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あれ、でも仕事って事は……ヒイラギ一人になるって事……ではないか。だってお兄ちゃんや先生って言う人がいるから。結局は帰る事になるのか。しかも昨日より早く。私にとっても悪い知らせか。
「あー……ったく、折角休みだって言うのに。こんな時にどうして……玲さんは用があるって言うし、先生も仕事だし……」
ブツブツと困った顔をして言う倉山。聞いているとどうやらイレギュラーの事だと言う事は分かった。仕事が休みなのにいきなり仕事をやれ、って言われるのは正直困るよね。だって倉山自身は休む気満々でいたんだろうし。……でもこれって、もしかして。
「まあ、こっちが行けなかった時に誰かに頼んでいたんだし、少しはその恩も返さないとはいけないけれど……今は出られない事情があるっていう事、お前分かっていただろ?」
「いや。断ろうとしたら断る隙も与えなかった。つまり一方的」
そんな二人の会話はどうでも良い。要はヒイラギは今日一人きりって事なんだよね? そうだよね? これってひょっとしてチャンスって言う奴じゃ……!!
「ねえ、倉山。話の途中で悪いけどさ」
「ああ?」
「倉山達はこれからお仕事で、先生って言う人もお兄ちゃんも手が離せない状況なんだよね?」
「まあ、そうだな……って、まさか」
はっとなる倉山の表情に、私はただにっこりと笑みを浮かべた。そう。そのまさかなんだ。誰もヒイラギの面倒を見る事が出来ないなんて誰が決めた? まだ私がいるじゃない。
「お姫様、頭良いね……」
サトルは感心しているけれど、少し考えれば誰だって思いつくと思う。一方の倉山は更に嫌そうな顔をして見せていたけれど、仕方ないと思ったのか盛大な溜息を吐いて、それから。
「だったら帰るんだ。俺達は一時間しかいないから今すぐ、だ。ヒイラギを岩代の家で看病する訳にもいかないし。それこそ存在は気付かれなくても、岩代の家族に迷惑だから」
それってつまりは……いて良いって事だよね!? なんだ。分かってくれるじゃない。それなら喜んですぐに帰って戻って来るよ。
「倉山、それからサトル……ありがとう! すぐに戻るから待っていてね」
眠っているヒイラギを起こさないように、そっと急ぎ足で一旦帰る。後ろの方で倉山の呆れたような言葉が聞こえたのなんて気にしない。