(3)
「夢みたい。」
「だな。」
目の前に広がる札束の海。まず思ったのはよくある雑誌の裏表紙にあるいかがわしい札束風呂の画だった。
これだけあれば、あんな風に自分の体を札束に浸す事が出来るだろう。
ちょっとやってみたいなと思ったが、あまりにもくだらなすぎるし、それでせっかくのお金が駄目になってしまっては元もこうもないと思い実行には移さない事にした。
しかし一体何なんだ。
金に運命の女性。これで名声まで手に入ればもはや無敵だが、一大学生のステータスとしては十分すぎる程の装備だ。
3億か。
小さい時にもし宝くじがあたったらどうするかなんて話をしていた事を思い出す。
あの頃はどう考えていたっけ。
お菓子、ゲーム、マンガを好きなだけ買って後は貯金。
確かそんな感じだ。
今はどうだろうか。
少し欲しいものの幅は増えたとはいえ、ほとんど考えは変わっていない。
自分が欲しいものをリスト化してそれを全て購入していっても、持て余すほどの大金だ。
やはりほとんどは貯金に回るだろう。
面白みはないが、堅実にいって間違いはない。
「いざこうなるとどうしていいか分かんないもんだね。大金すぎて。」
可菜美も同意見のようだ。
「とりあえず、何かおいしいものでも食べに行く?」
「本当に?これだけあるっていっても君のお金だし、なんか悪いよ。」
なんて出来た女性なんだ。
この大金を目の前にして果たしてこのセリフを言える人間がこの世にどれだけいるだろうか。
素晴らしい女性と出会えた事に謙三は心から感謝した。
「何言ってんだよ。もうそんな遠慮する仲じゃないだろ。」
そう言いながら彼女の頭を抱きかかえた。
自然に彼女も謙三の体に腕をまわしてくる。
「そっか。ありがと。」
満たされ過ぎて逆に恐怖すら感じる。
大丈夫なのか、一気にこれだけの幸福を掴んで。
この後に待っている人生が地獄絵図だったりしないだろうか。
いや、そんな事考えても無駄か。
この幸福はここで終わらせない。もっともっと膨らませる事が出来る。
これは始まりに過ぎないんだ。
しかしそれにしても。
「ほんと、夢みたいだよ。」
たった二日のうちに何度そう思い、口にしただろう。
だがそれでもまだ言い足りない。
これが夢じゃないと、そう自分に言い聞かせる為に。
「まあ、夢なんだけどね。」
「え?」
自分でも、可菜美のものでもない男性の声が、はっきりと聞こえた。
その瞬間、周囲の景色は全てが無へと変わっていった。




