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「ほら、おいで」
一生懸命になって私の方へ行きたいと手を伸ばしていたヒイラギをサトルから受け取ると、ヒイラギは満足したかのように私にしがみついて離れようともしない。可愛いなあと思う半面で、やっぱり心なしか体温が少し高いようにも感じる。
「行くぞ」
「……何処に?」
「この世界での俺達の家。ヒイラギはこの世界に自分の住処を持っていないから」
そうだよね。このまま外にいるのもヒイラギの身体に毒だよね。でもだからと言って、まさか倉山とサトルの家にこんな形で上がり込む事になろうとは思いもしなかった。思えばヒイラギの家にお邪魔した事ってないよな。家が何処にあるのかを聞いても教えてくれなかったし。そっか、“この世界には”ないから教えようがなかったんだ。
「何で倉山達にはこっちの世界にも家があるの?」
「ヒイラギより俺達の方がこっちにいる時間は長い。この世界に家がないと不便な事もあるだろ? 友達を家に呼ぶとか、家庭訪問とか。その時は先生にも協力して貰っている」
さっきから気になっていたんだけど、先生って誰の事だろう? お医者さん? 向こうの世界に学校があれば学校の先生? それとも何かの達人の人? よく分からない。
「先生って言うのは、オレ達兄弟やヒイラギの保護者代わりでもあるお医者さんだよ。ああ、後オレとアキラの監視役もやっていたかな。あの人、死神の中でも珍しい監視役兼任者なんだよ」
……まるでサトルが心の中を読んだかのように教えてくれたのが妙に怖い。いや、助かった事には変わりはないけれどさ。まさか監視役までやっていたとは。
*
「ほら、上がってくれ」
倉山達に案内されてやって来た彼らのこの世界での家は、想像とは全く違った。倉山とサトルの二人だけだから、何となく少し古びたアパートかと思ったけれど、つい最近建てられたような黒い屋根の二階建ての一軒家だった。私の家よりも少し大きくて、それは家族で住む分には丁度良いけれど、二人で住むには広すぎる位。思わず一通り何が何処にあるか確認したけれど、物も少ないせいか余計に広く感じた。
「よくこんな場所見付けたね……」
「元々これは先生の家なんだ。今はあまり使わないからって、貸して貰った。家具とか食器も殆ど先生の物だ」
先生って言う人(死神?)は凄い協力的な人(死神?)なんだな、と私は改めて実感した。