちゃんはこのバグだらけのクソゲーをクリアして、管理者権限を取り戻すことが出来るのか?。


それとも、途中で詰むのか?。


そして、このゲームの行く末はいかに!?。









「フヒヒw言い忘れてましたが、今どき王道ファンタジーなんて需要無いでござるし、このゲームの人気を上げるために、NPCは全員女の子にすることにしましたぞw」


「ファ!?…ファァァァアアアアアアアアアア!?!?!?!?」


次回に続く。









おまけ


ナビィの解説コーナー!!


ナビィ「画面の前の生ゴミのみんな!こんにちは!。このコーナーでは、頭が軽いみんなのためにナビィがこのゲームの設定などについて優しく解説してあげるコーナーだよ!」


ナビィ「さて、このDeath Game with wild world…長いので『デスゲームwww』って略すよ!…草生えてるみたいだね!。さて、この『デスゲームwww』なんだけどジャンルとしては剣と魔法の王道ファンタジーで、低脳なみんながパッと思い浮かべるような中世の世界観のゲームを思い浮かべてもらえばだいたいあってるよ!。チャリがあったけど、そのくらい良くあることだから気にしないほうが幸せになれるよ!」


ナビィ「さて、それじゃあ今日はダニでもわかるレベルアップの仕様の説明をするよ!このゲーム、モンスターを倒すと敵の強さに比例してブラッドっていうこの世界の通貨みたいなものが貰えるんだけど、そのゴールドを協会に一定量寄付することによってレベルを上げることが出来るよ!レベルが上がるとHP(ヒットポイント)SP(スキルポイント)が10ポイントづつ貰えるんだけど、そのSPをSTR(力の強さ)、DEF(防御力)、DEX(器用さ)、INT(賢さ)、LUK(運の良さ)に振り分けることによって、ステータスを上げる仕様になっているよ。よくあるやつだね!。ちなみに最大レベルは99で振り直しは出来ないから考えて振ってね。5つのステータスの説明は今度やるとして…とりあえず今日はレベルを上げるにはブラッドっていうお金が必要なことと、自由にステータスを強化できるってことだけ覚えて帰って行ってね。さすがにどんなに頭がスカスカでも、これくらいは覚えられるよね?。それじゃあまた次の解説コーナーで会いましょう!バイバイ」

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