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僕と猫

作者: 鳶尾

僕と猫のみゃおはwin-winな関係、ビジネスライクな関係のはずだった。僕の中ではそうだった。


初投稿です。読まれた方いらっしゃったら是非、感想書いてください。お願いします。

僕は猫が嫌いだ。耳障りな鳴き声が嫌いだ。すぐいなくなって、気づいたら居座ってる自由きままで勝手なところが嫌いだ。そして何よりもあの爪。4歳の僕の柔らかな背中を傷つけたあの爪をぼくは最も嫌っている。というよりもあれから僕は猫が嫌いになったのだ。


しかし今はそんな猫ともうまくやっていかなくちゃあならない。何故かって?初恋の人が大の猫好きだったからさ。


彼女と出会ったのは中学二年生のクラス替えの時だった。ほとんど一目惚れだった。自己紹介をする彼女はハキハキと喋り、ぼくの席から見ると窓の光が後光のように彼女を照らし、とても眩しく見えた。長い黒髪がすらっとした彼女のスタイルによく似合っていたし、何よりもその愛らしい笑顔をとても好きになったのだった。


しかし、まったくといってもいいほど僕と彼女に接点はなかった。僕は本が好きな大人しい少年であったし、彼女はバスケ部でバリバリのスポーツ少女だった。明るく元気な彼女はクラスの人気者で、僕がおいそれと話かけれる雰囲気ではなかった。結局二年生の間はほとんど会話することはなかった。


三年生になってからはクラスも別になり僕も諦めつつあったのだが、ある日下校中に公園でしゃがみこんでいる彼女を見かけた。何をしているのか気になって立ち止まって見ていると振り返った彼女と目があった。彼女は僕を手招きした。どぎまぎしながら近づいてみると彼女の足元には衰弱して倒れている子猫がいた。

「どうしよう。まだ死んではいないみたいだけど」

彼女は困っていたが先にも言った通り僕は猫が嫌いだ。苦手を通り越して嫌いなのだ。なのでこの時ばかりは踵を返して立ち去りたい気分だった。

「病院に連れていくしかないんじゃないかな」

僕は当たり障りのない返答をした。

「そうね」

と彼女は答え何か考え始めた。

「私動物病院がどこにあるか知らないんだけど、知ってる?」

と彼女が聞いてきた。僕はチャンスだと思った。彼女と接点を持ついい機会だし、都合よく、僕は動物病院の場所を知っていた。

「知ってるよ」

と答えると案の定

「連れていってくれない?」

という答えが返ってきた。そして僕は彼女と動物病院に向かった。


診断の結果ろくに食べ物を食べてなかったことによる衰弱だと判明した。しばらく動物病院で預かってくれるそうだ。彼女は命に別状がないとわかり安堵している様子だったが僕に

「これからどうしよう」

と話しかけてきた。

「これからって?」

と僕は答えたが何の話かはわかっていた。

「この子猫を誰が引き取って育てるかって話よ」

と彼女は答えた。彼女の家はマンションでペットが飼えないそうだ。彼女は無言になったが僕は圧力を感じていた。僕はこういう流れになることを恐れていたのだ。猫を飼うなんてとてもじゃないが耐えられそうにない。しかし不幸中の幸い、いや、幸い中の不幸とでも言うべきだろうか、僕の家は一軒家で、ペットを飼うのに問題ない程度には裕福であった。そして何より打算が働いてしまった。『僕の家であの猫を飼えば猫が好きな彼女と話す機会が増えるのではないか?』という僕にとって魅力的な打算が。僕は悩んだ末、親に相談してみるよ。という前向きに聞こえる答え方をしてしまった。彼女はとても喜び連絡先を聞いてきた。僕は余裕ありそうに連絡先を教えたが、天に昇るような心地だった。そしてその日はそれでさよならした。


二週間後ぼくは子猫を引き取った。全然可愛く見えないそれに僕は『みゃお』と名付けた。なんてことはない。鳴き声がから名付けただけだ。

僕は真面目な人間だったので猫の飼い方について二週間の間に予習していた。親からも『あなたが一番世話するなら飼うことを許します』と言われていたのもある。とにかく僕はそれほど困ることもなく猫を育てていった。


彼女とは学校でもよく話すようになった。主に猫の話なのが僕にとっては少し癪だっだが、彼女と話す時間は僕にとって最高に幸せな時間だった。その時だけはみゃおに感謝した。


みゃおと僕の関係はとても淡白なものだった。子猫の間に外に出さなければ家猫として外に出なくても満足するようになると知ったので、僕はみゃおを外には出さなかった。外で汚れた体で家の中を歩かれるのが嫌だったからだ。基本的にみゃおの居場所はリビングだった。餌をやるのは僕の仕事だったが、みゃおを可愛がるのは両親で、僕はみゃおが寄ってきたら逃げるように自分の部屋へ入った。そしてみゃおが僕の扉をカリカリと引っ掻いても決して中に入れることはなかった。


しかし彼女にみゃおのことを話すときは兄弟のように仲が良いと語っていた。みゃおを飼い始めてから3ヶ月ほど経ったころ、僕はみゃおとの関係を不思議に思うようになった。win-winなのだ。僕はみゃおを利用しているし、みゃおも僕のお陰で飢えることなく生きている。生き物を飼うのは皆満たされないなにかを満たすためなのだとこの頃気づいた。


彼女とは仲良くなったがそれ以上になりそうになかった。受験を控えていたからではない。もっと単純に、彼女に恋人がいたからだ。僕は愚かにもそれを知らなかった。知ったのはみゃおを飼い始めて5ヶ月後のことだった。


そして僕はみゃおを飼うことの意味がわからなくなった。あくまで道具のように考えていたみゃおだったが役に経たなくなってしまった。今までの苦労はなんだったのだろう。僕はみゃおを捨ててしまおうかと考えた。が、できなかった。何故かはわからない。みゃおのことは嫌いだし、見ていると彼女を思い出すだけで、辛かった。でも何故だか捨てられなかった。僕はみゃおを飼い続けることにした。


5年が経った。成人式で僕は彼女に会い、みゃおのことを尋ねられた。「みゃおは死んだよ」と僕は答えた。彼女は悲しそうな顔をしたが、お墓参りがしたいと言ってきた。僕は自分の家の庭に彼女を連れていき、線香をあげる彼女を見ていた。僕はみゃおが死んだとき、悲しいとは思わなかった。それなのに。それなのに何故だか涙が止まらなかった。僕はなんて冷たい人間なんだろうと思った。生き物はみな線香と同じように命を燃やしながらいつか消えて灰になるのだ。みゃおは、あいつは僕にとっての何だったのだろう。あいつは僕の部屋の扉を毎日カリカリ引っ掻いていたが、何を伝えたかったのだろう。今はわからない。いや、当時だってわからなかっただろう。他の生き物の気持ちなんてわからない。人間同士だって言葉にしないと自分の思いは伝わらないのだ。


「好きです。付き合ってください」

僕は5年越しで彼女に告白することができた。泣きながら告白する僕を見て彼女は驚いた顔をしていた。みゃおの嬉しそうな鳴き声が聴こえた気がした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 初投稿ということは、「人に読ませる前提の文章を書く」ことも初めてということでしょうか。それにしては、全体のテンポは悪くないと思います。前後の文脈をとりながら「ふむふむ」と読むことができまし…
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