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「って、そんな話をしている場合じゃなかったか。体温測らないと。あと枕も」
自分で答えておきながらサトルは話を元に戻し、ヒイラギの耳に体温計をあてようとするけれど、ヒイラギはやられるのが嫌なのか首を左右に何度も振った。これでは体温も測れない。
「貸して。私がやってみる」
困り果てたサトルから体温計を受け取り、今にも泣きそうな不安な目で見つめてくるヒイラギを抱き上げ、“すぐ終わるから”となだめれば安心したのかヒイラギは少し油断した。その油断した隙をついて耳に体温計を差せば、すぐに“ピッ”と言う機械音が小さく響いた。
「ね? すぐに終わったでしょ?」
何があったのかいまいち理解出来ていないヒイラギを布団へ戻し、測った体温計を倉山とサトルを交えて一緒に見てみると、三十七度七分と言う微熱だと言う事を表示していた。それほどまでに高熱ではなかったので少し安心する私がいる。
「幼児の熱は高くてもあまり気にするなって言うけれど……一応俺達と同じ歳だからな。安静にして貰おうか。これで熱が上がっても困るし」
うん。私もその方が良いと思うよ、倉山。当の本人もあまり動きたくなさそうだし。
「ちゃんとしっかり治そうね?」
柔らかい氷枕を下に敷いてあげたら、少しだけ笑ったように見えた。するとサトルは思い出したかのように部屋を出て、五分位してお粥を持って現れた。こんな短時間で持ってくると言う事は恐らくレトルトのお粥だ。それをヒイラギに食べさせるのだろう。お盆の上には小さな子供用のお椀に盛られていたし、その脇には薬の袋が置いてあったから。
「先生が出してくれた薬、飲ませるのを忘れていてさ。でも胃に何か入れないと、って思って。ヒイラギ、少しでも良いから食べな? 毒なんて盛っていないから。そもそも盛る理由もないしな」
発言が少しおかしいのは置いておいて。サトルって意外にこう言う時に役立つような気がする。ヒイラギの鼻をかませたあの手際の良さと言い。もしかしたら普段はこれもまた意外としっかりしていて冷静な倉山よりも、良い父親になれるような気がする。