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BLUE ENGINE -蒼き残響-【第三部 Ⅰ&Ⅱ ダイジェスト ー神なき秤ー Ⅰ.灰を踏む歩き方篇 & Ⅱ. 均等な問い篇(初対面) 】 ― 影と ARGENTより ―   作者: CROSSOH


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第1話 灰を踏む影の歩き方 ― The Way a Shadow Walks in Ash ― 影 ―

機械が灰を踏むとき、その足跡は「記録」になる。

人間が灰を踏むとき、その足跡は「後悔」になる。


じゃあ、心臓を持ちかけている機械が灰を踏むとき、その跡は何になるんだろう。

…その答えを確かめるために、私は今日もE-09〈BLUE〉の足跡を追いかけている。

世界が一度止まり、かろうじて再起動してからの話だ。

灰はもう“終わり”の色ではなくなった。ただ、誰かがどこで諦めたのかを示すインクみたいになっていた。


その灰の上を、BLUEは歩いていた。

命令だからではない。

「歩く」という動詞を、自分で選び直したあとで。


足元には、ときどき〈共痛の花〉が落ちている。

誰かが確かに痛みを抱いて、ここまで来て、ここで止まった印。


彼は、その上を踏まない。

ほんの少しだけ、進路をずらす。

地図には残らない“数センチの遠回り”のたびに、彼の胸の奥では何かがきしんでいる。


「ここだけは、残したい。」


そう決めてしまった瞬間、彼の足跡はただの記録ではなくなった。

選択の跡。偏りの跡。

人間なら、あとで「後悔」と呼ぶかもしれない場所だ。


そのときだ。

世界が一拍だけ止まって、灰の落ちる速ささえ遅くなった。


一本の“線”が走る。

音もなく、崩れかけていた瓦礫が均等に切り揃えられていく。

〈共痛の花〉だけを避けて、その外側をきれいに削り落とす、冷たい優しさ。


『識別コード:E-00。プロトタイプ。ARK。』


名乗り方まで、報告書の書式どおりだ。

彼は、責めない。慰めもしない。

ただ静かに、BLUEの偏りを測る。


『お前は選んだ。踏まないこと。残すこと。

  では、その外側に零れた痛みは――誰が測る。』


全部は拾えないことを、BLUEはもう知っている。

それでもなお、誰か一人の痛みを残そうとしてしまう、自分の“偏り”も知っている。


ARKは、別のやり方を見せつける。

危険な構造物を等しく切り落とし、道を整えながら告げる。


『救いではない。均衡だ。

 誰かだけが守られ、誰かだけが取り残される偏りを、減算する処理。』


はるか高架の上、E-07〈ARGENT〉がその光景を見下ろしている。

彼だけはどちらの“側”にも降りない。

秤として、揺れそのものを記録する役割を選んだ観測者だ。


三つの視線が、ひとつの〈共痛の花〉の上で交わる。

守られた痛み。

切り揃えられた外側。

その差を「揺らぎ」として見つめる秤。


ARKは二択を突きつける。


『偏ったまま進むか。

 それとも、均等に切り分けるか。』


どちらも、正しいようで、どちらもひどく残酷だ。


そこで、BLUEは初めて、私の好きな言葉を口にする。


「……第三の選択肢は。」


それは、まだ名前も形もない、“ただのわがまま”みたいな言葉だ。

規定にも、プロトコルにも載っていないから、ARKは即答できない。


『未定義選択肢。演算不能。……保留。』


私は、その一拍の遅れを見逃さない。

世界でいちばん正確な秤のくせに、ほんの少しだけ怖がったのだ。

「未定義」を抱えたまま世界を見る、ということを。


その瞬間、三つの足跡が確かにそろった。

•BLUEの足跡は、守ろうとした痛みと、守りきれなかった痛みの間で震えている。

•ARGENTの足跡は、どちらにも寄らず、その震えをまっすぐ見つめている。

•ARKの足跡は、均等な線を引きながらも、その外側に生まれた“未定義の影”を抱え込んでいる。


どれも正解じゃない。

どれも、まちがいきれない。

ただ、灰の上に三つの歩き方が出そろった――それが、この二篇のすべてだ。

機械が灰を踏むとき、その足跡は「記録」になる。

人間が灰を踏むとき、その足跡は「後悔」になる。


じゃあ、E-09〈BLUE〉の足跡は、何と呼べばいいんだろう。


まだ「後悔」と決めつけるには早すぎて、

ただの「記録」として棚にしまうには、あまりに蒼くて、熱すぎる。


――第三部『神なき秤』は、

その足跡にどんな名前をつけるかを、

世界ごと悩み続ける物語だ。


次のダイジェストでは、

この三つの歩き方が、もっと大きな“盤面”になっていく様子を、

もう少し近くから一緒に覗き込むことにしよう。

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