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そんな事を言ったら私は倉山達に風邪をうつしたくないんだけど。自分達だけで何とかしようとしないでよね。
「……言っても聞かなそうだな」
「あれ? 私まだそんな事言っていないけれど」
「顔に書いてあるよ、お姫様。此処で引き下がらないって。でもお姫様には本当に風邪をひいてもらいたくないんだ。だからお願い」
嫌だ。誰はなんと言おうと引き下がらない。それにヒイラギが身を乗り出して私の所に行きたそうにしている。それを見てしまったら、倉山達だけに任せて私は何もしない事なんて出来ない。
「大人しくしていなよ……今回は誰が何を言ってもお姫様の所にはいけないんだから。行きたいならその風邪を治したら? 熱だって少しあるくせに」
バタバタさせて私の所へ行きたがるヒイラギを、サトルはなだめようとするけれどやっぱりヒイラギには理解が出来ず、結局サトルに噛みついた。またお兄ちゃんとの約束を破っているけれど、大丈夫なのかな……?
「ヒイラギが岩代の所に行きたがっているのだって分かっているし、岩代自身がヒイラギを看病したいのは分かるんだけどな……」
倉山はなんとしてでも私を説得させたいようだ。でもこのままだと渋々引き下がる羽目になる。どうしよう、何か理由を……あ、あった。
「仕事中はどうするって言うのよ?」
「……? ああ。死神の時の……か。その時は玲さんか先生の所に…………」
「ふうん? お兄ちゃんやその先生って言う人には預ける事は出来ても、私には出来ないんだ?」
「ヒイラギはそう言う奴なんだよ。一番大事な人には迷惑をかけたくない奴だし。小さくなっているから、今そう言う思考はないみたいだけど」
要は元の方のヒイラギの意思を尊重しているってことだね? ヒイラギってば、嬉しい事考えてくれているじゃないの。でもだからこそ私に甘えてくれれば良いのに。それに……。
「でもそんな姿見ちゃったら放っておくなんて出来ないよ……」
そうか。素直になって言えば良かったんだ。変に意地を張らないで。そんなヒイラギと離ればなれになっていたら余計に気が気でなくなっちゃうような気がする。すると倉山達にも変化が見られたようで……。
「アキラ、だからやっぱりこうする事は反対だったんだ。余計にお姫様心配しちゃうから」
「だけど岩代の場合、変に隠すと意地でも聞き出そうとしてくるし……」
「じゃあさ、この間だけ一緒に相手して貰えば? 夜は流石にお姫様一人じゃ大変だし」
さっきまであれだけ反対していたのに、何時の間にやら私の要求を受け入れてくれる素振りを見せ出している。そんなサトルの提案は倉山を少し悩ませたけれど、この間だけなら大丈夫だと判断したようで。
「仕方ない。昼間って言うか、明日も授業あるし放課後になるけれど、陽が沈むまでだけだ。夜は駄目だからな?」
それだけでも十分。ヒイラギと一緒にいられるなら。私はその条件を受け入れた。