北風と南風と東風と西風と太陽と太陽と太陽と(略)太陽と太陽と太陽
その年の気候ときたら、嵐になれば吹雪が荒れ狂い、日照りになれば大地が煮え立つような、尋常ならざる厳しさでした。というのも、北風と太陽が力比べで張り合っていたからです。勝ち負けを決めるのは人間でした。人間達の服を剥ぎ取ったほうが勝ち。
勝負の結果は分かりきっていました。北風が激しい嵐を巻き起こすほど、人間達は外套をしっかり着込み、風を通さない頑丈な建物に逃げ込んでしまいます。その一方、太陽がちょっと強く輝けば、建物の中は蒸し風呂と化し、人間達は服を脱ぎ捨て、川や海へ飛び込みます。北風に勝ち目などあろうはずもありません。
けれども北風はあきらめませんでした。北風だけで力不足なら、南からも東西からも風を呼び集め、ふだん分散している風の力を合わせようと考えたのです。こうして地球には、北から南へと向かう猛烈な気流が出来上がり、人間達の建物をみな吹き飛ばしました。隠れ家を失った人間達は立っていることすら困難になり、逃げ惑うどころか転げ回りながら、外套も帽子も上着も下着も引き裂かれてすっぽんぽんになってしまいました。
北風は太陽に向かって言いました。
「おまえだけがデカいツラをしていられると思うなよ。圧倒的な力さえあれば人間ごとき、どうとでもできるのだ」
北風が仲間と手を組み対抗してきたところで、太陽の強さに変わりはありません。しかし北風にも太陽と同じことができてしまった以上、太陽はもっとすごい力を北風に見せつけてやらなければ気が済みませんでした。そこでとりあえず、太陽も仲間を呼び集めることにしました。なにしろ広大な宇宙には、太陽の同族が星の数ほどいるのですから!!
太陽の呼びかけに応じて、ベテルギウスやアンタレスや、オリオン座の三つ星や、すばるの星々などなど、燦然と輝く星達が寄り集まってきましたが、集まって何をするのか決めていなかった太陽がみんなと相談しているうちに、互いの重力でくっつき合い、ひとつの大きな星になりました。この星はあまりにも大きく重かったので、星の形を保っていられなくなって爆発し、みずからの重さで潰れ、無限大の重力をもつブラックホールになりました。
たちまち地球はブラックホールに吸い込まれ、周りの時空間もろとも細長く引き伸ばされながら“事象の地平面”へ向かって無限に落ち続けましたが、ふつうの物体が激しい重力変化に耐えられるわけがなく、引き伸ばされる途中で粉々に砕けてしまい……そのついでに人類も滅亡しました。
おわり