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自殺志願?者

作者: 中納言

 俺は今から自殺をしようと思う。

 理由はアレだ、仕事をクビにされたからだ。

 決めたからには絶対やってやる、そう絶対にだ。

 自殺…自殺といえば首吊りだ。

 紐はもう準備してある。近所に山があるから、そこで首を吊って死のう。

 自転車で行こうとおもったが、自転車が盗まれていた。

 仕方がないから徒歩でいった。


 山についた。

 深夜2時なのにカラスがガァガァと鳴いている、不気味だ。

 最近運動していないのに長距離歩いたせいで足が痛い、だが早く自殺したいのでちょうどよさそうな木を探すことにした。

 1時間ぐらいで紐を巻けそうなちょうどいい木を見つけた。

 さっそく紐を枝に巻いて首を吊った。

 首は吊った、吊ったのにまだ生きている…どういうことだ。

 後頭部が痛い、どうやら紐が千切れたようだ。

 むくりと起き上る、首がめちゃくちゃ痛い。

 失敗した。

 首が痛いので、薬局で湿布を買ってから家に帰ることにした。


 首吊りはダメだ、じゃあ何にしようか…と思いながら山道を歩いていたら俺と同じようにゴツイ紐を持った人が向かいから歩いて来ていた。

 顔は青白く死人のようだ。

 何か話しかけようと思ったが、そんな勇気はないので死人のような人の横を通りすぎた。

「あのう」

 通り過ぎたのに腕を掴まれた。

 話しかけられるとは思っていなかったのでどう返事をすればいいかわからず、気まずい雰囲気が二人の間に流れた。

「自殺しようとしたんですか?」

 なんでそんなことを聞いてくるんだ。

『失敗したよ! それがなんなんだ! 笑えよ!』

 と、言おうとしたが素直に「はい」と言った。

「首痛くなりますか?」

 あったりまえだろおぉぉ!?という思いをおさえて

「痛くなりますよ」と普通に言うと、死人のような顔の人はブツブツ言いながら山の上にむかっていった。

 不思議な人だ…と薬局で湿布を買いながら思った。

 店員がやけにちらちら見てきたので足早に家へ帰り湿布を貼って寝た。


 朝起きるとやけに外が騒がしかった。

 何事かと思い窓から外を見ると警察が近所の人と話をしていた。

 話しあっているのを見ていたら、家のドアがドンドンと叩かれる音が聞こえた。

 ドアを開けるとクマのような体格の警察が立っていた。

「昨日の夜、山に向かう人を見かけませんでしたか?」

 なんだ俺のことか。

「いいえ、寝てました」

 本当のことを言うとめんどくさいことになりそうなので無難な答えを返した。

「そうですか…ご協力ありがとうございます」

 警察はあっさりと帰っていった。

 なにが起こったか気になったが…まぁ、不審者だろうと思い部屋に入って別の自殺の方法を考えることにした。


 夕方になり、明日は入水自殺をすると決めてからテレビでニュースを見ていると、俺が自殺しようとした山で首吊り死体が見つかったらしい。

 写真と名前が出ていて、よく見ると山であった死人のような顔の人とそっくりだった。

 なんてことだ、俺は死ねずにあの死人のような奴は死んでいる。

 あの時あいつの紐を奪って首を吊ればよかった。

 すべて紐のせいだ、俺の買った紐が軟弱すぎたんだ、畜生!

 イライラしてきたので今日中に入水自殺することにする。

 さすがに海に行くには徒歩はつらいから隣の人の自転車を借りた。許可は得てない。


 海についた。

 すっかり夜になっていた。

 自転車を砂浜において海へと向かう、冷たい海水の中を歩き進んでいると後ろから声が聞こえた。

「なにしてるんですかー!?」

 振りかえると、朝あったクマのような警察管が懐中電灯を持ち浜辺にいた。

 物凄い早さで走ってくる、暗闇にまぎれているから本当にクマのようだ。

 怖くなり平泳ぎで海を泳いで逃げた。


 なんてことだ二回も自殺を失敗してしまった。

 しかも海水臭くなった。

 今度はもっと確実に死ねる方法を選ぼう……そうだ飛び降り自殺がいい、それでいこう。


 …なぜだ、なぜどこから落ちても死ねないんだ。

 落ちようとすると運よく荷台にやわらかい何かを乗せたトラックが通りかかってきて、その上に落ちてしまう。

 もっと100%死ねる方法…あれだ…電車に轢かれよう!


「それじゃあもう…お帰りになっていいですよ」


「…はい」


「それにしても災難でしたね…目の前でねぇ…」

 今まで俺は警察管に取り調べされていた。

 決して何もしていない、目の前で人が電車に轢かれただけだ。

 電車はグロい、違う方法を考えよう…。


 その後俺は服毒、焼身、ガス、等々試したがどうやっても死ねない。

 部屋で考え込んでいるとドアをコンコンと叩く音がした。

 ドアを開けると目だし帽をかぶり全身真っ黒に身を包んだ人でトンカチを持った人が立っていた。

 今は深夜1時だ、どこからどう見ても不審者にしかみえない。

 俺はピンときた、もしかしたら持っているトンカチで俺の頭を叩き割ってくれるかもしれない。

 深夜1時にこんな格好して俺の目の前に立っているからそうに違いない。

 というかこの不審者一言もしゃべらない。

 下を向いて何か考えているようだ。


「お前、この前俺の自転車盗んだだろ」

 やっと言葉を発した。

 だが俺は不審者の自転車など盗んでない、どういうことだ。

 俺が怪訝な目で見ると焦ったように

「あっ言い忘れてた、隣の者です」と付け加えた。

 いきなり敬語になった、おかしな奴だ。

 それに自分の正体をあっさり言った。


「佐東さんですか」

「そうでっ…そうだ…なぜわかった!」

 今さっき自分で正体を言ったじゃないか。

「あっそっか自分で言ったのか…いや、ばれてもどうでもいい、お前は今から死ぬんだからな…」

 本当何なんだこいつ。

「ちょっと10度ぐらい頭下げてくれませんか?」


「あ、はい」


「すいません本当、すぐ終わらせるんで」

 不審者の言うとおりにすると、首に何かバチッと衝撃がはしり俺は倒れた。


 目をあけると天井が見えた。

 ここがあの世か、妙に見覚えがあるような…。

「あぁどうしよう…どうしよう…」

 横を向くと、さっきの不審者がブツブツ言いながら部屋の隅で体操座りをしていた。

 もし、俺が死んでいるならこいつを驚かしても驚かないだろう…。


 不審者の肩をポンと叩いた。

「うっうわあぁあああああああぁぁああああぁぁ!!」

 驚きすぎだろこいつ。

「ひいいぃぃ、すいません。呪い殺さないでくださいぃ!!」


「あの」

 

「…え? あっ、あれ? い、生きてま…す?」


「はい」

 不審者は叫ばなくなったが今度は放心してしまった。

 俺が死んでないから驚いたのか。

 いっそスパッと殺せばいいだろ。


「スパッと殺せばいいだろ」

 口に出してみた。


「…え?」


「一発殴ってくれ、死ねるかもしれない」

 立ちあがって不審者に言った。

「な…殴る?」


「そうだ」


「な、なんでですか」


「殺すんじゃないのか、俺を」

 不審者は急に顔を真っ青にした。

 目しか見えないけど多分真っ青になっていると思う。

「そうだった…殺すんだった」

 目的を忘れてたのかこいつ。


「じじゃあ、あの、殺させていただきます」


「さっさとしろ」

 俺は座って目を瞑り不審者が殴るのを待った。

 ブンとトンカチを振り上げる音が聞こえた。やった、これでやっと死ねる!

 と思ったらすぐ顔の横を何かが通って後ろで窓ガラスがパリンと割れる音がした。

 どういうことだ。

 目をあけて後ろを見てみた。


 どうやらトンカチのあの重い部分がスポンと抜け飛んで、ガラスを割ったらしい。

「おかしいな新品なのに」

 不審者がそう言いながらどこかからバールを取りだした。

 そのバールも持った途端、半分にポキッと折れた。

 次はでかい包丁で俺を刺そうとしたが、包丁が錆びまくっててまるで刺せなかった。

 その後も不審者は俺を殺そうと色々試したが、全く何も効かなかった。


「やっぱり駄目なんだ! 人殺しなんかできないんだ! 殺す計画たてたって意味ないんだよ…」

 不審者が嘆いた。

「殺す計画?」

「ここ最近ずっと考えてたんですよ。でも勇気がなくて」

 不審者はおいおい泣きながら答えた。

 なんてことだ、こんな身近に殺人しようとした奴がいたのか、早く気づけば良かった。

「というか、なんであなたはそんなに落ち着いてるんです」

「いや、早く死にたいんでね」

 俺が言うと不審者は目を見開いてこっちを見た。

「…死にたい? なんでですか?」

 なんで…なんでだっけ…あ、そうだ仕事クビになったんだ。

「仕事クビになったんだよ」

「え…俺と一緒じゃないですか…」

 こいつもクビか、クビになった腹いせに殺人しようとしたのか。

 俺よりはマシだ。

「なんだかおかしいですね、隣同士なのに気づかないなんて」

「そうだな」

 そう言ってから俺は割れた窓の方に歩いていった。

「? どうしましたか」

「いや、気にしないで」

 俺は窓をガラッと開け、窓枠に足をかけた。

「えっ、え!? 何してるんですか!」

 飛ぼうとしたら足を引っ張られた。

 そのせいでバランスを崩し、外壁に顔を強打した。

「危ないですよ! 待ってください、すぐ引き上げますから!」

 真夜中に大声出すなよ。


 俺は今不審者に説教されている。

 なんでさっきまで人殺そうとしてた奴に説教されなきゃいけないんだ。

 それに俺は鼻血拭くのに忙しいんだよ。

「あの、聞いてますか?」

「聞いてたよ、パチンコの話だろ」

「違います!」

 違った。まぁいいか聞き流しておこう。


 次の日また深夜に不審者がきた、昨日のことを謝りたいらしい。

 菓子折りを持っている。

「昨日はすいません」

「いえいえ」

「で、あのですね…一度ちゃんとじ、自己紹介なんかを…」

 自己紹介。

 そういや引っ越したときに行ってなかった。

 俺は別にこいつは不審者のままでもいいと思うけど。

「俺は佐東心司って言います」

「飴谷進」

「えっ?」

「俺の名前だよ」

「そうなんですか…」

 俺は不審者いや、佐東の持っている菓子折りを見た。

 そういや最近飯を食ってない。

「それで…これどうぞ」

 佐東から菓子折りをもらった。

 俺は菓子折りをジッと見た。

「毒は?」

「えっ!? はっ入ってないですよ…」

「なんだ入ってないのか…いや、ありがとうございます」

 佐東は困った顔をして「それじゃあ…」と言い、自分の家に入っていった。

 俺も家に戻って佐東から貰った菓子を食べよう。



「すいません…」

 まただ、また不審者佐東がきた。

 なぜいつも深夜に来るんだ。

「顔の怪我、大丈夫ですか?」

「あぁ」

「……」

「…」

 それだけを言うためにきたのかこいつ。

「じゃあ…」

 佐東は去って行った。


 次の日もまたきた。

 その次の日もきた。


 一ヶ月後、俺は佐東と友達のようになっていた。

 どうしてこうなった?

 

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― 新着の感想 ―
[一言] こんばんは! 拝読させていただきました! 死にたいのに死ねない男と、殺したいのに殺せない男ですか。そしてなぜか死にたい男の周囲では自殺者が(笑)最後のオチがよかったです。需要(?)と供給…
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