プロローグ
*ちょっぴりグロいので気を付けて閲覧してください。
■プロローグ■
高校に入ったら、色々と充実すると思っていた。
例えば彼氏が出来て、一緒に出掛ける為に必死にバイトしたり。
友達にアリバイ工作をしてもらって親に嘘ついてドキドキしながら彼氏とデートしたり……
手を握られただけでドキドキして、顔もまともに見れない。そんな純情を経験するんだって夢をみてた。
私、南野 藍の実際の高校デビューといえば――……
「超かったる……」
いかにも真面目そう! って話しかけた生徒がが実は真逆。完璧すぎるほどの不良女子。
そのヤンキー陽菜と離れるにはなれなくなり、今や私も立派な不良なんだけど。
言うまでもなく彼氏・海斗も同類。ドキドキどころか純情の一文字すらない。
私たちのデートはゲーセンでお金を爆発的に消費したり、適当な店で万引きしたり……
正直、スリルあっても楽しさはない。そのスリルも本当は味わいたくないんだけど。
何度か脱不良を考えた。でも陽菜が怖くて出来なかった。彼女は自分を裏切るものに容赦はしない。
最近、気付いたことなんだけど陽菜は海斗の事が好きだと思う。
自分で言うのもなんだけど、海斗とのキスは一度もない。抱き締められたことすらないと思う。
でも、二週間前……陽菜と海斗がキスしているのを目撃した。
不思議と大きなショックは受けなかった。私きっと、そんなに海斗の事を好きじゃないのかもしれない。
翌日、海斗にオブラートに包んで事実を聞きだそうとしたが失敗。
「あいつのことは何とも思ってねぇし、何とも思われてねーよ」だって。人は平気でウソをつくものなんだって悟った。キスは好きな人とじゃないと出来ないから……
私の事なんか気にせず付き合えばいいのに。そう思った時、海斗が私の恋人ではなく監視役なんだって気付いた。二人のキスよりもショックだったな……
ものすごく陽菜に「私たち友達だよ」って言ったことを後悔したし。
結局、そんな関係はまだ続いてるわけだけど。
「毎日、あちーな! うっし、今日はパミリーマート行こぜ」
海斗のデートの誘い方はいつもこんな感じ。万引きを誘ってる。
私も形だけ(・・)の(・)万引き(・・・)をする。取ったもののあった場所に、毎回ちゃんとお金を置いている。
今日もいつもと同じ形だけの万引きをするつもりだった。
パミリーマート店内には私と海斗と男性客にどんくさそうな店員が一人だけ。
海斗がアイスを脇に隠したのに続いて、私もアイスを鞄に入れてお金を置こうとした。
「金を出せ! さもなくば……」
突如、男性客が包丁を取り出し私を人質に取る。
すくむ足、震える体……「罰があたったんだ」脳裏を過る、ごめんなさい……
店員を見ると、うろたえながらレジを開けるところだった。
(そうだ、海斗……助けて、海斗!)
視線だけで海斗を捜す。見付けたのは海斗の小さくなる背中だった。
最低、とは思わなかった。私が海斗でもその選択を選ぶと思う。
それで、一件落着した時に「警察呼びに行ってた」と言えばいいんだから。
海斗の姿が見えなくなると恐怖よりも諦めが増した。
「あの、警察ですか?」
声は店員だった。
“警察”という言葉に逆上し、私目掛けて包丁を大きく振り下ろした。
(なんでこんな罰当りな高校デビューしちゃったんだろな)
走馬灯のように両親への反発や八つ当たりがめまぐるしく浮かんでくる……
あるのは後悔ばかり。こんなことなら陽菜に刃向って誰かの役に立てば良かったな。
涙が頬を伝い、落ちると同時に包丁が私の――
『危ない!』
青年の声が脳に響き、全身が強く引っ張られた。意識を手放す瞬間に見えたのは宙を舞う真っ赤な血だった。
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