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義雪伝  作者: 戦国さん
第一章 忍と若武者
10/22

自分の出来ることを…

ほんと何なんでしょうか今年の夏は去年より暑く感じます

基本的に冬に生息する私としてはかなりキツいです

とある山に小さな滝があった。

そこに一人の女性と二人の童がいる。

童は小さい頃の義雪と銀次郎であり、それぞれ今の面影はありつつもどこか小生意気な顔をした童であった。

そして女性の方の名は犬狛八重と言う。

家の事情で関東の方から九州に仕事に来ている武家の娘だ。

彼女と義雪達の出会いは、近隣の村で手がつけられない有名な悪餓鬼であった義雪と銀次郎を彼女がとっ捕まえ、懲らしめたのが始まりだ。

最初はただ単に二人を躾るために教養などを教えるだけであった八重だが、その才能を見抜いて武術も教えるようになっていた。

二人にとっては師とも呼べる人物である。

その日も八重と義雪と銀次郎は、このいつもの武術鍛錬の場である小さな滝の近くで激しい稽古に明け暮れていた。

銀次郎は木刀、義雪は長い木の棒、八重は小さい脇差しぐらいの木刀を持っている。

「くっそー!ぜぇ、ぜぇ、八重ちゃん強すぎだぜ。かすりもしねぇ」

「はぁ、はぁ、ほんとだ。まったく勝てる気が…しない」

二人は全身打ち身と擦り傷だらけで、息も絶え絶えに地面に倒れ込んでいる。

「もう弱音ですか?だらしがない。それと銀次郎、八重ちゃんではなく先生、もしくは八重さんと呼びなさいと、何度言えばわかるのですか?」

それを八重は汗一つかかず、涼しい顔で見据えている。

「別に八重ちゃんでも…痛っ!」

すかさず八重鋭い拳骨が銀次郎の頭に振り落とされる。

「せ、ん、せ、い」

「すいません、八重先生」

あまりの八重の威圧感に素直に従う銀次郎。

(やれやれ、銀次郎も馬鹿だな)

その光景を隣で微笑ましく見る義雪。

そして彼はそんな中ふと思案に耽っていた。

(しかし、いつまでたっても二人かがりで一太刀も浴びせれないのは、流石にちと悔しいな。攻撃する時間に差をつけず、一斉に飛びかかるか?しかしそれでは…)

そんな思考を巡らせている義雪に八重が話しかける。

「考えるのは良いことです。で、何か私を打ち負かす手立ては思いつきましたか?」

「いいえ、全く思いつきません。色々考えてはいるのですが、どれも通用するとは思えません。先生は勘も良いし、動きに無駄も無い、そして何よりわし等では捉えられんくらいに早すぎます」

義雪は眉間にこれでもかと言うくらいに皺を寄せて難しい顔をした。

そんな義雪に八重は苦笑いしながら答えた。

「まぁ、仕方ないでしょう。今の状態では普通に考えて、あなた達が私に一太刀加える事は不可能に近いでしょうからね」

「じゃあ、どうしようもねえじゃねえか!」

「その銀次郎の考えは良くありませんね」

「は?」

いきなりの八重の言葉に固まる銀次郎。

「例えば、敵は自分より強く、逃げ出す事も出来ない状況。銀次郎はどうしようもないと諦めて大人しく殺されますか?」

「そんなの、諦めないに決まってる!大人しく殺されるなんて柄じゃねえ!!もしかしたら勝てるかもしれねえじゃねえか!」

八重はその銀次郎の答えに満足そうに頷き話を続ける。

「そうです。どんな相手でも勝負はやってみないとわかりません。例えあなた達と私の実力に大きな差があったとしても相手が人である以上、必ず負けるという事はないのです。要は自分に出来る事を全て行い、その少ない可能性を如何にして大きくできるか?それが肝要なのです」

(……自分に出来る事)

八重は話終えると、立ち上がり手に持った木刀を構えた。

「では策も授けましたし、休憩は終わりです。かかってきなさい」

「全く策になってねえよ八重ちゃ、痛っ!!」

再び八重の拳骨が唸る。

「せ、ん、せ、い」

「痛っててて。わーったよ八重せ、ん、せ、い」

気だるそうに拳骨が落ちた辺りをさすりながら立ち上がる銀次郎。

それに続いて義雪も立ち上がった。

「ははは、まぁ、成るようになるさ。行くぞ銀次郎!」

「おう!」

その後二人は目一杯あらゆる手を尽くして八重に挑むが、全てのらりくらりと対処されてしまったのだった。


(結局あの時は一太刀も浴びせずに終わったな)

児宗斎と対峙し、最初に刃を交えて以降義雪は児宗斎の速度に対処出来ずに防戦一方となっていた。

圧倒的に素早い児宗斎の、攻めてはすぐに退くという戦法に何も手を打てずにいたのだ。

(切りつけてはすぐさま退き間合いをとる。単純明解ながら己の素早さを最大限に生かした実に理に叶った戦法だな。先生や銀次郎ならどう対処したであろうか?)

義雪の全身の至る所に切りつけられて出来た傷があり、そこからは血が滴り落ちている。

それぞれが致命的から外れ浅いので、大事には到っていないだけ良いといった感じである。

元々全身満身創痍に近い義雪の身体は既にかなりの悲鳴をあげていた。

(あまり長引かせるとこちらが保たない。銀次郎も大分遠くへ逃げただろう。そろそろ何とかせねばな)

児宗斎に対して中段に構える義雪。

どうにか目の前の難敵を打ち倒す手段を考える。

相手を待ち受けてわざと斬らせて相手を斬り伏せる肉を切らせて骨を断つ捨て身策。

(いやいや、これからわし自身逃げなくてはならぬのに、ここで捨て身は愚作であろう)

こちらから攻め、一気にそのまま押し潰す策。

(いやいや、こ奴の素早さで難なく逃げられるのが落ちじゃな。わしから切りかかって反撃でもされようものならばわしに奴の太刀をかわす術はない)

そんな義雪に嘲り笑いながら児宗斎は尋ねた。

「もう、良いかな?そろそろ終わりにしようではないか」

そしてその刀をゆらりと構える。

その動きに一切の隙はない。

(やはり攻めるのは愚作か。…しかしどうすれば)

そして動き出す児宗斎。

(右か!?左か!?それとも正面からか!?)

思わず身構える義雪。

(今俺に出来ることとは一体なんなのだ?)

「怯え竦め。考えるだけそなたに出来る事は何もない。わしに勝つのも余程のまぐれでも無い限り不可能じゃ」

勝利を確信したのか饒舌になる児宗斎。

(まぐれ………それだぁ!!)

そしてそのまま児宗斎は加速して義雪に切りかかった。


「ぐ、あああああ!!!」

その場には刀で斬られた義雪ではなく、槍に貫かれた児宗斎の姿があった。

義雪が槍を引き抜くと、児宗斎はその場に倒れ込む。

彼はその腹を槍で貫かれ、苦しみ悶えている。

口からは血を吐き、その苦しみは誰が見てもその痛みが凄まじい事を物語っていた。

「何故じゃああ!何故…わしの動きが読まれたあ!!」

床を倒れ伏しながら義雪を睨む児宗斎。

勝利を確信し、実際に何一つ負ける要素が無いのに倒れているのは何故自分なのかと、その瞳は懐疑に満ちている。

「運に任せた」

「は?」

「確かにわしにそなたの動きを先読みする事は出来ぬし、その速度に対応するの不可能じゃった。故にまぐれに任せた。天運に身を任せ来る方向を絞り込んで対応したのだ。来る場所がわかれば対応は出来る」

「運……まぐれ当たりだと!?」

児宗斎は目の前の男が言った意味を理解しかねた。

(そんなことがあってたまるか!そんな事が!!)

児宗斎はかつて同じ方法、まぐれ当たりにて負けたことがあった。

その時の相手は自分より格下で、しかも女であった。

彼は勝利を確信しながら打ちかかる。

しかし、そんな彼を一刀の下に彼女は難なく打ち据えた。

そして彼女は彼にこう伸べたのだ『全てを天運に任せ一太刀に込めました』と。

そして今、再び同じ事を言っている者がいる。

「このわしが……このわしが!!二度もまぐれとやらに負けるというのか!!」

児宗斎は憤慨した。

興奮してる為自身に痛みは無いが大量に血を吹き出し義雪を睨みつける。

そして再び刀を杖に立ち上がり、義雪に再度挑もうとした時、児宗斎の後ろで今まで黙って見ていた覆面の男が喋りだした。

「もうよい。そなたの負けだ」

男の声は何故か喜びを含んだかのように弾んでいる。

「しかし、びゃ…」

「猿島」

何かを言おうとした児宗斎を覆面の男は今度は義雪も身震いするぐらい威圧的な声で止める。

「そなたはあの時勝ちを確信し満身して切り込んだ。戦いの世界に有るのは結果のみ。この場合は窮鼠猫を噛むと言うところか、ふふ」

(何じゃ、この男は。自分の仲間が負けたというのに笑っておる)

仲間が倒されたというのに上機嫌に笑うこの不気味な覆面の男に、義雪は何やら嫌な雰囲気…禍々しい、まるで人の嫌悪すべき所全てと対峙している気分に陥っていた。

そんな覆面の男が義雪に突如語りかける。

「小僧、名は何と申す?」

それに義雪は思わず答えてしまう。

「立身…獣志郎、義雪」

覆面の男は義雪を見回す。

「くくっ、良い眼、良い身体、良い才気に溢れておるな。立身獣志郎義雪。覚えておこう」

男がそう言うと辺りが煙に包まれ、それが消えた時には覆面の男と児宗斎は姿を消していた。

(奴らは一体)

不気味なその存在に一つ不安を抱きつつも、とりあえず義雪は現状で脱出する事を考えた。

(さて、奴らはいなくなったが、まだ目の前には志賀親守と取り巻き、屋敷には大分兵がおる。どうする?)

義雪がそう考えているといきなり外が騒がしくなった。

「大変です!」

一人の兵士が部屋に飛び込んでくる。

「何事じゃ、騒々しい!」

「は、じ、実は…ぎゃあ!」

その兵士は背後から斬られ倒れた。

「獣志郎!無事か!!」

そしてその兵士を乗り越えて勢いよく部屋に入ってきたのは、義雪のよく知る人物。

義雪と同じく全身傷だらけの満身創痍な男、『立花弥八郎宗茂』であった。

「弥八郎、何故そなたが此処に?」 

それに宗茂はその大きな声で答えた。

「義貞から話は聞いた!義父上と共に助けに来たぞ!!」

「は?」

宗茂の登場自体に混乱していた義雪を含めたその場の全員が、彼の発した「義父上と共に」という言葉に固まった。

そして義雪は宗茂の声に負けないぐらい大声で叫ぶ。

「ど、どどど道雪様も来ているだと!!?」

この時義雪は今までに無いぐらいに驚き取り乱したという。

強敵、児宗斎との戦いとりあえず終わりましたね。

児宗斎がかつて負けた人物は皆さんの想像にお任せします(笑)


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