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熊になるための下準備

人間よ、これが熊であり、熊好きの生き様だ。

 その日、俺は一匹の熊と出会った。


 花咲く森の道ではない……切り立った崖の上である、逃げ場はない。

 どうしてこうなったか、というとイマイチ説明できないが適当に登山していた俺が道を誤り崖っぷちに立った時たまたま背後に熊が現れたのでこうなったとしか言えない。


 びっくりするほど間抜けな理由だが、俺としてはこの時点である意味目的は達成されている。

 何故かといえば目の前に熊がいるから。


 自分で言うのもなんだが俺は極度の熊好きだ、それもプーとかテディとかああいうデフォルメされたやつではなく牙剥き出しな野性味溢れる……というか野生の熊が大好きだ。

 ここで俺の名前を名乗っておけば熊田熊太(くまだゆうた)だ、この名前からも溢れる熊好きオーラ、両親も大の熊好きでそんな名前を付けてくれたんだ。


 両親は学者で熊の研究をしていた、手乗りベアーを生み出してペットにするための研究をしていたんだが研究中の事故――――と言っても熊に食われたとかじゃなく年老いて歩くのが不自由な熊の下敷きになって両親は死んでしまった。

 とても間の抜けた最後だがそこが俺の両親らしいし、何よりふかふかの熊の毛皮に包まれて両親も幸せそうな顔で窒息死していた。

 窒息死なのに幸せそうな顔が出来るわけがないと思うのだが、まるでそれが運命だと言わんばかりのいい笑顔だったのを俺は覚えている。


 ここまで言えばもう分かると思うが俺は天涯孤独ってやつだ、他に親戚も居ないし両親も生涯を熊に捧げたのだ仲の良い知り合いが居た訳でもなく、ましてや研究に使っていた熊たちを養うのにほとんどの財産を使っていたので俺に遺産は何も残らなかった、残されたのは研究に使っていた熊達だが、ほっとくと野生化してやがて猟師に打たれるのが関の山なのであっちこっちの動物園に問い合わせて引き取ってもらった。

 そこまで身辺整理を済ませた俺はなけなしの小遣いをはたいて登山道具を揃え、野生の熊が出没するという山を登った、勿論俺の人生を熊に捧げるために。


 両親は熊で圧死、窒息死したわけだがそんな都合よく熊で死ねる訳が無い、なので俺はワイルドに熊に捕食される道を選びここに来て――――偶然にも運良く大人の熊、それも多分メスの熊に出会った。

 この時期熊は子育てシーズンであり、餌を求めて割と麓の方まで降りてくる、きっと可愛い小熊の為にここまで餌を探しに来たのだろう。


 健気なものだ、今俺が餌になってやろう、そう思い一歩近づいてみる。

 俺の行動に驚いたのか熊は威嚇するように吼え立ち上がった、体長四メートルの巨体が俺を見下ろし、俺が一瞬ひるんだ隙に前に倒れ掛かってくるように両腕を振り下ろしてくる。

 その両腕に俺は為す術もなく突き飛ばされた俺は……崖から転落した、もう一度言おう崖から落ちた――――熊に食われる予定がまさかの転落死、笑えないな……父さん、母さん俺は笑って死ねないらしい。


 死に際は二人のように笑顔で熊に食べられようって決めていたのに、落下中の浮遊感は半端ないなまるで止まっているかのような感じだ。

 それと同時に走馬灯というものも見える、と言っても精々十数年の人生だ別に長いものではないが一番思い出に残っているというか今まさに鮮明に思い出したのは小学校の時に書いた作文を発表している時で将来なりたいものは熊だと言っていた場面だ……懐かしいしそれに、願わくば――――来世は熊になりたい、そう心に決めて俺は目を閉じ……地面に叩きつけられた。



 そして気がついたときに俺は、見知らぬ森で横たわる熊になっていたのだった。

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