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題名のない人

作者: 明日咲霞苆
掲載日:2026/03/08

 題名が決まらない。シャッターの降りた商店街で立ち止まったまま、私は三十分ほど考えていた。すると、声をかけられた。


「そこのあなた、そう、きみ、おいおいおーい」

「……」

「無視するんじゃないよ、このシャッター通り、きみしかいないじゃないか! 」

「……なんですか、」 

「題名と、うーん、氏名?ニアミスして名前。ではこの二つを掛けますと? 」

「は……もう行っても? 」

「さして暇だろ?ほれ座れ、」

「……」

「座ったな?座ったな!はい、百円! 」

「ほれ、」


「前者二万、後者は()()やる。さぁどちらを選ぶ? 」

「?……とりあえず、前菜千円で」

「ケチン坊主め、では人称&仏性でも見立ててやろうか、」

「……」

「いや、前者の一口を。否、投げキッスでもやろうか? 」

「もう帰っていいか? 」


「モブ探しの旅は終わりそうかい? 」

「……」

「人類史的には、人というは限りなく無に近い状態から有を築いてきた。だけど、きみのしたい事はその逆。有なるべきものを限りなく無にしたいのだろう」

「……」

「無色って難しいよー。キャンバスがあればその色に染まる。限りなく真理よ」

「……」

「解を出せ!って顔をしてるね。そう生き急ぐなや」

「……君は? 」

「どれの事、題名、名前、存在、過去?」

「……」

「きみの望まむ解答をしてやろうか!きみの好きな表現で言えば、私は魔女で、名前はトオリリオ。通りの通りに利用の利、そして一緒の緒。存在は見ての通り職業は町占い師さ。そうね、過去はあなたの余白にあげるわ」


「……どこまで見えてる? 」

「物書さんは初めてかなぁぐらい。私の容姿を眺めないあたり漫画家じゃないよね、ライターさんかな。バディに自信があるのに見てくれないの残念、」

「で、君の見た題名は? 」

「見た上で()()だよ? 」

「なら、後者は、要らない」

「なら、前者に二万はらえ! 」

「……ほい」


「題名のない人なんて居るわけないだろ! 妥協しろや、ばーか! 」

「酷い言われようだ、」

「でさ、私を起用する気はない?使えるよ、私。」

「二万返そうか? 」

「そんなに嫌? 上玉だと思うけど? 」

「少しばかりの人の考え事が分かるだけで上玉か? 」

「きみには天職じゃないの? 欲しいでしょ。私? 」

「なら、お前のその眼球だけで結構だ。こんなものは要らない。」

「こういう劇場が好きなんでしょう。これぐらい、少しイカれている方が君のタイプでしょ? 」

「後悔しないのか、こんな提案して? 」

「後悔も何も、水商売処女で軽くファイヤー暮らししてる私の生涯舐めんな」


「……玉石混交で最もな石を探してたのに、こんな玉を拾うとは、面倒だな」

「きみから玉という評価が得られて万々歳。どう、貰ってくれるの? 」

「君なら題名を無くせる? 」

「無くすも何も、根っから書き直してやる。」

「……なに、君は僕から何を得たいんだ? 」

「それぐらい推測しなさいよ、フィクサー気取りなんでしょ? 今は。」

「フェイクメーカーなだけだ。僕はせいぜいフィクション専門家だ。」

「結論ぐらい自分で書きなよ。悟り系、思い込み系、それとも懐疑者? 」

「題名はどうすればいい? このままだと、」

「このままだと何さ? 名が身を表して、身が名を表す? そんな綺麗な話ばかりがあるわけないじゃない。それぐらい分かるよね? 」

「つまり題名は、このままで? 」

「流石にそこまで考えが及ぶほど優秀じゃないけど、今回のように名前、タイトルが先に来てしまったのなら、行き先が狂う事ぐらい当たり前でしょ。」

「……」


「風吹けば名無しさんだって、それ相応の人生を兼ね備えた名無しさんだよ、アンタイトルなキャラなんてイメージ出来るはずない。アンタイトルキャラのタイトルなんて、後世勝手に造られるもの。今、頑張ったところで無理だよ。」


「……できないのか、ほんとに? 」

「ふふ、それがきみの今の命題なんだね。そんな命題に付き合い切れるの私ぐらいだと思うんだけどなぁ。それでもダメ? 」


「……デメリメリが分からない? 」

「デメリメリ? あーデメリット、メリットとね。初めて聞いたよそんな言葉。私にはメリットしかないけどなぁ。あたしね、私がね、私の才に賭けてね。この出逢いを無碍にはしてはいけないと心が叫んでるの。分かんないかなぁ、この第六感のビンビンが? 」

「……」

「そこまで鈍感でよくここまで書いて来れたね? それとも、それが今回の主人公? イエス オア ノー? 」


「……これだから、演じるのは嫌いなんだよ。まさか、ここでね。どう結ぶべきか? 」

「受理? 拒否? 否定? 受諾? 割愛? 妥協? 協定でも結ぶ? 」

()()に必要なものは詰まってるのかい? 私は、いや、ここでは僕の方が良いのか、僕はそういったことに対しては空っぽなんだよ。生き様がないというか、」

「生き甲斐がない、そういった甲斐性がないんでしょう? それは憑依的に創造する為の贄みたいなものでしょ。残念だけど、私はそれぐらい分かる。あたし馬鹿じゃないんだよ。天才でも無いけど」


「……それで()()が、何になる? 僕の人生か、それとも君の物語か? 」

「さぁ、私はこの機を全身全霊で全うして、人生の華を創りだすつもりだよ」

「つまり、僕は君の華造りを手伝えと? 」

「悪くないでしょ。きみは生涯を賭けた事がこれしか無いのなら、余分ぐらい私に頂戴よ。もちろん、主導権ぐらいは私もあげるから、きみの、あなたの余分を私にちょうだい」

「君のタイトルは? 」

「それすらもあなたにあげる。私の価値は私が一番理解して、もうそれで充分。あと欲しいのは、他人からの評価。その評価票をあなたにあげるから。憑依的な人間でない、素のあなたで、私の人生にタイトルをつけなさいよ。名前なんかに簡単に支配されない、素晴らしいフィクションをちょうだい」


「…….さすがに困ってる……」

「そうよ、一生考えてもらうわ。だから、一緒私も考えてあげる。あなたのこだわる、人生というタイトルに相応しい言葉を、ね? 」

「劇場か、どこまで仕込んでた? 」

「一目見て決まったわよ。この先あなたがどう生きるのかなんて知らないし、分からない。でもこの瞬間、この十分間のあなたの言葉だけは予想できてた。今から先、ここからは知らない。だから」


 魔女は後者の選択肢、()()()を差し出す。


「イエス オア ノー? 」

「プリーズ セイ イエス? 」

「……イエス」


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