題名のない人
題名が決まらない。シャッターの降りた商店街で立ち止まったまま、私は三十分ほど考えていた。すると、声をかけられた。
「そこのあなた、そう、きみ、おいおいおーい」
「……」
「無視するんじゃないよ、このシャッター通り、きみしかいないじゃないか! 」
「……なんですか、」
「題名と、うーん、氏名?ニアミスして名前。ではこの二つを掛けますと? 」
「は……もう行っても? 」
「さして暇だろ?ほれ座れ、」
「……」
「座ったな?座ったな!はい、百円! 」
「ほれ、」
「前者二万、後者はこれやる。さぁどちらを選ぶ? 」
「?……とりあえず、前菜千円で」
「ケチン坊主め、では人称&仏性でも見立ててやろうか、」
「……」
「いや、前者の一口を。否、投げキッスでもやろうか? 」
「もう帰っていいか? 」
「モブ探しの旅は終わりそうかい? 」
「……」
「人類史的には、人というは限りなく無に近い状態から有を築いてきた。だけど、きみのしたい事はその逆。有なるべきものを限りなく無にしたいのだろう」
「……」
「無色って難しいよー。キャンバスがあればその色に染まる。限りなく真理よ」
「……」
「解を出せ!って顔をしてるね。そう生き急ぐなや」
「……君は? 」
「どれの事、題名、名前、存在、過去?」
「……」
「きみの望まむ解答をしてやろうか!きみの好きな表現で言えば、私は魔女で、名前はトオリリオ。通りの通りに利用の利、そして一緒の緒。存在は見ての通り職業は町占い師さ。そうね、過去はあなたの余白にあげるわ」
「……どこまで見えてる? 」
「物書さんは初めてかなぁぐらい。私の容姿を眺めないあたり漫画家じゃないよね、ライターさんかな。バディに自信があるのに見てくれないの残念、」
「で、君の見た題名は? 」
「見た上でこれだよ? 」
「なら、後者は、要らない」
「なら、前者に二万はらえ! 」
「……ほい」
「題名のない人なんて居るわけないだろ! 妥協しろや、ばーか! 」
「酷い言われようだ、」
「でさ、私を起用する気はない?使えるよ、私。」
「二万返そうか? 」
「そんなに嫌? 上玉だと思うけど? 」
「少しばかりの人の考え事が分かるだけで上玉か? 」
「きみには天職じゃないの? 欲しいでしょ。私? 」
「なら、お前のその眼球だけで結構だ。こんなものは要らない。」
「こういう劇場が好きなんでしょう。これぐらい、少しイカれている方が君のタイプでしょ? 」
「後悔しないのか、こんな提案して? 」
「後悔も何も、水商売処女で軽くファイヤー暮らししてる私の生涯舐めんな」
「……玉石混交で最もな石を探してたのに、こんな玉を拾うとは、面倒だな」
「きみから玉という評価が得られて万々歳。どう、貰ってくれるの? 」
「君なら題名を無くせる? 」
「無くすも何も、根っから書き直してやる。」
「……なに、君は僕から何を得たいんだ? 」
「それぐらい推測しなさいよ、フィクサー気取りなんでしょ? 今は。」
「フェイクメーカーなだけだ。僕はせいぜいフィクション専門家だ。」
「結論ぐらい自分で書きなよ。悟り系、思い込み系、それとも懐疑者? 」
「題名はどうすればいい? このままだと、」
「このままだと何さ? 名が身を表して、身が名を表す? そんな綺麗な話ばかりがあるわけないじゃない。それぐらい分かるよね? 」
「つまり題名は、このままで? 」
「流石にそこまで考えが及ぶほど優秀じゃないけど、今回のように名前、タイトルが先に来てしまったのなら、行き先が狂う事ぐらい当たり前でしょ。」
「……」
「風吹けば名無しさんだって、それ相応の人生を兼ね備えた名無しさんだよ、アンタイトルなキャラなんてイメージ出来るはずない。アンタイトルキャラのタイトルなんて、後世勝手に造られるもの。今、頑張ったところで無理だよ。」
「……できないのか、ほんとに? 」
「ふふ、それがきみの今の命題なんだね。そんな命題に付き合い切れるの私ぐらいだと思うんだけどなぁ。それでもダメ? 」
「……デメリメリが分からない? 」
「デメリメリ? あーデメリット、メリットとね。初めて聞いたよそんな言葉。私にはメリットしかないけどなぁ。あたしね、私がね、私の才に賭けてね。この出逢いを無碍にはしてはいけないと心が叫んでるの。分かんないかなぁ、この第六感のビンビンが? 」
「……」
「そこまで鈍感でよくここまで書いて来れたね? それとも、それが今回の主人公? イエス オア ノー? 」
「……これだから、演じるのは嫌いなんだよ。まさか、ここでね。どう結ぶべきか? 」
「受理? 拒否? 否定? 受諾? 割愛? 妥協? 協定でも結ぶ? 」
「これに必要なものは詰まってるのかい? 私は、いや、ここでは僕の方が良いのか、僕はそういったことに対しては空っぽなんだよ。生き様がないというか、」
「生き甲斐がない、そういった甲斐性がないんでしょう? それは憑依的に創造する為の贄みたいなものでしょ。残念だけど、私はそれぐらい分かる。あたし馬鹿じゃないんだよ。天才でも無いけど」
「……それでこれが、何になる? 僕の人生か、それとも君の物語か? 」
「さぁ、私はこの機を全身全霊で全うして、人生の華を創りだすつもりだよ」
「つまり、僕は君の華造りを手伝えと? 」
「悪くないでしょ。きみは生涯を賭けた事がこれしか無いのなら、余分ぐらい私に頂戴よ。もちろん、主導権ぐらいは私もあげるから、きみの、あなたの余分を私にちょうだい」
「君のタイトルは? 」
「それすらもあなたにあげる。私の価値は私が一番理解して、もうそれで充分。あと欲しいのは、他人からの評価。その評価票をあなたにあげるから。憑依的な人間でない、素のあなたで、私の人生にタイトルをつけなさいよ。名前なんかに簡単に支配されない、素晴らしいフィクションをちょうだい」
「…….さすがに困ってる……」
「そうよ、一生考えてもらうわ。だから、一緒私も考えてあげる。あなたのこだわる、人生というタイトルに相応しい言葉を、ね? 」
「劇場か、どこまで仕込んでた? 」
「一目見て決まったわよ。この先あなたがどう生きるのかなんて知らないし、分からない。でもこの瞬間、この十分間のあなたの言葉だけは予想できてた。今から先、ここからは知らない。だから」
魔女は後者の選択肢、婚姻届を差し出す。
「イエス オア ノー? 」
「プリーズ セイ イエス? 」
「……イエス」




