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「…………」
思わずゴクリと飲んだヒイラギ。それを見届けた所で倉山はすぐにヒイラギを解放した、けど。その瞬間には既にヒイラギの口は倉山の傷だらけの手を噛んでいた。だけど倉山は痛いとも言わずに、その様子にもう慣れてしまったのか溜息を吐く。今噛んでも力が入らないんだね。倉山はあっさりとヒイラギの口の中から手を出した。
「ちゃんと薬飲めたんだから。怒らないの。ね?」
ふてくされたヒイラギの頭を軽く撫でてあげてから、ゆっくりとヒイラギを布団に寝かせてから毛布をかけた。何度も何度もまぶたが落ちそうになっているのに、寝たら私がいなくなると思ってずっと起きていようと必死になっている姿がまた可愛いのだけど……。今はそんな事を言っている場合じゃない。しっかり休まないと治る物も治らない。
「大丈夫だよ。安心して」
たったこの一言。この一言だけで、ヒイラギは糸が切れたかのようにとうとう眠りに落ちた。やっと寝たと安心したのも束の間、倉山とサトルの目は私に帰れと促すかのように訴えていた。でもこれでまたいなくなってしまったら、ヒイラギはもう私の事を信じてくれない。何処にも行かないとは一言も言っていないから嘘はついていない。でも何となくそんな気がして。それだけは嫌だ。だから簡単には引き下がらないよ。倉山にサトル。
「岩代が良くてもお前の両親が心配するぞ。まだ帰って来ないのか、って」
それは……そうだけど。だったら、だ。だったら一回帰ってまた戻ってくれば問題はないよね? 明日は休みだし、友達の家に泊まりに行って来ると言えば何とかなる。
「帰れば良いんでしょ?」
「ああ、だけど一回帰ってまた来ようって言うのはアウトだからな。ヒイラギに嘘をつきたくないのは分かる。でもこれはお前の為でもあり、ヒイラギの為でもあるんだ」
倉山はどこまでも私の心を見透かしているような気がする。私達を想ってくれるのは本当に嬉しい事なんだけどね。
「だから分か……」
「話の途中でごめん。アキラ。さっき連絡が入った。今から一時間後に仕事だって」
倉山の言葉をサトルが遮ったかと思えば、サトルは遮った罪悪感をあまり見せずに淡々と用件だけを伝えた。それを聞いた倉山の顔色が少し変わった。どうやら急な仕事のようだ。ずっとヒイラギが寝ているのに、軽くもめだす二人。私がいたらヒイラギに悪いとか言っているくせに、自分達だってヒイラギの身体に障るような事しているじゃない。