番外編。天使が舞い降りた
『夫に殺されたはずなのに、二度目の人生がはじまりました 電子書籍2巻』
発売御礼の番外編です!!
どうぞ、よろしくお願いいたします!
のどかな昼下がり、ロゼリアはゆったりとした服を着てソファでまったりと本を読んでいた。
しばらくすると区切りのいいところで手を止めた。本にしおりを挟んで置くとテーブルに視線を向ける。そこには一輪挿しがあり白薔薇が飾られていた。手を伸ばしその白薔薇を手に取った。
実はこの白薔薇は生花ではなく布で作られた造花だ。針金を緑の布で巻いたもので枝を、葉の部分は緑の布で、そして肝心要の薔薇の花びらは真っ白な布で作ってある。
ロゼリアの手元の造花は少しだけ荒っぽい……よくいえば(?)豪快な作りになっている。一般的に美しいとは言い難いかもしれないが、でもこれはロゼリアにとってとても大切な一輪なのだ。
この造花の白薔薇を見るとロゼリアの心はぽかぽかと温かくなる。しばらく眺めて満足するとそれを再び一輪挿しに戻した。
次にお腹に手を置いた。今のロゼリアのお腹は丸くふっくらとしていた。優しく撫でるとぽこんと反応があり、思わず口元が綻んだ。幸せが胸の奥から体全体にじわじわと広がり満たしていく。ロゼリアはカルロの子を身籠っていた。もうすぐ産み月になる。
昨年の夏、体調を崩した。連日続く暑さにバテのだと軽く考えていたのだが、心配したカルロが医者を呼び妊娠が発覚した。
「ご懐妊です。おめでとうございます」
満面の笑みを浮かべる医者の言葉に驚きとそして喜びが湧き上がるのを感じた。
カルロを見ると茫然としていた。どこか遠くを見ているような眼差しに、妊娠を喜んでいないのか不安になり声を掛けた。
「カルロ?」
カルロは我に返ると瞳を潤ませ少しだけかすれた声で小さくありがとうと言った。そのままロゼリアを優しく抱きしめた。
妊娠を告げられたばかりでロゼリア自身にだって母親になった自覚はまだない。男性であるカルロはなおさらだ。きっと戸惑っているのだろう。
でも私たちは力を合わせてこのお腹の子を守り育てていく。カルロとなら絶対にそうできるとロゼリアは信じている。その意味を込めてロゼリアは逞しいカルロの体を力強く抱きしめ返した。
ロゼリアはすぐにカルロとお父様に仕事をすることを禁止され安静を言い渡された。
「心配しすぎよ……」
「いいや、妊娠初期は安静が必要だ!」
ただでさえ心配性なカルロは過保護に拍車がかかり、ロゼリアの行動を制限するだけでは飽き足らず、時間を見つけてはロゼリアの側にいるようになった。
別段それに不満はなく、むしろ一緒にいられるので嬉しい。とはいえカルロはロゼリアの分の仕事までしているのだから空いた時間は休息してほしいと思っている。
カルロの目の下には濃い隈があって疲労感満載で病人に見える。スザナやファビオが溜息を吐きながら無理矢理カルロを休憩させてくれなければ、子供が生まれる前にカルロが倒れてしまっていたかもしれない。
だがカルロの心配をしていられる余裕は早々になくなった。しばらくすると悪阻が始まり吐き気が強く食事もままならなくなった。ベッドの住人になりながらロゼリアは体の変化に困惑した。妊娠は素直に嬉しい。けれどこれほどの苦しみを伴うとは。喜んでばかりで覚悟が足りなかったのだ。
食事が摂れないことも辛いが匂いに過敏になったのも辛い。今まで大好きだった匂いが受け付けなくなった。薬草もそうだがロゼリアとカルロの二人にとって大切な白薔薇の香りが苦手になってしまったことがこたえた。
ロゼリアが落ち込んでいる間にスザナはすぐに屋敷にある花を撤去した。仕事が早い。結果、屋敷中が殺風景になった。普段はそれほど気にしていなかったが飾られていた花々はさりげなく心を慰めていたことを思い知った。ないとすごく寂しい。特に臥せっているときに部屋に花一輪も飾られていないことでなおさら気分が落ちる。
しょんぼりしているロゼリアのためにカルロがドレス工房の職人さんにお願いして造花を作るよう依頼してくれた。
(さすが優しい私の旦那様!)
数日後、屋敷は色鮮やかな本物と見紛うほどの美しい造花で華やかになった。ロゼリアの部屋にはもちろん白薔薇の造花が飾られた。
カルロが胸を張ってロゼリアに微笑んだ。
「造花なら匂いを気にしないで済むだろう?」
「ええ、とても嬉しいわ!」
ロゼリアは目を輝かせて飾られた造花を見た。花があると気分が明るくなる。景色も心の栄養になるようだ。花を眺めているとふいにカルロが手を差し出した。手の上には一本の白薔薇の造花があった。その白薔薇の花びらや葉はちょっと不格好に見える。
「これは?」
ロゼリアはそれを受け取ると首を傾げて訊ねた。するとカルロは目の下を赤く染めてぽつりと小さく呟いた。
「俺が作った。不格好だけどロゼリアに渡したくて……」
ロゼリアはその白薔薇をじっくりと眺める。工房の職人さんが作ったものと比べれば粗がある。でもカルロの愛が詰まっていると思うと、どの花よりも美しく感じる。
「まあ! カルロが? ありがとう。嬉しい。さっそく飾るわね!」
スザナに一輪挿しを出してもらいベッドから見える位置に置いてもらった。
その薔薇を眺めていると胃の不快感や吐き気、倦怠感が軽くなるような気がした。
プロポーズに白い薔薇の花束を抱えて来たカルロと、この一輪の造花を差し出したカルロの表情が重なった。あの日からずっとロゼリアを愛し守ってくれる夫に感謝しながら安定期を迎えた。
最近は簡単な書類仕事をする許可を得たが、量が少ないので午前中で終わってしまう。無理をしてみんなに心配をかけるのは嫌なので、午後はまったりと過ごすことにしていた。
「ねえ、スザナ。私、こんなにのんびりしていていいのかしら? 怠け者だと思われそうだわ」
「奥様は毎日お腹のお子様を育てるという立派な仕事をしていらっしゃいます。誰も怠けているなどと思うはずがありませんわ」
「そうかしら?」
そう言われるとそうかも。確かにロゼリアにしかできないことだ。それなら堂々とゆっくりしよう。
それよりも最近、ロゼリアには気になることがあった。カルロが時折沈んだ表情をしている。本人は気付かれていないと思っているようだが、妻の観察力を甘く見てもらっては困る。
まさか……マタニティブルー? 男性もなるのかしら? ……もしかして子供はいらないとか思っていないわよね? カルロはそんな人じゃない。でも理由がわからないままではもやもやする。ロゼリアは思い切って聞いてみた。
「カルロは何を悩んでいるの?」
カルロは漆黒の瞳を見開いて顔を強張らせた。でも取り繕うように笑みを浮かべた。『あ、これは誤魔化そうとしている』とピンときた。
「悩んでなんかいないよ」
「嘘。悩んでいないのなら……心配事? カルロ、私たち隠し事はしない約束をしたわよね?」
ロゼリアはいつになく強い口調で言った。カルロは一度目を伏せたあと、顔を上げロゼリアと目を合わせた。強くていつも堂々としている夫の漆黒の瞳が不安に揺れているように見えた。しばらく逡巡したあとカルロは口を開いた。
「そう……だったね」
「そうよ。じゃあ、何を悩んでいるのか教えてくれる?」
「……ロゼリア、俺が父親で……いいのだろうか?」
カルロは思いつめたような声で絞り出すように言った。
「どういう意味?」
「俺はこの国で生まれていない。そのせいで差別を受けた。お腹の子にも同じ思いをさせてしまうかもしれない……。ロゼリアに似ていればいい。でも、もしも俺と同じ黒髪や黒い瞳だったら。この子は俺を恨むかも……」
ああ、カルロらしい。お腹の子が辛い思いをするかもしれないと心配なんだ。
カルロの気持ちは理解できる。でもロゼリアは心配していない。だって今は幸せな未来しか頭の中に描けないから。それに――。
「カルロ。もしもお腹の子が黒髪黒瞳だったら、きっとお父様と同じで嬉しいって言うわ。恨んだりしない。絶対によ。それにもしもこの子を侮辱する人間がいたら、私はモンタニーニ公爵家のあらゆる権力を使って叩きのめす。相手が誰であっても許さない。だから大丈夫! それにカルロも一緒にこの子を守ってくれるでしょう?」
ロゼリアは力強く頷いて見せた。
カルロと結婚して二年が過ぎた。社交も頑張って貴族たちとの友好関係も築けている。だからといって偏見が完全になくなったわけではないことくらい知っている。
今のところ社交界でモンタニーニ公爵家に表立って悪評を口にする愚かな人間はいない。それでも多少の陰口を耳にすることはあった。
妊娠する前のロゼリアはあまりに目に余る言動でなければ、陰口を言う相手に対して高位貴族としての鷹揚さを見せるという意味でスルーしてきた。カルロが自分のことでロゼリアを矢面に立たせたくないと考えていることも考慮してことなかれ主義でいた。でもそれは甘かったと思う。
でもこれからは違う。取るに足らない小さな陰口も、放っておけばやがて大きくなる。それは一番小さな者に向けられやすい。そう、これから生まれてくる子が犠牲になる。
そうはさせない。お腹が大きくなることを実感するたびにその決意は大きくなっていった。子供のためなら強い気持ちで非道な手段だって採るだろう。幸い我が家はそれを実行し相手を捻じ伏せる力を持っている。
ロゼリアの言葉にカルロは目を丸くして固まっている。でもすぐに我に返り、ふっと笑った。
「そうだな。ああ、もちろんこの子もロゼリアも守る。この子が幸せになるためなら何でもするよ」
「そうそう。そうでなくちゃ。カルロのこと、頼りにしてるのよ」
「ああ、弱気になって悪かった。もう大丈夫だ。それにしてもロゼリアは強くなったな」
「それはそうよ。私だって成長したのよ。この子のために強くなるって決めたの」
ロゼリアが優しくお腹をさすると、カルロがその手の上に自分の手を重ねた。すると赤ちゃんがお腹をポコッとひと蹴りした。
「ほら! きっとこの子がよろしくねって言ったのよ」
「そうだな。ああ、任せておけ」
カルロの表情は明るく迷いはなくなっていた。
一週間後、とうとう陣痛が来た。
「痛い痛い痛い痛い痛いいい――――!!」
淑女として呆れられてもいい。絶叫せずにはいられない痛みだった。この世の母親はこんなに痛い思いを乗り越えて出産するのか。
「もうすぐ生まれますよ。頑張ってください! 赤ちゃんも頑張っていますよ!」
「ううっ――」
医師の言葉に今のロゼリアはまともな返事をする余裕はない。何時間も続く陣痛に意識が朦朧とするも、いよいよ生まれるのだ。そうだ、自分だけじゃない。この子も生まれようと頑張っている。しっかりしなきゃ!
「ふぎゃあーふぎゃあ――」
小さな、でも元気いっぱいの声が聞こえた。
「奥様。生まれましたよ。元気な可愛らしい女の子です」
「元気な……よかった」
ロゼリアはぐったりとしながらも、無事に産むことができたことに安堵した。医師が赤ちゃんを清めロゼリアに抱かせてくれた。
「ふふ……可愛い」
真っ赤でしわくちゃな顔なのに愛おしくてたまらない。私たちのもとに可愛い天使が舞い降りてきてくれた。胸もとに抱いて頭に口付けた。
生まれた子の瞳の色はエメラルドグリーン。ロゼリアと同じ。そして髪の色は……黒。カルロと同じ色だった。二人の色を継いだ愛おしい娘。そう思うと無意識に涙が溢れて来た。
「ありがとう。私のもとに来てくれて」
落ち着くとお父様とカルロが部屋に来た。二人ともずっと隣の部屋で待機してくれていたらしい。
「おめでとう。そしてお疲れ様。ロゼリア」
「ありがとう。お父様」
「ありがとう。ロゼリア。二人が無事で……本当によかった。愛してる」
「どういたしまして。私も愛してるわ」
お父様とカルロは生まれたての赤ちゃんを見るなり相好を崩した。
「なんて可愛いのだ。ロゼリアそっくりだ! 我が家に天使がやってきたぞ!」
「可愛いなあ、ロゼリアにそっくりだ! まさに天使じゃないか!」
二人そろってデレデレしている。
可愛いのは認めるけど、そんなに私に似ているかしら。赤ちゃんの顔ってしわしわよね? その心の声が聞こえたかのようにお父様がロゼリアに笑った。
「ロゼリアが生まれたときの顔とそっくりだよ」
「そう?」
私、こんなにしわしわだったのね……。
「そうだ。お父様、この子の名前は?」
「アメリアだ。アメリア・モンタニーニだ」
ロゼリアは我が子に呼びかけた。
「アメリア。素敵な名前でよかったわね」
泣き止んだばかりのアメリアは不思議そうな顔をしているように見えた。
子供の名前は事前に話し合ってお父様に決めてもらうことになっていた。男の子だったときと女の子だったときの名前を用意してくれていた。最初は三人で話し合ったが候補が多すぎて揉めた。それならもう、お父様にお願いしようとカルロと話し合ったのだ。
ロゼリアは幸せだ。生まれた子が男子ではないとがっかりする者はここにいない。もちろんロゼリア自身もがっかりなんてしない。この国では女性も家を継げる。男性に継がせたがる人は多いが女性が継いでいる家もある。そもそもロゼリア自身が家を継ぐ立場であるので男でも女でも気にならない。
カルロがアメリアを優しく抱くと頬を寄せて愛しげに目を細めた。瞳が潤んでいる。
その姿を見ながらロゼリアは「ん?」と首を傾げた。カルロのアメリアを抱っこする手つきが慣れていて、それが意外だったのだ。
「もしかしてカルロは赤ちゃんの世話をしたことがあるの?」
「母と旅をしているときに機会があったから」
「そうなのね」
それは心強い。もしかしたらロゼリアより上手かも……。思い返せばロゼリアは孤児院などで子供たちと遊んだりしたことはあるが、生まれたての乳児の世話をしたことはなかった。
(きっと大丈夫よ。だって私がアメリアのお母様なのだから、すぐに上手に抱っこできるようになるわ!)
出産直後は興奮状態だったが、しばらくすると強い眠気が襲ってきていつの間にかロゼリアは深く眠っていた。
♢♢♢
日々を送るうちにアメリアの顔が、自分でもそう思うくらいロゼリアにそっくりになっていった。カルロに似てほしかった気もするけど、でも可愛いことに変わりはない。
スザナが万事手配してくれたのでロゼリアは落ち着いてアメリアの世話をしている。
カルロもお父様も仕事を手早く終わらせるとアメリアと一緒に過ごす。仕事を終わらせるモチベーションになっているようで、二人とも任せられる仕事を使用人に割り振るように心がけている。いいことだ。
今日はカルロが午前中で仕事を切り上げたので午後は親子三人でゆっくりすることになった。暖かいので庭で過ごすことにした。
カルロは宝物を抱くように丁寧にアメリアを抱っこしてあやしている。その姿もなかなか絵になり、ロゼリアはついじっと眺めてしまう。そうだ。落ち着いたら二人の姿を描こう。そのために目に焼き付けておくのだ。
カルロがアメリアをじっと見つめるとぎゅっと眉を寄せた。おむつの時間かしら?
「どうしたの?」
「いや……義父上はすごいな」
「お父様?」
「ああ、だって俺とロゼリアの結婚を許してくれただろう? 俺はアメリアが結婚するのを許せる気がしない。そもそもアメリアを幸せにできる男がこの世に存在するのかどうかもわからないし……」
「え……」
ロゼリアは呆気にとられた。自分の夫はどうやらまだ乳児の娘の結婚の心配をしているらしい。まだ生まれたばかりよ?
「アメリアは半端な男にはやれない。結婚相手の条件は最低でも誠実で強くて頭が良くて優しくて真面目で仕事ができて運動神経もよく無駄遣いはせずにモンタニーニを支えられるだけの能力がある男で――」
真剣にアメリアの結婚相手の条件を語っているが、そんな完全無敵な人いない気がする。あっ! ロゼリアの知る人の中で一人だけいた。そう、そんな男性はカルロしかいない。アメリアにカルロのような素敵な男性を見つけてあげることができるかしら?
ロゼリアも真剣に考え始めたが、はっと我に返る。
「カルロったら、まだ先のことよ?」
「だが義父上のところにはすでにアメリアへの縁談の申し込みが何件かきている。もちろん断ってあるが」
「ええ……?」
我が家は高位貴族なので打算で申し込んでくるのだろう。それを聞くとカルロの心配を笑い飛ばせなくなりそう。まあ、お父様もカルロと同じ気持ちみたいだから簡単に受けたりしないだろう。
「気が早い人もいるのね。その辺の面倒なことはお父様に任せちゃいましょう。そよりも私は、アメリアとたくさん遊んで寂しい思いをさせないようにしたいの」
ロゼリアはお母様を早くに亡くしお父様も仕事で忙しかった。一度目の人生ではお父様と一緒に過ごす時間が少なくて気持ちがすれ違った。そうならないためにもアメリアとたくさん一緒の時間を過ごして、両親から愛されている実感を与えたい。
公爵家の仕事は膨大でロゼリアもカルロも今後きっと仕事に忙殺される。それでも出来得る限りアメリアを優先したい。
「ああ、そうだな。アメリアが寂しくないようにしよう」
カルロは優しく目を細めるとアメリアのふわふわの黒髪を撫でるように梳いた。アメリアはそれが気持ちよかったのかニコニコと手を伸ばしカルロの頬を紅葉みたいな可愛い手で、ペシペシと叩いている。カルロはくすぐったそうに笑っている。
言葉にできないほどの幸せな光景に、ふいに胸がきゅっと締め付けられた。
(カルロに血の繋がった家族をあげることができた)
ロゼリアとお父様はカルロの家族になった。だけどカルロのお父様とお母様はすでに亡くなっているので、カルロに血の繋がった家族はいない。だけど今はアメリアがいる。ふいにそのことが、どうしようもないほど嬉しくなった。
カルロはプロポーズの誓い通りにロゼリアを幸せしにしてくれている。ロゼリアもカルロを幸せにできているだろうか?
きっと答えは目の前にある。ロゼリアとアメリアを愛おしげに見つめる漆黒の眼差し。たぶん、いいえ、絶対に幸せにできているはず。
だけどこれからも、もっともっと幸せにするから覚悟してねと心の中で宣言する。
「アメリア。そろそろお母様のところにいらっしゃい」
「もう、か? 俺はまだ抱いていたいのだが……」
カルロが眉を下げながら異を唱えるが、そろそろロゼリアだってアメリアを堪能したい。催促するように両手を伸ばすと、カルロが名残惜しそうにアメリアをロゼリアの腕に渡してくれた。アメリアを受け取ると優しく胸に抱いた。赤ちゃんの高い体温が得も言えぬ多幸感をもたらしてくれる。
アメリアの顔をのぞき込むと機嫌よくニコニコしている。つられてロゼリアの顔も綻んだ。
そのとき――。
「あ~う~う~」
アメリアが空に向かって手を伸ばした。エルダーフラワーの白く小さな花びらが風に舞っていた。太陽の光の中から落ちる花びらは、銀色にキラキラと輝いて見えた。アメリアは熱心に花びらを目で追っている。
ロゼリアとカルロは目を合わせ微笑み合うと、そのまま三人で静かに景色を眺めて過ごした。
ロゼリアは二度目の人生を、これからも愛する家族とともに大切に紡いでいく――。
お読みくださりありがとうございました。




