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9.婚約の申し込み

 カルロがモンタニーニ公爵邸を去って三年が経った。

 私は家の仕事を手伝いながら淑女としての振る舞いを学んでいる、といっても一回目に習得しているのでおさらいだ。空いた時間はスザナと買い物に出かけたり穏やかに過ごしている。もちろんお父様との関係も良好だ。


 辺境で起こっていた隣国との戦争が昨年ようやく終り、休戦協定が結ばれた。王都にいる自分には戦争の実感がないが、辺境では戦い傷つき苦しんでいる人がいる。そして前線の騎士達が国や私たちを守ってくれているのだ。

 ふとカルロを思い出す。彼は前線に行ったのだろうか? 残念ながら連絡はない。それは当然でいっとき交流を持ったが私たちは将来の約束をしたわけではない。ただ、強くなったら私の騎士様になってくれると言っただけ。きっと十四歳の女の子への看病のお礼の言葉に違いない。身分差も考えたら気軽にやり取りすることは出来ない。だからカルロとの思い出は心の大事なところにそっとしまっておいた。


 私は十七歳になるとお父様のエスコートで夜会にデビューを果たした。スザナが私を磨いて着飾ってくれたので自分では満足している出来栄えだ。前回のように地味にせず年相応に華やかに装った。私はお父様やカルロと過ごした時間で自分に自信が持てるようになった。存在を肯定してもらうと心も強くなっていく。全ての人に好かれなくてもちゃんと私を愛している人がいることを知っている。それで十分幸せなのだ。それに自分を卑下することは愛してくれている人の気持ちを否定することになってしまう。


 モンタニーニ公爵家の一人娘のデビューとなればそれなりに注目を集める。打算的な意味で求婚相手として見られる。公爵家の婿であれば魅力的だろう。たとえ私がとびきりの美人でなくても。私の瞳はお母様そっくりのエメラルドグリーンだ。お父様は宝石のように綺麗だと誉めてくれる。でも容姿は平凡で髪色もブラウンで地味なので女性としての人気はたぶん……ないのだ。

 まだ焦って婚約者を探すつもりはない。今が幸せなので前回のように寂しくてそれを癒してくれるからとステファノのような人に恋をしたりしない。私は信じられる人と結婚したい。


 ある日の昼食後、私はお父様の執務室に呼ばれた。


「ロゼリアは結婚についてどう思う? そろそろ婚約者を決めてもいい年齢だ」


 ドキリとする。前回は十九歳になる前に言われた。今回は二年も早い。前は「お父様にお任せします」と頼んだ。それならば親交のある貴族に声をかけようということになった。モンタニーニ公爵家の婿にと望む子息は多いので声をかければたくさんの釣書が届いた。その釣書の中にステファノのものもあったが彼は除外した。当時、もちろんそれは彼の本性を知っていたからではなく、社交界でも特に人気のある男性が自分なんかを相手にするはずがないと避けたのだ。

 ところが誕生日から三か月後に私とステファノは出会った。父との会話も少なく心を許せる友人もいなかった私は孤独感を癒してくれるステファノに夢中になった。でも今回はお父様の愛情を知っているからそんなことはあり得ない。それにまだ十七歳だから急いで婚約者を決めなくてもいい気がする。いや、ステファノと関わらないためには婚約者がいた方がいいのだろうか。私は彼と出会いさえしなければ前回のようになることはないと思っていた。とにかく私は婚約者を決めるのはまだ早いと伝えるために口を開こうとしたが。


「実はロゼリアに結婚の申し込みがあった」


「えっ? 私に?」


 まさかステファノが? 嫌な予感がして胸の中が重くなり全身に鳥肌が立つ。

 運命が強制的に私たちを引き合わせようとしていたら逆らえるのだろうか。避けられずにもし彼と結婚して再び殺されてしまったら? お父様まで巻き添えにしてしまう。でも前回の人生でお父様はステファノのことを反対していた。理由は「相応しくない」としか教えてくれなかったが、きっとステファノに何らかの問題があったのだ。だからお父様が私にステファノを薦めるはずがない。あのときの私の心は曇っていて一途に結婚したいと願い強硬手段に出た。今となっては後悔しかない。


「あの、お父様。それはどなたでしょう?」


 恐る恐る問いかける。


「ジョフレ伯爵だ。年齢は二十一歳で釣り合う。戦争で功績を上げ叙爵されたので身分は決して高いとは言えないが人柄は信頼できるし、実力もある。私はお前を託せる人物だと思っている。ロゼリア。会ってみないか?」


 ジョフレ伯爵? 聞き馴染みのない名前だ。夜会で会った覚えもない。最近叙爵されたなら社交の場には出ていない可能性もある。それなのに見初められたのだろうか? 前回はお父様に逆らってステファノと結婚したけれど、今回はお父様にお任せするつもりでいた。お父様の知り合いで信頼できるという人なら会ってみたいと思う。


「お父様がそうおっしゃるならお会いします」


「そうか。ならば話を進めておこう」


 顔合わせは一週間後に、我が家にジョフレ伯爵がいらっしゃることになった。お父様は私に意地悪をしてジョフレ伯爵について詳しいことを教えて下さらなかった。「会ってのお楽しみだ」と笑っている。


「それはいくらなんでも酷いです。どんな人か分からないと不安です。それとも家のためになる人なのですか?」


「家は関係ないな。家の利になる男なら他にいくらでもいる。ジョフレ伯爵はそういう意味ではマイナスかもしれない。でも我が家は経済的に盤石だ。誰が相手でも受け入れることが出来る。そもそも身分に重きを置くのは最近では王族くらいだ。私は何よりもお前の幸せを最優先にしたい。だが会って嫌なら断ってもいい。これは強制ではないのだ。そんなに身構えなくても大丈夫だ」


 私は当日、緊張しながらジョフレ伯爵の到着を待った。




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