28.求婚
王国騎士団に着くと騎士団長であるマッフェオ公爵様に挨拶をして推薦状を渡す。
連絡してもらっていたのですぐにランク分けのための試験を受けることが出来た。最初は弱い相手と順番に手合わせをする。二回目なので相手の癖や弱点を覚えている。勝ち抜くのは簡単だった。最後はマッフェオ公爵子息のアロルド様だった。彼は実力者なので苦戦したがなんとか一本取ることが出来た。すると、わっと歓声が上がった。
王立騎士団は誇り高く余所者でも差別や排除をしないと言われている。一回目も思ったがさすがマッフェオ公爵が率いるだけのことはあって統制がとれて素晴らしい騎士団だ。上品過ぎなければ完璧なのにと思った。以前の記憶を頼りに人付き合いをしていけば打ち解けることができた。すっかり馴染んだ頃、辺境の前線に行くことを希望した。すると騎士団長に呼び出された。
「カルロは能力が高いがまだ若い。そんなに焦って功績を急がなくてもいいのでは? それとも何か目的があるのか?」
「早く手柄を立てて騎士爵を手に入れたいのです」
「ほう。野心があるのはいいことだが目的は?」
「モンタニーニ公爵令嬢に求婚する資格が欲しいのです」
恥も外聞も捨ててはっきりと告げる。前回は俺が騎士爵を望んだのはクラリッサ様への思慕だと誤解されていたからだ。マッフェオ公爵様は唖然としている。入団して間もないのに不純な動機だと思っているかもしれない。
「求婚? モンタニーニ公爵令嬢、ロゼリア嬢か? 確かクラリッサと同じ年だったな。彼女が好きなのか?」
「はい。ここに来る前にお世話になりました。もし求婚できなくても親切にして下さった恩を返したいのです」
マッフェオ公爵様は呆れとも取れる表情をしたがすぐに真顔になった。
「そうか。ならば今回の辺境行きに入れておく。気を引き締めて行け」
「ありがとうございます」
王都での仕事だと大きな功績を得るのは難しい。だからある程度実力を認められたところで志願したのだ。前回同様隣国が挙兵し辺境伯からの要請でアロルド様が騎士を率いて辺境に行くことが決まった。俺も一緒に行けることになった。前回、俺はもっと後の時期に行ったが今回アロルド様に同行すればもっと早く戦いを終わらせることが出来るかもしれない。俺には前回の記憶があるから有利だ。上手くいけばアロルド様が毒矢を受けることも防げる。すぐに王都を出発した。
辺境は激戦になっていた。俺は前回の戦況を思い出し司令官の位置を確かめた。偶然知ったことにしてアロルド様の指示を仰ぎ上手く隙をつき司令官を討つことが出来た。
そして停戦協定が結ばれることになった。早く終わったことで犠牲者の数も前回ほどではなくなり、アロルド様も無事だった。そして俺は手柄を立てることが出来た。
「カルロは今回の功労者だな」
アロルド様だけでなく辺境伯様や辺境騎士団の騎士たちにも賞賛された。素直に嬉しかったが一番は叙爵の可能性を手に入れたことだ。ロゼリア様に会いに行くことが出来る。
王都に帰還するとマッフェオ公爵様に呼び出された。
「カルロ。お前の叙爵が正式に決まった。おめでとう」
「!! ありがとうございます」
俺はモンタニーニ公爵様に定期的に手紙を送っていた。迷惑がることなく武勲を祈る返事をくれていた。心証を良くしておこうという下心だったがその甲斐はあった。
早速、叙爵されることの報告とロゼリア様に求婚する許可を求めたら快諾を得られた。ただし、ロゼリア嬢が拒絶した場合には断るとのことだった。
終戦に伴い騎士団は忙しくなってしまったのでモンタニーニ公爵様には二か月後に顔合わせをお願いした。
ある夜会の警備に就いた時にロゼリア様を見た。公爵様と楽しそうにダンスをしていた。調べてみたが悪い噂は流れていない。クラリッサ様とは今回は一度も会ったことがないので、彼女のことはもう警戒しなくても大丈夫だろう。
他にもう一つ懸念事項がある。
前回、ロゼリア様の侍女が結婚詐欺に遭っている。かなり悪質な男でその侍女は後日遺体で発見された。モンタニーニ公爵家に報告に行ったら対応に出た執事がロゼリア様がショックを受けるのでこのことは言わないで欲しいと頼まれた。一回目の時はロゼリア様と再会する機会はまったくなかった。
その後、詐欺師は隣国に逃げてしまい捕まえることが出来なかった。どうやら協力者がいたようだ。今回は必ず捕まえてみせる。俺は部下と共に調査にあたっているが詐欺師はなかなか姿を現さない。居場所の特定が困難なので、悪いとは思ったが内密に侍女を囮にして監視することにした。侍女には公爵邸で療養中に世話になっている。すでに詐欺師とは付き合いがあるようなので真実を知れば傷つくだろうが最小限の被害で済ませてやりたい。
多忙にしている間に公爵様との約束の日が来てしまった。
緊張で胃が捻じれそうだ。今回こそは受け取って欲しくて白薔薇の花を用意した。正式な騎士服に着替え勲章を着ける。ジャラジャラして邪魔だが功績を挙げた証でもある。さまになっていればいいが、とにかく彼女にいい印象を持って欲しい。
屋敷を訪ねるとまずはモンタニーニ公爵様に挨拶をした。
「モンタニーニ公爵様。本日はロゼリア嬢への求婚をお許しいただきありがとうございます」
「カルロ、立派になったな。あのときの護衛が功績を上げ爵位を賜わるなど、正直私は無理だと思っていたよ。でも君はそれを成し遂げた。それほどロゼリアを思ってくれているのなら文句はない。さあ、ロゼリアに会ってやってくれ」
「ありがとうございます」
直接会うのは三年振りだ。ロゼリア様は美しく成長していた。清楚な佇まいに見惚れてしまう。あどけなさが消えしっとりとした淑やかさがある。
「まさか……カルロ? お父様、ジョフレ伯爵とはカルロのことなのですか?」
ロゼリア様は目をまん丸にして俺を見ていた。公爵様は何も伝えていなかったようだ。
それでも俺を覚えていてくれたことに歓喜した。最初は戸惑っていたが頬を染めはにかんで俺を見つめている。期待せずにはいられない。先日アロルド様に紳士的な挨拶を指南してもらっていた。うまく出来るといいが。
「今日はお時間をいただきありがとうございます。お会いできて光栄です。ロゼリア嬢にこれを」
緊張しながら花束を差し出すと細い手がそれを受け取る。思った通り白薔薇がよく似合う。ただ大きすぎたようで彼女が抱えると顔が隠れてしまった。次はもう少し小ぶりにした方がよさそうだ。それでも嬉しそうに微笑んでくれた。
「ありがとうございます」
俺は一度目を閉じ心の中で気合を入れた。一世一代のプロポーズだ。俺の気持ちを伝えたい。
「ロゼリア嬢。あなたが好きです。たとえ騎士爵を得ても身分はあなたに相応しくないと分かっているが、あなたを一生守ると誓う。絶対に裏切ることもないと約束する。だからどうか私との結婚を考えて欲しい」
ロゼリア様は顔を真っ赤に染めた。少し迷うように目を泳がせる。彼女の様子に断られるのかもしれないとハラハラする。だがすぐに迷いを振り払うように俺を真っ直ぐ見た。
「カ、……ジョフレ伯爵様は本当に私でいいのですか? 身分のことは父が許した以上私は気にしません。それよりも私は地味で特別優れたところもありません。もし、以前の看病のお礼での恩を返すつもりならば無理をしないで下さい」
「確かにとても感謝している。恩義もあるが、それ以上に愛しているから申し込んだのだ。それとあなたは自分のことを地味で優れたところがないと言ったがそんなことはない。あなた以上に勤勉で優しく可愛くて素敵な女性を私は知らない。私は髪と瞳の色から一目で異国人だと分かる。今は戦争での功績を認められたとはいえ、社交界であなたの足を引っ張る可能性が大きい。ロゼリア嬢の幸せを願うなら身を引くべきだが、それでも私はあなたの側にいたい」
俺はもうあなたを絶対に諦めない。いざとなったら攫う覚悟もある。でも公爵様に祝福して頂きたいから最善を尽くそう。それにしても彼女はなぜ自分を地味などと言うのか。俺にとってロゼリア様以上に素晴らしい女性はいない。どうしたらそれを分かってもらえるのか……。それに恩だけで結婚を申し込んだりしない。一回目の人生であなたを死なせてしまった。せっかく手にしたチャンスを無駄にしたくない。今度はあなたを守りたい。出来ることなら隣で幸せになりたい。祈るように想いを伝えた。
「ありがとうございます。ですが突然のことですので、まずは交流を深めてからお返事をさせてもらってもいいですか?」
「ああ、今はそれで十分だ」
断られなかったことに心からホッとした。即答はしてもらえなかったがロゼリア様からは求婚を受ける前提で交流を持とうと言われたのだ。まずはこれで満足だ。
結婚詐欺師の調査に進展があった。ロゼリア様の侍女に接触してきた男を調べて証拠を押さえていく。すでに被害者が何人も出ていた。そしてとうとう捕縛することが出来た。
この詐欺師は調べるほど悪質であることが分かった。貴公子のような風貌に柔らかい物腰で話術に長けている。だが性根は腐っていた。最低な人間で、結婚を夢みる女性から言葉巧みに金を巻き上げ、返済を求められたり訴えられそうになると殺害していた。まだ明らかになっていない被害者がいるかもしれない。なんとも痛ましい事件に溜息をついた。




