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「...して全身を強打し、周囲からは悲鳴が上がった。現場にいた男性の友人が心肺蘇生法を試みたものの、後に到着した救急...」

作者: 紅木 智汐

「では行きましょう、カウントダウン! 5、4、3、2...」


ちょっ、カウントダウン速ぇ!?

でももう、ここまで来ちゃったからなぁ...

もう覚悟を決めるしかない。行くぞ、本当に行くぞ!


...ヤバい。心臓がバクバク言ってる。やっぱりやめようかな...どうしようどうしよう











ふぅー...                                                        ふぅー...











.........











...よし、行くぞ!!




今日こそ変えるんだ、自分を!!!!































ブツッ































小さい俺が、園舎の前で母親に寄りすがってギャンギャン泣いている。幼稚園の先生は泣きじゃくる俺と目線を合わせるようにしゃがんで優しい笑顔で話しかけているが、母親は何度も謝りながら苦笑い。


また泣いている...年長になったのにな。そういえば結局卒園するまで毎日登園する度に泣いてたんだっけか...俺は本当に子供の頃からずっと意気地無しで、臆病で、気弱だった。



小学校に上がった俺が転んで泣く、




着替えが出来なくて泣く、





かくれんぼで泣く...






相変わらず泣いてばかりだな、と我ながら思う。







知らない子と遊ぶのも怖くて、学年が上がるにつれてだんだん外で遊ばなくなっていった。家に引きこもってゲーム三昧の日々。








小学校4年生の俺はある日、父親から隣の県に引っ越すことになったと告げられた。それはつまり、転校しなければならなくなったことを意味していた。完全に知らない環境に放り出されることを知って、小学生ながら絶望感を覚えた。今考えると、あれは20年間の人生の中でもトップクラスに堪えたな...









結果はお察しの通り、そんな中途半端な時期に転校なんかしちゃったもんだから友達も出来なくて。もともとあまりいなかったと言えばそれまでだけど、環境がガラッと変わるのはそれでもやっぱりキツかった。引っ越す前より一層引き篭もるようになり、母親は友達とほとんど遊ばない俺を心配していたようだった。でも、俺の友達はゲームだけだった。それしかなかった。










中学校に上がっても根暗で引き篭もりがちだった俺は、所謂陽キャ?のグループに目を付けられた。事の最初は、後ろの席の陽キャから背中にセロハンテープを丸めたゴミをくっつけられて、知らないうちに静かに陽キャ達の嘲笑の的になっていたことから始まった。きっと奴らは、軽いイタズラなら俺は気付かないと思っていたのだろう。むしろどちらかというと、気付いても”隠キャ”な俺は怒らない、怒れないとナメられていたと言った方が近いのかもしれない。











でも、その通りだった。担任の先生にチクることも考えたが、チクったのがバレてさらにいじめが過激化したり事が大きくなるのが怖くて、結局相談できなかった。ましてやチクる勇気なんかあるはずもなく、調子に乗った陽キャ達のいじめはだんだんヒートアップしていった。筆箱を奪われてキャッチボールみたいにされたり、上履きを隠されたと思えば教室のゴミ箱に捨てられていたりしたこともあった。母親は勘が良かったのか、とある日俺が家に帰るともしかしていじめられているのか、と訊いてきた。俺は一瞬、固まった。答えることができなかった。












そして、嘘をついた。正直に相談できたら、どんなに救われただろう...でも、母親を悲しませるのはいじめられるよりもっと辛かった。耐えるしかなかった。母親はそれ以降も定期的に本当にいじめに遭っていないか尋ねてきたが、心を殺して嘘を突き通した。だんだんいじめに関しては訊いてこなくなったが、それでも疑ってはいるようだった。そして俺は、結局親にも先生にも相談できずに耐え続けて中学卒業の日を迎えた。













高校の入学式。まともな受験勉強なんてできなかった俺は、そこら辺の高校に適当に進学した。もう高校には何も期待していなかった。高校に進んだのも特に大学に行きたかった訳ではなく、単にみんな行ってるからというだけだった。高校ではどんな風にいじめられるだろうか、やはり中学校の時よりひどくなるのだろうか、なんてことすらぼんやりと考えていた。














予想に反して、高校生になって精神年齢が上がったおかげか、いじめてくる奴はいなかった。ただ、気に掛けてくれる人も当然いなかった。あんなに熱中していて唯一の友達だったゲームも、結局飽きてコントローラーを手に取ることは無くなっていた。気付くといつの間にか部屋からゲーム機の姿が見えなくなっていたが、母親が家のどこかにしまったか捨ててしまったのだろう。今となってはもはやどうでもいいが。趣味も無し、友達も無し、人生の目標も特に無し。正直、生きている意味が分からなかった。















高校3年生になり、母が死んだ。癌だった。気付かぬうちに心の支えになってくれていた存在。自分のことを常に心配してくれていた数少ない人間。母親の口から病名を聞かされた時からいつかこの時が来ると覚悟はしていたものの、いざその時が来ると容易に受け入れることはできなかった。何も考えられない。身体に力が入らない。悲しい。息が出来なくなるほど悲しい。...悲しいはずなのに、これ以上悲しいことは起こらないぐらい悲しいはずなのに、何故か涙は出なかった。
















あっという間に高校の卒業式。あまり高校生活の記憶は無い。空っぽだった。一人暮らしはせず父親と一緒に暮らすことになり、彼もそろそろ定年なので生活費を稼ぐために就職を視野に入れて地方の大学に進学することになった。漠然とした将来への不安を抱えつつ、空っぽの檻を後にした。

















そんな俺に、人生の転機が訪れる。友達。大学に入って、十数年ぶりに友達ができた。入学式に隣の席に座っていた彼は、俺に話しかけてきた。初対面なのに妙に馴れ馴れしかった。内容も、学長の髪がカツラっぽいとかどうとかくだらない話だった。でも、その感覚が心地良かった。過去の経験からすっかり人間不信になっていた俺は思った。他人が俺を信用してないんじゃない。そもそも俺が他人を信用していなかったんだ。友達ができないとかほざいておきながら、当の俺自身はハナっから何もアクションを起こそうとすらしてなかった。勝手に向こうから来るのを待つんじゃなくて、俺から寄り添わないといけなかったんじゃないのか?...賭けてみよう。もう一度、人間を信じてみることにする。"友達と過ごす"という久しく味わっていなかった感覚が、もう二度と味わうことはないと決めつけていた感覚が、色褪せた記憶から思い起こされる。母さん。俺、友達できたよ。


















大学ではいつも二人だった。彼は俺に色々な初めてを体験させてくれた。遊園地に遊びに行ったり、



















映画を観に行ったり、




















一緒に講義をサボって海に行ったり。そろそろ知り合ってから2年が経つが、今でも時々何か長い夢を見ているような気分になる。人間を信用することを諦めていた俺から、今までの弱い俺から、変われるかもしれない...いや、変わるんだ。





















明日、俺は20歳の誕生日を迎える。俺は変わりつつあった。そして、この20歳の記念日こそ何か大きなことに挑戦するにはうってつけのチャンスだった。俺は友人...いや、親友に提案した。明日、一緒に何かチャレンジしよう、と。彼は快諾してくれた。まだ何に挑戦するかは決まってないけど、何か良い案が見つかると良いな。






















そして迎えた20歳の誕生日。今まで、色々あった。正直辛いことばかりだったけど、そんな俺も20歳という節目を迎えられた。昨日二人で夜まで話し合って決めた今日の挑戦。俺は今日、人生で初めてやっと勇気を出せたんだ。傍から見たらちっぽけな一歩かもしれないけど、俺にとっては大きな一歩。























その場所までは車で向かった。1時間もかかるかなりの大旅だと思ったが、親友曰くこれはまだ普通らしい。到着すると、係の人から説明を受けて同意書にサインする。いよいよだ。
























係員によって、器具が装着される。

























準備ができると、カウントダウンの秒読みが始まった。思ってたより秒読みが速くて一瞬驚いたが、これはノリってやつなんだろうか?でも、そんなことを気にしている余裕はもう無くなっていた。下は見るな。前をまっすぐ見つめろ。もう覚悟を決めるしかない。


























隣で見てる親友にまで鼓動が聞こえてるんじゃないかってくらい心臓がバクバク言ってて、怖くて怖くて、やっぱりやめますって言葉が何度も喉から出そうになる。



























深呼吸して、今日こそ自分を変えるんだと言い聞かせる。




























そして、飛び降りた。





























まさか自分からバンジージャンプに挑戦するなんて、ちょっと前の俺からしたら考えられn

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