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「ほら、口開けな?」
「…………」
警戒心は何時もより薄れているとはいえ、やっぱりサトルから食べさせられるのは嫌なようで。起き上がったまま口をぎゅっと結んだまま。結局私が食べさせる事になってしまった。元のサイズだったら絶対にやらない。というか、やらせてくれないだろう。
「はい、あーん」
熱いのを少し冷ましてあげてから、ヒイラギの口元までレンゲを持って行ってあげると、さっきのサトルとは打って変わって素直に口を開けて、そのままパクリと食べた。私だったら良いんだね……やっぱり。その脇にいるサトルは妙に複雑そうだ。何故か何もしていない倉山までも苦笑いを浮かべている。同じ兄弟だからか。
「……けふっ」
「全部食べられたね。お利口でした」
どうしてもこのサイズだと小さい子と同じように接したくなってしまう。普段通りで良いと思っていても、だ。綺麗に全部食べてくれたところで、後は薬を飲ませて寝かせるだけ。薬を飲ませるのくらい、せめてサトルにやらせてあげたかったけれどやっぱりヒイラギが拒んだから、結局私が飲ませてしまった。あとはヒイラギが寝たのを見計らって、帰るだけだ。それが約束だしね。
「…………」
「何?」
「…………」
もう予想はしていた。まだ少し抵抗はあるけれど、こうなる事位は。だから覚悟して近づいた。こうなってしまったヒイラギが寝る前にやる事と言ったらもうそれは一つだけ。そう、頬にキスをする事。ヒイラギはそれで満足して眠りに就くのがいつものパターンだ。
「じゃあ、そろそろ帰るね。ヒイラギも完全に寝ちゃったみたいだし。多分一日じゃ風邪は治らないだろうから、また明日放課後になったら来て良い?」
「ああ。多分明日は助っ人頼まれていた筈だから、俺はすぐには行けないと思うけれど」
「まだ助っ人やらされているんだね」
「俺が早々と進学先決めたせいでな。でも明日は部活じゃなくて、単なるお遊びっぽいけど」
少し自慢にも聞こえなくはない倉山の少し苦笑交じりの言葉は、どこか嬉しそうな気がする。そうだよねえ……先週何とか進学先が決まった私と違って、倉山は夏休みに入る少し前には決まっていたからね。退屈だったに違いない。
「良いよ、楽しんでおいで」
「すまない」
「謝る事ないよ。前からの話だろうし」
倉山にとっては久々の楽しみ事なんだし、こっちは本当に気にしなくて良い。私やサトルで足りるよ。うん。