寮の境目。
時は20時半を回っていた。
菖蒲は遥と琥珀の部屋で琥珀の帰りを待っていた。
「ただいまー。」
「おかえりー今日は長かったね。」
帰ってきた琥珀を出迎えて遥が言った。
菖蒲は台所で味噌汁を温め始めた。
遥はご飯とおかずを並べ、温まった味噌汁を受け取り琥珀の前に出した。
「ありがとう。」
琥珀は食べ始めた。
それから3人でテレビを見ながら過ごした。
時は22時。
菖蒲の携帯が光った。
「電話?」
遥はテレビのリモコンを持った。
「ううん、メールよ。大神くん。女子寮はみんな揃ってるかって。点呼の時間ね。」
男子寮の寮監は生徒会長である麓が担当していた。
初等部から在籍する麓と菖蒲が学年寮監を担当しているのだ。
「ぢゃあ私は一応見てくるね。」
そう言って菖蒲は部屋を出た。
「ねぇ遥ちゃん。例えば点呼の時間にいなくても、ここの学校は咎められたり追求されたりしないよね?なのになんで点呼あるんだろう」
琥珀は菖蒲の後ろ姿を目で追いながら遥に聞いた。
「さぁ?生徒を預かってるから念のため所在を明らかにしときたいんじゃない?ドアに行き場所書くシステムじゃん?」
「ふーん。大人の都合ってやつね。」
と再びテレビに目をやった。
廊下に出て各部屋の前のボードを見ながら菖蒲は記帳に記す。
携帯に目をやると22:05と表示されている。
メールを見直した。
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差出人:麓
件名:動きに変わりはないか?
返信ボタンを押して内容を打ち込み送信をし、再び歩き出した。
記帳に全て記し帳簿と閉じた。
菖蒲は再び携帯を開きメールを打った。
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宛先:遥ちゃん
件名:点呼終わったよー。今日はこのまま部屋に帰るね
送信をして、菖蒲は遥たちの部屋を通り過ぎ自室に戻った。
時刻は22:40
そろそろいいかな?
麓 と出た名前を押し、コールが鳴り止むのを待つ。
『菖蒲、そちらはどうですか?』
「変わりなかったわ。そっちは終わった?」
『そのようです。先ほどまで牙とのぼるが居ましたがね。驚いてたみたいです。』
「そりゃそうよね。揺れはどのくらいあったの?」
『15分弱ですね。』
「いつもより短いみたいだけど?」
『なにか気になりますか?』
「いいえ。麓はなんともないのよね?」
『もちろんです。』
「わかったわ。ぢゃあまた。」
二人は電話を切った。
男子寮は本日も揺れたようだ。
ここ数日続いている。
しかし女子寮は変わりない。
男子寮と女子寮は中央の玄関で繋がっていて隣接しているのに。
菖蒲は手を握りしめた。
麓。変わらないで…ずっと。