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二、出立

 時間が無い。

 僕は自分の部屋に籠り、着替えや食料等の荷物の準備を始めた。これから自殺をしに行かなくてはならない。そう、旅行なんかでは無く、飽くまでも自殺をしに行くのだ。

 春先とはいえ未だ肌寒い日は続くので、厚手の洋服は欠かせない。僕はトランクの蓋を開け、適当に厚手の洋服を数着押し込む。着替えはそう沢山は要らない。どうせもう、永くはこの世に留まらないのだから。

 後は、そう、自殺の目的地に到着するまでの最低限の水と食料だ。足りない物は途中のコンビニエンスストアで調達すれば良い。五百ミリリットルペットボトルの水を二本、いつも齧っている栄養調整食品のブロックを二箱、先程詰めた着替えの上に無造作に投げ込む。ブロックの味は確かチーズ味だったが、本当はそんな事はどうでも良いのだ。口に入りさえすれば何でも良いという位、僕には食に対する拘りが全く無かった。思えば、これまでに食べ物の味を感じた事も無かった様に思う。

 其処まで準備を終え、ふと、行き先を未だ決めていない事に気付く。行き先が決まらなければ、所要時間も必要な荷物の量も割り出せない。我ながら、とんだミスを遣らかしたものだと思ったが、それはそれで有りかも知れないと思い直した。今までの僕の人生では一度も無かった事だが、人生の終幕が行き当たりばったりというのも悪くは無い。

 時計を見ると二十三時を少し廻った所だ。未だ電車は動いている。スマートフォンの充電器をコンセントから外してトランクの中に放り込むと、勢い良くその蓋を閉じた。未だ未だ荷物は入りそうだったが、抑が多くの荷物を持って行く必要は無い。僕は外套を羽織ると、サイレントモードに設定したスマートフォンと、全財産が入った長財布をポケットに押し込み、そのまま自宅から失踪した。

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