15.新しい未来へ
翌日グイリオさんがステファノのことを説明しに来てくれた。私はお父様と一緒に話を聞くことにした。
「ピガット侯爵子息が男たちを雇ってロゼリア嬢を襲わせようとしたのです。あくまでも脅しだけでそこを助けて近づくつもりだった。彼はロゼリア嬢に婚約の打診をしていたそうですね? 断られても諦められなかったようです。恩を着せてなんとか縁を結ぼうとしたようです」
「婚約の打診?」
聞いていない。私がお父様に問いかけるように視線を向けるとお父様は頷いた。
「ピガット侯爵子息からは何度も打診されていたが私の独断で断っていた。彼にはよからぬ噂があったのでロゼリアに近づけたくなかったのだ」
夜会でステファノが言っていた打診とは婚約の打診の返事のことだったのか。もし、お父様から聞かされていたとしてももちろん断る。そもそもステファノは私が好きで近づこうとしたわけではない。モンタニーニ公爵家の財産を手に入れるためにくだらないお芝居をして私に取り入るつもりだった。一回目はその芝居に騙されたが、今回はステファノと接触する前にカルロと婚約していた。それで諦めてくれればいいのに。彼はそれほど公爵家の財産を欲していたのか。でも一回目に私とお父様を殺してまで手に入れようとしたのだ。彼は手段を選ばない。前回もお父様は彼の借金についてきっと知っていたはずだ。私がステファノを盲目的に恋焦がれていたので悲しませないように言わなかったのだろう。今、お父様が生きて側にいてくれることに心から感謝した。
「どんな噂なのですか?」
それにはグイリオさんが答えてくれた。
「高価で煌びやかなものが好きでとにかく金遣いが荒い。まあ、そこまでは自尊心の強い貴族なら珍しくないのですが、ステファノは大のギャンブル好きで文官として働いていた時は公金に手を付けて問題になったのです。本来ならクビですがピガット侯爵が弁済しもみ消した。とんでもない醜聞ですからね。名目上、家の手伝いということで退職していますが、侯爵家でも厄介者で持て余していた。そこでどこかの家に婿入りさせたいと思ってロゼリア嬢に目を付けたそうです。モンタニーニ公爵家なら裕福で縁続きになってもメリットがあると、今回のことは侯爵自身も手を貸したそうです。ステファノは闇カジノにまで手を出し借金まみれで焦っていたようです。それとモンタニーニ公爵家の御者も買収して計画を手助けするように指示を出していました。御者とは闇カジノで知り合ったそうです。それでステファノの処分ですが侯爵家を放逐され平民となり、侯爵は余罪もあったので長男に家督を譲り蟄居となりました。甚だ軽い罰とは思いますが未遂だったのでこれ以上の罰を与えるのは難しいでしょう」
「ロゼリア。我が家の御者は解雇したよ」
「そうですか……」
御者は長く勤めてくれていたのに闇カジノにのめり込んで、雇い主を裏切るようでは仕方がない。
「偶然とはいえグイリオさんがいて下さって本当に助かりました。ありがとうございます」
私は頭を深く下げた。もしステファノの計画通りになったとしても前回のように私が恋心を抱くことはなかったが、我が家の財産に固執する彼に付き纏われる可能性はあった。それを避けることが出来てよかった。
するとグイリオさんは頬をポリポリと掻きながら言い淀んでいる。
「う~ん。隊長には口止めされているんですが言っちゃいますね。実は隊長に頼まれてロゼリア嬢の外出の際はこっそり護衛をしていました。数人で非番の日に見回る感じで、私たちも隊長には幸せになって欲しいので喜んで引き受けたのですが、隊長から報酬も頂いているのでいいアルバイトになりました。要らないと言ったのですが納得してもらえなかったので甘えさせてもらったのです。だから気にしないで下さい。しかも闇カジノまで摘発出来てこちらこそ助かっています」
「それは……とんだご迷惑をおかけして」
「いやいや、それほど隊長の愛が重い……強いということですし、それに私たちはモンタニーニ公爵家にご恩があります。十年前に病気が流行した時にお金の払えない平民にも薬を分けてくれました。私の家族はそれで助かったのです。何しろ対価は道で拾ったどんぐりですよ。それでもいいと許してくれました。恩人です。騎士団は平民も多くみな公爵様に感謝しています。それに普段から騎士団には優先的に薬を融通して頂いていますからね。これくらい、いくらでも力になりますよ」
私はお父様と目を見合わせた。私たちのしてきたことは実を結んでいた。助かったと言われることがこんなに嬉しい。お父様は少し照れた様子で「そうか」と呟いた。今回もカルロが私を守ってくれたのだ。無性にカルロに会いたくなってしまった。
彼は私の不安を取り除くだけでなく、両手に抱えきれないほどの幸せを捧げてくれる。私は彼に同じものを返すことが出来るだろうか? 部屋に飾られている白薔薇を見つめてカルロに思いを馳せた。
ステファノの未遂事件から数日後にカルロが戻って来た。約束通り一番に私に会いに来てくれた。
「カルロ!」
たった二週間なのに酷く懐かしく感じる。私はカルロのもとに駆け寄った。
「ロゼリア。待たせた」
「大丈夫よ。それよりもお疲れさまでした。すぐに来てくれてありがとう。あと、グイリオさんから聞いたわ。私をずっと守ってくれていたのね」
「ああ、グイリオからは手紙で報告を受けている。ロゼリアが無事でよかった」
「でも薬を毎回渡す私を心配性だとあなたは笑ったけれどカルロだってかなりの心配性だわ。結果的に助かったけど三人もの騎士様に護衛させるなんて」
「本当はもっと増やしたかったぐらいだ」
「大げさよ」
私は笑ってしまった。それではまるで王女様の護衛のようだ。
「そんなことはない。今度は……今度こそ守れてよかった」
カルロの小さな呟きは聞き取れなかった。でも彼が心底安堵しているのが分かる。これ以上は何も言えなくなってしまった。
「そうだ。ロゼリア。グイリオがスザナさんを食事に誘いたいと言っていたので聞いてもらえるか?」
「グイリオさんがスザナを? 驚いたわ! 二人はいつの間に仲良くなったのかしら?」
「結婚詐欺の摘発のときにグイリオが担当していた。それでスザナさんを気にかけていたようだが、先日ピガット侯爵の話をしに来た時に彼女を見かけてどうしても話がしたいそうだ。あいつはいい奴だ。そこは保証できる。結婚詐欺の被害に遭ってそんな気持ちになれないかもしれないから無理にとは言わないが、聞くだけ聞いてやって欲しい」
「分かったわ」
グイリオさんはとても好印象だ。カルロが信頼しているなら大丈夫だろう。スザナも新しい恋を始められるといいけど。もちろん二人の相性もあるから無理強いは出来ない。でもスザナの恋の予感に気分が高揚した。
その日の晩餐はカルロとお父様と一緒に過ごすことが出来た。
暫くするとカルロは騎士団を退団し公爵家の仕事を学びはじめた。すでに公爵家に住んでいる。いつでも会えるのが嬉しい。時折グイリオさんが訪ねて来てスザナが笑顔で相手をしている。二人は順調に仲を深めているようだ。
私たちは一年後、予定通りに結婚式を挙げた。カルロは軍服ではなく銀色のタキシード姿だ。よく似合っていた。何を着ても凛々しい姿に頬が緩む。
「私の旦那様は素敵すぎだわ」
「花嫁には敵わないよ。とても綺麗だ」
この日のために作った純白のウエディングドレスはドレス工房が腕によりをかけて、素晴らしいバラの刺繍を施してくれた。白銀の糸が光にあたり美しく輝く。ベールにも同じように刺繍があしらわれている。
私の姿に感激し涙ぐむお父様につられ私も泣いてしまった。カルロは見たことがないほど優しい瞳で私を見ている。
カルロと生涯を共に歩む。苦難があったとしてもきっと乗り越えられる。これからの生活に幸せの予感が胸いっぱいに溢れてくる。彼は薔薇の刺繍のベールをそっと持ち上げると私に触れるだけの優しい口付けを落とした。見つめ合うこの時、私は世界中の幸せを独り占めしたような気持ちになった。
「ロゼリア。愛している」
「私もカルロを愛しています」
二度目の人生は幸せになる、きっとそのために私は生き返ったのだ。
ここでロゼリアのお話は終わります。このあとは、ロゼリアの一回目の死後とカルロのお話が続きます。もう少しお付き合い頂けると嬉しいです。
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