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義雪伝  作者: 戦国さん
第二章 若き鷹、大空に羽ばたく
22/22

全てをさらけ出す

「……今なんと申されました?」

菊奈ははっきりと聞こえてはいたが、そのあまりの理解しがたい内容にそれを言った本人の村娘に再び問いかけた。

「え、えっど…ですから義雪様が『敵に捕まったふりをして敵中にて敵の大将の顔を拝んでくる、心配は無用だ。菊奈達は本隊と先に合流していてくれ』との事です」

菊奈を含めそれぞれが眉間に皺を寄せ、また義雪様の悪い癖が出たと大変困った顔をした。

特に菊奈は胃まで痛くなってくる始末であった。

(今なら普段の義貞様気持ちがわかる。……しかし、どうするか…まさか獣志郎様をこのままにするわけにも…)

どうすればいいか色々考え険しい顔をしている菊奈に周りにいる義雪の部下の一人が話しかけてきた。

「とりあえずいかがいたす?まさかこのまま義雪様一人敵中に置いていくわけにもいきますまい。我々は菊奈殿の指示に従いまする」

どうやら彼らも主のこの行動にどうすればいいか迷っているようだ。

そこで義雪の身内である菊奈にとりあえず意見を仰ぐ事にしたのだった。

「左様ですか、ならばあなた方はこのまま獣志郎様の指示通り本隊と合流してください。因みにその時に義貞様への報告は『義雪様は無事ですが、所用の為今すぐには戻られません。とりあえず兵は下手に動かさず義雪様が戻られるまで待機』と伝えといてください」

「御意。ところで菊奈殿はどうなされるのですか?某達と共に戻られるのでございますか?」

「……私は獣志郎様の後を追います。これでも元々は忍、奴らに悟られないように獣志郎様の近くに張り付きもし危険があるようであればこの身に変えても守ってみせます」

菊奈は腰に差してあった小太刀を前に構えてその決意の強さを示す。

義雪の部下達はその菊奈の決意に何も口に出せなくなってしまう。

そしてただ「ご無事をお祈り申す」とだけ言って彼らは菊奈と娘を残しその場を後にした。

残った菊奈は早速行動に移るべく隣にいる村娘に話しかける。

「…さて、娘さん。貴方には少し協力して欲しいことがあるのだけど、良い?」

「な、なんでしょう?まぁ、あだしで協力できるこどだっだら…」

彼女は突然話しかけられ驚いた。その声は若干裏返っている。

菊奈はそれを察したのか娘を安心させるため優しく微笑みながら喋りだした。

「なに、簡単な事です。そんな難しい事じゃないし、門又殿を陥れるような事でもないです」

「ぞ、ぞれなら」

「では………」

菊奈は村娘に近寄り耳元で周りに聞こえないように事の次第を話した。

その後二人は近くにある村娘の住む集落に移動した。


「……ふむ、両の手を縛られると実に歩きにくいな」

義雪は縄に縛られ馬上にいる灯に引っ張られる形で足場の悪い山中を歩いていた。

「…すいませぬ。一応義雪殿は捕虜の身という立場故この縄は外す訳には参りません」

灯は馬上にてそんな歩き辛そうな義雪を見て申し訳なさそうにする。

「いや、構わんさ。此方もそれなりの無理を言っておるのだ、これくらいの事はどうという事はないさ」

「全くでごさいます。捕虜になるから殿に会わせろなど……何を考えているのやら」

そう言って義雪に悪態を吐いたのは灯の隣で灯と同じく馬に乗る老齢の侍であった。

彼の名は船木源次郎時重。門又宗就に古くから使え現在はその娘灯の護衛兼お目付役をしている熟練の侍である。

「これ!爺。義雪殿になんて事を!!」

「ははは、構わんよ。翁の申している事は至極正しい」

義雪ははっきり言う爺さんだとかつて共に見回りをした頑固な年寄りを思い出し大いに笑った。

そんな義雪を横目で見ながら義雪に聞こえないように時重は灯に近寄り話しかけた。

「姫の命故従いますが、本当にこの者と殿を会わせるお積もりなのですか?」

「そうだが?やはり爺は反対か?」

「わしだけではございません、皆姫の此度の行動には大なり小なり理解出来ぬ者ばかりです。何故に先ほど手合わせした敵将を信用出来るのか理解に苦しみますぞ」

「まぁ……普通そうであろうな」

「ならば何故?」

「…そうさな」

問われた灯は顎に手を当て少し考えたのちその理由を語り出した。

「理由は二つ」

「二つ?」

「一つは彼が立花道雪の家臣だという事だ。信義に厚いと評判の立花家の者ならば無碍に約束を違える事はないだろうと考えた。そして二つ目だが………」

ちらりと義雪の方を見る灯。そして再び時重の方を向くとその顔は先ほどまでの普段の猛々しいものから年相応の娘の笑顔になってあた。

「不思議とな共にいると信用していまうのだ。……直感という奴か?それに刃を交えた印象も彼の者の動きは型破りであったがその太刀筋から使い手の実直さ、清廉さがよく伝わってくる良い動きであった。刃や行動の一つ一つはその人物を語るとは父や爺がよく言って聞かせてくれたではないか」

その言葉に時重は何も言い返せなくなってしまった。

灯は交えた刃や仕草から義雪の内面を察したのだ。

時重は灯に人を見る目があるのは重々しっていたし、本人もこの戦国の世で生きていくために見抜き方を彼女にさんざん教えてきた。

しかしそれを聞いても尚老齢のこの侍の顔は険しい物であった。

「ふむ、姫がそこまで申すならそうだと思いたい所ではございますが、だからと言って確実に信用出来る訳ではございません」

「爺の心配は尤も。しかし義雪殿は何も持っておらず、また両の手は縛られている。もう少し肩の力を抜いてはどうか?」

「左様でありますか……まぁ、これは性分故、

某は勝手に警戒しておくとします。用心に越したことはありませんからな」

時重は話を切り上げ一言嫌みを告げると、ふんっと鼻を鳴らしながら灯の側を離れる。

灯はその姿を苦笑いしながら眺めた。

そして、そうこうしている間に道中変わったこともなく無事灯一行は門又本陣に着き、そのまま灯は義雪と時重を連れ父門又宗就の下を訪れた。

「おお、よくぞ無事帰った。しかも敵の総大将を捕まえてくるとは…いやはやなんとも参った」

宗就は娘の無事にほっと胸をなで下ろし、またその娘が立てた戦功に大いに喜んだ。

しかし灯はその父の喜ぶ顔を見ながらばつの悪そうに話し始めた。

「……その事なのですが父上、一つ父上に詫びねばならぬ事がございます」

「詫びねばならぬ事?なんじゃ、申してみよ」

「そこから先は某が言いましょう」

そう言い出したのは灯の隣で縛られている義雪だった。

「ほほぅ、立身殿が…して、どう言うことかな?」

「ふむ、では先ずこう縄で両の手を縛られては落ち着いて話せぬ。解かせてもらおう」

義雪はそう言うと難なく己を縛っていた縄を解いた。

その義雪の行動に周りの灯と時重以外の門又諸将はある者は目を丸くして驚きある者は腰の刀に手を当て警戒する。

しかし宗就だけは流石といった感じでそれに動揺も驚きもせずその場にどっしりと腰を据えて落ち着き義雪を見つめているのだった。

「ふむ、では色々と聞こうか立身殿」

義雪はその堂々とした振る舞いに流石は歴戦の勇将と名高い門又殿と感心しそれに答えるようにしっかりとその目を見つめ返しその問いに応じた。

「では、先ず灯殿が詫びねばならぬといった事に関してですが、これはこの縄の件も含め某を捕まえたと偽って門又殿に会わせる為にこの場に連れて来た事に対する詫びにございます」

「ほう、では灯はわしを裏切ったと?」

「いえ、門又殿それは違います。灯殿はただ某をこの場に使者として連れてきてくれただけにございます。現に某は武器の類は灯殿と船木殿にお預けして一切持っていません」

義雪はそう言うと両手を上げ自分は一切武器を持っていない事を強調した。

「真か?時重」

「は、確かに立身殿のお持ちしていた武器の類は全て隅々まで某が調べた上で外にいる部下に預けてございます」

「ふむ、では立身殿は無謀にも総大将自ら護衛も付けずに使者として赴いたというわけだな」

「そう言うことになりますな」

「で、立身殿はそこまでして何が目的でここに来たのですかな?まさか今更親善の使者でもありますまい」

宗就の問に義雪は万弁なる笑みで答えた。

「いや、なに。単純に門又殿、貴殿という人物がどんな御仁か気になって少々世間話をするために来ただけにございます」

「…ほほう、それはなんと豪気な」

宗就は考えた。この男は何を考えているのかと。宗就は正直このような男は嫌いではない、寧ろ好きな感じの男と言ってもいいだろう。

しかしそれは本音ならばの話だ。

今は戦国乱世。親子ですら殺し合い騙しあう世である。宗就とて今まで沢山そういったものを見てきた。

それ故にこの義雪の真っ直ぐな言葉にすら疑いを持ってしまっているのだった。

しかし義雪とてその事は理解していた。

故に義雪は行動にでる。

「とまあ、言葉だけでは信頼はできませんでしょうな。もしかしたら船木殿にもわからないように短刀を忍ばせているやも知れませんし」

「ふむ、では立身殿はどうやってわしを信頼させるつもりなのかな?」

その宗就の言葉に義雪は笑みを浮かべる。

「こういたします。灯殿、しばしお見苦しいものを見せますが失礼します」

そう言って義雪した行動、それは今自らが着ている衣服を脱ぎ褌一丁になると言うものであった。

その肉体は色白で細身であるが無駄なく引き締まった筋肉によりひ弱な印象を全く感じない立派なものであった。

義雪の突然の行動に隣で見ていた灯は顔を赤らめそらす。

灯は基本男所帯な門又勢ゆえに見慣れているように思うが、その殆どが父やそれより少し年下ぐらいの者ばかりなので同年代の男の裸はあまり見慣れていないのだった。

「これならば隠す所は一切ありません、腹を割って安心して話が出来ましょう」

義雪の行動に流石の宗就も口を開いたまま塞がらない様子である。

それを見た義雪はこれでも足りないのかと更に

「おお、これは失礼。褌も脱がねば隠すところが一切無いとは言えませんな」

と褌に手をかけた。

灯はその義雪の行動に動揺しながら止めに入った。

「義雪殿!お止めください!ち、父上もうよろしいでしょう?」

「灯殿心配は無用だ。某は褌を脱ぐぐらい造作もないぞ」

「いえ、ですから!そう言う事ではごさいませぬ!!」

「ぷ、はははははははは!」

宗就は褌を脱ごうとする義雪とそれを必死に止めるその娘の姿を見て腹の底から大きな声で笑うのだった。

灯と義雪はその突然の笑いにさっきまでのやり取りを忘れて固まった。

「いや、すまぬ。あまりに可笑しいのでな、ついつい耐えきらず笑ってしもうたわ。立身殿、良かろう。そなたの申し出受けることとする。そもそもこの状況でどうこうできるわけもないしのう」

「ん、さようか。何かしらんが良かった。では……」

「と、その前に」

「何ですかな門又殿」

「せめて服を来てくれんか?家の娘には少々目に毒のようでな。それに話し相手が裸ではわしとしても話しにくい」

宗就は含み笑いをしながら義雪に服を着るように言った。

「ふむ、では遠慮なく」

義雪はその場に脱ぎ捨てた己の衣類を拾い上げそれを急いで身に纏った。

久しぶりの投稿です(●´ω`●)

待っていてくれた皆様本当にすいません。

色々無計画に進んでたら大変な事になってしまってまして……

これからはちょくちょく更新頑張りたいとおもいます。

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